AKABAKO   作:万年レート1000

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宴前

「へー、アヤさんとメイさんって幼馴染だったんですね」

「そーなのよ、かれこれ0歳児からの腐れ縁ってやつよ」

 

 ショップエリア・アイテムショップ前。

 青髪ツインテールの少女リィン・アークライトと、橙色のポニーテールをした少女メイ・コートは雑談しながら買い物に勤しんでいた。

 

 リィンとシズクの【コートハイム】入団祝い、ということで簡単なパーティを開くことになったのだ。

 

 そんなわけで料理出来ない組(リィンとメイ)は緊急クエストで消費した回復アイテム等の消耗品の買い出し、料理できる組(シズクとアヤ)は居住区にあるショッピングモールで食材の買い出しをしているのであった。

 

 買い物が終わった後は、『チームカウンター』というチームに関するあれこれを担うカウンターで正式に二人を【コートハイム】の一員として登録する予定だ。

 

「そっちはどうなの? シズクとはどれくらいの付き合い?」

「一週間くらいですね」

「短っ!? それにしては仲良いわね」

「んー、何かシズクと居ると落ち着くんですよね」

 

 素直になれないため本音を語れずに孤立を深めてしまうリィンにとって、

 ひたすらに素直で他人の本音を察する力を持つシズクの隣はかなり心地よいのだろう。

 

「ふーん、まあ付き合いの長さと仲の良さは関係ないよな」

「そうですね、あ、でもシズクといるとたまに変な感じになるんですよね」

「変な?」

「えっと、こう……些細なことでイラッと来たり、心臓がどきっと跳ねたり……」

「お、おう……」

 

 なーるほどなー、そういう関係かぁーっと納得しながら、メイは会計を終わらせた。

 買う物の量が違うので、こっちの組の方が買い物が終わるのは早い。

 

 相方達が買い物終了するまで、もう少しかかるだろう。

 と、いうことで暇を潰すためにどうしようかと考え始めたところで、ショップエリアに怒号が響いた。

 

 声の発声原はやはりというか何というか、アイテムラボ前――ようするにドゥドゥの前だった。

 

「てめぇコラドゥドゥ! 俺のサーハリング+8が+4まで落ちたんだけどぉ!?」

「素晴らしく運が無いなぁ君は」

 

 大柄の男が、ドゥドゥに掴みかからんとする勢いで捲し立てていた。

 それを見て、メイは呆れたように溜息を吐く。

 

「まぁーたやってるよドゥドゥ……」

「やっぱメイさんもドゥドゥには苦い思い出が……?」

「うん、絶対いつかあいつぶん殴る」

 

 じっとりとした瞳でドゥドゥを見据えるメイ。

 本当に全アークスの恨みを買っているんだなぁとリィンは苦笑いした。

 

「リィンは奴にもう挑んだ?」

「あ、はい。武器だけですが」

 

 考えたら武器を強化するという行為を"挑む"って表現するのもおかしな話だ。

 

「今日の朝、ヴォルドラゴンに挑んだんですが負けてしまいまして、それでリベンジのために強化したんです」

「あー、ヴォルドラ強いよねぇ、ウチらも一回負けたわ。強化は無事終わったの?」

防具(ユニット)がまだです。緊急終わった後、強化するつもりでしたが……」

「あ、じゃあウチらの昔使っていたやつあげるよ」

「え? いいんですか?」

 

 いーのいーのと笑うメイ。

 こういった先輩から後輩へのお下がりの受け渡しも、チームならではといえよう。

 

「あ、ありがとうございます」

「はっはっは、崇めよ讃えよ」

「え、えっと、ははー」

 

 両手を挙げて、神様を祀るような動作をするリィン。

 

 なにこの生き物可愛い、とメイは内心癒されるのであった。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 そんな風にリィンとメイが微笑ましいやり取りをしている一方で、場面はシズクとアヤに移る。

 

 シズクは子供っぽいが意外と常識的で、アヤはメイに対して以外は大和撫子そのものだ。

 そんな二人が一緒に買い物している姿はまるで親子か歳の離れた姉妹を見ているようで、非常に微笑まし……。

 

「シズクちゃん! あっちで刺身半額セールが始まったわ!」

「あたしが行きます! 先輩は卵を!」

「任せて!」

 

 ……かったらよかったのになぁ。

 

 居住区の一角にあるショッピングモールの割引セール。

 その食品売り場は、当然のように主婦で溢れかえっていた。

 

「ちょっと、どきなさいよ!」

「このマグロはあたしのよ!」

 

 ふとましいおばちゃんが、刺身に手を伸ばしたシズクを押しのけそれを手にする。

 おひとり様一つだけ、なんて表記は子供を連れてきている主婦にとって大した縛りではなく、隣にあったイカの刺身も取られてしまった。

 

「ぐぅ……! おばちゃんパワー恐るべし……!」

 

