AKABAKO   作:万年レート1000

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嵐の前は、静かなものである。



※何気なく話を見返してたら23話で噛ませ犬さんが【銀楼の翼】リーダーだとか書いてあってびっくりした。修正しておきました、【銀楼の翼】リーダーはサカモトさんです。


傷跡

 アークスシップの一角。

 他のエリアとは一線を画した性質のエリアが、そこには存在した。

 

 ガラス張りの天井と壁によって織り成す、天然の宇宙景色。

 ナベリウスを彷彿とさせる、アークスシップにしては異端な緑豊かな地面。

 

 そして、その地面に突き立てられた数多の墓。

 

 そう。

 アークスシップいち幻想的な風景を持つこのエリアは、全てのアークスたちが最期に安らぐ聖域。

 

 セメタリーエリア。

 英雄たちの眠る地である。

 

 そして、そんな聖域の一角にある、一際巨大な墓石の前で座る男が一人。

 

「……何の用じゃ」

 

 男――サカモトは呟いた。

 その言葉は、目の前の墓石に向けた言葉ではなく。

 

 背後から寄ってきた人影に、放った言葉だ。

 

病院(メディカルセンター)を抜け出すなんて、悪い人ね」

 

 聞き慣れた鈴のように透き通った声に、サカモトはお前かと言いながら振り向いた。

 

 背後にいたのは、青い髪を持った麗人。

 ライトフロウ・アークライト。

 

「はん。大した怪我じゃなか」

「片腕が消し飛んだのに?」

「ああ」

 

 見れば、サカモトの左腕は無くなっていた。

 通すものの無くなった左の袖が、力なく地面に横たわる。

 

「片腕ありゃ、アークスは続けられる。大した問題じゃあない」

「…………」

「【巨躯】本体相手にして被害らしき被害がワシの左腕だけなんて、寧ろラッキーじゃろ」

 

 両腕持ってかれてたら、ヤバかったかもな、とふざけたような態度でサカモトは言った。

 

 既に、サカモトの視線は墓石の方に向けられており、その表情はライトフロウからは伺えない。

 

 ただ少なくとも、泣いていないことは確かだった。

 

 この男は、そんな柔じゃないことをライトフロウはよく知っている。

 

「それで、お主は何でこんなとこに? まさかワシを連れ戻しに来たのか?」

「いいえ、私はただこの墓に花を添えに来ただけよ」

「花を?」

 

 言って、ライトフロウは足を踏み出して墓石の前に立った。

 手に持っていた花束を、墓石の前にそっと置く

 

「なんじゃ、たまに花が置いてあると思ったらお主の仕業じゃったか」

「ええ。大変な戦いを乗り越えた後とか、苦難を乗り越えたときとかに、ね」

 

 立ち上がり、目を閉じて手を合わせる。

 

 心の中で呟く言葉は、感謝の言葉。

 

「多分、皆が助けてくれたお陰かなって、お礼にね」

「かっ! お主は皆に好かれとったからな、間違いない」

 

 サカモトの言葉に、ライトフロウは照れるように笑った。

 

「……ナユタ」

 

 そっと墓石に触れ、

 石に刻まれた言葉を、指先でなぞりながら呼んでいく。

 

「アカシ、マーナ、キリ、ユナ……」

 

 墓石に刻まれた名前、総計六十九個。

 十年前のダーカー侵攻で亡くなった、同期生たちが眠る墓。

 

「シースク、ヨル……ありがとう、私たちは、きっとアナタ達の分まで戦い抜いてみせる」

 

 全員分の名前を読み上げ、ライトフロウは顔をあげた。

 

 墓参り、終了である。

 名残惜しそうにライトフロウは墓石から離れた。

 

「いつも、それやってるんか?」

「ええ、忘れないであげるのが、残った私たちに出来る唯一のことでしょう?」

「立派なやつじゃのう」

「茶化さないの」

 

 言いながら、ライトフロウは胡座を組んでいるサカモトの足の上に、何かを落とした。

 

 オレンジ色の、大輪咲かせた花である。

 

「……なんじゃ、これ」

「見ての通り花よ。一輪くらい、供えてもバチは当たらないわよ」

「…………」

 

