AKABAKO   作:万年レート1000

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再誕の日⑩

「はぁ……っ! はぁ……っ!」

 

 マザーシップを、ひた走る。

 流石に息が切れてきて、足ももつれてきたけど走る。

 

 本当、こういうとき自分の身体の小ささと体力の無さが怨めしい。

 リィンのようなアスリート体型になりたい。

 

 そんなことを考えながら、やっぱり走る。

 

「うば?」

 

 走っていると、一際大きい広場に出た。

 

 まだ最深部という感じはしないけど……誰か居る。

 っていうか、六芒均衡の皆さんが居る。

 

 六芒均衡と、黒いクラリスクレイスの大群が戦っていた。

 

「…………は?」

 

 思わず素で首を傾げる。

 何がどうなってそうなるんだ……。

 

「ええっと……全知全知……あれ?」

 

 全知を使って状況判断しようとして、失敗した。

 

 また隠蔽でもされているのかと思ったが、どうにも違う……なんというか、全知そのものが封印されているような……。

 

 フォトンによる繋がりが、途絶えているような。

 

「…………時間が無い」

 

 ぽつりと呟いて、息を整えてから走り出す。

 

 演算、開始。

 上手いこと六芒均衡たちを盾にしてこの場を抜けるルートを導き出す――!

 

「……よし」

 

 完璧だ。

 完璧なルートが見えた。

 

 後はタイミングを計り飛び出すだけ……。

 

 一、二、三…………ゴー!

 

「うばっ」

 

 こけた。

 足がもつれて、こけた。

 

 そういえば自分の足が限界だということを忘れていた……!

 

「……シズク!?」

 

 ゼノが振り返る。

 そしてそれに釣られるように六芒の面々もまたシズクに注目を集めた。

 

「……へえ、来たのかい、シズク」

 

 マリアが炎を創世器で弾きながら、にやりと笑う。

 

「うっばっば、来ちゃいました」

「マリア、その娘は何だ?」

「弟子の弟子さ」

 

 レギアスの問いに、マリアはそう答えて彼と肩を並べた。

 

 武器を構え、黒いクラリスクレイス共を睨みつける。

 

「悪いがレギアス……あの子をこの先に送り届けるための道造りを手伝っちゃくれないか?」

「……それをするだけの価値が、あの娘にあると?」

「さあてね、価値なんて無いかもしれないあるかもしれない……でも、意味ならあるさ」

 

 そんな意味深なことを言って、マリアは創世器を構えた。

 次いで、レギアスも構える。

 

「シズク! 聞いての通りだ、アタシらで突破口をねじ開く。あんたは兎に角ここを走り抜けることだけ考えな」

「は、はい!」

 

 頷いて、走り出す。

 アークス最強の二人が作ってくれる道を――!

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 マザーシップ・深部にて。

 

 シオンは語る。

 

「ぽつんと存在した、海だけの惑星。

 海だけしかなかった、惑星。

 

 ……ふいに、そこへ知識が生まれた。

 

 知識を得たその海は過去から今までを……森羅万象を演算し、全てを知った。

 

 全てを演算しつくした、宇宙の観測者。

 

 フォトナーはその海と出会い、そして、その海に名を付けた。

 

 その名こそ、シオンという。

 

 フォトナーたちと出会い、わたしは観測者であることをやめた。

 

 わたしは彼らの言葉を覚え、積極的に交流をはかった。

 

 彼らを、理解しようとした。

 

 この姿も、そう。

 最初に触れたフォトナーの姿を真似たものだ。

 

 はじめてこの姿を見せたときの彼らの驚きようは……楽しかった。

 

 演算では得られない、ものだった。

 

 わたしは彼らに願い、わたしを……惑星自体を包み込む外装を作り、動けるようにした。

 

 それが今、マザーシップと呼ばれるこの巨大な移動惑星だ。

 

