AKABAKO   作:万年レート1000

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念のため「アークス 葬式」でggったら「アークス葬祭」とかいう火葬業者があって草。


重すぎて背負えない

 葬式について。

 

 アークスは死んだとしても、簡易的な葬式で済まされることが多い。

 墓地に焼却した死体を埋める程度のことはするが、少なくとも線香を焚いたり神に祈ったりしない、というか祈る神がいないのだ。

 

 死を弔うという概念はあるが、そもそも戦闘民族である彼らにとって死は身近なものであり、アークスになった時点で本人も家族もある程度覚悟はしているものである。

 

 故に葬式というのは残された縁者が気持ちの整理をつけるために行われるという側面が強いため、こういったことは手短に済まされる。

 

 そしてそれは稀代のアークス、ライトフロウ・アークライトの葬式であっても例外ではない。

 

 例外ではない――筈なのだが。

 

 葬式の会場として手配された会場は、溢れんばかりの人々で埋め尽くされていた。

 

「うわぁ……こりゃ凄いね……」

 

 会場前で、溢れている人ごみを見渡しながらシズクは呆然としながら呟く。

 

 両隣にはイズミとハル。

 リィンの姉が死んだということで、三人で参列しようとやってきたわけだが……。

 

「これじゃあ入れないね……」

「仕方ないですよ。すっごい人望のあるヒトだったらしいですし……」

 

 優しくて美人で、六芒均衡並みに強く六芒均衡より身近な存在。

 

 人望があって当然であろう。

 『リン』も似たようなものだが、アークスとしての活動期間が違いすぎる。

 

 多くのヒトがライトフロウに助けられて。

 多くのヒトがアークライトに救われてきた。

 

「っ、やっぱ駄目ね。無理やりヒトを押し退けても結局中には入れない」

「中に入れるのは関係者……血縁者とチームメンバー、あとはアークライトの関係者くらいみたいっすね」

 

 会場に殺到している人々を掻き分けてすり抜けて先頭まで来たものの、入り口は閉鎖され入れないし、中の様子すら窺えない。

 

「リィン、大丈夫かな……」

 

 ぽつりとシズクが呟いた一言は。

 雑踏に掻き消され消えていった。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 黙祷。

 姉の入った棺の前で、リィンは大勢の大人に囲まれながら鎮魂の祈りを捧げていた。

 

 神という概念は無くとも、魂という概念はある。

 死んだ人間がどうなるかというのはアークスの科学力を持ってしても解明していない未知の領域なのだ。

 

 だからこそ、死後の世界や霊魂の存在を信じるオラクルの住人は、実のところ意外に多い。

 

「…………」

 

 黙祷が終わると、遺体は一旦下げられ安置室へと送られた。

 

 火葬は明日。

 じゃあこれで解散かといわれるとそうではなく、次は関係者各位と食事をしながら死者を偲ぶ時間である。

 

 テーブルと料理が次々と運び込まれていき、あっという間に式場は会食場と化した。

 

 別室に案内とかはされない。

 葬式会場はそこまで広い施設ではないのだ。

 

 リィンは無表情のまま、グラスを一つ手に取った。

 

「……こんなにヒトが集まるなら、もっと広い会場を用意しておけばよかったのに」

「ここまであいつに人望があったということが、予想外だったものでな」

 

 独り言に答えながら、男が一人リィンの隣に並び立つ。

 

 青い髪に、青い髭の大男。

 リィンの父、ヨークヤード・アークライトだ。

 

 そしてその一歩後ろには、リィンの母が目を伏しながら連れ添っている。

 

「お父さん……お母さん……」

 

 父も母も、娘が死んだというのに涙を流していなかった――いや、よく見ると母の目元は真っ赤に腫れていた。

 

 少なくとも母は、気丈に振舞っているだけのようだ。

 でも父は間違いなく、一片たりとも涙を流していない。

 