 サカモトは、その名前も分からぬ花をつまみ上げた。

 

 色んな角度からその花を眺め、そして。

 

「なあ、この花別の奴にあげてもいいかのう」

「はあ? 恋人にでもあげるの?」

「そうじゃ」

 

 ライトフロウは目を見開き、その後溜め息を吐いた。

 

 どんな思考回路をしていたら、供え物用にと渡された花を恋人にあげようとなるのか。

 

「……好きにしたら?」

「投げやりな返事ありがとう、それじゃ渡してくるわ」

 

 今すぐ? と疑問に思ったライトフロウだったが、その理由は即座に理解できた。

 

 サカモトの向かった先は、セメタリーエリアの出口ではなく、隣の墓。

 

 素朴で一般的な大きさの、新品の墓石。

 

「まさか……」

「皆には悪いが、今日はあくまでついででの」

 

 ライトフロウから見えるのは、サカモトの後姿だけ。

 

 表情は見えない、でも、今度こそ泣いているのかも知れなかった。

 

病院(メディカルセンター)を抜けだしたのは……」

「居ても立ってもおられんかったからな。お陰で供え物も買えんかったから助かったわ」

 

 ありがとな、と振り向かずにサカモトは言った。

 

「……ごめん」

「謝らんでええよ、同情もいらない」

 

 はっきりとした声で、サカモトは言葉を紡ぐ。

 まるで意図的にそうしているように、頑張って声を出しているように。

 

「アークスっていうのは、極論で言えば戦争屋じゃ。宇宙の敵ダーカーと戦うのが、戦い続けるのが仕事」

「…………」

「当然死人も出る。大切な人が死ぬことも、当然有り得る」

「誰にだって……大切なものを『失う痛み』はやってくる、か」

 

 それは多分、誰にでも訪れる痛み。

 

 救世の英雄だろうと、全知全能の惑星だろうと、そこらの一般人だろうと。

 

 分け隔てなく、痛みはやってくる。

 

「だから後悔は無い。失ったことも、愛したことも」

「…………」

「……それでも、やっぱ思っちまうなぁ。どうしたって、考えちまう」

 

 もう一度だけ、会いたいと。

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「それじゃ、明日の予定を決めるぞ」

 

 リィンの部屋。

 その居間で、メイはプレゼント用に軽くラッピングした花冠を脇においてそう言った。

 

 部屋の中にはソファに座るメイとリィン、そして茶を運ぶルインの二人と一機。

 シズクはメディカルセンターで治療中だ。

 

「まず、午前は浮遊大陸に向かおうと思う」

「地下坑道でビッグヴァーダーを倒したことで行けるようになるところですよね?」

「そう。まだコフィーさんに申請はしてないけど、まあまず通ると思う」

 

 浮遊大陸。

 惑星アムドゥスキアに存在する、文字通り浮遊する大陸だ。

 

 火山洞窟地帯と同じく龍族が住んでいるそうだ。

 そして浮遊大陸に生息している龍族は火山洞窟の龍族より強いという。

 

 しかし、空に浮かぶ大陸か。

 メイが好きそうなところである。

 

「で、浮遊大陸でのクエストをクリアしつついい感じの時間になったら帰還。その後皆で一緒に晩御飯の名目でアーヤをリィンの部屋に呼ぶ」

「そして待ち伏せしていた私たちがクラッカー鳴らして誕生日おめでとう、ですね」

 

 雑なプランである。

 だがまあ、それくらいが丁度いいのかもしれない。

 

「と、いうわけで次は明日食べるケーキを決めよう」

「お金あるんですか?」

「さっきナベリウスで倒したエネミーが落としたコモン武器売ったら、ケーキ買えるくらいのお金ができた」

「……今思ったんですが」

「言うな」

 

 分かってる、分かってるから、とメイは手をつきだしながら首を横に振る。

 

 ちなみに察しは付くとは思うが一応リィンの言おうとした言葉は、エネミー倒してお金稼げば花も花屋で買えたんじゃないですか? だ。

 

