AKABAKO   作:万年レート1000

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再誕の日⑤

「着きました、マザーシップです」

「ありがとルイン」

 

 マザーシップの入り口に立ち、シズクは後ろ手でお礼を言いながら早速駆け出した。

 

 周りにリィンは居ない。

 ということは自分のほうが先に着いたのだろう。

 

 それならば置いていっちゃうと言ってあるので問題ない。

 

「お気をつけて、この展開にした場合どうなるかとかワタクシ欠片も知りませんので」

 

 ルインは着いてきてくれないようだ。

 どうやら彼女に戦闘力は無いらしい。

 

 そして演算能力も全知能力も持ち合わせていないがために、先の展開も分からない。

 

 なんて無責任な歴史改変だろうか。

 下手したら自分が消失するという可能性を考えなかったのか。

 

 言いたいことは色々あるが、兎も角。

 今は先行している『リン』さんに追いついて合流するのが最優先目標だ。

 

「待ってて……お母さん……!」

 

 マザーシップ。

 初めて来た場所なのに、懐かしい感覚で一杯だ。

 

(でもそんなの当たり前)

(だってあたしは――お母さんは――)

「うばっ!」

 

 立ち止まる。

 いや、勿論立ち止まりたくて立ち止まったわけではない。

 

 しかし止まらざるを、えなかった。

 

「ダーカー!? 何でマザーシップに……ルーサーか……!」

 

 マザーシップを我が物顔で闊歩する鳥型ダーカーが、そこかしこにうようよしていた。

 

 マズイ。

 シズク単体の戦闘力は正直低いと断定しても問題ないくらいだ。

 

 スルーして進もうにも数が多すぎる……ただでさえさっき走りまくって疲れているというのに!

 

「うばー……! こうなったらやるしか……」

 

 アサルトライフルを取り出て、構える。

 武装がこれしか無いのは心もとないが仕方ない。

 

「ピアッシングシェル!」

 

 貫通性の高い銃弾を放つ。

 相変わらず弱点を狙い打つことは得意なシズクの攻撃は、寸分違わずダーカーの弱点を撃ち抜き、貫通したその弾さえも後ろに居たダーカーの頭に突き刺さった。

 

 しかして、そのダーカーたちは消えない。倒しきれない。

 

 当然ともいえよう。このダーカーはルーサーが生み出した対『リン』クラス用のダーカー。

 

 つまり、難易度で言えばスーパーハード級のエネミーなのだ。

 

「…………やっぱ、一人じゃダメかぁ」

 

 攻撃の結果が分かっていたかのように、シズクは一人呟く。

 

 ダメージを受けたことによって怒るダーカーが、シズク目掛けてやってきた。

 たった一人でこの数、この強さのダーカーを相手取るなど無謀もいいところ。

 

 だから。

 シズクは息を大きく吸って、目を閉じて。

 

 万感の思いを乗せて、叫ぶ。

 

 

「――リィンっ!」

 

 

 リューダソーサラーと呼ばれる死神の鎌のような武器を持ったダーカーが、黒いカマイタチを放った。

 

 シズクの薄い防御力ではとても耐え切れないほどの切れ味を誇るそれは、真っ直ぐにシズクへと迫る――!

 

「…………」

 

 でも、問題ない。

 ――もう、近くに居ることは知っている。

 

 だってシズクとリィンは――『繋がっている』のだから。

 

「シズク、これなら入り口で合流してからのほうがよくなかった?」

 

 そんな世間話をするような声のトーンで、彼女はシズクの目の前に現れた。

 

 黒いカマイタチを、ジャストガードで容易く受け止めて。

 シズクに向かって笑いかけながら、言う。

 

「ていうか、何でこんなところにダーカーが居るの?」

「……ルーサーの仕業だよ。あたしもこんなことになってるならリィンを待てばよかったって反省してたとこ」

「ふぅん……」

 

 さて、まあ、何と言うか。

 随分と久しぶりな気がするけども。

 

「うっばっば、じゃあ一丁――連携特化、見せ付けていこうか」

「うん」

 

 手伝って、とは言わない。

 手伝うわ、とも言わない。

 

 二人で一つの連携特化。

 

 シズクとリィンが、マザーシップの奥地目掛けて出発した。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 同時刻。

 

 『リン』とマトイがダーカーと絶対令アークスを両方とも蹴散らしながら順調に歩みを進めていた。

 

 その時だった。

 

「うわ……厄介なのが居るな……!」

 

 通路を抜けて、そこそこ広い空間に出たところで『リン』は眉間に皺を寄せ呟く。

 

 そこに居たのは、一人の女。

 腰に差した美麗なカタナと負けず劣らずな美しい青い髪が特徴的な美女――

 

 

 ――ライトフロウ・アークライトが、道を塞ぐように立っていた。

 

 

「……助けたことを、後悔する気は無いんだけど」

 

 こうなるとやっぱ厄介だよなぁ、と『リン』は杖先をライトフロウに向ける。

 

 実は過去に立ち会ったことがある故に、その強さはよく分かっている。

 

