AKABAKO   作:万年レート1000

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だいっきらい

「しかし分からないねぇ……」

 

 ショップエリアの一角にあるカフェ。

 一般人からアークスまで幅広く顧客を取るその店で、一人の女性が資料片手に呟いた。

 

 名をアザナミ。

 知る人ぞ知るブレイバーの創始者である。

 

「何がですか? アザナミさん」

 

 同じく、カフェの対面席でココアを飲みながら何かの資料を読み更けていたミドルヘアのデューマン、イオがアザナミに向かってあどけない表情で訊ねた。

 

 アザナミの持つ資料に書かれているのは、ブレイバーを体験してくれているアークスの名簿である。

 当然ブレイバー広告係であるアザナミが作成したものなので、分からないことなど無いと思うのだが……。

 

「ああいや、リィンちゃんの姉のことだよ。どーもコンプレックスというか、毛嫌いしているみたいだったじゃない?」

「んー? そう、ですね。どちらかといえば、『優秀な姉と比べられて育ったから、姉を恨んでるわ』じゃなくて、『姉? いや私に姉なんてイナイヨ(強調)』みたいな感じでしたね」

「そ、そうだね」

 

 イオは友達少ない割に他人の機微に敏感だなぁ、という言葉をアザナミは口に出さないように気を付けながら頷く。

 むしろ、他人の機微に敏感だから友達が少ないのだろうか。

 

「で、それがどうかしたんですか?」

「いや、それから気になってリィンちゃんの姉……ライトフロウ・アークライトさんについて調べてみたんだけど……」

「何か後ろ暗い噂でもありました?」

「いや……それが、全くないのよ」

 

 アザナミが資料をイオにも展開した。

 画面に映し出されたのは、ライトフロウ・アークライトの活動履歴。

 

「清廉潔白、品行補正、成績優秀八方美人、眉目秀麗……綺麗な四字熟語を挙げればどれもこれも当てはまる天才美女ってわけだね。……正直、リィンちゃんがあれほどまでに嫌っている理由が嫉妬以外に思いつかないレベル」

「でも、リィンの態度からはそう見えない……ふぅん」

 

 ま、家族にしか知られてない秘密とかもあるかもだけどさぁ、と、そう纏めてアザナミはコーヒーを口に含んだ。

 

「……ああ、そういえばおれこの前ライトフロウさんに話しかけられたよ」

「へぇ? 何か言われたのかい?」

「ええっと……確か、リィンの」

 

 リィンのマイルーム番号知らないですか? アナタ同期ですよね? って。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

「や、助かりましたわ」

 

 レアエネミー四体が消え、再出現が無いことも確認後、メイがそう切り出した。

 

 目線の先にはライトフロウ・アークライト。リーダー同士の対話ということである。

 

「冗談抜きで、死ぬとこだった」

「いえいえ、アークス同士は助け合うものですから」

 

 そう言って、微笑む。

 優しげな顔に良く似合う、柔和な表情に思わずメイの頬が微かに赤くなる。

 

「……ところで、ライトフロウ……『アークライト』ってことは……」

「はい、そこのリィン・アークライトの姉です」

 

 そこの、とライトフロウはアヤの背後に隠れながら姉の様子を伺っているリィンに目線を移す。

 リィンは、その目線から逃れるようにアヤの背中に完全に隠れた。

 

「やっぱり! 髪色もそうだけど、顔つきがなんとなく似ているよね。リィンも大きくなったらこんな美女になるのかね」

「ふふふ、美女なんていやそんな……まあ、その妹はなんだか隠れてしまってますが」

「ん? あれ、ホントだ。おーいリィン、どしたの?」

 

「リィン?」

 

 アヤが手で押して、前に出そうとしても抵抗して出てこない。

 なんというか、その表情は何処か怯えているようにも見える。

 

「リィン、どうしたの? 久しぶりじゃない」

「っ」

 

 姉が声をかけると、リィンの身体がびくりと震えた。

 明らかに尋常な様子じゃあない。

 

「もーどうして今まで連絡くれなかったの? アークスになったらお姉ちゃんに連絡するようあれほど――」

「わ、私は……」

 

