AKABAKO   作:万年レート1000

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ねむみを感じながら、投稿。


【アナザースリー】

「ふむ……」

 

 ダークファルス【巨躯】の周辺宙域を飛ぶキャンプシップ内。

 いつでも【巨躯】に挑める距離を保ちつつ飛行する船に乗っているのは、四人のアークス。

 

 六芒の一、レギアス。

 六芒の二、マリア。

 六芒の三、カスラ。

 六芒の六、ヒューイ。

 

 『六芒均衡』と呼ばれる、アークスの頂点に立つ五人のうちの四人が、一同に介していた。

 

 理由は勿論。

 今現在戦っている一般アークスたちが、【巨躯】との戦いに敗れた時の保険である。

 

「意外と、戦えているじゃないか。……いや、むしろ押している」

「四十年前よりも、アークスは進歩しているってことだねぇ。喜ばしいことじゃないかい、なあレギアス」

 

 四人が見ているモニターには、最高画質で【巨躯】vsアークスの様子が映し出されている。

 

 『リン』を中心に、十二人のアークスが即席パーティであるにも関わらず見事な連携で【巨躯】の猛攻を凌ぎ、さらには反撃まで加えている。

 

 【巨躯】相手に、明らかに勝っている。

 

「回復アイテムの性能も、武器の性能も、何もかもが四十年前より桁違いですからね、ですが、それ以上に個々人の技量も想像より育っていますね」

「はっはっはー! 皆やるじゃないか! よぅし、燃えてきた! オレも出撃()るぞ!」

「駄目ですよ」

 

 椅子から勢いよく立ちあがったヒューイを、カスラが諌める。

 ヒューイは不服そうにカスラに視線を送ったが、「ヒューイ、座れ」とレギアスに言われ、渋々とそれに従った。

 

「むぅ……しかしレギアス、相手はダークファルスだぞ? こういう時こそ六芒均衡の出番ではないのか!?」

「……上層部が決めたことだ、逆らえん」

「……『アークスの秩序のため』に、か?」

「そうだ」

 

 何処か諦めているような口調で言うレギアス。

 

 ヒューイはふん、と鼻をならした。

 

「そう拗ねるなヒューイ、若者を信じるのも年長者の勤めさ」

「姐さん……いやオレはまだ若いぞ!?」

「はっはっは、そいつは失礼。アンタの顔が濃いからつい年寄り扱いしちまったよ」

「あ、姐さんそりゃないぜ……」

 

 がくり、とヒューイが大袈裟なモーションで肩を落としたその時、モニターに映るダークファルスに変化があった。

 

 ボロボロと、黒い外郭が崩れていく。

 それと同時に、現場のアークスたちから歓声が響いた。

 

「どうやら終わったようですね」

「そのようだな」

 

 【巨躯】撃退作戦、無事成功である。

 

 あくまで撃退なため、時間が経ち傷が癒えればまた襲ってくるだろうが、とりあえず当面の危機は去った。

 

「それでは、私はこれで失礼します。事後処理としてやることが、沢山ありますからね」

 

 カスラはそう言って、その場から立ち去っていった。

 

「それじゃあオレも行かせてもらうぞ! 今のこの瞬間も、困ってる誰かのフォトンを感じるからなぁ!」

「いつまでも此処に居てもしょうがないしねぇ、アタシも帰るよ」

 

 それを契機に、ヒューイとマリアも席を立つ。

 

 残されたのは、レギアス一人。

 ダークファルスも、それを撃退したアークスすらもう映っていないモニターから視線を外し、呟く。

 

「四十年前の段階で……ここまで戦力が揃っていれば『彼女』は――いや、考えても、栓無きこと……か」

 

 我ながら女々しいことだ、と自虐的に呟いた後レギアスもまたその場を立ち去った。

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 唐突にして今更だが、アークスを分類する七つのクラスと十五の武器種について説明しよう。

 

 クラス。

 つまるところ、役割である。

 

 例えばリィンのクラスは『ハンター』。

 前線でパーティを守り、盾となり剣となるのが役割である。

 

 そんなリィンの、『ハンター』の持てる武器種はソード、パルチザン、ワイヤードランスの三つに、全クラスで装備可能なガンスラッシュを加えた四つ。

 

 それ以外の武器種は基本的に装備することはできない。

 クラスを決定した時、体内のフォトンがそういう風に書き変わるからだ。

 

 こういった具合に、クラスと武器種というのは密接な関係となっている。

 

 ハンターは、前述の通りソード、パルチザン、ワイヤードランス。

 レンジャーはアサルトライフル、ランチャー。

 フォースはロッド、タリス。

 ファイターはナックル、ツインダガー、ダブルセイバー。

 ガンナーはツインマシンガン、アサルトライフル。

 テクターはウォンド、タリス。

 ブレイバーはカタナ、バレットボウ。

 