 そのことに、リィンは憤りを覚えない。

 むしろ安心すらした。姉が死んだというのに涙一つ流さない自分はアークライトとして正しいことをしているという自信を持てた。

 

「リィン、分かってるとは思うが……姉が死んだことによって我が家の後継者はお前になった」

「…………はい」

「あいつの背負っていたものが全てお前に降りかかる……っと」

 

 父がリィンに向けていた視線を不意に逸らす。

 そちらに目を向けると、そこには立派な白髭を蓄えた老獪な男性が一人、こちらに向けて歩いてきていた。

 

「……今日のところは、隣に居てやる。お前は作り笑いを浮かべていればそれでいい」

「え?」

「ヨークヤードさん、この度はご愁傷さまでございます。心よりお悔やみ申しあげます」

「恐れ入ります。こんなに沢山のヒトに見送られて、娘も喜んでいることでしょう」

「……ところで、そちらのお嬢さんがライトフロウ嬢の妹君で?」

「っ……」

 

 誰だろう、このヒトは。

 アークライトの関係者だろうけど……と逡巡するリィンの背を、トンと指で母が突いてきた。

 

「リィン……笑顔」

「は、はい……」

 

 そうだ。

 父は作り笑いを浮かべていろと……作り笑い?

 

(何それ)

(どうやるの?)

 

 面白くも無いのに笑うだなんて、難しすぎないか?

 

 口角ってどうやって上げてたっけ?

 

 思わず固まってしまったリィンを見て、老人はゆるりと首を傾げながら言う。

 

「妹君は姉と比べてクールな女性ですなぁ」

「……そうなんですよ。ただまあ、腕に関しては安心して――」

 

 父と老人が話している内容を、リィンは固まった表情のまま耳に入れていく。

 

 何と言うか、ほんと、そう。

 『貴族ごっこ』を良い大人がしているみたいな気持ち悪さが会話の節々から滲み出ていて。

 

 気持ち悪い。

 姉は、ライトフロウは、こういうのを全部引き受けてくれてたのか。

 

 私のために。

 

 ずっと。

 

(私は、何をしているんだろう)

(私は、何をしていたんだろう)

 

 ふと周りを見渡すと、目の前の老人と似たような人々が自分に話しかける機会を窺っているようだった。

 

 これ、いつまで続くんだとリィンがうんざりしたような表情を浮かべかけたその瞬間、母に背を突かれる。

 

 しゃんとしなさい、と。

 怒られているようだった。

 

(ストレスで吐きそう。泣きそう。辛い)

(助けてシズク、メイさん、アヤさん、イズミ、ハル――お姉ちゃん)

「ふざけんなよ……!」

 

 会場の空気を切断するようなドスの効いた一声が響いた。

 

 発生源は、リィンじゃない。

 我慢できなくなったリィンが放った言葉ではなく、それはもっと幼い少女が放った体躯に似合わぬ叫び。

 

 【大日霊貴】の、ギザっ歯少女――アーチェが。

 涙を流しながら怒りの形相でリィンの元へと向かっていた!

 

「……誰?」

「姉貴が死んだっていうのによくすまし顔でいられるなぁ!」

 

 至近距離まで近づいて、アーチェはリィンの胸倉を掴みながら叫ぶ。

 

 身長差があるせいで子供が大人に絡んでいるような図になったが、

 それでもアーチェの言葉はリィンに突き刺さる。

 

 『泣きたいなら泣けばいいのに』と。

 かつて言ってくれた彼女の姿がアーチェと被る――。

 

「……いきなり、何よ。何であんたにそんなこと言われないと……」

「悲しくないのかよ! 辛くないのかよ! リーダーは! お前のことが大好きだったんだぞ! いつも大人びててみんなの憧れのリーダーが、妹の話をするときだけは目を輝かせて本当に嬉しそうに話すんだ! お前に嫌われてからも! リーダーはお前のことを愛してたんだぞ!」

「……!」

 

