AKABAKO   作:万年レート1000

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再誕の日③

「オートパイロットを設定しました、この機体は自動でマザーシップに向かいます」

 

 ルインの用意したキャンプシップ内。

 シズクが壁を背に座り込みながら壊れたブラオレットを見つめていた時、運転席からルインが姿を現した。

 

 あの後、結界はルインが破壊した。

 どういった手段を使ったのかは不明だが、彼女が何かをしたと思ったら結界が崩れ落ちてしまったのだ。

 

「ルインは――何者なの?」

「おや、開口一番それですか」

 

 シズクの言葉に、ルインは口角をあげた。

 どういった意味合いの笑みかは分からない。

 

「当たり前でしょ、改めて貴方のことを調べてみても全然分かんないんだから」

「『全知』……ですか、そうですねぇ、確かに貴方の全知ではワタクシのことは分からないでしょうね。まあでも諸事情あって今はまだ話せませんが」

「うっわ、そういう全てを知っておきながらも『今はまだ話すときではない』的なキャラ最近は嫌われるんだよ」

「貴方も未来ではこんな感じですよ」

「いやいやそんな馬鹿な……未来?」

 

 おっと、とルインは手で口を塞いだ。

 

 挙動からして、口を滑らしたというよりもわざと漏らしたかのような感じである。

 

「未来……時間遡行……歴史改変……、貴方本当何者よ。もしかして今日この時、私がお母さんに会いに行けるように歴史を改変しに来た未来からの使者だったり?」

「いや、これはついでです」

「ついで!?」

 

 窓から宇宙を眺めながら、ルインはシズクの質問に答える。

 

 一体何のついでなのかは多分教えてくれないのだろう。

 でも、未来からの使者ということは否定しなかった。

 

 時間遡行。

 『リン』という使用者が居る以上、そんなことがあるわけないと否定するのは難しい。

 

 それにしたって疑問点は幾つか残るが……。

 

「うばー……まあ、いいや。訊かれたくないことは訊かないでおくよ」

「おや、いいのですか?」

「まああたしも訊かれたくないこと訊かれたら嫌だしね……」

 

 気持ちは分かる。

 誰にだって秘密の二つや三つあるものだ。

 

「ということでこの話は終わり。うばうば、マザーシップまでどれくらいかかるっけ?」

「三十分ほどですかね」

「三十分かぁ……ん? 待てよ、マザーシップって普通侵入不可能じゃなかったっけ? あたしは確かにマザーシップのデータベースにアクセスできるけど現地に侵入できるかと言われたら無理だよ?」

「心配ありません、ほら、そろそろ……」

『敵性存在が、マザーシップへ侵入しました。繰り返します、敵性存在がマザーシップへ侵入しました。アークス各員へ敵性存在の情報を……って、えっ?』

『……聞こえるか、アークス諸君。六芒の一、レギアスだ』

 

 ルインの台詞を遮るように、オペレーターからのアナウンスが響いた後、キャンプシップ備え付けのウィンドウにレギアスの姿が浮かび上がった。

 

 六芒均衡の最高責任者から直々の通信なんて、ただ事ではない。

 二人は一旦会話を打ち切ってその演説に耳を傾けた。

 

『緊急事態のため、唐突な連絡になってしまったことを詫びる』

『混乱も必至だろう。故に、私から説明を行う』

『……まず、該当の敵性存在は、不可解な外部組織との接触を持っていたことが確認されている』

『それは一度だけではなく、二度三度と行われていた』

『サポートパートナーへのハッキングを介しての交流も解析された』

「!」

 

 サポートパートナーへのハッキング、というワードにシズクはわずかに反応を見せた。

 母親の件もそうだが、今隣にいる未来から来たサポートパートナーが誰かにハッキングされているという可能性は無いか? とうい考えがシズクの頭に過ぎったからである。

 

 そう、例えば時間遡行で現代に来た未来の『リン』さんがルインをハッキングしているとか……いや、あのヒトならそんなまどろっこしいことせずに直接助けに来るはずだ。

 

 ううむ、分からん。

 と、今はレギアスの演説を聞かなければ。

 

『……それだけではなく、対話可能なダーカー種との接触もみられたとのことだ』

『絶対敵性存在であるはずのダーカーと、戦うことなく、だ』

『また、アークス内部に未確認未登録の人員を配し諜報活動を行ったとの報告もある』

『もちろん、かの者がアークスに多大なる貢献をしていたことは私も承知している』

『……それでもなお、アークスの敵性存在だと。そう……判断された』

『……繰り返す、諸君。アークスがそう、決めたのだ』

 

『……ここに、六芒の一レギアスの名において……絶対令(アビス)の行使を宣言する』

 

「……絶対令!?」

 