「さ。カタログを用意したから選ぶぞ」

「アヤさんの好みは何ですか?」

「ショートケーキ」

 

 机の上にモニターが開かれ、そこにケーキのカタログが表示された。

 古今東西あらゆるケーキが彩りよく並ぶそれは、流石のリィンとメイでも頬を緩ませる破壊力を持った代物だ。

 

「けどウチがショートケーキ嫌いなんだよね、だからショートケーキは無しで」

「そこは譲りましょうよ……」

「やだ」

 

 即答である。

 よっぽど嫌な思い出がショートケーキにあるのではないかと思わせるほどの即答っぷりだ。

 

 だがまあ、いくらアヤにとって好物でも、皆がケーキを食べてるなかでメイ一人だけケーキが食べれないという状況は、アヤにとっても望ましいものではないだろう。

 

 となるとショートケーキ以外だが、こうなると難しい。

 あくまでアヤが主役の誕生日会であることを忘れてはいけないのだ。

 

「アヤさんって嫌いなケーキとかあるんです?」

「確かモンブランが駄目だった気がする」

「モンブランは駄目っと……じゃあチョコレートケーキとかはどうですかね?」

「うーん、良いとは思うけど、いっそホールで買わずに小さいのを別々で人数分買った方がいい気がしてきた」

「成る程、それならショートケーキも買えますしね……ところでメイさんってショートケーキの何処が嫌いなんですか?」

「いや嫌いっていうか昔ショートケーキプレイさせられてフォークでぐさぐさ…………いや、何でもない」

 

 ついシズクと話してるノリで下ネタを使ってしまった、と反省するメイ。

 だがレベルが高すぎたのかリィンは頭上にはてなマークを浮かべるだけである。

 

「ショートケーキはね、イチゴが酸っぱいからやだの」

「あー、甘いクリームとの兼ね合いで酸っぱいんでしたっけ」

「そうそう、アーヤはあのギャップが良いらしいけど、分からん」

 

 話題を逸らす。

 食べられないわけではないが、本当に酸っぱいイチゴは苦手なので嘘は言っていない。

 

「ところでショートケーキプレイってなんですか?」

「…………」

 

 逸らせなかったようだ。

 好奇心旺盛で父さん嬉しいわ、と脳内でふざけてみても現状は変わらない。

 

 ちなみにショートケーキプレイというのは、去年のアヤ誕生日にメイがさせられたエロい意味でのプレイである。

 

 その内容は全年齢向けではとてもじゃないが詳細な描写はできないので、簡潔に説明するとショートケーキを全裸のメイの敏感な部分に乗せて吸い取るように食べたり、生クリームを塗って舐めたりピンクの部分をイチゴに見立ててフォークでつついたりとかそんな感じである。

 

 当然リィンにそのまま説明するわけには行くまい。

 

 恋人だということはバレたが、健全でプラトニックな関係だよということにしているのだ。

 

「……ええっとね」

「はい」

「…………」

 

 良い言い訳が、何も思いつかない。

 

 一つ嘘を吐いている以上、さらに嘘を重ねるのは愚の骨頂。

 しかし事実を述べるのは論外だ。

 

 数秒にも感じる一瞬が過ぎ、メイが絞り出した答えは――

 

「な、内緒!」

「え?」

 

 自分でもどうかと思う荒業であった。

 

「そう、内緒なんだよ! アーヤと! 恋人同士の、秘密!」

「そ、そうなんですか?」

「恋人間にはね、自然と他の人には話せないような甘酸っぱい秘密が一つや二つできるもんなの!」

 

 他人にはとてもじゃないが話せない内容だし、嘘は吐いていない。

 

 だが強引だったかな、と冷や汗をかきながらリィンの反応を待つメイであったが、どうやらその心配は杞憂のようだった。

 

「な、成る程……恋人同士の秘密……恋人間には秘密が付き物……べ、勉強になります」

 

 チョロいもんだぜ、と内心ガッツポーズ。

 頬を染めて、照れながらメモを取るリィンを見てほくそ笑むメイであった。

 

「さて、引き続きケーキを決めようじゃないか。やっぱバラ買い?」

「そうですねぇ、でもホールも捨てがたいんですよねぇ」

「分かるわー。ホールケーキのケーキ食ってる感もいいんだよなぁ」

 