 これはもう根本(システム)的に決まっていることで、変えることはできない。

 

 だから、あくまで基本的にだが自分の装備できる武器種以外の武器を手に入れても、無駄になることが多いのだ。

 

「だから、皆自分の持てない武器はマイショップで売ったり身内に譲ったりするもんだが……」

「そんなの関係なしに、嬉しそうね」

 

 帰還中、キャンプシップ。

 シズクは上機嫌であった。

 

 ファルス・アームを倒して出現した結晶から、なんと初めてのレア武器がドロップしたのだ。

 

 レアドロコレクターを名乗りながら、これまで一度もレア武器をドロップしたことが無かったシズクにとって、これはもう何事にも代えがたい喜びと言っていいだろう。

 

「うばば~♪」

 

 『ヘキサグラフ』という、ゴツイ洗濯バサミのような形状の『ウォンド』である。

 

 そう、ウォンドなのだ。

 レンジャーであるシズクは装備できない。

 

 しかしそんなこと関係なしに、ただ純粋にレアドロを喜んでいるようだ。

 

 コレクター故の喜びと言えるだろう。

 シズクには内緒だが、リィンもメイもアヤも一人五個ずつくらい『ヘキサグラフ』はドロップしたのだ、要らなかったので拾わなかったが。

 

「うーばーばー」

「ずっとああやってアイテムパック眺めてニヤニヤしてるけど飽きないのかしら」

「上機嫌オブ上機嫌だな。今ならセクハラしても許してくれそうじゃね?」

「せくはら、て何ですか?」

「後でシズクに教えてもらいなさい」

 

 そんな感じのやり取りをしつつ(シズクは終始初めてのレアドロに夢中だったが)、待つこと十数分。

 

 一行はアークスシップへの帰還を果たした。

 見慣れたゲートエリアの景色が、妙に懐かしい。

 

「はあ、流石に今日明日は休みたいわ……」

「と言ってもまだ休めないわよ、エルダー本体戦で万が一のときに出撃できるように待機してなきゃだから」

「ウチらみたいな弱小チームが最前線に送り出しても仕方がないのにねぇ」

「おーい、シズクちゃーん」

 

 と、その時だった。

 今しがた通ってきたゲートの向こう側から、リィンたちを呼ぶ声がした。

 

 声の主は、美少年とも見間違えるほど中性的な容姿の少女。

 【アナザースリー】のマコトである。

 チームメンバーの二人も一緒に、【コートハイム】向けて手を振りながらやってきた。

 

「んあ? マコト?」

「よかった追いつけたー、渡そうと思ったのにタイミング逃しちゃって……はいこれ」

 

 マコトの手から、シズクの手に三枚のカードが渡された。

 

 【アナザースリー】メンバーのパートナーカードである。

 所謂、友達の証というやつだ。

 

「これは……」

「折角同期で縁も出来たことだし、受け取って欲しいんだ」

「うばー……そうだね、じゃああたしからも……どうぞ!」

 

 シズクもまた、三枚のパートナーカードを取り出して【アナザースリー】の三人に手渡した。

 パートナーカード交換成立である。

 

「これからよろしくね!」

「こちらこそ」

 

 握手を交わすシズクとマコト。

 

 友達が増えることはいいことだ、と後ろで親のような心境でウンウンと頷いていたメイとアヤだったが、ふと何かに気づいたように声をあげた。

 

「あれ? シズクと同期ってことはリィンもじゃね?」

「それもそうね、リィン……て、あら?」

 

 いつの間にか、リィンはメイの後ろで隠れるように身を縮めていた。

 

「何やってんのリィン」

「い、いえ、ちょっと同期生には良い思い出が無いと言うか、研修中の私は結構もう黒歴史というか……」

 

 リィンはそもそも他人とのコミュニケーションが得意な方ではない。

 それもそのはず、最近まで姉さえいればいいや精神で生きてきたのである。

 

 【コートハイム】四人で雑談しているときも、リィンは聴き手に徹したり、誰かに便乗したり、分からないことを質問したりしていることが多い。

 まるで子供が大人たちの雑談に混じろうと学習しているように。

 

 そう。

 リィンはその大人びた見た目とは裏腹に中身はもの知らぬ子供なのだ。

 

(まあ、こんな風になっちゃったのは)

(間違いなくあの姉のせいなんだろうなぁ)

 

 コートハイムは、チームメンバーと家族のような関係を築くことを目的としたチームである。

 その家長(リーダー)なのだから、しっかりと子供(メンバー)の面倒は見なくてはとメイがリィンの手を取ろうとした瞬間。

 

