AKABAKO   作:万年レート1000

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再誕の日②

 マザーシップ内部。

 オラクル全ての管制と演算を一手に担う、アークスの心臓と言っても全く過言ではない最重要施設である。

 

 当然ながらそんな施設故に防備はとても厚い。

 ダーカーは当然、一般のアークスでも近寄ることすら許されておらず当然六芒均衡でもない(そもそもマトイはアークスですらない)『リン』とマトイは本来その近寄ることすらできない立場にあるのだが……。

 

「ここが、マザーシップの中? なんだろう……すごく懐かしい。そんな気もするけど……」

 

 シャオの手引きにより、二人はマザーシップの入り口へと足を踏み入れていた。

 

 マトイはきょろきょろと興味深そうに青白く僅かに発光しているようなラインが入った壁や天井を眺めながら歩き、『リン』は周囲を警戒しながらマトイの前方を歩く。

 

 そんな二人の前に、すーっと浮き出るように一人の女性が現れた。

 

 シオンだ。

 眼鏡に白衣、つまりいつもの格好のまま、いつもの無表情で『リン』とマトイを交互に見る。

 

「待っていた、二人とも」

「事ここに至り、結末を迎える。わたしから、貴方への最後の依頼となる」

「マザーシップの中枢へと向かい。そこでわたしを……そこにいる、わたしを…………」

 

 しかし。

 喋るだけ喋って、シオンは消えてしまった。

 

「シオンさん!」

 

 マトイが叫ぶ。

 しかし声は虚しく響くだけで、マザーシップの奥へと消えていった。

 

「シオン……」

「シオンさん、どこ! どこに行ったの!?」

『……聞こえるかい、ふたりとも』

 

 消えたシオンを探そうと辺りを見渡す二人の通話端末に、少年の声が突如響いた。

 

 シャオの声だ。

 マトイは初めて彼の声を聞くからか、驚いているようだ。

 

「えっ、あなたは……?」

『シオンの弟、で納得しておいて。詳しいことを説明してる暇はない。はじまってしまったんだ』

 

 

 始まってしまった。

 それは勿論、ルーサーとの最終決戦が、だろう。

 

『シオンの核に入った時に幾つか情報を貰っておいたから決戦日は今日だと予測はしていたのが功を奏したみたい。サラたちもすぐに準備を整えてそちらに行くつもりだ。……だけど二人とも、気をつけて。おそらくルーサーは……』

『敵性存在が、マザーシップへ侵入しました。繰り返します、敵性存在がマザーシップへ侵入しました』

 

 シャオの通信を遮るように、オペレーターのブリギッタからのアナウンスが響き渡った。

 『リン』やマトイだけではなく、緊急クエストのときのようなアークス全体に伝えるためのアナウンスだ。

 

『アークス各員へ敵性存在の情報を……って、えっ?』

 

 プロオペレーターらしからぬ驚きの声をあげるブリギッタのアナウンスは一旦途切れ、そして。

 

 オラクル内部の各ウィンドウ――そして各地に居るアークスの目の前にレギアスの姿が映し出された。

 

『……聞こえるか、アークス諸君。六芒の一、レギアスだ』

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 惑星ナベリウス・森林エリア。

 

「このサポートパートナー、ハッキングされた痕跡がある…………でも駄目か、この子からそれ以上の情報は読み取れない……」

 

 倒れて動かなくなったデフォルト顔のサポパを十分程弄繰り回していたシズクだったが、やがてそう呟いて立ち上がった。

 

 こんなところに居る場合じゃない。

 直ぐにでもオラクルへ帰還しなければ。

 

(このままじゃ……このままじゃ……)

(救えない……どころか、親の死に目にも会えない……!)

 

 最後と言っていた。

 最後と言っていた……!

 

「……!」

 

 走り出す。何処かに救援用のシップが落ちていたり、墜落中でもいいからキャンプシップが無いかと走って探す。

 こういうとき、基礎体力を鍛えておらず、また歩幅が狭いチビの自分がうらめしい。

 

 草木を掻き分けて、湧き出るエネミーをスルーして、走り続けて――壁にぶつかった。

 

 壁?

