AKABAKO   作:万年レート1000

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再誕の日⑯

 前述した通り、戦闘に関する演算においてシズクの右に出る者は存在しない。

 

 度重ねた戦闘回数から来る経験と、記憶している限りの『全知』。

 そして普通の人間にはあり得ないレベルの演算能力を持ちうるシズクの演算に、【敗者(ルーサー)】が劣ることは自明の理だった。

 

 ――でも。

 それでも尚、演算勝負で優勢に立っていたのは【敗者】。

 

 その理由は、たった一つ。

 

 シズクは演算した結果を四人へ伝達しなければいけないが――ファルス・アンゲルにはそれが無い。

 ロスタイムなしで、演算結果を反映することが出来る。

 

 その差は、あまりにも大きい。

 

 演算結果はシズクの方が正確で早くとも、伝達の差によってわずかに【敗者】が上回っているのだ。

 

 さらに。

 

「こ、の……!」

「試算完了、プレゼントだ」

 

 上空から、氷の槍が何本も降り注ぐ。

 こういった全体攻撃の場合、シズクが指示を出す隙も無い。

 

 ルーサーは演算によって命中するルートを正確に導き出すことが出来るが、シズクは例えそれが出来ても四人に伝えている暇が無い。

 というか例え一人でも無理だろう。高速で多数迫ってくる攻撃の軌道を一個一個解説とかしていられない。

 

 指示の限界というやつだ。

 ジリジリと四人のHPが削られていき、このままでは負けるのも時間の問題……。

 

「……いやだ」

 

 負けたくない、とシズクは呟く。

 

(目の前にいるコイツは、何だ?)

(母親の仇だろうが)

 

 自分自身を鼓舞しつつ、考える。

 考えて考えて考えて、考える。

 

 脳みそが焼け付こうが、構わない。

 今だけでも、限界を越えた演算を――。

 

 

 

『――落ち着け』

 

 声がした。

 脳に直接響くような、いや。

 

 体内の『海』に直接響くような声だ。

 

「……誰?」

『フォトナーさ、シオンの娘』

『シオンの海に同化することを選んだ、彼女の友だよ』

 

 かつてフォトナーは。

 滅ぶ際、一部のフォトナーは死を選ばずヒトの形を捨ててシオンの海と同化したものがいる。

 

 その彼らが、話しかけているのだろう。

 

 友の娘であり、全知の海をその身に宿すシズクにだけ聞こえる声で。

 

「……何の用? 今、忙しいんだけど……」

『君を助けに来た』

『シオンの娘となれば、我らの娘も同然』

『あのバカを、私たちに代わってこらしめてくれない?』

「……!」

 

 気付けば、結構な数のフォトナーにシズクは囲まれていた。

 

 シオンが殺されて、それでも尚マザーシップを循環する『海』から、次々と彼らが集まってくる。

 

『このマザーシップは、シオンが僕らに作らせた移動用の外装』

『しかしてただの移動用の外装にあらず。シオンはマザーシップに自身の海を循環させて、演算の補助をしていたんだ』

「……! それってもしかして……!」

『理解が早いね、流石だ。そう……シオンの娘である君は――君ならば、その演算補助機能を使うことができる』

 

 『海』はまだ残っている。

 シオンの核は死んでも、演算機能はまだ生きている――!

 

『さあまずはこのマザーシップの管制を取り戻せ。なあに、ルーサーの野郎はもう既に管制を手放している』

『シオンが同化したときに、シオンがぽいって隠しちゃったからね。でも君なら探し出せるさ』

『何せ君は、元々はシオンと同じ存在だったんだから』

 

 君はシオンによく似ている。

 だから大丈夫だよ、と。

 

 フォトナーたちが、微笑んだ気がした。

 

「…………」

 

 シズクはそっと、地面に手を触れた。

 

 感じる。

 マザーシップに循環する、自身の内側にある海と同一の存在を、確かに感じる。

 

 

「……――接続(コネクト)

 

 

 全知の海、接続。

 ……管制、掌握。

 

 今、この瞬間。

 マザーシップは、シズクを核として蘇った――!