 シズクの手が、リィンの手を取った。

 

「わっ、し、シズク?」

「リィン、おいで! 【アナザースリー】の皆が、リィンとも友達になりたいってさ!」

 

 手を引かれ、メイの影から飛び出す。

 その様子を見ていたアヤが、それこそまるで母親のように穏やかに、メイへ話しかけた。

 

「……まるで姉妹ね」

「身体の小さい方が、姉みたいだけどな」

 

 リィンの前に、同期(アナザースリー)の三人が現れる。

 

 影が被る。

 リィンに陰口を叩いていた、同期たちの影が彼女らに。

 

 でも。

 

「……っ」

「リィン、大丈夫だよ」

 

 怯んだ瞬間、シズクの声が耳に届いた。

 手をより強く握り、大丈夫だよと、支えてくれる。

 

「だって、皆リィンと仲よくなりたいって思ってるからさ」

 

 輝くような笑顔で、シズクは言った。

 

 笑顔一つ見るだけで、勇気が沸いてくる。

 天真爛漫という言葉は、まるでシズクのためにあるのではないのかと思えるほどの笑顔。

 

「えーっと、改めましてなんだけど……」

 

 ふと気が付くと、目の前のボーイッシュな少女、マコトが片手をこちらに向けていた。

 

「【アナザースリー】リーダー、マコトです。その、良かったらなんだけど、折角縁も出来たことだしリィンさんとも友達になりたいなって……」

「えっと……うん、構わないわ」

 

 差し出された右手に、右手で返す。

 握手なんてしたの、いつぶりだったか。

 

「それと……その……」

 

 そっと、マコトの右手に左手も添える。

 両手で彼女の右手を包み込み、

 

 はにかみつつも、リィンは言う。

 

「り、リィン、でいいわ」

「「「…………!」」」

 

 それは、彼女たちにとってビックバン級の衝撃だった。

 

 リィンは欠片も憶えちゃいないが、【アナザースリー】の三人はリィンの同期であり元クラスメイトである。

 

 そう、リィンの厨二病とも言える『こじらせ』期まっただ中のリィンこそが、彼女らの知るリィンだ。

 姉以外がどうでもよく、また、姉を見限ってからも他人と相いれることなく孤高を貫いた美少女。

 

 教室の隅で難しそうな本を無表情で読んでいる姿や、難しい実習課題も淡々と余裕でこなす姿しか知らない。

 

 ましてや、はにかみながらも笑顔を見せ、恥ずかしそうに瞳を伏せるその姿は、なんか、もう。

 

 ギャップ萌えとかその辺を通りこしてギャップビックバンとでも呼ぶべき圧倒的な萌えが彼女らを襲った。

 

「…………たらし」

『ダークファルスの撃退に成功しました。アークス各員の協力に感謝します』

 

 シズクの呟きを掻き消すように、アークスシップ内にアナウンスが響き渡った。

 

 どうやら無事に【巨躯】を撃退できたようだ。

 皆が、安堵に胸をなでおろす。

 

「ふぅ、これでやっと帰って休めるわね」

 

 濃い一日だった。

 森林緊急で大ピンチに陥って、リィンの過去が判明して、ダークファルス撃退作成があって。

 

「こ、今度お疲れ会ってことで食事いきません?」

「うばー、いいねー。リィンも行くよね」

「う、うん」

「私としてはリィンを性的に食べた「言わせないよ」」

 

「おーい、リィン、シズク、ウチらは部屋戻るけどどうするー?」

 

 きゃいきゃいとはしゃぐ後輩共にメイは声をかける。

 

 結局の所、リィンたちは言われた通りに戦っただけで、【巨躯】との因縁などまるでなくて、

 ただひたすらに長い夜だったなぁと感じるだけの一日はこうして終わった。

 

 だから寧ろ、ここからが本番なのだろう。

 

 彼女たちの第一章は、ようやくここから始まりを告げる。

 

 

 

 数分後、シズクのマイルーム。

 久しぶりに、リィンの部屋に泊まらずに我が家へ帰ったシズクの端末が、機械的な電子音を鳴らした。

 

 通信だ。

 耳に手を当て、回線を繋げる。

 

『私だ』

 

 凛とした声が、通信機の向こう側から響く。

 この声は、間違いなく『リン』である。

 

『さっき、戦闘前に言った通り話がある。今から会えるか?』

「疲れているんですけど……」

『分かっている。だができるだけ早めがいい。最悪、明日の朝でもいいが……』

「いえ」

 

 シズクは、回れ右をしてマイルームを出た。

 そのまま廊下を歩きつつ、答える。

 

「今からでいいですよ」

 




【アナザースリー】のキャラ紹介はその内追加しときます。
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