AKABAKO   作:万年レート1000

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短め


『マトイ』

 ナベリウスにリィンの叫び声が響き渡った数時間後。

 

 時間的には夜。

 だが、当然照明が効いていて明るいゲートエリアを、歩く赤い髪をした小さな少女が一人。

 

 シズクである。

 

 その手には土産らしき紙袋が二つ。

 

 実家からの帰宅途中だ。

 とはいっても、後はマイルームまで戻るだけなのだが。

 

「ふんふーん♪」

 

 好きなアイドルの歌を鼻歌で奏でながら、ゲートエリアを歩く姿はご機嫌そのもの。

 余程実家で父のレア武器コレクションを見るのが楽しかったのだろうか。

 

 そのうちスキップでもしだすんじゃないのか、と思えるくらい軽い足取りで進むシズクが階段に足を踏み入れた瞬間。

 

 盛大に転んだ。

 

 しかも階段の角に頭をぶつけた。

 

「うっばぁあああああ!?」

 

 いくらアークスでも、これは痛い。

 戦闘中なら常にフォトンで身体をガードしているのだが、今は完全に気を抜いていたのだ。

 

「ぐ、うぅ……」

 

 常人なら病院直行コースな痛みに、身体を丸めて悶え苦しむシズク。

 そんな彼女の姿を見て、駆け寄る影が一つあった。

 

「だ、大丈夫?」

 

 優しげな声が、シズクに掛けられる。

 

 聞いたことない声だな、とシズクが涙目で声の主の方に顔を向けると、そこには一人の少女がいた。

 

 アホ毛がピョンと生えた、白髪のロングツインテール。

 ミコトクラスタと呼ばれる、下乳が大胆に露出した巫女服のような白い服装に身を包んでいる少女だ。

 

 頭にはミコトコサージュと呼ばれる髪飾りが二つ。

 

 下乳が露出していること以外は、大人しそう、または気弱そうな雰囲気を纏っているのが見てとれた。

 

「だ、大丈夫じゃない……むっちゃ頭痛い……」

「い、今フィリアさん呼んでくるから、ちょっと待ってて」

 

 そう言って、白髪の少女はメディカルセンターの方に走っていった。

 フィリアさんとは、看護師の名前だろうか。

 

 だとしたらひと安心だ、とシズクは額を押さえながらなんとか起き上がる。

 

 涙によってぼやけた視界でメディカルセンターへと駆ける少女の後ろ姿を見ながら、シズクは心の中でそっと彼女に感謝の念を伝えるのであった。

 

(ありがとう――)

(――『マトイ』)

 

 程無くして、フィリアさんらしきナース服の女性が駆けつけてきた。

 

 その場での応急処置をした後、念のためにとメディカルセンターへ向かう途中。

 

 ふと、痛みによってぼやけた意識の中で、さっき自分がした感謝の言葉に違和感を覚えた。

 

 首を傾げながら、呟く。

 

「いや……マトイって誰だよ……」

「え? マトイはわたしだよ……?」

 

 呟いた言葉は、白髪の少女に届いてしまったようだ。

 しかも、この子の名前はマトイというらしい。

 

「…………」

「……?」

 

 ああそうか、自分の直感は最早他人の名前が一発で分かる領域にまで達してしまったのか、と納得してしまうシズクであった。

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「治療完了です。大した怪我ではないですが、頭を打ってますので今日一日は念のため安静にしていてくださいね」

「はーい」

 

 そう注意を受けながら、怪我は完全に完治したシズクがメディカルセンターから出てきた。

 

 傷痕はまるで残っていない。

 流石の医療技術である。

 

「あ、無事だったんだ、よかった」

 

 と、メディカルセンターを出てすぐ、白髪の少女マトイが寄ってきた。

 

 その表情は安堵に満ちており、心配していたことが見てとれた。

 

「うん、おかげさまで。ありがとうマトイ」

「ふふ、どういたしまして。……でも何でわたしの名前を知ってるの?」

「勘、かな」

「勘!?」

 

