ヴォル・ドラゴンは最初苦戦したなぁ、と実装当初のことを思い出しました。
地獄の王、ヴォル・ドラゴンは知っていた。
アークスという存在の、異常なる成長速度を知っていた。
だからこそ、彼は新米らしきアークスを取り逃がしたことを後悔したのだ。
数か月あれば、アークスは見間違えるほど強くなる。
それこそ、下手をすれば自身を倒せる程度には強くなるだろう。
だが――。
「ぐぎゃぁあああああああああああああああ!」
吼える。
狂ったように、吼え、暴れ、喰らい、憎み、また吼える。
最早その瞳に理性など見られない。
あるのはただ狂気のみ。
シズクとリィンを撃退した、かのヴォル・ドラゴン。
地獄の王とまで呼ばれた火山洞窟の主の頭部で、赤黒く輝く肉の芽らしき核が鈍く輝いていた。
*****
アークスが強くなる方法というのは大きく分けて五つある。
まず、レベル上げ。
エネミーを倒した時に体内に蓄積されるEXPと呼ばれる特殊なフォトンが一定量溜まると、アークスの能力が数段階上がる。
この現象が、RPGのレベル上げみたいだから皆レベル上げと呼んでいるのだ。
二つ目、装備の強化。
ドゥドゥとの熾烈な戦いに挑むことで、武器防具の強化ができる。
最大強化した装備は、無強化の装備と比べて倍は強くなると言われているので、これが最もアークスとしての力量を手っ取り早く高める方法と言えよう(勿論ドゥドゥに勝てればの話だが)。
また、『クラフト』と呼ばれる手段もあるが、これはまた今度語ろう。
三つ目、スキル振り。
アークスにはスキルと呼ばれる特殊能力が眠っており、『クラスカウンター』と呼ばれる場所で掛けられているリミッターを外すことができるのだ。
一般的に、一つレベルが上がれば一つスキルを取得できると言われていて、もし無理をしてレベルが足りないのにスキルを解除すると肉体が爆発四散して死ぬらしい。
四つ目、フォトンアーツの習得。
単純に新しい技が増えるのは強化のうえ、PAディスクにはレベルが設定されているので既に習得しているフォトンアーツでもレベルが上がれば威力が上がるなどの恩恵があるのだ。
五つ目、マグの育成。
『マグ』、と呼ばれる小型のアークス支援デバイスがアークスには一人一つ以上支給されている。
マグには様々な支援システムが備わっているのだ。
『直接的フォトン補填システム』を始め、『瞬間的補助システム』や『回復道具生成システム』。
マグを育てれば育てるだけ、アークス自身が強化される画期的なシステムなのである。
「準備……完了、かな」
「そうだね」
市街地緊急で、レベルは上げた。
ドゥドゥとの戦いを(リィンは)制し、武器を強化した。
先輩からのお下がりだが防具も強化した。
レベルが上がったことでスキルを解除した。
先輩が余ったPAディスクを譲ってくれた。
マグも育成を進め多少強化された。
準備は完了だ。
そう、ヴォル・ドラゴンにリベンジするための。
「ふぉっふぉっふぉ、モニターしてるから頑張りたまえよ若人よ」
「何キャラよ……ま、私たちが出張ったら簡単に勝てちゃうからね」
頑張ってね、とアヤは手を振った。
先輩二人に見送られながら、シズクとリィンはキャンプシップに乗り込む。
行先は勿論火山洞窟だ。
「うばー……しかし先輩らにはお世話になってばっかだね」
「ホントね、先輩から後輩へお下がりを渡すこと自体は、チームでは良くある話らしいけど……」
それでも、いつか恩返ししなきゃね。
と、話しながら待機すること数分。
火山洞窟に到着した二人は、意気揚々とキャンプシップから降り立った。
と、そこで途端に通信機が鳴り響いた。
「ん? あれ、通信だ」
「私にも」
耳に手を当て、通話モードをオンにする二人。
聞こえてきたのは、凛とした大和撫子のような声。
『もしもし、二人とも聞こえてる?』
「アヤさん? 一体どうしたんですか?」
『二人にはまだ話していなかったけど、実は私オペレーターの資格も持っているのよ』
「「はぁっ!?」」
二人は声を重ねて驚いた。
前にも言ったが、オペレーターという職業はハードルが非常に高く、絶対数の少ない花型職業だ。
それをアークスとの兼業で取得するなどハッキリ言って正気の沙汰ではない。
『まあ今までメーコと二人きりだったから実践経験は殆ど無いのよね、だから今回直接の手伝いはしないけどこういう形で参加させてもらっていいかしら?』
「うばー! 勿論ですよ! ありがたいです!」
「アークスとしても強いのにオペレーターもできるなんて……むむむ、凄いですね」
『最初はオペレーターだけの予定だったんだけどね、メーコが一人じゃ寂しいって言うから頑張って……ちょ、こらメーコ、邪魔しないの。何? 余計なこと喋るな? いーじゃない別にこれくらい』