 

「管理者、シズクに変更。管制、多重ロック」

「……? さっきから、何をしているシオンの娘」

「…………お前を倒すための準備をしているんだよ、【敗者】」

「…………」

「そしてそれが今終わった。……あたしたちの、勝ちだ」

 

 首を傾げる、【敗者】。

 もう『リン』たち四人は満身創痍。

 

 体力も、気力も、フォトンも、殆ど残っていない状態だ。

 

 大勢は決した。

 そう言っておいて最後にシオンに足元を掬われたというのに、【敗者】は嗤う。

 

「勝ち? ふはは! この状況下でよくそんなことが言えたものだな」

「…………管制、操作。重力――増加」

 

 跪け、と。

 シズクは、【敗者】の周囲のみ重力を最大まで引き上げた――!

 

「なっ……!?」

 

 空中に浮いていたアンゲルも、流石にこの重力増加には耐え切れず地に墜ちる。

 

 『リン』たちを押さえ込んでいた重力よりも、さらに強い。

 最大出力の、重力増加だ。

 

「このっ……!」

「そうだよね、当然テレポートするよね」

 

 シズクは、再び管制を書き換えテレポート先の周囲を超重力で覆った。

 

 先読み。

 戦闘中の演算による未来予測に関して、シズクの右に出るものはいない――。

 

「ぐっ……! この、この程度の重力で、僕が……! くそっ……!」

「管制、操作。マザーシップ内のフォトン、収束」

 

 それは後に、シャオが『A.R.K.S.支援システム』と名付けて実用化するマザーシップを用いた最強クラスの支援システム。

 

 マザーシップから、アークスへフォトンの供給を行うという、荒業。

 ルーサーがマザーシップの管制を握っていた時には出来なかったシステムである。

 

 シズクは、マザーシップ内に残ったフォトンを全て束ね、四つに分け、そして。

 

 当然のように、『リン』、マトイ、ゼノ、クーナの四人に与えた。

 

「っ、これは……」

「凄い……何これ、力が沸いてくる……!」

 

 杖を地面に着き、何とか立っているだけだった状態の『リン』とマトイがすっと姿勢を上げる。

 

「すげぇ……これならいけるぜ……!」

「これが……シズクの力……」

 

 膝をつき、息も絶え絶えだったゼノとクーナもまた、立ち上がる。

 その目には活力が宿り、フォトンの大量供給によって身体は淡く光り輝いていた。

 

「お、おい……! 何だそれは!? 反則じゃあないか! くそっ、このっ……!」

 

 アンゲルが、地面に爪を立て必至に立ち上がろうとするが、動けない。

 六枚の羽根が羽ばたこうと抵抗するも、最大まで引き上げられた重力の前ではぴくりと動くだけだった。

 

「くそっ! くそっ! くそっ! くそっ! アークス風情が……!

 アークス風情が、抵抗をするなぁあああああああああああああああああああ!」

「なっ……!?」

 

 アンゲルから、強烈な吸引効果のある波動が放たれた。

 『リン』も、マトイも、ゼノも、クーナも――シズクも。

 

 等しく、吸い込まれていく!

 

「――管制、操作」

 

 吸い込まれていく最中。

 シズクは手を突き出して、くいっと指を上に曲げた。

 

 そして、呟く。

 

「重力方向、反転」

「っ――!」

 

 一瞬にして、アンゲルの姿が消えた。

 重力反転。アンゲルの身体は、遥か上空の天井に今頃張り付いているだろう。

 

 これなら吸引効果は、範囲外。

 

「皆、【敗者】の動きは止めるから、後はよろしくお願いします」

 

 丁度、吸引の余波で皆がアンゲルの居た場所に集まっていたため、通信ではなく肉声でそう言って。

 