 再び、二人はカタログに目を戻した。

 

 悩む。

 いかに最底辺の女子力しか持っていない二人でも、甘いモノ――特にケーキとなれば話は別だ。

 

 かつてない程真剣に、カタログと睨めっこする女子二人。

 

 あっちを立てれば、こっちが立たない。

 楽しいが、苦悩でもある。

 

 十五分程、経過しただろうか。

 案は纏まらず、無為に時間が過ぎていく……。

 

 その時だった。

 

「たっだいまー」

 

 シズクの声が、リィンの部屋に響いた。

 

 別に一緒に住んでいるわけではないのにも関わらず、「ただいま」である。

 

 が、まあそこは今更だろう。

 

 リィンも当然のように「おかえりー」と返した。

 

「うばー、疲れたー」

「実家はどう? 楽しかった?」

「うん! 今度はリィンも、先輩らも連れて皆で行きたいな。お父さんも皆に会ってみたいって」

「おー、いいねぇ」

 

 喋りながら、シズクは倒れ込むようにソファに座りこんだ。

 土産を隅に置き、自然な動きでリィンの隣へ。

 

「うば? これは……ケーキのカタログ?」

「ああ、明日アヤさんの誕生日だからケーキを選んでたの」

「うばぁ!? 誕生日とか聞いてないけど!? そういうのは早く言ってくださいよ!」

「めんごめんご」

 

 誠意ゼロのメイの謝罪はさておき、当然シズクはアヤへの誕生日プレゼントなど用意してはいない。

 

 というか、していたら完全に予知者だろう。

 シズクの直感も万能ではないのだ。

 

「うばー……どうしよう、今から何か買いにいくしかないかなぁ。……あ」

 

 そうだ、とシズクは良いことを思いついたように手をポンと打った。

 

「あたしケーキ作ります」

「「!?」」

 

 ケーキ作れるとか女子力MAXかよ、と思う女子力最底辺二人であった。

 

「手作りケーキなら、充分プレゼントになる筈……アヤ先輩の好きなケーキって何ですか?」

「ああええっと……ショートケーキなんだけどウチがショートケーキ苦手で……」

「あ、じゃあ半分ショートケーキ、半分チョコレートの半月ケーキにしますか」

「半月ケーキ!?」

「女子力が四万五千……四万七千……まだ上がるだとぉ!?」

「いや何ですかそれ……」

 

 若干照れながら、シズクはケーキのカタログを手に取った。

 

 参考にでもするつもりなのか、と思ったが違うらしく、ただ単に眺めているだけ。

 まあ、ケーキに限らずカタログは眺めているだけでも楽しいものだ。

 

「んじゃま、そろそろウチは帰るかな」

 

 ぐぐぐ、と伸びをしながらメイはソファから立ち上がった。

 

 もう夜も遅い、寧ろ長居しすぎたくらいだった。

 

「あ、リィン、今日話したことシズクにも情報共有しといてね」

「了解です」

「それじゃ、また明日」

 

 そう言って、メイは立ち去っていった。

 ルインはキッチンで雑用中なので、居間でシズクとリィンは二人きりだ。

 

(あ、そういえば)

 

 シズクはいつ帰るのだろうか、もう夜遅いし帰るなら今のうちだと思うのだが。

 と、いうわけで訊いてみる。

 

「シズクはどうするの?」

「え? あーうん、そうだね、そろそろお風呂入ってくるよ」

 

 お先に失礼するね、とシズクは寝間着を箪笥から取り出してお風呂に向かっていった。

 

 勿論、リィンの部屋の、である。

 

 泊まる気満々らしい。

 

「まあ、良いけどね……」

 

 何時ものことだ、とリィンはさして気にせず、ソファに座り直して端末を操作し少女漫画を開く。

 

 この何気ない行為が、この後一波乱が起こる原因になることは、まだ誰も知らないのであった。




誰にでも、大切な物を失う時はやってくる。

その時は当然、いつか『彼女たち』にも訪れる。






……いつかねっ! いつか!
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