「何をしたいのかな?」
ゲートエリア中央・クラスカウンター。
『ビア』という顔のパーツが中央によった骨太の男性が係を務める、アークスのクラスを変更したり、スキルを新たに取得したりする重要な場所だ。
当然サブクラスもここで変更することになる――ということでクラスカウンターにやってきた【コートハイム】の面々であった。
「サブクラスの利用が許可されたので、サブクラスに就きに来ました」
「これが許可証です」
シズクとリィンが前に出て、先ほどコフィーから貰ったサブクラス利用許可証をビアに提示した。
「確かに。では就きたいクラスを選んでください」
クラスの一覧が表示されたモニターが、二人の前に映し出される。
ハンター。
レンジャー。
フォース。
ファイター。
ガンナー。
テクター。
ブレイバー。
七つのクラスから、一つを選択する方式だ。
尤も、メインクラスと同じクラスをサブクラスにはできないので、シズクはレンジャーが、リィンはハンターの項目が選択不可能になっていた。
「……で」
宙に浮かぶリストに目を通してから、リィンは困ったように振り返って先輩らを見る。
何事か、と思いきや、ある意味仕方ないともいえる事情があったようだ。
「サブクラスって、どれを選べばいいんですか?」
「……あー」
サブクラス、というのはメインクラスと組み合わせることによってメインクラスの長所を伸ばしたり、短所を補ったりすることが目的の補助的なクラスのことだ。
例えばハンターがメインクラスなら、同じ打撃職のファイターをサブクラスに添えることで火力を向上させたり、フォースと組み合わせることによって遠距離攻撃と回復魔法を会得したり。
その組み合わせは多岐に渡る。
サブクラスを許可されたからって、ほいほいと決められるものでもないのだ。
「うばー、あたしもこれは悩みますね……オススメの組み合わせとかないんですか?」
「んー、つってもなぁ、ウチらは初期メインクラスがファイターとフォースだったから、ハンターとレンジャーの知識はあんまないのよね」
腕を組んで、うーんと唸るメイ。
アヤも同じような反応だ。
「困ったな……ビアさん、オススメとかないんですか?」
「うーん、私からはそういったアドバイスはあげられないんですよ、残念なことに」
「何でですか?」
「クレームが来たんですよ。『クラスカウンターのアドバイス通りにクラス設定したら全滅した、責任取れ』と」
「うわぁ……」
それはまた、なんていうか、ご愁傷さまだ。
無論、そのクレームを付けたアークスの頭が。
「それ以来、クラスの組み合わせに関するアドバイスはしない方針なんですよ……」
「むむむ、そうなると自分で決めるしかないのか……」
「サブクラスにした時に取得できるスキルとかは見せてくれるんですよね」
「それはもう、いくらでもどうぞ」
あくまでアドバイスが出来ないだけである。
クラスごとのフォトン傾向、取得できるスキル、そういった情報は問題なく開示されている。
「うーばー……」
ざっと眺めた後、シズクは眉を
「……ちょっと決めるまで時間掛りそうですね、先輩達は適当にぶらついてていいですよ」
「私も……これは迷いますわ」
「ま、だよねー」
しょうがないね、とメイは頭の後ろで手を組みながら言った。
サブクラスは、上手く活用すれば戦闘能力が飛躍的に上がるだけではなく、手札を増やすことすらできるシステムだ。
それ故に、組み合わせは悩ましい。
あっちを立てればこっちが立たず――なんていう風になるのも珍しくは無い。
「じゃあウチは(さっきの臨時収入で)ドゥドゥと戦ってくるかな……」
「この前ツインマシンガン強化してたじゃない」
「いやー、それがツインダガーも新調しまして……」
言って、後輩に手を振りながらその場を離れる。
ゲートを抜けてショップエリアへ。
「ん?」
ショップエリアに降り立ってすぐ、メイが何かに気付いたように上を見上げた。
視線の先には展望台。
見覚えのある黒いコートの女性が『一人』。
「あ、『リン』だ」
「ホントね、一人で何しているのかしら」
足を止め、『リン』の様子を伺う。
すると奇妙なことに、一人であたかも誰かと話しているかのように口をパクパクと動かしているではないか。
「……あの子、一人で喋ってない?」
「……り、『リン』にも『リン』なりの悩みがあるんじゃない? 放っておいてあげましょ」
「……そうね」
クーナの認識阻害のせいで危ない人認定されそうな『リン』であった。
「それじゃ、行ってくるわ」
そんなことは露知らず(というか気にしてないのだろう)、『リン』はクーナに向かって手を振り、展望台を飛び降りた。
ちなみに展望台を飛び降りること自体はアークスにとってはよくあることである。
「あっ」
「む? メイとアヤじゃないか」
