AKABAKO   作:万年レート1000

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短めっ!


涙を見せない理由

「泣くな、リィン」

 

 そこは、アークライトの家の地下に存在する道場。

 ライトフロウ・アークライトと、リィン・アークライトが幼き日から鍛錬をしていたアークライトの私有地。

 

 今は確か子供向けの戦闘塾に使われているんだっけか。

 

 じゃあ何で私はこんなところに居るんだろう、とリィンは辺りを見渡す。

 

 見慣れた板張りの床。白い壁。

 子供のような、小さい自分の手。

 青髭を蓄えた、自身と同じ髪色のおじさん――お父さん。

 

 父親が、竹刀片手に幼い自分を見下ろしていた。

 

「泣くなリィン。これくらいのことで、泣くんじゃない」

「…………」

「アークライトは、強くなくてはいけない。強者でなければならんのだ。涙を見せるなどという弱者の行いをしてはいけない」

 

 分かるか? と問いかけられる。

 それにリィンは、分かっていると答えた。

 

 もう気付いている。

 

 これは夢だ。

 懐かしい過去の記憶を、夢が再現しているだけに過ぎない。

 

 そうだ。

 この日から私は、泣かなくなったんだっけ。

 

「だから泣くな、リィン」

 

 壊れたラジオテープのように、父親は言葉を繰り返す。

 

「大丈夫だよ、お父さん。私はこれ以来泣いていないから」

 

 呟いて、立ち上がる。

 さて、夢とはいえ父親と正面から向かい合っているのは嫌だ。

 

 正直なところ、あまり家族は好きではない。

 姉は言わずもがなだが、両親にも良い思い出があるわけではないのだ。

 

 嫌いとまで言うつもりは無いが、少なくとも好きではない。

 

 そんな中途半端な好感度のヒトに言われた「泣くな」という言葉を今でも守っているのは何故? とシズクなら訊いてくるだろう。

 

 例えばそう問われた時に、リィンはこう言うだろう。

 

「私も概ね同意見だからね」

 

 強いヒトは、涙を見せない。

 家柄とかは割りとどうでもいいことだが、それ自体には同意見で、「強くなりたい」という大雑把だが夢を持っているリィンにとってそれは守るべき事柄なのだ。

 

 だから。

 

 『この言葉』が、父親からリィンに与えた最初で最後の『教育』だったということは、きっと関係が無い――。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 なんか変な夢見た気がする、とリィンはベッドの上で寝起き眼を隠そうともせずにぼーっとしながら思った。

 

 見覚えのある道場で聞き覚えのある言葉をかけられたところまでは普通の夢だったのだが、その後唐突に一大スペクタクルサスペンス恋愛ファンタジーとでも形容すべき意味不明の冒険譚が始まって、てんやわんやで収集がつかなくなった辺りで目が覚めたのだ。

 

 もう殆ど内容を忘れてしまったが、物凄い夢だった。

 

 こうして寝起きに呆然としてしまうくらいには。

 

「んん……」

 

 かすんだ視界で、時計を見る。

 時刻はお昼前。寝すぎたようである。

 

「………………今日は、休みだっけ?」

「いえ、今日は午前中からシズク様とレア掘りに行く予定でしたよ?」

「あーそうだそうだ、うっかりして………………は?」

 

 再び時計を見直す。

 デジタル表記されている時計は、間違いなくお昼ご飯を食べ始めるくらいの時間を指していた。

 

「ちょ、どうして起こしてくれなかったのよルイン!」

「失礼しました。ワタクシも起こそうとしたのですが、ねぼすけ(マスター)があまりにも気持ち良さそうに寝ていたので……寝顔の写真を撮ってシズク様に送ったところ『起こさなくていいよ!』という返信を頂いたので起こしませんでした」

「色々とおかしくない!?」

 

 リィンのサポートパートナー――ルインがにやにやと笑みを浮かべながら言う。

 

 相変わらず思い通りの行動を取ってくれないサポートパートナーだ。

 最近放置気味だったけど、こいつもやはり謎が多い……。

 

「はぁ……とりあえず今後、私がどんなに気持ち良さそうに寝てても起こす時間になったら起こしなさいね」

「ハーイ」

「……本当に分かってんのかしら……」

「そんなことより肉女(マスター)、お昼ご飯の準備ができているのでとっとと顔洗って来てください」

「マスターからの命令をそんなこと扱いしないでよ……」

 

 まあもう、このサポパがサポパらしくないことには慣れた。

 

 ルインとのやり取りですっかり目が覚めたので、よどみない足取りで洗面所に向かい、身だしなみを整える。

 

 そしてお昼ご飯として用意されたカレーライスを食べながら(相変わらず料理が美味しい。これだからこのサポパを解雇する気になれない)、日課である毎朝の――もう昼だが――メールチェックを行った。

 

 新着メールが、三件。

 内二通はアークス上層部からのお知らせだ。

 

 ダークファルス【百合】に関する通知と、クーナによる慰安ライブの開催決定通知。

 

 どちらも軽く目を通してから、最後の一通。

 その件名を見た瞬間、リィンの目の色が変った。

 

 メール画面を閉じて、カレーを一口。

 咀嚼しながら、もしかして見間違いかもしれないしとメールを再び開く。

 

 見間違いじゃあ、無かった。

 見間違いであって欲しかった。

 

 メールの差出人は、父親。

 内容は、そろそろ実家に顔出せという出頭命令。

 

「…………はぁ」

 

 そりゃまあ、アークスになってから一度も実家に帰っていないのだから、いつかこういう日が来るんじゃないかと予想していなかったわけではないが。

 

 それにしても面倒で憂鬱だなぁ、とリィンはカレーを飲みこむのであった。

 




MHWが面白しろすぎりゅうううううう! ということで投稿が遅れました。
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