 シズクはその手を上へ掲げた。

 四人が頷いて武器を構える。

 

 準備万端。

 

 シズクはゆっくりとその手を降ろして……何も無い、ある一点を指差した。

 

「管制、操作」

「――『ビッグクランチプロジェ「重力増加」』……なっ!」

 

 その指差した一点にアンゲルは現れ、それと同時にシズクはその場の重力を最大まで増加させる。

 

 マザーシップに流れる海を掌握した今。

 演算能力という一点で、シズクに勝てる者は存在しない。

 

 【敗者】の行動など、最早シズクにとって丸裸同然だった。

 

「僕の解が……! 悉く読まれている……!? 流石はシオンの娘と言ったところか……だが!」

 

 ひれ伏すアンゲルにとどめを刺そうと動き出す四人に向けて、炎や風、氷等のテクニックに似た攻撃が放たれる。

 

 身体は動けずとも、【敗者】には攻撃手段がある。

 【巨躯(エルダー)】とかの近接格闘タイプなら兎も角、【敗者】はどちらかというと遠距離魔法タイプなのだ。

 

 でも、ただの固定砲台と化した法撃使いを恐れるものなど、この場には存在しない。

 

 ましてやマザーシップのバックアップを受け、強化されているアークス屈指の四人相手に重力で動きが制限され、しかもシズクに動きを完璧に把握されている以上――大勢は決している。

 

「シンフォニック――」

 

 弾幕を掻い潜り、クーナが飛び蹴りを繰り出した。

 

 クーナの足が重力強化範囲に入る瞬間――強化解除。

 ついでに、重力を六分の一程度まで落とした。

 

「ドライブ!」

「ぐがっ!?」

 

 吹き飛ぶアンゲル。

 その吹き飛んでいくラインに合わせて、重力改変。

 

「管制操作、重力方向変更」

「ぬっ……!?」

 

 重力の方向を横に向ける。

 すると、まるでゴム紐の付いたボールのように、アンゲルが元の場所に戻ってきた。

 

 それに合わせて、今度はゼノが追撃をかける。

 

「レーゲンシュラーク! ぅ、お、お……!?」

 

 銃剣を前に突きつけて突進するゼノを後押しするように、重力操作。

 

 加速したゼノと、横向きに落ちるアンゲルが衝突する寸前に、シズクは『リン』とマトイの丁度中間の重力を強化した。

 

「『リン』さん、マトイ、お互いに向けて攻撃をお願い」

「え?」

「わ、分かった!」

 

 ゼノの銃剣が、わずかにアンゲルの身体に触れた瞬間。

 アンゲルがテレポートで、それを回避した。

 

 そしてその瞬間『リン』とマトイがそれぞれ放った炎と闇のテクニックが、直撃。

 

 黒翼が二枚、消し飛んだ。

 しかもまた、間髪いれずに超重力に押し潰される。

 

「式にゴミが……! おのれ……! おのれシオンの娘……!」

「ブラッディサラバンド!」

 

 クーナのツインダガーから放たれた衝撃波が、アンゲルの身体を切り刻む。

 

「エイミング……ショット!」

 

 ゼノの銃剣から、フォトンの弾丸が放たれて、アンゲルのコアを打ち抜く。

 

「ギ・メギド!」

 

 マトイのロッドから、凝縮された闇の帯がアンゲルの翼を打ち抜き、壊していく。

 

 そして。

 

「これで最後だ、【敗者】! イル・フォイエ!」

 

 『リン』の放った、特大の隕石が。

 ファルス・アンゲルへの、とどめの一撃となった。

 

「違う……」

 

 崩れていく。

 ファルス・アンゲルの、身体が闇に溶けていく。

 

「これは、僕の望んだ解ではない……」

 

 ファルス・アンゲルの身体は消失し、元の人型に、【敗者】は戻った。

 

 演算勝負。

 シズクの勝ち。




おそらく全エピソード中最強形態のシズクさんの必殺技:エグいハメ殺し
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