『六芒均衡』。
それはアークスの中でもとりわけ優れた技量を持つ、"アークスの象徴"。
作戦指揮権や通常のアークスには与えられていない情報へのアクセス権限等、特権とも呼べる数々の権利を持ち得る六人の称号である。
――まあ、もっとも今は諸事情により五人しか居なかったりするし、一部精神年齢が低過ぎて代表と呼ぶには些か不安の残る面々もいるが……。
それでも六芒均衡は、まず間違いなくアークスという組織の『決戦兵器』と呼べよう。
「ギシャアアアアアアアアア!」
市街地中心部にあるドーム型の競技場で、一匹の巨大ダーカーが金切り声をあげた。
名をダークラグネ。
ダガンが成長したような見た目をした巨大な蜘蛛型ダーカーだ。
そのサイズは足一本でアークスの身長の約二倍。
数居るダーカーの中でも、一際アークス達に恐れられる存在である。
「イル――イルイルイルイルイル」
――が、今回ばかりは相手が悪い。
相対するは黒いコートを身に纏った一人のアークス。
名をキリン・アークダーティ。通称『リン』。
数か月前にアークスになったばかりでありながら、『もうアイツ六芒均衡より強いんじゃね?』と噂される正真正銘文字通りの化物である。
「……フォイエ」
大気中のフォトンが揺れ、急激な速度で収束、からの解放。
舞い上げられた六つのフォトンは、赤い軌跡を描いて天まで昇りつめた後、直径三十メートル程の隕石を形取り、一拍置いてダークラグネに降り注いだ。
イル・フォイエ。
フォイエ系最強のテクニック。
消費するフォトンもチャージの時間も他のテクニックとは比べ物に成らない程かかる大魔法。
代わりに『擬似的に再現した隕石を降らせる』という単純にして明快な効果は非常に強力だ。
「ゴギャァアアアアアアア!」
それを、六発。
勿論、普通なら連続で放てるモノではない、通常のアークスなら順番に撃っても二発で息切れしてしまうだろう。
規格外も規格外。
いや。
むしろ、例外。
「流石だなー、相棒は」
「アフィン、ウィークバレットくらい撃ってくれよ」
「要らねえだろ……どう考えてもオーバーキルだってのこれ……」
見るも無残な姿になってしまったダークラグネに、思わず合掌してしまいそうなアフィンであった。
尚、擁護しておくと戦闘中アフィンはなにもしてなかったわけではなく、ダークラグネの取り巻きである雑魚を引き付けるという役割を担っていたのだ。
「ところで周りの雑魚は?」
「とっくに倒したよ、ほら、その辺にドロップアイテム転がってるだろ?」
「おお……修了検定の時ダガン数匹にびびってたアフィンがよくここまで……」
「へへ、俺だって成長してるんだぜ」
『敵司令塔の消滅を確認しました。アークス各員は、周囲の残党処理をした後随時帰還してください』
ダークラグネが赤い結晶を残して消滅したところで、アークス各員にオペレーターからの通信が入った。
こういった大規模な作戦ではベテランオペレーターが一人で複数のアークスを担当するのだ。
ちなみに今通信を行ったのは良い歳してるのにツインテールが似合うことで有名なベテランオペレーター、ブリギッタさんである。
「お。作戦終了みたいだな」
「そうね、この辺りにはダーカーもいないみたいだし……帰還しよっか」
「おー」
頷いて、アフィンはテレパイプを使用した。
目の前に青い輪でできたゲートにアクセスし、帰還を選択する。
次の瞬間には、二人は市街地からキャンプシップへと座標を移していた。
「ところでアフィン」
「ん? 何だよ相棒」
「女装かバスタオル、どっちがいいか決めた?」
「あっ」
すっかり忘れていたようである。
そんなアフィンの反応に、リンはニッコリと笑った。
「決めてないってことは、私が決めていいってことよね?」
「いや、待て相棒、落ち着け、謝る。謝るから! 土下座でも何でもするから許してくれ!」
「ん? 今何でもするって言ったよね?」
リンの笑みが、邪悪なそれに変わっていく。
アフィンは顔面蒼白になりながら、せめて命は助かるようにと祈ることしかできなかった。
*****
残党処理。
その命令が出てからシズクらが所属していた十二人は、パーティごとに別れての行動を始めた。
もう司令塔が倒れ、新たなダーカーが出現しない以上大群でダーカーが現れることも無いので、残党処理の効率を考えた結果パーティごとに別れての行動となったのだ。
と、いうことで四人での行動となったシズク、リィン、メイ、アヤの四人は単独、あるいは少数で行動しているダーカーを蹴散らしつつ、余裕綽々と市街地を歩いているのであった。
「思ったんだけどさ」
「ん?」
リィンがダガンの攻撃をジャストガードで受け止め、その隙を突いてシズクがダガンに止めを刺す。
そんな一連の戦闘を見て、メイはぽつりと言葉を漏らす。
「リィンの戦い方って……なんか