 全力でやって、互角よりちょい優勢。

 勝てなくは無いが消耗することは必至。

 

 マトイと二人がかりだから、多少はマシかもしれないけれど……。

 

「……一つ確認させて貰いたいんだけど――」

 

 絶対令の赤い光を瞳に宿しながら、ライトフロウは言う。

 

「あの凍土で――私の元にリィンを送り込んだのはアナタ?」

「! ……気付いていたのか?」

「横目でね、アナタの姿が見えたから……そっか、うん、そっか……」

 

 ライトフロウは、何かに納得したようにしきりに頷いて、そして。

 

 赤い瞳のまま、『リン』に笑顔を見せた。

 

「それじゃあ、私はアナタの邪魔をしないわ」

「え……?」

 

 絶対令の影響下にあるというに、ライトフロウはそんなことを言い放った。

 

 まさか絶対令を弾いたとでもいうのか……いや、でもまだ瞳に赤い光が宿ったままだ。

 

 だまし討ちする気か……?

 と警戒する『リン』に向けて、彼女は微笑みながら言う。

 

「アークスにとってアナタが裏切り者だとしても、妹を助けてくれたアナタを私は敵だと思えないのよ」

「……は?」

「『リン』、私はね……世界より、アークスより、妹が大事なの」

 

 あらゆる事象は妹という絶対的な事柄の前ではゴミ当然よ、と。

 

 断言する究極のシスコンだった。

 

「じゃ、じゃあ……」

「通らせてもらう、ね?」

 

 半信半疑ながら、そう言ってシスコン姉の横を通ろうとしたその時。

 

「っと……」

 

 ぷるぷると、ライトフロウの右腕がカタナを抜こうと動き出した。

 

 絶対令を打ち破ったわけではない。

 故に目の前に居る『リン』を倒せという脳に刻み込まれた指令を、妹への愛で押さえ込んでいるのにも限界があるようだ。

 

 なんというか、当たり前だ。

 

 本来気力とか愛の力とかでどうにかなるものじゃないことをどうにかしているのだから。

 

「お、おい……? ライトフロウ、大丈夫か?」

「近づかないで。それ以上近づくと切りかかってしまいそう……あ、そうだ」

「?」

 

 良いことを思いついた、といわんばかりに頭上に電球マークを浮かべ、ライトフロウは右手がカタナを抜いてしまう前に左手でカタナを抜き放ち、

 

 ――欠片も躊躇せず、自身の右腕の腱を斬りつけた。

 

「……な!?」

「何やってるの!?」

「これで右手は使えない……あとは……」

 

 次いで、これまた躊躇せずにライトフロウは自身の左腕に噛み付いた。

 

 犬歯を上手く使い、こちらも腱を噛み千切る。

 痛みで、カタナが床に落ちた。ぽたぽたと流れる血から見て、両腕は回復しないと使い物にならないだろう。

 

「これで物理的にアナタの邪魔は出来ない……ほら、さっさと先に行きなさい」

「ど、どうしてそこまで……」

「何、ほんのお礼よ」

 

 両腕をだらんとぶら下げて、ライトフロウは微笑む。

 

「サラから……シャオって子から話は聞いたわ」

「! いつの間に!?」

「私たち姉妹の仲を取り持ってくれてありがとう。……あの子を助けてくれてありがとう。あとついでに私を助けてくれてありがとう」

 

 それがついでなのか。

 そうツッコミたいが、多分『リン』だって同じ状況なら同じ言葉を言っただろう。

 

 ああ成る程、キャラ被り、か。

 

「か、回復しなきゃ……!」

「いいのよ、回復したらアナタたちを襲っちゃいそうだから――だから早く、この先に行きなさい」

 

 マトイが回復テクニックを唱えようとしたのをライトフロウが止めた。

 

 それを見て、『リン』はようやく決心がついたかのようにマトイの手を引き走り出す。

 

「…………」

 

 二人の姿が見えなくなったのを確認して、ライトフロウはさてトリメイトを飲まなくちゃなとアイテムパックを開こうとして――開けなかった。

 

 そりゃそうだ。両手が使えないのだから。

 しまった、使えなくするのは右手だけでよかったかもしれない、と微妙な後悔をし始めたライトフロウの眼前に……。

 

 大量の鳥型ダーカーが出現していた。

 

「…………ったく」

 

 逃げてもいいが、逃げ道はあの二人が走っていってしまった方向にしかないし、あんな格好つけてモンスターをトレインしてしまったら情けないことこの上ない。

 

「……ハンデとしては、丁度いいわね」

 

 床に落ちたカタナを口で拾い上げる。

 両手が使えないなら口でカタナを咥えて戦えばいいといわんばかりに。

 

 ライトフロウ・アークライトは、ダーカーたちを睨みつけた。

 

 絶対令をその身に受けようと、アークスの最大使命はダーカーと戦うこと。

 

 故にその行為に迷いなんて無く、

 カタナを口に咥えた美女は、真正面からダーカーの群れへと突撃していった。




両手の使えなくなったキャラが、口に武器を加えて戦うのが好き。
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