 やめろ。

 やめてくれ。

 

 そういうことを言わないで欲しい。

 

 泣いて、しまいそうだから。

 

「こら! アーチェやめろ!」

「リーダーはお前のクローンを斬れなかったんだぞ! そのせいでリーダーは死んじゃったんだぞ!」

 

 アーチェの兄――金髪の王子様みたいな男によって羽交い絞めにされながらもアーチェは叫ぶ。

 

 その目に宿っている感情は、怒りと、悲しみと、八つ当たり。

 

「お前なんて……妹なんて生まれなければよかったんだ! そうすればリーダーはクローンなんかに負けなかった! 今も、生きていた筈なんだ!」

「アーチェ!」

 

 兄に口を塞がれて、他のチームメンバーにも身体を抑えられる形でアーチェはリィンから引き離され、会場の外へと連れていかれた。

 

 しばらく会場の外からも聞こえるような大声量で、「リーダーを返せー!」的なアーチェの泣き声が聞こえていたが、それもやがて聞こえなくなった瞬間。

 

「ごめんね、うちの若いのが」

 

 アーチェと似たような背丈の、ボーイッシュな少女がリィンに声をかけた。

 

 このヒトを、リィンは知っている。

 【大日霊貴】の副リーダー。ライトフロウ・アークライトの右腕にして幼馴染、アズサ。

 

 彼女の瞳にもまた、涙の痕が残っている。

 

「あの子は……ライトフロウにいっとう懐いててね、感情のぶつけ先が無かったんだろう。許してやってくれ」

「別に……大丈夫です」

「まあでも……いや、よしておこう。それじゃあな、アークスを続けていれば、そのうち会う事もあるだろうよ」

「…………はい」

 

 『まあでも』の後に続く言葉は、簡単に推察できた。

 

 シズクじゃなくても分かることだ。

 あのショタっぽいロリはこう言いたかったのだろう。

 

 『まあでも、アタシたち【大日霊貴】のメンバーは概ねアーチェと同じ気持ちだ』。

 

 去っていくアズサの後姿を見つめながら、リィンはその言葉に心の中でそっと言葉を返す。

 

 私だって、同じ気持ちだ。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 葬式が終わった。

 

 いや、正確にはまだ火葬して埋葬するプロセスが明日に残っているのだが、今日のところは終わり。

 

 参列していた【大日霊貴】のメンバーやアークライトの関係者は帰り、会場外に沢山いた人々も解散したようだ。

 

 つまり今この葬式会場にいるのは、リィンと父と母だけ。

 一応葬式会場のスタッフはいるが、それは数に数えなくともいいだろう。

 

「ふぅ……」

 

 疲れた。

 リィンはそう呟いて廊下の隅にある椅子へと腰掛けた。

 

「……………………」

 

 がらんどうになった廊下を見つめつつ、リィンは今日一日を振り返る。

 

 疲れる。本当に疲れる一日だった。

 大切なものは失って初めて分かるというが、本当にそうらしい。

 

 姉の偉大さを、今日初めて知ることができた。

 

「リィン、ここに居たのか」

「? お父さん……」

 

 ふと顔を上げると、父が目の前に立っていた。

 

 疲れた様子なんて無く、泣いた様子も無い。

 いつもの普段通りの父親だ。

 

「何か用?」

「コイツを、お前に渡さなければと思ってな」

 

 アイテムパックから、父が一本のカタナを取り出した。

 

 それは、『華散王』と銘打たれた紅葉を散らすが如き輝きを持ったレア度11のカタナ。

 

 ライトフロウ・アークライトが愛用していた、至高の一品。

 

「これって……」

「これは、お前が使うべきだろう」

「……でも私はソードを使っていて」

「カタナだって、使えないことは無いだろう。……いや、というより本来の適正はソードよりもカタナだった筈だ」

 

 それは、何度か言われたし思ったことだ。

 きっと自分はソードを使うよりもカタナを使うほうが強い。

 