 これを作ったのもすべてフォトナーたちが為すことを見届け、共に歩むため。

 

 ……そうだ、わたしは浮かれていたのだろう。

 

 わたし以外の存在と出会えたことが嬉しかったから……間違った。

 

 観測者であることを忘れず交流も、接触もしなければ……このようにはならなかったはずだ」

 

 シオンは語る。

 浮かれていたと。

 

「フォトナーはけして悪ではなかった。彼らの行いは全体から見れば尋常ならざる進化を呼んだ。

 

 フォトナーがいなければダーカーは生まれなかっただろう。

 だがアークスも、生まれなかった。

 

 そう、フォトナーは欲深く好奇心旺盛で、適度に怠惰で傲慢な……正しい、人のあり方だった。

 

 観測者であることをやめ、彼らにフォトンの知識を与えたわたしの行いこそ、間違いだったのだ」

 

 シオンは語る。

 間違えたのは、自分だったと。

 

「……でも、それじゃ寂しいよ」

 

 でも、と。

 マトイはシオンの言葉を全て聞いた上で、そう言った。

 

 寂しいよ、と。

 

「それは、わたしには理解しかねる感情だ」

「そんなことない。シオンさんにだって、わかるはず」

 

 全知だから、知っている。

 寂しいという感情は知っているが、理解は出来ない。

 

 観測者は、感情を理解することが苦手なのだ。

 

 でも、マトイはそれを否定した。

 わかるはずだと、否定の言葉を全知に送った。

 

「わたしは……わたしは寂しかった。怖かったし、辛かった。誰かに助けてほしかった。

 『リン』が助けに来てくれたのは、その時。

 わたし、なにもかも忘れてたけど『リン』の名前と、その時の嬉しさは覚えてる」

 

 マトイは、たった一人。

 記憶が無いまま、惑星ナベリウスの森林エリアで眠っていたところを保護された。

 

 『リン』に助けられた。

 

「シオンさんだって、同じだよ。フォトナーと会えて、嬉しかったんだ。ひとりぼっちは、寂しかったんだ……」

 

 そう。

 

 

「シオンさんは、寂しかったんだよ」

 

 

 一人は辛くて、苦しくて、寂しい。

 

 寂しかった。

 

 世界に自分と同じ種族の生物がいない孤独感に苛まれていた少女のように。

 唯一信じていた姉を嫌いになって、信じられる人が居なくなった少女のように。

 

 シオンは、寂しかったのだろう。

 

「……君は……まさかわたしの縁者として、記憶を……?」

「ううん、そう感じるだけ……シオンさんの思いを、感じるの」

 

 寂しかったから、声をかけた。

 それは何も間違ってない。

 

「間違ったのはきっとそのあと。シオンさんだって、そう思ってる

 だから、その間違いを正すため『リン』とわたしを会わせてくれたんでしょ?」

 

 …………。

 マトイの言葉を受けて、シオンは目を閉じる。

 

 目を閉じて、何かを想うように顔を少し上に向けた。

 

「……ああ、そうなのか。最初にあった、欠落感。あれは……寂しさだったのか」

 

 観測者が最も苦手としているものが、自己観測。

 他者を観測することが何よりも得意とする全知の観測者は――自分の感情すら理解できない。

 

 だからシズクは自分のことを理解できないし、

 そして、母親であるシオンのことも理解できない。

 

 何故ならば、他者では無いから。

 

 勿論シオンだって、シズクの気持ちも理解できない。

 

 親の心子知らず。

 子の心親知らず。

 

「……シオンさん!」

 

 突然、シオンの姿が溶けるように消えた。

 

 マトイが思わず手を伸ばすが、間に合わずその掌は何も掴むことができず所在なさげに引っ込む。

 

「『リン』! はやく、奥に進もう!」

「ああ、急ごう」

 

 マトイの言葉に『リン』は頷いて、走り出す。

 

 マザーシップ最深部まで、あと少し――。

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