さて、展望台を飛び降りたということは、展望台の下から『リン』を見ていたメイたちと鉢合わせるということで……。
「えっと、その……」
「お、おはよう『リン』」
奇行を見てしまった直後というのもあって、少し気まずい。
「ああ、おはよう。何だか久し振りに感じるな」
「【巨躯】戦前に会ったばっかでしょ」
たかが二日ぶりである。
「そうだっけか」
「まあアンタほど忙しなく色んな人の頼みを聞いてたら、一日も長く感じるだろうね」
お人好しだもんね、とアヤは呆れながら言う。
研修時代からそうなのだが、この娘は人の頼みを容易く引き受けてしまいがちなのだ。
いつも誰かのために、忙しなく駆け回っていた。
でもそのわりには自分のために働いているところを見たことがない、生粋の人助け体質。
否、主人公体質とでも言うべきだろう。
「はは、人が悪いよりかはマシだろ。それに、人を助けるのも結構楽しいもんだよ」
「とてもじゃないけど真似できない生き方だなぁ……あ、そうだ」
と、そこで何かを思い付いたようにメイは頭上に電球を浮かべた。
また録でもないこと思い付いたのか、とアヤは冷ややかな目でメイを見る。
「『リン』さ、今少し時間ある?」
「ん? まあ無いことは無いが……何か困ったことでもあるのか?」
「ウチらじゃないけどね」
メイは、親指でゲートエリアへ続くテレパイプゲートを指しながら、言う。
「後輩たちがさ、困ってるだろうから助けてくれないかな?」
*****
「うばー、やっと決まったー」
「『リン』さんのおかげです、ありがとうございます」
「いやいや、私は大したことしてないよ」
ゲートエリア・クラスカウンター前。
サブクラス就任を終えたシズクとリィンは、ぺこりと『リン』にお礼を言った。
メイの頼みごととは、シズクとリィンのサブクラス決めの手伝いだったのだ。
流石というべきか、『リン』は全クラスの様々な組み合わせを試したことがあるそうで、それは大変参考になる意見をくれて助かった。
「結局、二人ともサブクラスは何にしたの?」
メイが、退屈そうに弄っていた端末から顔をあげた。
『リン』のクラス組み合わせ談義は大変参考になるものだったので、アヤとメイもドゥドゥに行く予定をキャンセルして一緒に聞いていたのだ。
しかしメイは途中で飽きて端末でゲームをしていたのである。
しょうがない、もう一度説明してやるか、とまずシズクが前に出る。
「あたしは、レンジャー/ブレイバーです。ヘッドショットと弱点狙いが得意ですから、『ウィークスタンス』に惹かれて決めました」
「シズクヘッドショット病的に上手いもんねぇ」
シズクの選んだサブクラスは、『ブレイバー』。
レンジャーのサブクラスとしては比較的一般的である。
『ウィークスタンス』という、弱点に攻撃を当てた時に大幅に火力が上昇するというスキルがかなりレンジャーと相性がいいのだ。
ウィークバレットで弱点を増やしたり、ヘッドショットでも弱点と判定されるのでかなりの火力上昇が見込めるだろう選択だ。
「次は私ですね」
続いて、リィンが前に出る。
前に出たところで見た目に変化はないのだが、何となくだ。
「私はハンター/テクターになりました」
「テクター? 意外だな、ファイターかブレイバーだと思ってたけど」
「んー、自分の火力を上昇させるのも考えたんですけど……」
ハンターのサブに、テクターというのはあまり一般的では無い。
基本脳筋なアークスが多い所為でもあるが、テクターのスキルに打撃攻撃を直接強化するスキルは少ないのだ。
逆にテクターのサブにハンターはそこそこ居るのだが――まあ今その理由を語る必要はないだろう。
「『デバンドカット』や、『スーパートリートメント』。各種補助テクニックが魅力的でして」
「ああ……成程」
テクターは、補助を得意とするクラスだ。
中でも『デバンドカット』は防御力アップテクニックである『デバンド』の効果を高めることができる。
つまり、リィンの防御力自体も高めることができるのだ。
自身の火力を高めるのではなく、パーティの盾となって周囲を守る選択と言えよう。
「『ザンバース』や『ゾンディール』で火力の向上にも貢献できますしね……皆がやられても、私が生き残ればムーンアトマイザーで蘇生もできますし」
「うん、いいんじゃないかな。リィンらしくて」
問題があるとすれば、ソロだと火力が出にくいということだが、どんな組み合わせにも欠点というものはできるし仕方が無いだろう。
「さて……」
そんなこんなでサブクラス就任も完了だ。
少し予定外のことで時間を喰ってしまったが……。
「浮遊大陸、行くか」
「「「おー」」」
浮遊大陸探索、開始である。
リィンが所謂カチ勢の道を順調に歩んでいます。
まあゲームだとあんまり優遇されてませんが、AKABAKO世界だとジャストガードで攻撃をシャットダウンできるので、盾職も結構重要なんですよ。