 目を見開いて驚くマトイ。

 

 しかしすぐにその表情はしょんぼりとしたものに変わり、そっかぁ……と残念そうに呟いた。

 

「どったの?」

「わたし、記憶喪失なの。だからもしかしたら以前のわたしを知っている人なのかなーって」

「へぇ、記憶喪失……」

 

 それは大変だ。

 記憶の喪失なんていうのは自己の喪失となんら変わりない。

 

 自分のことが何も分からない、というのは辛いことだ。

 シズクにも、その気持ちは少し分かる。

 

 助けてくれたお礼もかねて、何か自分に手伝えることは無いだろうかと頭を捻る。

 

「……あ、そうだ! あたしの何故か冴え渡りまくる直感でマトイが昔はどんな人だったのかを当ててみせよう!」

「ええ!? でも昔のわたしをわたしが知らないから正解しても分からないよ……?」

「うばー、そうだった……」

 

 がっくし、と肩を落とすシズク。

 

 活発でお喋りでかしましな子だったんだろうなぁという確信が何故かあったシズクだったが、確かに記憶喪失前の自分がどんなのだったかなんて聞くだけ無駄である。

 

「あれ? 珍しいですねマトイさん、貴女が『あの人』以外と話してるなんて」

 

 と、意気消沈したシズクの後ろから、ナース服を着た赤毛の女性が近づいてきた。

 

 フィリアさんだ。

 その手にはカルテらしきものが握られている。

 

「あ、フィリアさん。何だかこの人とは話しやすいんだ……分かんないけど、懐かしい感じがする」

「うばー、奇遇だねマトイ、あたしもマトイと話してるとなんか懐かしい感じがするよ」

 

 もしかしたら、本当に何処かであったことあるかもねぇ、と笑うシズク。

 

 と、そこまで話してようやくシズクはあることに気がついた。

 

「おっと、そういえばあたしの名前を教えてなかった」

「あ、そういえばまだ聞いてないや……」

「一応訊くけど、分かる?」

「ごめん……」

 

 そりゃそうだ、マトイの名前を当てたシズクがおかしいのだ。

 

 仕方がないよ、と安心させるように笑って、シズクは名乗る。

 

「あたしの名前はシズク。折角結んだ縁だし、これからも宜しくね、マトイ」

「うん、一杯お話ししようね、シズク」

 

 ぎゅうっと握手を結ぶ。

 

 少女同士の、美しい友情である。

 

 が、

 

「はい、じゃあ美しい友情を結んだ所でマトイさん、定期検査の時間です」

「えー!?」

 

 フィリアがシズクと繋いでいない方のマトイの腕を掴みながら言った。

 

 その言葉に、マトイは注射が嫌だと駄々をこねる子供のような悲鳴をあげる。

 

「検査?」

「はい、記憶喪失ですし、まだ身体も十全ではないので定期的な検査が必要なんですよ」

「うぅ……もう大丈夫だって言ってるのに」

「駄目です!」

 

 逃げられたことがあるのだろうか、フィリアはマトイの腕をがっちりと掴んでマトイをメディカルセンターへ引っ張っていく。

 

「し、シズク、ま、またねっ、また話そうね!」

「う、うん、またねー!」

 

 心の中で合掌しながら、シズクは手を振る。

 それを見て安心したのか、マトイはシズクから視線を外してフィリアへの抗議を始めた。

 

「ふ、フィリアさん、袖引っ張らないでー! 歩く、歩くから!」

「駄目です! もう騙されませんよ! 今日という今日はちゃんと検査全部受けさせますからね!」

 

 そんな声が聞こえなくなるまでその場にいたシズクも、ふと時計を見て、もうこんな時間かと動き出す。

 

 今度は転ばないように気を付けながら、シズクはリィンのマイルームへと一直線に足を進めるのであった。

 




この話を書いてて初めてマトイが18歳だと知りました。

15くらいかと思ってたわ……。
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