 体格が比較的小柄なシズクは、こういった場ではかなり不利だ。

 フォトンを全力で行使すればこんな人波数の内にも入らないが、アークスが市街地でフォトンの力を振るうのは基本的に禁止されている。

 

「だけどあたしも十数年間――何もしなかったわけじゃない!」

 

 跳躍。

 身長、体重、全てにおいておばちゃんたちに負けているシズクが選んだ行為は、空中戦。

 

 セールのワゴンに手を伸ばすおばちゃんの肩に足を乗せ、前にジャンプ。

 おばちゃんたちの肉壁を飛び越えることで、ようやく戦いの舞台へと躍り出た。

 

「もらったぁああああああああ!」

「甘いわね嬢ちゃん!」

「な……!?」

 

 手を伸ばした先にあったアジの刺身を、横から掠め取られた。

 馬鹿な、確かに今のタイミング、シズクが最速だった筈。

 

「十数年……実に短い年月だわね」

「こちとら数十年主婦やってんのよぉおおおお!」

「ぐっ……!」

 

 再び、シズクはおばちゃんたちに追いやられて集団の外に放り出された。

 

 こうなってはもう無理だ。

 刺身は諦めた方が良い。

 

「……本当にそれでいいのか?」

 

 立ちあがり、呟く。

 

 負けを認めて、それでいいのか? っと。

 

「経験の差は……才能で埋める。体格の差は、心で埋める!」

 

 ぞくり、と刺身に殺到するおばちゃん連中の背筋が凍った。

 

 思わず皆が皆シズクの方を振り返り、驚愕する。

 

「……ふ、どうやらあたしたちはとんでもない"獣"を呼び起こしてしまったのかもしれないね」

「若さとは怖いものだねぇ……」

「あの子、良い主婦になるよ……なんせ」

 

 まだ目が、死んでいない。

 

 シズクは駆けだした。

 さっきと同じように、おばちゃんを足場にして高く跳躍!

 

「その手は通用しないよ!」

 

 が、狙った獲物は先に獲られた。

 そう、跳躍する分刺身との距離があってシズクの手は一拍遅れてしまうのだ。

 

 このままではさっきの二の舞になってしまう。

 

「諦めて……たまるかあああああああああ!」

 

 だが、一拍遅れるということは、次があるということだ。

 最初に狙った獲物が取られても、次の獲物にスイッチする時間は充分にある!

 

 手を伸ばす。

 刺身……ではない、おばちゃんの腕に、だ。

 

 刺身を取った腕に蛇のように巻き付き、その手から刺身を払いのける。

 

 獲物は上空に舞った。

 

 そう。空中戦ならば、日ごろから鍛えていて、なおかつ身軽なシズクの独壇場だ。

 

「この娘……最初からこれを狙って……!」

「貰ったぁああああああああああ!」

 

 二度目の跳躍。

 

 追いつけるものは、誰一人として居なかった。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「と、いうわけで大勝利!」

「お、おう……」

 

 ところかわってリィンのマイルーム。

 チームへの正式登録は五秒で完了したので描写はカットだ。

 

 両手一杯に買い物袋を抱えて満足げな相方に、リィンとメイは苦笑いしか返せなかった。

 

「いやぁ、シズクちゃん予想以上に戦力になったわ……これからもよろしくね」

「はい! 先輩も凄かったですよー、まさか『おばちゃん'sウォール』にあんな突破法があるとは……」

「シズクちゃんの使った上から攻める方法……通称『フライングゲット零式』は威力は高いけど隙も大きいから気を付けたほうがいいわ……これからはさっき教えた通り『オンザフライ-九十九の舞-』を軸に戦法を組み立てるべきよ」

「了解しました!」

 

 シズクはアヤの言葉にびしっと敬礼をした。

 随分と仲良くなったものである。

 

 一方、料理できない組であるリィンとアヤは、額に汗をかいて焦り始めた。

 

「リィン……さっきの会話、何割くらい理解できた?」

「い、一割くらい……です」

「拙いぞ……このままじゃ【コートハイム】の"女子力ある方"と"女子力ない方"で区分けされてしまう……リィン! 何か女子っぽいことをするんだ!」

「え!? え、え、えーっと……きゃ、きゃはっ♪」

 

 両手をグーにして顔の前に持ってきて、片足を曲げたポーズ。

 所謂ぶりっこポーズ、である。

 

「女子力たったの5……まあ可愛いからいっか」

「女子力低いのに可愛いとはこれ如何に」

「あざとい、だがそれがいい」

 

 上から順に、アヤ、メイ、シズクの感想である。

 女子力的には散々だが、逆にそれが良い。

 

「さて、じゃあ台所借りるわよ。シズク、手伝って」

「あいあいさー」

「あ、ワタクシも手伝いますよ」

 

 と、そこで台所に居たルインが入ってきた。

 両手にはお盆に乗ったお茶が三つ。おそらくリィン以外のために用意したのだろう。

 

「お。リィンのサポートパートナー? よろしくね」

 

