AKABAKO   作:万年レート1000

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オリ設定注意。


リィンの過去

 アークライト家の歴史を語ろうとするならば、時代をアークス創設期まで遡らなければならない。

 

 何故ならば、アークライトという姓は、アークスの誕生と共に生まれたからだ。

 

 第一世代のアークスの試供品(サンプル)

 かの『レギアス』や『マリア』よりも早く彼は生まれた。

 

 『エルステス・アークライト』

 闇を払う(ライト)に、そして次世代の為の方舟(アーク)となるべく生まれた最初の一人。

 

 彼は強かった。

 『とりあえず物は試しに』で造られた存在であるにも関わらず、最強だった。

 

 彼の後に生まれたアークスたちが、暫くの間『失敗作』の烙印を押され続けるほどだった。

 彼が強すぎるだけだ、とフォトナーが気付くまで、一年掛った。

 

 ……細かい歴史を語ると長くなるため割愛するが、彼は人生のほぼ全てを戦場で過ごしたとされている。

 

 仲間を守るために剣を振り、

 未来を照らす為に剣を掲げた。

 

 二十年ほど戦い続けて、最後は二対一頭のダークファルスから仲間を守るために死亡。

 

 英雄として、墓石に名を刻むこととなった。

 

 ――そう、『アークライト家』というのは、『エルステス・アークライト』を祖先とする直流の戦闘一族。

 

 家訓は『守るために強くあれ』。

 『強くなくてはアークライトを名乗れない』、強さ至上主義。

 

 リィン・アークライトは、そんなある意味時代に合った家に生まれ落ちた。

 アークライトに相応しい才能を、問題なく持ち合わせて。

 

 

 ――――だが。

 

 六年、歳を取り、リィンは幼心ながら悟った。

 

 悟らざるを、得なかった。

 

 姉である、ライトフロウ・アークライト。

 彼女には決して勝てないことを。

 

 『歴代最強のアークライト』。

 

 ライトフロウ・アークライトが十五歳に成り、アークスに就任した一年後、彼女は既にそう称されていた。

 

 初代すら越えた、超越的な才能。

 両親の『基準』が、大きく跳ね上がったのは無理も無いだろう。

 

 尤も、リィンはリィンで並以上の才能を有していたので、極端な虐待にあったわけではないが――。

 

 それでも。

 

『流石はライトフロウ嬢の妹ね』

『お姉さんのように頑張れよ』

『妹さんも将来有望ねぇ』

『妹ちゃん、流石にライトフロウさんと比べたらあれだけど伊達にアークライトじゃないなぁ』

 

 リィンの年齢が二桁に達する頃には。

 

 リィン・アークライトは、リィン・アークライトではなく。

 『ライトフロウ・アークライトの妹』としか見られなくなっていた。

 

 

 

 

『リィン』

 

 ――――ただ一人を、除いて。

 

『周りの言うことなんて気にしなくていいわよ』

『お姉ちゃんは、アナタが頑張ってることを知っている』

『私はずっと、アナタの味方よリィン』

 

 皮肉なことに、唯一リィンを”見てくれた”のは、姉だった。

 

 リィンはデレた。

 あっさりと、陥落した。

 

 そもそもリィンは割とチョロイ方なのだ。

 一度落ちたらあとは一直線だった。

 

 姉の隣に立つ。

 すなわち、【大日霊貴】に入団することがリィンの目標になるのはそう遅くは無かった。

 

 アークスの養成施設に入り、たった一人力を磨いた。

 

 群れず、媚びず、ただひたすらに姉の背中を追い続けた。

 

『アークライトさんってさぁ、なんか暗いよね』

 

 何を言われても平気だった。

 

『ちょっと実践形式の訓練で成績が良いからって調子乗ってない?』

 

 姉のこと以外、全てがどうでもよかった。

 

 それでいいと思っていた。

 そうじゃなきゃいけないとも思っていた。

 

 そんな日々の終わりは――唐突だった。

 

 リィン・アークライト、15歳。

 すなわち現在から1年前。

 

 歪な姉妹の関係は、かくも当然のように崩れ落ちることになる。

 

 

 ――――その日は、久しぶりに姉の帰省日だった。

 

 ライトフロウ・アークライトが【大日霊貴】のチームリーダーに就任したことによって、多忙となっていたのだ。

 それ故に、姉妹が会うのは実に約一年ぶりのことだった。

 

 楽しい一日だった。

 これ以上無いくらい、充実した一日だった。

 

 姉と楽しくお喋りして、訓練に付き合ってもらって、……流石にもう一緒にお風呂に入ることは無かったが。

 

 ……そして、夜が訪れた。

 少しでも沢山話そうと、少しでも沢山一緒にいようと、リィンはいつもより手早く入浴を済ました。

 

 女子らしからぬ烏の行水を終え、リィンは廊下を歩く。

 リビングで待っている筈の姉に向かって、一直線に。

 

『――――』

『ん?』

 

 ふと、自室の前を通り過ぎる際に声がした。

 

 誰も、居ない筈なのに? とリィンは足を止める。

 

『――ぁ――ぉ』

『……?』

 

 間違いなく、リィンの自室から誰かの声が漏れていた。

 もしや、不審者が侵入したか? っとリィンは音を立てないように注意しながら扉に耳を当てた。

 

『……全くもう、リィンったらすっかり大きくなっちゃって』

『……!?』

『さて、どうしちゃおう(・・・・・・・)かしら……』

 