 ジャストガードを駆使して戦う性質上、単独ならば(・・・・・)リィンはソードよりカタナのほうが向いている。

 

 でも、シズクを守るという戦法を取るのなら、ソードの方が向いているのに……。

 

「それと」

 

 踵を返して、リィンに背を向けながら父は言う。

 

「【銀楼の翼】と話はつけておいた。明日からはお前もあのチームの一員だ」

「っ!? お父さん!」

「今のチームは、抜けたまえ。一流になりたければ、一流のチームに入って磨かれるのが一番速い」

 

 思わず立ち上がり目を見開くリィンを無視して、父は廊下を歩いていく。

 

 何か言うなら、今しかない。

 反論するなら今しかない!

 

 このまま話が進んでしまえば、リィンは【ARK×Drops】を抜けることになってしまう……!

 

「……! ――……っ!」

 

 でも、言葉が浮かばない。

 友達がいる今のチームを抜けたくないだなんて、子供染みた言い訳しか浮かばない。

 

 今やリィンはアークライトの後継者。

 カタナと一緒に、姉の背負っていたものを背負うことになった一族の顔。

 

 やがて、廊下の角を折れて見えなくなった父に一声もかけることができないままリィンはうなだれ椅子へともたれかかった。

 

「…………」

 

 託された、華美なカタナをぼーっと見つめる。

 

 煌びやかな意匠と文様。

 一見使いづらそうだがその実使い手のことをよく考えられている形状。

 

 今此処では試せないが、切れ味だってさぞ良いのだろう。

 

 レア度11に相応しい名刀だ。

 

「お姉ちゃん……」

 

 このカタナで、沢山の敵を斬ってきたのだろう。

 沢山の人々を助けて、人望を集め、困難を乗り越えてきたのだろう。

 

 同じ武器を使えば、私にだってそれが出来るだろうかと自問自答。

 

「無理だ……」

 

 そして即断。

 今日一日だけで心が折れそうな自分にそんなことできるわけが無い。

 

「私には……重過ぎる。このカタナは……重過ぎる……!」

 

 返そう。

 私がこのカタナを持てるような人間に育つまで、父に預かってもらっておこう。

 

 そう決めるまで、そんなに時間は掛からなかった。

 

 今の私にこれを持つ資格なんて無い。

 

「お父さんは……遺体安置室かな?」

 

 廊下の角を曲がった先には確かその部屋があった筈だ。

 

 椅子から立ち上がって、カタナを両手で抱きしめるように持ちつつ歩く。

 

 遺体安置室と表札が書かれた部屋はすぐ見つかった。

 扉がわずかに開いており、そこから父のものらしき声も漏れている。

 

 あっさり見つかってくれてよかった、と扉をゆっくりと開けた。

 

「――……馬鹿野郎」

 

 いきなり罵倒されたかと思ったが、違った。

 

 死体安置室に居たのは、父と母。

 棺の中で眠る娘に向かって、父が何か語りかけているようだった。

 

「親より先に逝っちまうなんてとんだ親不孝者だ……」

「……おとうさ――」

 

 何かが地面に落ちる、音がした。

 

 リィンが手に持っていた『華散王』を、手から落としてしまったのだ。

 

 さもありなん。

 目の前に広がっていた光景は、リィンにとって信じられないものだったからだ。

 

 父が、ヨークヤード・アークライトが。

 

 

 リィンに泣くなと言った張本人が――娘の死体を前にして泣いていたのだ。

 

 

「――あ」

 

 目の前が揺れる。

 視界が赤く染まっていく。

 

 リィンの中で、何かが確実に壊れて崩れた。

 

「あ、ぁ、あぁああああ……!」

 

 走り出す。

 その場から、現実から逃げるように、走り出す。

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

 

 走る。走る。走る。

 会場を飛び出して、行き先なんて定めずにただ我武者羅に走る。

 