 ようやく、リィンは口を開いた。

 絞り出すような声で、視線すら合わせずに。

 

「アナタを、姉だなんて思っちゃいない……」

「え、……え?」

「助けてくれたことには、礼を言うけど……うぅ……」

 

 気持ち悪そうに、リィンは口を手で抑えた。

 今にも吐きそうで、今にも泣きそうだ。

 

「……すいません先輩ら、ちょっと、体調悪いので帰ります……」

「え、あえ、ちょっとリィン! 待ちなさい! どういうことなの!? 暫く会わない間に、一体何が!?」

「……オネエチャンなんか――

 

 

 ――だいっきらい」

 

 

 間違えても追ってこないでよね、と言い残し、リィンはシズクの落としたテレパイプを拾い上げて使用した。

 

 リィンの姿が、消える。

 後に残された人たちの表情は、困惑ばかり。

 

 【コートハイム】の二人は、リィンの見たことも無い姿に困惑し、

 【大日霊貴】のメンバーは、散々聞かされてきたリーダーの妹像が、想像と遥かに違うことに。

 

 リーダーからの話では、姉に何時もベタベタと甘えてきた可愛い妹だと聞いていたのに。

 

「あ、あの、リーダー……元気出して」

「蛇蝎の如く嫌われてましたねぇ」

「ちょっとホーニィ! もうちょっとオブラートに包んであげて!」

「…………」

「リーダー」

 

 呆けるリーダーの肩に、メンバー最年長であるヒノが手を置く。

 

「親離れ……姉離れは、誰にだって来るものだ。意味も無く、反抗したくなる時がな」

「そうですよリーダー、こういうときは黙って見守るのが大人の務め、むしろ成長を喜ぶべきでしょう」

「…………」

「リーダー?」

 

 突っ立ったまま、微動だにしないリーダーを見つめるメンバーたち。

 数秒して、ポニテキャストのホーニィがライトフロウの胸に耳を傾けた。

 

「……! う、嘘……心音が……」

「え!?」

「聞こえる」

「紛らわしいわ!」

 

 スパァン! とアズサの鋭いツッコミがホーニィを襲った。

 

「…………」

 

 が、ライトフロウの様子は変わらない。

 魂の抜けたように、リィンが消えた箇所を見つめるばかりである。

 

「……これは重症じゃな……」

「私らの漫才に反応無しなんて……」

 

 どうしたものか、と考える【大日霊貴】のメンバー三人。

 困ったことに、現在緊急クエストの真っ最中なのだ。

 

「どうしたのかねぇ、リィンのやつ」

「リィンも心配だけど、私たちにはもう一人心配しなくちゃいけない子がいるわよ」

「え? ああ……」

「シズク、大丈夫かしら」

 

 通信機に耳を当てながら、アヤは心配そうに言う。

 

 戦闘序盤にログベルトに投げ飛ばされたシズクは、今、一体どうしているだろうか。

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

「うばぁああああああああああああああああああああああああ!」

 

 時は少し遡る。

 

 原生生物が闊歩する緑豊かな惑星、ナベリウス。

 

 その上空。

 

 赤髪の幼さが残る女の子――つまるところシズクが奇声をあげながら空を飛んでいた。

 

 むしろ、ぶっ飛んでいた。

 

「死ぬ! 死ぬ! 普通に死んじゃう! ログベルトめぇえええええええええええ!」

 

 アークスというのは基本的に頑丈であるが、その個人差は激しい。

 例えばライトフロウ・アークライト並のアークスともなれば、上空一万メートルから落ちたとしても「痛い」の一言で済むだろう。

 

 しかしシズクは未熟だ。

 未熟な上に、耐久が高いとも言えないクラスのレンジャー。

 

 地面に着弾するまで残り数秒――数秒後、シズクの命もそこで終わってしまうだろう。

 

「……うば! そうだ着地の瞬間にムーンアトマイザーを投げとけば……!」

 

 案を思いつき、シズクはアイテムパックを漁る。

 

 瀕死からも即座に復活できるムーンアトマイザーを投げておけば、一度致命傷を負うものの死ぬことは無いだろう。

 