「仲睦まじいわねぇ、ホント」
「幼馴染なんだっけ? 先輩ら」
「そうらしいわね」
昔からずっと一緒にいるんだから、そりゃ仲良くなるわよねぇと呟いて、リィンはふと考える。
もしシズクが幼馴染だったら、どうなっていたんだろう、と。
『じゃあ張りきっていきましょうか』
「うばー、オペレート頼みますよ先輩……あれ? リィンどうしたのぼーっとしちゃって」
「……はっ!? い、いや何でも無いのよ」
頭を振って気持ちを立て直す。
戦場で妄想にふけるのは流石に拙い。
「さ、さあ進みましょうシズク。いつまでもこんな浅いところにいてもヴォルドラには会えないわ」
「? そうだねっ、アイツは奥地に居ることが多いから……兎に角進もう」
『……二人ともちょっと待って』
歩みを進むようとした矢先、アヤからストップがかかった。
「どうしたんですか?」
『おかしい……前方に巨大な敵勢反応を確認、二人とも下がって』
「っ!?」
次の瞬間、地面が割れた。
溶岩とマグマで構成された黒い地面を豆腐のように容易く開いて、そいつは姿を表した。
地獄を這う王者。
ヴォル・ドラゴンだ。
『な、なんでこんな浅いところに!?』
「ごっぎゃぁあああああああ!」
王者が吼える。
理性を失った瞳で、狂気のままに吼える。
「……侵食核が付いてるね」
「うん、とっても辛そう」
侵食核。
それはダーカーに侵食された証。
ダーカーの恐ろしいところは、圧倒的な物量もそうだが、それよりも他生物を侵食する性質にある。
ダーカーは倒されると、ダーカー因子と呼ばれる粒子を散布するのだ。
ダーカー因子を体内に取り込みすぎた者は、このヴォル・ドラゴンのように理性を失い、ただ破壊衝動のままに暴れるダーカーの尖兵にされてしまう。
そんなダーカー因子にも弱点はある。フォトンだ。
フォトンを使って倒せばダーカー因子は散布されないし、微量のダーカー因子程度なら浄化することもできる。
だからダーカーを倒せるのは……いや、倒していいのはフォトンの扱えるアークスだけなのだ。
「突然のお出ましには驚いたけど……」
「そもそもあたしたちはお前を倒しに来たんだよね、ヴォル・ドラゴン」
奥地に行く手間が省けてよかったわ、とリィンはソードを構える。
シズクも数歩下がり、リィンが前衛、シズクが後衛といういつものフォーメーションを作り上げた。
モニターの向こうで、アヤはにやりと笑う。
やはりこの子らは逸材だ。突然のヴォル・ドラゴン来襲にも左程焦らず対応し、何よりも覚悟ができている。
『侵食核が付いたエネミーは体力、攻撃力が大幅に上昇しているから注意よ二人とも!』
「らじゃー!」
「了解! ……行くわよ新スキル……! 『ガードスタンス』!」
リィンがスキル名を宣言した瞬間、蒼い光に包まれた。
ガードスタンス。
その効果は攻撃に使用するフォトンを防御に回すことによって、多少攻撃力は下がるが防御力が飛躍的に上がるというものだ。
最前線に出てパーティの盾役を担うリィンにはうってつけのスキルと言えるだろう。
「はぁああああああ!」
咆哮をあげながら、正面から斬りかかる。
角が弱点なのは把握済みだ、先輩らから教えて貰った。
「よし、ダメージ通った!」
「うぐるぅうるあああああああああ!」
前は感じなかった手ごたえを感じた。
武器を強化した甲斐はあったようだ。
しかし、正面から斬りかかるという行為はリスクのある行為だ。
当然だがエネミーの攻撃は正面から正面への攻撃が多い、特にヴォル・ドラゴンは口からの火炎ブレスや噛みつき、角を用いた突き上げ等の強烈な攻撃を正面から行ってくるので普通は正面には立たないように立ち回る必要がある。
「[シネ!]」
自身の身長よりでかいヴォル・ドラゴンの顔が、がばりと開いた。
体内の火炎を練り上げ、ブレスとして吐き出す。
火炎ブレスだ、高威力だが直線的で比較的避けやすい攻撃だが、至近距離で放たれたそれは到底避けられるものではない。
「ジャストガード!」
避けられないなら、受ければ良い。
リィンはフォトンの盾は瞬間的に生成し、炎を防いだ。
「ぐるぅらああああああ!」
「やぁあああああ!」
剣を振るい、ヴォル・ドラゴンの顔に、角に傷を付けていく。
勿論ヴォル・ドラゴンも黙って斬られるわけはなく、牙を、爪を、角を火炎を振るいリィンを滅そうと吼える。
「――エイミングショット」
剣撃と爪撃の狭間を縫って、シズクは光の弾を放った。
狙いはヴォル・ドラゴンの弱点である頭の角。
エイミングショットは単発高火力のフォトンアーツ。