 何で、森林エリアに壁が。

 

 結界が。

 

「さ、サラぁああああああああ!」

 

 今頃察したようで、シズクはサラの名を叫んだ。

 

「最初からあたしを此処に閉じ込めるつもりで……! くっそ! この!」

 

 ブラオレットを結界に叩きつけても、弾かれるだけで壊せそうに無い。

 火力が足りないのか……はたまた何か条件を満たす必要があるのか。

 

「全知で条件を調べ……られない! 隠蔽されている!」

 

 台詞に「うば」を入れる余裕も無く。

 焦りながら、シズクはブラオレットで結界を叩き続ける。

 

 射撃モードに切り替えて、撃ってもみた。

 しかし当たり前のように効果は無く、射撃音が虚しく響くだけ。

 

「どうしたらいいの……!? 通信障害が治れば……いや、多分この結界が通信を阻害してるからどちらにせよこの結界をどうにかしないと……! でも、これを壊す方法なんて……そうだ!」

 

 アサルトライフルを取り出し、フォトンを集める。

 射撃属性の攻撃で、最大火力を誇るフォトンアーツ。

 

「ウィークバレット……からのサテライト……カノン!」

 

 極太の光線が、空から降り注いだ。

 中型ダーカー程度なら一、二発で仕留められるほどの威力を持つサテライトカノン+ウィークバレットのレンジャー最強コンボ。

 

 それは、いともたやすく結界に阻まれ霧散した。

 

「そん……な……」

 

 こうなればもう火力の問題とかではないかもしれない。

 何かこの結界を解除する条件がある筈だ。火山洞窟や龍祭壇の隔離障壁を解除するためのキーアイテムを集めるEトラとか一定以上エネミーを倒すEトラとかああいった感じに。

 

 諦めるにはまだ早い。

 

 ここまで強靭な結界なら範囲はそう広くは無いはず。

 結界内を探し回れば解除するための何かがあるかもしれない。

 

「はぁ……っ! はぁ……っ!」

 

 踵を返して走り出す。

 こういうときリィンの体力馬鹿っぷりが羨ましい。

 

 横っ腹が痛くなってきたのを我慢しつつも、走る、走る、走る。

 

 が、何か結界を解除するヒントが無いか周囲に目を配らせながら走っていたら眼前に迫っていた大木に気付かず、激突してしまった。

 

「いたた……めげない!」

 

 アークスといえど、シズクは防御力が高い方ではない(むしろ最低レベルに低い)。

 木にぶつかった程度の衝撃でも、痛みはあるしたんこぶは出来ないまでも赤く痕が残ってしまったが、まだ動ける。

 

 今度はちょっとスピードを落として走る。

 しかしやはり周囲をキョロキョロと見回ししながら走るのは危険だったようで、シズクはうっかりと小さな崖に足を踏み入れてしまい草木を掻き分けながら落下した。

 

 本当に小さい崖だったようで、着地にさえ気をつければビルの屋上からだって楽々飛び降りれるようなアークスにとって通行の問題にすらならないものだ。

 

「ぐぅ……!」

 

 シズクは、着地に失敗していた。

 崖の存在に気付けていれば話は別だったのだが、余所見に気を取られ不自然な態勢のまま落下すれば当たり前だろう。

 

 右足が、足首からあらぬ方向に曲がっていた。

 感覚が麻痺していて痛みはあまり無いが、それでもこれでは動けない。

 

「……この程度で、諦めてたまるか……!」

 

 アイテムパックから取り出したトリメイトを一本は飲み干し、一本は直接右足にぶっかける。

 

 見る見るうちに治っていく右足。

 流石アークスの科学力だ、テクニックなんか無くても問題ないぜ。

 

「……ん? テクニック?」

 

 まさか、と最悪の想像がシズクの頭を過ぎる。

 

 シズクのクラス構成はレンジャー/ブレイバー。

 当然テクニックは使えない。

 

 もしあの結界がそれを利用して作られたものだとしたら……!