「あー、分かるわ。ジャストガードが上手いから安心して前を任せられるわね」
「ちょ、いきなり何ですかもう」
照れ臭そうに頬をかくリィン。
ジャストガードは、リィンにとって一番自信の持てる技だ。それが褒められて嬉しいのだろう。
「言うなら
「えっ」
「あはは、もしかして本当に『そういう』関係だったりして」
「ちちちち違いますよもう!」
頬を真っ赤に染めて否定する。
もうその態度からして察せられるモノだが、リィン自身自分の気持ちに気が付いていないのだからどうしようもない。
「あらあら」
「うふふ」
「ぜ、絶対勘違いされてるー!? ほ、ほら、シズクも違うって言ってやって!」
「まあ、『そういう』関係ではないけど確かにリィンって戦闘中格好いいよね」
「なっ……!」
リィンの頬が、というか顔全体がより真っ赤に染まった。
「おやおや見てください奥さん、あれが青春ってやつですよ」
「あらまぁ、私たちにもあんな時代があったわねぇ」
「先輩たち充分若いでしょ! ていうか、別に、格好いいなんて言われても全然嬉しくないんだからねっ!」
テンプレートなツンデレ発言をしつつ、リィンは先頭に躍り出た。
真っ赤な頬を見せたくないのだろう。
「ところで戦闘中は格好いいわけだけど普段はどうなの?」
「普段のリィンは可愛いですよ!」
「へぇー」
「ほほー」
「もう! まだ残党処理終わってないんですから! 油断しすぎですよ!」
明らかな照れ隠し発言をしつつ、リィンは他の三人にばれない様に頬を緩ませた。
何だかんだ言って、可愛いと言われるのは嬉しいようである。
「…………成程、可愛いわね」
「でしょー?」
「うっさい!」
『市街地全体のダーカー反応消滅を確認。作戦は修了です、アークス各員は随時帰還してください』
と、そんな和やかな雰囲気のまま、オペレーターからのアナウンスが流れた。
市街地殲滅作戦完了である。
オペレーターから帰還用のテレパイプがあちこちに設置されるので、あとはそれを使ってキャンプシップに帰れば終わりである。
「さ、帰りましょっか」
順番にテレパイプへ入り、キャンプシップへ帰還。
遠い惑星に行っていたわけではないので、ものの数分でアークスシップに帰れるだろう。
「いいっていいってお礼なんて」
キャンプシップに入って、開口一番にメイが言った。
開口一番である。
つまりまだ誰も何も言っていないのだ。
「まだ何も言ってませんよ……」
「はっはっは、細かいことは気にするな」
快活に笑うメイ。
気持ちの良い人だなぁ、とシズクは呆れながらも微笑んだ。
と、そこで思い出したかのようにリィンが口を開く。
「あ、そういえば先輩の言ってた『下心』って結局何だったんですか?」
「ん? ああ、そうね。ささっとその話しちゃいましょうか」
言って、アヤはカードを一枚取りだした。
パートナーカード……に似ているが少し違う。
「……これは?」
「これは『チームカード』って言ってね、『チーム』に所属している証みたいなものなの」
チームというのは、まあようするに仲の良い者同士、または利害の一致等によって組まれる『即席では無い繋がり』である。
個人的な集まりと思いきや、結構チーム対抗でのイベント等も行われることもあるためチームに所属するアークスは意外と多い。
メイとアヤも、その中の一人なのだろう。
「ウチらのチーム名は【コートハイム】。たった二人の小規模チームなのだ」
「だからまあ、気が合って優秀な新人が居たらスカウトしようと思ってたのよ。それが下心」
成程、とシズクとリィンは頷いた。
「それで、どうでした? 私たちはお眼鏡に叶いました?」
「そりゃもう、満点だじぇー。実力もこれから伸びるだろうし、話してて楽しかったし、何より二人とも可愛いし」
メイがサムズアップをしながらリィンの問いに答えた。
実際、この二人は新人の中では最大級の『当たり』といえるだろう。
「どう? よかったら入らない? 【コートハイム】に」
「是非! ……と言いたいところですが、一つだけ訊きたいことがあります」
「……何?」
キャンプシップの窓から見える景色が、宇宙から室内に変わった。
アークスシップに到着したようだ。
「【コートハイム】の目的……いや、目標はなんですか?」
「へへ、名前聞いて分からない?」
シズクの問いに、メイ・コートは笑顔で答える。
コートハイム。その意味は、『コートの家』。
「ウチら【コートハイム】が目指すものはたった一つ!」
「"家族のようなチーム"、よ」
家族のようなチーム。
その言葉を聞いた瞬間、二人は顔を見合わせて頷きあった。
断る理由が無い。
こうして、シズクとリィンはチーム【コートハイム】に入団することになったのであった。
あ、ちなみに作者はシップ9で麒麟という名前でサイコウォンド振りまわしています。
リンのモデルは自キャラです。(動かしやすいから)