 声の主は、姉だった。

 

 しかも、聞こえてくる言葉は、何処か不穏な雰囲気を纏っていた。

 

 一体、何が――。

 

 静かに、音を立てないように、リィンは扉をゆっくりと少しだけ開けて隙間から室内を覗き込んだ。

 

 そこには――――――。

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「そこには、下着姿で、私のパンツを頭に被って、私の箪笥やごみ箱を漁る姉の姿があったわ」

「「「「………………」」」」

「しかも良く見たら着ている下着は私のだったわ」

 

 【大日霊貴】の、チームルーム。

 その一角にある来客用のエリアには、六人のアークスが集まっていた。

 

 【コートハイム】のメイ・コート、アヤ・サイジョウ、シズク、リィン・アークライト。

 そして、【大日霊貴】からはアズサ、ライトフロウ・アークライト。

 

 リィンの表情は、最早真顔。

 ライトフロウの表情は、おおよそ女性がしていいものではない程の、絶望顔。

 その他の面子は、揃いもそろって驚愕顔だ。

 

「その後、姉が居ない間に姉の部屋を捜索しました」

「――――っ、ちょ……! リィン! 待って! お姉ちゃんが悪かったからそれは言わないで!」

「続々と見つかりましたよ、無くしたと思ってた下着、リコーダーの先っぽ、抜け毛を束ねて作ったアクセサリ……」

「それは……!」

「極めつけに……」

 

 姉の制止を無視して、リィンは続ける。

 嫌悪感を隠さずに、姉を睨めつけながら。

 

「私の使用済み生理用品を、保管してアルバムのように綴じていたのを見た瞬間、吐き気がしました」

 

 うわぁ……っと誰かがドン引きするように呟いた。

 

 いや、誰かがではなく、この場にいる全員が呟いた言葉かもしれなかった。

 

「…………! ……っ!」

 

 ライトフロウは、何か言おうと口をパクパクさせたが、

 結局言い訳が見つからなかったのか、静かに崩れ落ちた。

 

「……じゃあ、私は帰ります。今日はちょっと――疲れたので」

 

 リィンは、座っていた来客用のソファから腰をあげた。

 

 もう二度と近寄らないで、等とは、もう言う必要すらないだろう。

 

 冷めた眼で姉を一瞥し、リィンはシズクの手を取った。

 

「シズク、ごめんね、行こう?」

「……謝らなくていいよ、アタシもリィンの過去は知りたかったし」

 

 シズクも立ち上がり、それを見て、メイとアヤもその場を立つ。

 一歩、メイがライトフロウに近づいた。

 

「メーコ」

「……分かってるよ、今この場じゃあ、何を言っても無駄だよね」

 

 ひっそりと、二人でそんな意味深な会話を交わした後、「それじゃあ、失礼します」と二人はチームルームから出ていった。

 

「ほらシズク、私たちも」

「うん……でもごめん、先に行ってて」

「?」

「すぐ追いかけるから」

 

 疑問符を浮かべるリィンに、微笑みながらシズクは言った。

 繋いでいた手を離し、少し寂しげにしながらリィンも先輩らに続くように部屋を出た。

 

 残ったのは、アズサと、ライトフロウと、シズク。

 

「…………何か用? この通り、ウチのチームリーダーは傷心だからこれ以上責めないで欲しいんだけど」

「大丈夫です、一言質問するだけなので」

 

 ソファを立ち、対面に位置する意気消沈中のライトフロウに近づいて、一言。

 

「リィンが年の割に性知識が少ないのはアナタの仕業ですか?」

「――――っ」

 

 びくり、とライトフロウの肩が揺れた。

 

 それだけで、返答としては充分だった。

 

「そうですか」

 

 それだけ言って、シズクも礼を一つした後立ち去った。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 姉が信じられなくなった。

 姉の優しさが、打算にしか見えなくなった。

 姉の微笑みが、気持ち悪いモノにしか見えなくなった。

 

 少し思考を巡らせて、自分が自分として周囲から見られなくなった原因はそもそも姉だという考えに至った。

 

 全てがマッチポンプに思えた。

 

 そしてリィンは孤独となった。

 誰からも『見られて』いない、本当の孤独。

 

 1が0になっただけ。

 ただそれだけだと思っていた。

 

 思っていないと、やってられなかった。

 

 偽りだったとしても、間違いだったとしても、

 隣に誰かが居てくれる安心感を、知ってしまっていた。

 

 歩み寄ってくる人も居た。

 それでも彼女は素直になれなかった。

 

 歩み寄ろうとした。

 もう時は既に遅かった。

 

 孤独を辛いと思いながら、それを誤魔化すために吼えることしか彼女には出来なかった。

 

 だから、必然だったのかもしれない。

 

 否――当然、なのだろう。

 

 言わずとも、察してくれて。

 素直になれなくても、察してくれる。

 

 ずっと、ずっと泣いている心を『見つけて』くれた。

 

 彼女(シズク)に恋をしたのは、至極当然のことなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 ――――その夜、全アークスに向けて、緊急の警報が届いた。

 

 内容は、『ダークファルスが接近中』。

 アークスたちの、長い夜が始まろうとしていた。

 

 




次回、ダークファルスエルダー襲来。
果たしてライトフロウ・アークライトのメンタルは大丈夫なのか。
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