 絶対令――アビス。

 それは六芒均衡の持つ、アークスへの絶対命令権。

 

 命令に対する疑問すら抱かせずに命令を実行させるという埒外な権限である。

 

「まずい……!」

 

 何を命令されるか分からないが、今そんな命令を聞いている暇は無い。

 

 だが映像を強制シャットダウンすることすら出来ず、画面上に絶対令の発動を示す赤いアークスのマークが浮かび上がり――

 

『アークスに徒なす反逆者を……』

『キリン・アークダーティを抹殺せよ』

 

 目の前が、真っ白になった。

 

 絶対令発動。

 アークスであるならば逆らおうという意思さえ浮かび上がらせることすらできず、ただ命令を実行するだけの傀儡と化す。

 

「……さて、これでマザーシップへの道は開きました。何せ反逆者はマザーシップに居るんですからね。規制なんてかけるわけありません」

 

 ルインがのん気にそんなことを言った。

 

 どう考えてもそんな場合じゃないだろう。

 絶対令、絶対令だ。これから逆らうこともできず『リン』を抹殺しなければいけないんだ。

 

「あたし……あたし……『リン』さんと戦いたくなんてないよ!」

「じゃあ戦わなければいいじゃないですか。絶対令はシズク様に効いていないようですし」

「えっ」

 

 ルインの台詞に、思わずシズクは自分の両手を眺めたり、『リン』と出会ってしまったときにどうするかとかを考えてみて、

 

 気付く。

 絶対令効いてねえ。

 

「あ、あれー? これはあれかな、あたしが人間じゃないからとか?」

「絶対令は、簡単な命令なら兎も角対象の価値観を覆すような命令にはその命令を行使する上で相応に説得力、納得力がある理由や説明が必要なのです。何のためにレギアス様が『リン』さんが外部組織と何ちゃらとかダーカーと何ちゃらとか言って『リン』様を裏切り者扱いしたと思っているんですか……」

 

 ああそうか、とシズクはその言葉で察する。

 

 『リン』さんがアークスに害なすものである、という証拠をレギアスは流していた。

 でも、一般アークスは兎も角シズクにはあれでは証拠不十分だったのだ。

 

 不可解な外部組織――サラのことをシズクは知っているわけだし、

 対話可能なダーカーとの接触については分からないが、アークス内部の未確認未登録な人材――マトイのことだってシズクは知っている。

 

 ようするに、これだけの証拠じゃ納得できないということだ。

 

 『リン』に対する僅かな猜疑心すら生み出すことが出来なかった。

 

「てことはリィン辺りも絶対令にかかってない可能性があるか。……ちょっと通話かけてみようかな」

「あ、シズク様。どうかワタクシのことはご内密にお願いします」

「うばうば」

 

 そんな了承とも取れるような取れないような返事をして、リィンと通話するべく端末を弄る。

 

 数秒して、リィンと通信が繋がった。

 

『あ、シズク!? さっきのふざけた演説見た!?』

「うば、見たよ」

『今『リン』さんを殺そうと動き出してる連中を片っ端から体術で組み伏せて縛り上げてるんだけど……キリが無いわ! 何人か逃してマザーシップに行っちゃったし!』

 

 どうやら、リィンは無事だったようだ。

 一安心。シズクは自分も絶対令にはかかってないことを伝えると、リィンもまた安心したようで大きくため息を吐いた。

 

『ふー……よかったわ、シズクをねじ伏せる必要が無さそうで』

「ねじ伏せるって……まあ抵抗も出来ずやられるだろうなぁ」

『アークスシップなら武器も使えないしね、純粋な武術で私に勝てるやつはお姉ちゃんくらい……せやっ! また一人捕まえたわ。そういえばシズクは何処にいるの? なんか早朝から出かけていたみたいだけど』

「今マザーシップに向かってるところ」

『今すぐ私も行くわ』

 

 判断が早すぎる。

 まあ確かに、リィンは居たほうがいい、か……。

 

「うん、お願い。でもあたしが先に着いた場合待たずにどんどん奥に行っちゃうから、頑張って追いついて」

『了解』

 

 短い返事を受けた後、通話を切る。

 リィンが絶対令の影響を受けてなかったのは、かなりの朗報だ。

 

 あの子は素直だから、レギアスの言葉を真に受けてしまうかもと懸念していたが無用の心配だったか。

 

(成長してるなぁ、リィン)

「さて、じゃあマザーシップまでまだ暫く時間がありますし、何かお喋りでもして待ちましょうか」

「うば、なら教えて欲しいことがあるんだけど……」

 

 教えられることならいいですよ、とルインが頷いたのを見て、シズクは続きの言葉を紡ぐ。

 

「あたしのお母さんって、『何』?」

 

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