 

「法撃耐性をとことんまで下げてその分射撃耐性と打撃耐性を上げているキーアイテムとか必要ない物理的な結界なのだとしたら……」

 

 攻撃は効かず、論理的に解く方法も無い。

 

 シズクを閉じ込めるための結界。

 

「……それでも!」

 

 諦められない。

 無駄だとしても、諦めることなんて出来ない!

 

 シズクは結界の壁へと駆け寄り、ブラオレットの剣モードで攻撃を叩き付けた。

 

 ウィークバレット+サテライトカノンの最強コンボすら簡単に弾いたこの結界は、おそらく射撃に対する耐性を最も高く設定されている筈だ。

 

 シズクのメイン火力は射撃なため、当然だろう。

 ならば打撃で攻撃を続ければ、いずれはこの結界を壊せるのではないかとわずかばかりの期待を込めて結界を叩く。

 

 叩く叩く叩く叩く。

 普段こんなに剣モードを酷使しないため、腕が疲れてくるが構わず叩く。

 

 打撃系のフォトンアーツ、もっと習得しておくべきだったと愚痴を零しながら結界を叩き続けていたのだが、しかし結界に傷が付いた感じはしない。

 

 何なんだこの高レベルの結界は。

 こんなのサラに作れるのか……!?

 

「……ああそうか、マリアさんも居るんだっけ」

 

 それに加えて、謎の生意気少年だって居る筈だ。

 一人なら弱小アークスであるシズクを閉じ込めるくらいわけないだろう。

 

 それでも。

 それでも諦めきれずにシズクは愚直に剣を振り続ける。

 

 グリップを握る手から血が滲んできても気にせずに、黙々と。

 

 泣きながら。

 

 涙と鼻水で、顔をぐしゃぐしゃにしながら。

 

「あっ」

 

 ガキン、と嫌な音がした。

 結界が壊れる音ではなく、手に握っているものが壊れる音。

 

 ブラオレットが、ずっと使っていた相棒が、根元から折れて背後の地面に突き刺さる。

 

 打撃攻撃手段も失った。

 本当の本当に、脱出の可能性が潰えた。

 

「リィンから貰った――ブラオレットが」

 

 がくりと膝から崩れ落ちる。

 

 震える手で地面に突き刺さったブラオレットの刃を手に取り、手元のグリップ部分と結合させてみようとしたが無理そうだった。

 

 完全にへし折れている。

 鍛冶職人にでも頼まなければ直ることはないだろう。

 

「考えろ――考えるのが、あたしの得意分野でしょう――」

 

 こんな状況になっても、シズクは諦めずに頭を回す。

 折れたブラオレットをアイテムパックに仕舞って、涙を拭ってから目を閉じて考える。

 

 でも、もう。

 考えても考えても、何も浮かんでこなかった。

 

「もう……無理なのかなぁ」

「ええ、無理でした」

 

 目を見開く。

 

 声が、した。

 する筈の無い、聞き覚えのある声が結界の向こう側から聞こえてきた。

 

「貴方はこの後結界から脱出するために色々と試すのですが、その全てが失敗。結界を解くことはできずこの場所で指を咥えたまま母親が消えるその瞬間を待つことしか出来ませんでした」

「…………なん、で……」

「その事を貴方は一生後悔することになります。もう気にしてないよと辛そうに笑う貴方の顔を見ることは、本当に本当に辛いことでした」

 

 何で貴方が、この場所に。

 そして何でそういうことを、過去形で語るんだ。

 

 まるで、見てきたかのように。

 

「だからワタクシは――この歴史を改変しようと思います」

「ルイン――」

 

 そこには、ルインが立っていた。

 リィンのサポートパートナー、ルインが。

 

 キャンプシップへと続くテレパイプを背に、一人。

 

「助けに来ましたよ、シズク様」

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