 この作戦の欠点は二つ。

 一つは投げるタイミングを間違えたら終わりだということ。

 一つは成功しても瀕死の重傷を負うという『痛み』を喰らうこと。

 

 死ぬほどの痛みは、死ぬほど辛いだろう。

 

「でも、死ぬよりはマシだぁああああああああああ!」

 

 ムーンアトマイザーの蓋を開け、投げる。

 

 その数瞬後、シズクは地面に衝突した。

 

 軽い地響きと、大量の土煙りが巻きあがる。

 一拍遅れてムーンアトマイザーによる金色の光が辺りを包みこむ。

 

 果たしてシズクは、むくりと起き上がった。

 

「……うばー、全身がバラバラに砕け散った瞬間に即座に回復する感触…………何ともいえぬ」

 

 顔を青くしながら、自身が作ったクレーターから這い出るように姿を表すシズク。

 外傷はほぼ無い、ムーンアトマイザーの回復は無事働いてくれたようだ。

 

「でも……ちょっとコスチュームの損傷が酷いや、大事な部分が隠れているのが不幸中の幸いか……」

 

 シズクの普段身に纏っている戦闘服、『ガードウィング』はかなり損傷してしまっていた。

 袖は破れ、装甲は剥がれ、正直女子として大事な部分が漏れていないことが奇跡な程の損傷率だ。

 

「これは買い替えかなぁ……」

 

 これ以上コスチュームが損傷しないように注意して動きながら、辺りを見渡す。

 

 見たことが無い、エリアだった。

 

 不思議、としか表現のしようがない色の塔。

 用途不明の壊れた人工物。森林エリアとは毛色の違う硬質な植物。

 

「ええっと……森林エリアではない……当然凍土エリアでもない……と、なると……遺跡エリア?」

 

 惑星ナベリウス・遺跡エリア。

 ナベリウスの最奥地に存在する遺跡らしき建造物が立ち並ぶ危険地帯。

 

 まだ、シズクには探索が許可されていないエリアである。

 

「まずいなぁ……テレパイプも落としちゃったし、とりあえず先輩らに通信して迎えに……」

 

 と、そこで思い出す。

 数分前、森林エリアで繰り広げられたレアエネミー四匹とかいう観測部しっかりしろ言いたくなるような事態を。

 

 もしもまだあの戦闘が続いているのなら、今連絡するのはまずい。

 一瞬でも気を逸らしてしまえばそれが致命傷になりかねない。

 

「……しばらく、向こうからの連絡を待つか」

 

 そう決断して、シズクは歩き出す。

 派手に落ちてきたのだ、音や砂煙を辿って原生生物やらが集まってくる可能性を考えたのだ。

 

 そしてできることなら森林エリアか、凍土エリアに行きたい。

 何故なら、遺跡エリアはシズクにとって無許可のエリア。

 

 無許可、ということが意味することはただ一つ。

 

 エネミーが、シズクの適正レベル外。

 すなわち、沸きでてくる全てのエネミーがシズクより強いのである。

 

「……げぇ」

 

 ずももも、と地面から赤黒い靄が立ち上がる。

 

 靄はやがて形を成していき、一つ目の巨人のような姿を取った。

 

 それも一匹や二匹ではなく、複数。

 

「うびゃー……大ピンチだなぁ」

 

 ブラオレットを構える。

 敵が出てくるのは、仕方が無い、予想の範囲内だ。

 

 むしろ大型エネミーが出てこなかっただけ、運が良かっただろう。

 

「さて……助けが来るまで持ちこたえられるかどうか……」

 

 引き気味に、呟く。

 別に倒す必要はない、ただ、時間を稼げればいい。

 

 ダーカーが吼える。

 口も無い癖に、高らかに。

 

 戦闘、開始である。

 そういえば一人で戦うのは久しぶりだ、なんて思った。




アザナミ「……で、ライトフロウさんにリィンの部屋番号教えたの?」
イオ「え? いや教えるも何もリィンの部屋番号なんて知らないですよ?」
アザナミ「え? ……。あ……(察し)」
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