 走ってないと、壊れてしまいそうだった。

 脳内を無理やり酸欠にして、思考を真っ白にしないと死んでしまいそうだった。

 

 泣きそうだった。

 

「はぁ……っ! はぁ……っ! げほ、はっ……!」

 

 走って、走って、どれくらい時間が経っただろう。

 

 三十秒くらいだったようにも感じるし、三十分くらいかもしれないし、三十年でもおかしくないと思った。

 

「はっ……! はっ……! あっ!」

 

 本来テレパイプを利用して行き来するような莫大な距離を走り抜けて、リィンは転んだ。

 

 足がもう限界に達していたのだろう。

 もつれるように地面に倒れこんでしまった。

 

「はぁ……ふぅ……ぜぇ……」

 

 身体を動かして、少しすっきりした。

 頭を真っ白にして、少し楽になった。

 

 現実逃避はお終い。

 

(此処、何処だろう)

 

 何せ本当に適当に走っていたのだ。

 

 現在地なんて分からなくて当然。

 リィンが辺りを見渡してみようと顔を上げると、

 

 

 そこにはシズクのマイルームへ続く扉があった。

 

 

「――――っ」

 

 無意識だったのか、それとも偶然だったのか。

 そんなことは分からない。

 

 でもリィンはふらりとその扉に近づいていく。

 

(…………)

 

 シズクなら、きっと。

 

 助けてくれるだろう。

 

 今自分の身に起きていることを一切合財隠さず話せば、力になってくれるだろう。

 

 全知の力を余すことなく振るって、全てを解決してくれるのかもしれない。

 

「……あ」

 

 右手が自然と扉へと伸びる。

 

 シズク。

 シズクシズクシズク。

 

 

 助けて。

 

 

「…………駄目だ」

 

 伸ばしかけた右手を、左手で止める。

 

 きっと今、シズクに会ってしまえば。

 

 私は泣いてしまうだろう。

 無様にも泣きついて、助けを乞うてしまうだろう。

 

 それは、それだけは、駄目だ。

 

 ――それは、今まで生きてきた十六年間への裏切りだ。

 

「きっと」

「メイさん辺りなら、これまで生きてきた十六年間よりこれから生きる一年間の方が大事だとか言うんだろうな」

 

 そしてきっとその通りだ。

 それでもこの場でリィンがシズクに助けを求めないのは、ただの意地(プライド)だろう。

 

 ああもう。

 本当に、死んだのが姉じゃなくて私だったら良かったのに。

 

 自嘲気味に呟いて、リィンは踵を返す。

 

 ここがシズクのマイルームってことはリィンのマイルームも近くにある。

 

 もう今日は、眠ってしまおう。

 自室に帰って、疲れた身体を癒そうじゃないか。

 

 明日のことは、明日考える。

 

 今はもう兎に角眠りたかった。

 

「リィン」

 

 そんな。

 そんなリィンの前に、一人の女性が現れた。

 

 黒いツインテール。

 黒いコート。

 

 赤い、瞳。

 

 『リン』が、リィンの通路を塞ぐように立っていた。

 

「……『リン』、さん?」

「…………」

「どうしたんですか? 何か、用ですか? ……でもすいません、今ちょっと疲れてて……」

 

 ふらふらとした足取りで、リィンは『リン』の横を抜けるべく歩き出す。

 

「……用があるなら、明日にしてもらってもいいですか?」

「リィン……」

 

 『リン』は、目を閉じた。

 そして腕を振り上げ、横を通り過ぎようとするリィンの首筋目掛けて――

 

 腕を、振り下ろした。

 

「えっ――」

「……すまない」

 

 首筋を殴打され、リィンは膝から崩れ落ちていく。

 

 視界が真っ黒に、真っ黒に、真っ黒に染まって。

 

 やがて意識を手放した。




下げて下げて下げて下げて下げたら、次は。


しかしリィンは純朴すぎるなぁ、ほんと。

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