狙いを正確に定めなければならず、チャージも必要なフォトンアーツだが弱点を衝いた時の火力は相当なものである。
「ぐるるる……!」
「おっと、シズクの方には行かせないわよ? 『ウォークライ』!」
リィンが赤い光を発した。
ハンタースキル・ウォークライは周囲のエネミーの注意を自分に向けるスキルだ。
当然のことだがエネミーはより自分の脅威となる存在を先に排除しようとする。
ヴォル・ドラゴンの巨体で一直線にシズクに突進でもされたら流石のリィンも止めようがないので、こういった注意を集めるスキルもまた盾役として必須といえるだろう。
『二人とも、イイ感じよ、このまま攻撃を続けて』
「言われなくとも!」
「そのつもりでっす!」
至近距離で正面からリィンがヴォル・ドラゴンと殴り合い、
遠距離からシズクが弱点を正確に狙って射撃する。
ここまでは、理想の形で戦えている。
だがしかし、相手は地獄の王、ヴォル・ドラゴン。
正気を失っていても、その強さは健在だ。
「……む!?」
ヴォル・ドラゴンは身体を180度旋回し、尻尾による攻撃を仕掛けてきた。
突然の新たな行動パターンに驚きつつもリィンはジャストガードでそれをイナした。
「[コロス!]」
リィンに背を向けたまま、ヴォル・ドラゴンは両手を交互に地面に叩きつけた。
「一体何を……」
『リィン! 下に気を付けて! シズクも!』
「下?」
足元を見る。
じわり、と何かが広がるように足元の地面が真っ赤に染まっていき――。
マグマが爆発するように火柱をあげた。
「ぐぁ――!?」
噴出したマグマがリィンの身体を空中に押し上げる。
超高温のマグマを一身に受ければ、いくらアークスといえどノーダメージでは済まない。
以前のリィンならば、瀕死に追い込まれてもおかしくはなかっただろう。
だが、強化された今ならば――。
「リィン! 大丈夫!? ……っと! あぶなっ」
一拍遅れてシズクの足元にもマグマが噴出したが、危なげなく回避した。
遠距離から攻撃していた分、回避もしやすいのだろう。
リィンの見た目華奢な身体が、地面に叩きつけられた。
が、即座に両手を地面につけて縦に回転しながら態勢を立て直し、着陸。
『ジャストリバーサル』という態勢を立て直すスキルだ。
「げほ……大丈夫よシズク、心配しないで。……しかし驚いたわね、マグマまで操るなんて」
アイテムパックからモノメイトを取り出して、それを飲む。
モノメイトは
だがそれだけで、リィンのバイタルはほぼ全快へと回復した。
ガードスタンスと新しい防具恐るべし、とリィンは笑みを浮かべた。
『リィンちゃん、後ろ気を付けてね』
「後ろ?」
アヤに言われて、背後を振り返る。
そこにはマグマの溜まり場があった。
火山洞窟にはちらほらとこういったマグマの溜まり場が存在するのだ。
フォトンを纏ったアークスにとって凄い熱いお風呂くらいの温度にしか感じないが、それはつまり軽度の火傷くらいならあり得るということである。
「危ないわね……あと数cm吹き飛ばされてたらマグマにダイナミックダイブするところだったわ……」
『リィンちゃん! 前!』
「……分かっています!」
即座に前方に向き直り、ソードを盾のように構えるリィン。
そのコンマ数秒後にヴォル・ドラゴンの突進攻撃がリィンのソードに衝突した。
ジャストガードは失敗……だが剣で受けとめることは出来たのでダメージは大分軽減できた。
「ぐ、う……」
しかし、体重差による力負けは如何ともし辛い。
数秒粘ったもののリィンは吹き飛ばされ、結局マグマにダイナミックダイブすることになってしまった。
「あっつい! あっついわマグマ!」
あまりの熱さにピョンピョン跳ねながらリィンはマグマの溜まり場からの脱出を試みる。
今追撃を受けたらやばいかもしれない、とリィンは横目でちらりとヴォル・ドラゴンの様子を窺った。
視界の先に、ヴォル・ドラゴンの姿は無かった。
「……あれ?」
『リィン、ヴォル・ドラゴンはマグマの中に潜ったわ……こうなる前に決着をつけたかったけど仕方ないわね』
「?」
『ここからが本番よ』
ずしん、と地鳴りが響いた。
噴き出すマグマと共に、地面の一部が盛り上がる。
ヴォル・ドラゴンは、ゆっくりとその亀裂から這い出てきた。
だがしかし、その姿はリィンとシズクが知る姿ではなかった。
全身に、黄金の鎧を身に纏っているような姿と言うべきだろう。
弱点である筈の角すら覆う輝く鎧を見て、二人は気を引き締め直した。
アヤの言う通り、戦いはここからが本番である。
Q.ガードスタンスってマグマ噴出攻撃には関係なくない?
A. ああ!
ただリィンが効果あると勘違いしているだけです。
初心者によくある勘違いです。