ようやく話が本編に絡んできたから、ここから原作キャラもどんどん登場していく筈。
「でっ」
惑星ナベリウス・森林エリア。
その中でも新米アークスが向かうようなレベルの低い区域の一角に、二人のアークスが降り立った。
青い髪をリボンでサイドポニーに纏めた少女、リィンと、
橙色の足元まで伸びた髪をポニーテールにして括っている女性、メイ。
「一体何の用です?」
リィンは、ジト目でメイを見つめながら言った。
ゲートエリアに入った瞬間、拉致のような手口でキャンプシップに乗せられここまで連れてこられたのだ。
そりゃジト目にもなるだろう。
「くだらない用でしたら帰りますが」
「安心しなって、くだらなくはないから」
メイは眉間に皺が寄っていくリィンとは対照的に、ニヒルに笑った。
この人は、時折無駄に格好いい。
「明日アーヤが誕生日なんだよ」
「え、そうなんですか? てことは……」
「そう、誕生日プレゼントの花を採りに来たのさ!」
ばばーん! と効果音が付きそうなポーズでメイは叫んだ。
どんなポーズなのかはご想像にお任せします。
「成程、それで私を呼んだ理由は?」
「暇そうだっ……げふんげふん一緒に良さそうな花を選んでくれたらなって」
「拉致まがいのことをしてきたのは?」
「交渉がめんど……コホン。アーヤに見つかるわけには行かなかったからね!」
「キャンプシップでそれを説明しなかった理由は?」
「混乱するリィンが可愛かったからかな!」
リィンのオーバーエンド!
メイはこうげきをかわした!
「避けないでくれます?」
「ひぃ! 後輩が怖い! 可愛いって言っただけなのに!」
「自業、自得、です!」
ぶんぶんとザックスを振りまわすリィンと、空中を飛びまわりながら逃げるメイ。
奇妙な追いかけっこは、その後しばらく続くのであった。
*****
「はい、気を取り直してアーヤへプレゼントする花を見つけに行きましょー」
「おー」
数十分後。
なんやかんやあって仲直りしたリィンとメイは森林を歩いていた。
メイの頭上に、たんこぶ一つ。
どうやらそれで手打ちとなったようだ。
「といっても、アヤさんの好みとかは分かっているんですか?」
「全然?」
「ていうか花屋で買ったら早かったんじゃ……」
「いやぁ、メセタはドゥドゥの野郎に持っていかれて……」
「……オーバー」
「タンマタンマ! 天丼! 天丼になっちゃうから!」
剣を構えかけたリィンを、メイは必死に止める。
二度目は勘弁である。
「はぁ……それで、どうします?」
「適当に歩いてよさげな花を探す!」
「雑だなぁ……」
だがそれ以外に方法は無さそうだ。
こういう時シズクが居れば勘で何とかしてくれたのだろうか、なんて考えた。
その時だった。
「ちょーっとそこ行くアークスさんたち!」
明るく、華やかな声が二人の耳に入った。
女の子の声である。リィンとメイは、声の方に振り返る。
そこには二人の少女が居た。
一人は、ハニージャケットと呼ばれる緑色の衣装に身を包んだ、左側に流れた前髪が特徴的なツインテール。
一人は、リトルプリムと呼ばれる黄緑のポップな衣装に身を包んだ、右側に流れた前髪が特徴的なツインテール。
驚くことに、その少女二人は同じ顔をしていた。
双子、なのだろう。
ただ顔は同じでも、その表情は大分違う。
ハニージャケットの少女は、兎に角笑顔で元気で明るい印象で、
リトルプリムの少女は、大人しく真面目な印象を覚える
「誰?」
「よくぞ聞いてくれました! あたしは――」
リィンが首を傾げて問うと、ハニージャケットを着た方の少女が嬉しそうに笑った。
腕を振り上げ、名乗り口上を始める。
「アークス一の!」
ずびし、と人差し指を立てた腕を前に突きだし、
「情報屋!」
くるりと身体を一回転して、
最後に、アイドルのような決めポーズ。
「『パティエンティア』の! 『パティ』ちゃんでーっす!」
「『ティア』です、不肖の姉がすみません……」
決めポーズのまま、どや顔をしているのがパティ。
深々と礼儀正しいお辞儀と共に自己紹介をしたのがティア。
二人合わせてパティエンティア。
アークス一(自称)の情報屋双子姉妹である。
「……情報屋?」
「そう! 要するに……えーと」
「大雑把に言えば、情報や噂を収集して、それを売買しているの」
「そう、それ!」
リィンのふっと出た疑問に、パティが答え……ようとして横からティアの助けが入った。
情報屋。
成程、それならこの子たちに花の咲いている場所を教えて貰うのもいいんじゃないか?