 アヤが髪を後ろに縛りながら立ち上がった。

 それに続くように料理が出来る組、すなわちシズクとルインが台所へと向かう。

 

 料理出来る組が居間から居なくなったところで、メイは「あっ」と思い出したようにリィンに話しかけた。

 

「あ、そうだリィン……て、大丈夫? 顔真っ赤だぜ?」

「当たり前でしょう……私は何であんなことを……」

「いや、うん、可愛かったよ?」

「メイさんか突然無茶ぶりするから……」

「ごめーぬ」

 

 欠片も誠意の感じられない謝罪の言葉である。

 

 ていうか多分謝る気がさらさら無いのだろう。

 

「はぁ……まあいいです。それで、何か言いかけてましたけど何ですか?」

「ああ、リィンにこれをやろうと思って」

 

 言って、メイは端末から大量の書籍データをリィンに送信した。

 

「? 何ですかこれ?」

「ウチが子供の頃読んでた少女漫画」

「……漫画、ですか。あんまし読んだことないんですよね」

「それ読んで恋愛について勉強した方がいい、マジで」

「れ、恋愛……」

 

 確かに色恋沙汰に詳しく無いという自覚をリィンは持っている。

 だがそれがアークス業に何の関係があるんだ? と疑問に思いながら、何気なしにリィンは漫画のページを開いた。

 

 瞬間閉じた。

 

「ちょ……!」

「どしたん?」

「い、いきなり男女で手を繋いでるシーンから始まったんですけど! もしかして少女漫画とか言ってイヤらしい本渡したんじゃないですか!?」

「正真正銘全年齢向けの健全恋愛漫画だよコノヤロウ」

 

 これは重症だ、一体どういう教育をすればこんな純情に育つのかメイには想像も付かなかった。

 

「少女漫画、読んだこと無いの? これくらい普通だよ?」

「こ、これが普通なんですか? 最近の子供は進んでますね……」

「いやその本ウチが子供の頃読んでたやつだから」

 

 一昔どころか二昔前の作品である。

 それも、最近の子供は知らないようなマイナー作品だ。

 

「まさかこの歳で情操教育をすることになるとは……あ、念のため聞くけど子供の作り方って知ってるよね?」

「し、シッテマスヨ」

(絶対知らないな……)

 

 完全に目が泳いでいるリィンであった。

 

 ここまで何も知らないとキャラ作りなのではと疑いたくもなるが、リィンの場合マジで無知なのだ。

 

 それが偶然なのか、それとも故意に誰かがそうなるように教育した成果なのか。

 

 それはまだ、メイには分からない。

 

「し、知ってますけど認識に相違があるかもしれないので、確認のために……そう確認のために子供の作り方をご教授願ってもいいですかね?」

「え? うーん……」

 

 あくまで知っている体でいるリィンに内心笑いながら、メイは少し言葉に詰まった。

 

 こんな純情な子に真実を教えたら卒倒してしまうのではないか? という心配が頭に浮かんだのだ。

 

「え、えっと……」

「な、何ですか? もしかしてメイさんも……じゃない、メイさんは知らなかったり?」

「あーっと、そう、キス、よ」

「え?」

 

「舌と舌を絡めた大人のキスをすると子供が出来るの」

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「おまたせー……ってうわ! リィン顔真っ赤! どしたの!?」

 

 台所から食器を運びながら出てきたシズクが開口一番に驚きの声をあげた。

 

 理由は当然、リィンの顔が真っ赤な上に頭から湯気を噴いているのだ。

 普通に驚くだろう。

 

「ホントね……大丈夫? 体調悪いなら休んでてもいいけど……」

「だ、ダイジョウブデス」

 

 カクカクと頷くリィン。

 どうみても大丈夫には見えない。

 

「メーコ……」

「さ、最悪は回避したし」

 

 ジロリ、とアヤがメイを睨む。

 メイはバツが悪そうにアヤから目を逸らした。

 

「ほ、ホントに大丈夫ですから! それよりお腹空きましたしご飯食べましょう!」

「……メーコ、後で説明しなさいよ」

「ういっす」

 

 不服そうにしながら、シズクとアヤは皿を並べていく。

 野菜を中心とした、女性に優しいメニューだ。

 

 しかし、些か量が少ない。

 

「あれ? これだけ?」

「これは前菜よ、ルインちゃんが残りは自分がやるからいいってさ」

「『折角チームメンバー同士の交流を深める場だから、そっちを優先してください』ってね、良いサポパだねぇ」

「ルイン……」

 

 その優しさを少しでもいいから私に分けてください。

 なんて考えながら、リィンはシズクから食器を受け取り、それを並べていく。

 

 アヤもシズクも東の方出身だからなのか、和食中心だ。

 

 いただきます、と皆で合掌。

 

 【コートハイム】初のパーティが始まるのであった。

 




リィンは設定上16歳です。
16の巨乳美少女が無知……自案発生待った無しですね!
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