と、思いながらリィンはメイに視線を向ける。
基本、人見知りなのだ。
「メイさん……」
「……リィン、分かっているよね?」
「え? あ、はい」
メイの不思議なくらい真剣な声色に、思わず反射的に返事をしてしまった。
表情も、今まで見たこと無いくらいに真顔。
「今の、彼女の名乗り口上……角度、タイミング、決めポーズ……全てにおいて完璧だった」
「…………は?」
「負けてたまるか! リィン! ウチらも凄いのやるよ!」
「は? え!?」
真面目そうな雰囲気は一気に崩れ去った。
どうやら変な対抗意識が燃えてしまったらしいメイの瞳に闘志が宿る。
「ちょ、私もやるんですか!?」
「当然! あっちが二人ならこっちも二人よぉ!」
「明らかに片方普通に挨拶してましたけど!?」
「問答無用! ウチは格好いい系のやるから、リィンは萌え可愛い系でお願いね!」
「それ私の方が難易度高くないですか!?」
リィンのツッコミは虚しくスルーされ、メイの口上が始まった。
一歩前に出て、腕を組み快活な笑顔をパティエンティアの二人に向ける。
「何何? 何が始まるの?」
「何だかとてもくだらないことの予感……」
「えーっと、パティちゃんと、ティアちゃんだよね?」
何故か楽しそうなパティと、とても良い勘をしているティア。
そんな双子を前にして、あろうことかメイは服を脱いだ。
服を脱いだ。
……とは言っても、全裸になったわけではない。
本当に幸いなことに着替えただけである。
メイの着替えた服は、レディバトラーコートと呼ばれる女性用の執事服。
確かに格好いいかと問われれば、格好いいと即答できる見た目だ。
元々ボーイッシュな雰囲気を持っていたメイにとても似合っている服といえよう。
「ウチらも自己紹介させてもらうよ」
すぅう……とメイの身体が滑らかに動く。
本当に執事なのではないかと思わせるほど熟練した礼。
一部の隙もない、それこそティアが先ほどしたお辞儀など児戯に見えるほど正確な角度。
「チーム【コートハイム】リーダー、メイ・コートだ。よろしく」
「「……!」」
口調こそ、丁寧なものではなかったが。
それでも、それすら『口の悪い執事』と言う属性付けに変わってしまうほどの、圧倒的一礼。
ただのお辞儀が、ここまで格好良く見えるものなのか。
それとも普段のメイがあれすぎて格好良く見えるだけなのか。
それは分からないが、年端もいかない少女二人には効果抜群のようだった。
「か、くぁっこいいー」
「す、凄い……」
双子の頬が、ほんのり赤く染まった。
リィンも、「本当、たまに格好良くなる人だなぁ……」とメイから視線を外しながら呟く。
その頬は微かに赤い。
「さて」
くるり、とメイがリィンの方に振り向いた。
もう既にさっきまでのイケメンっぷりはなく、いつも通りの表情である。
「次はリィンの番だよ」
「うぇ……!?」
そうだった、とリィンはまだ自己紹介の方法なんて何も考えていないことを思い出した。
パティエンティアの二人と、メイの視線が一斉にリィンに集まる。
「ぐっ……」
萌え可愛い系なんて、出来る気がしないのだが。
そもそも萌えという言葉は少女漫画で見たことがあるだけで、理解できているつもりはないのだが。
「ほら、リィン、早く」
「せ、急かさないでくださいよ!」
リィンの思考が、(本人比)で加速する。
(まず、可愛いって一体何だっけ?)
(シズク? いや、まあ可愛いけど、なんかシズクの可愛いは普通の可愛いと違くて……)
(は! それが萌え可愛い!? ……や、そうだとしてもシズクのモノマネなんてしてもパティエンティアには通じないだろうし……)
(可愛い……ラッピー? 犬、猫……この辺りか?)
その辺りが、一般的な人が言う『可愛い』だろうか。
しかし、どうにもしっくりこない。
「えっと、その、えっと……」
「…………」
視線が痛い。
ああ、もう、適当でいいやと半ば投げやりになったリィンの脳裏を掠めた記憶が一つ。
それはメイに借りている少女漫画の、ワンシーン。
そういえば、あれは、可愛いと思った。
「り……」
「り?」
「リィン・アークライトだピョン♪」
リィンが繰り出したのは、あろうことか。
十五歳の美少女が。
歳の割に発達したスタイルの美少女が。
頭の上で兎の耳を象った掌をかざして、照れ笑いしながら語尾にピョンを付けるなどと言う暴挙。
ギャップ萌えの極致のような戦慄が、パティエンティアと、そしてメイの身体を駆け抜けた。
「…………」
「…………」
「…………」
結果、沈黙。
木が風の音で揺れる音のみが、その場に流れた。
「…………」
リィンは、真顔でゆっくりと手を降ろす。
そのまま、その場で座り込み、静かな声で呟いた。
「いっそ殺して」
なんかこのパターン前もあったな。
等と思いながら、メイはリィンの肩に手を置く。
「大丈夫、可愛かったよ」
「うう……慰めはいらないですよ……ああいうのが可愛いのは漫画のキャラだけだったんですよ」
(ああ、そういえばリィンに貸した漫画にああいうシーンあったなぁ)
だとしたら貸してよかったと心から思った。
おかげで良いモノが見れた。
「だ、大丈夫だよリィン! とーっても可愛かったよ! あたしたちも今度やろっか! ねぇ、ティア!」
「うぇ!? ……そ、そうだねパティちゃん、また今度にね」
「ぅぅ……気を使わせてしまっている……」
成程、穴があったら入りたいという気持ちはこういうことを言うのか、と頭の何処かで考えながらリィンは真っ赤になった顔を隠すように腕で顔を覆う。
そんなリィンを一瞥した後、メイは再びパティエンティアの二人に向き直った。
「まあそれはいいとして、パティちゃんティアちゃん、この辺りに花畑っていうか花が咲いているところとか知らない? 情報屋なんでしょう?」
(それはいいとして!?)
「え!? いきなりお仕事の依頼!?」
パティは嬉しそうに驚いた。
実はパティエンティアが情報屋の仕事をしている頻度はそう多くない。
アークスは脳筋が多く、情報を疎かにしがちな人が多いのと、単純に二人がまだ少女なので頼りにならなそうという偏見があるからである。
「よぉーし、これははりきらないとね! ティア!」
「そうねパティちゃん、花くらいならすぐ調べられると思うので、少し待ってもらっていいですか?」
「おーけーおーけー、じゃあその間に……」
この落ち込んでいる後輩を何とかしますか、とメイは体操座りをしているリィンに視線を向けるのであった。
ただただリィンにピョンと言わせたいだけでした。