非常にあっさりとしています。
「シフタ!」
赤い光が、パーティ全体を包み込む。
『シフタ』。
フォトン励起を利用して、攻撃力を活性化させるフィールドを生み出す補助テクニックだ。
「デバンド!」
続いて青い光が、パーティ全体を包み込む。
『デバンド』。
フォトン励起を利用して、防御力を活性化させるフィールドを生み出す補助テクニック。
キャンプシップでその二つのテクニックを使用した後、リィンは「おぉ……」と呟いた。
「本当にテクニックが使えるようになってる……」
『ふふ、まあ最初は疑うわよね、サブクラス就任ってあっさり終わるもの』
通信機から、アヤの声が聞こえてくる。
キャンプシップにはシズクとリィンとメイの三人。
今日はアヤはオペレーター役だ。
『テクニックに関して分からないことがあったら遠慮なく訊いてね』
「はい。……あ、早速なんですけどレスタとメギバースの使い分けについて……」
テクニックといえば、『リン』にもその辺り訊ければよかったのだが、彼女はサブクラス就任が終わるなり忙しなくクエストに出てしまったのだ。
行先は【コートハイム】と同じく浮遊大陸だと言っていたが、難易度が違うので会うことは無いだろう。
「アーヤがオペレーターやる場合、テク職居なかったから助かるなぁ」
「あるのとないのとじゃメイト系の消費が全然違いますもんね」
そんなこんなで、雑談すること数分。
舟は惑星アムドゥスキア上空までたどり着いた。
青々とした浮遊大陸と、赤く光る火山地帯のコントラストが綺麗な星だ。
「アヤさん、今回のクエストって何でしたっけ」
「『凶暴化龍族鎮圧』ね、ダーカーの影響で凶暴化している龍族をフォトンで殴って大人しくさせる任務よ」
「ようするに?」
「いつものクエストポイント溜めるやつよ」
「了解!」
身も蓋もない会話をしつつ、一行はテレプールに飛び込む。
クエスト名、『凶暴化龍族鎮圧』。
開始である。
*****
アークスは、その仕事柄様々な惑星に降り立つこととなる職業である。
故に、
木々が生い茂る森林。
龍の住まう火山洞窟。
枯れた大地が広がる砂漠。
一面銀世界の凍土。
謎の機械が立ち並ぶ地下坑道。
等々、非常にバリエーションに富んだ景色を見ることが出来るのだ。
実のところ、そういった色々な星を冒険したいがためにアークスを志す若者は少なくない。
アークスシップという、何から何まで人工物で出来た船で生まれ育ってきたのだ、ある意味仕方ないと言えるだろう。
そこで、とある雑誌がアンケートを取ったことがある。
ずばり、今まで行ったことのあるエリアで、何処が一番綺麗に感じたかというアンケートだ。
一万以上のアークスから、最も支持を受けた栄光の第一位は――
――惑星アムドゥスキア・浮遊大陸エリアである。
「わぁ……」
浮遊大陸に降り立った瞬間、リィンは思わず感嘆するように息を吐いた。
空からの光を存分に浴びて光る、エメラルド色の地面。
惑星から発せられている特殊な磁場により、浮遊している数多の大陸。
時折見える龍族の作った建造物や、火山洞窟にも時折あった謎の箱も景観のアクセントとして素晴らしい働きをしていた。
「凄い綺麗なところね……」
「うばー……でも高い、落ちたら火山洞窟まで真っ逆さまだね」
恐る恐る陸地の端へ行って、下を確認しながらシズクは言った。
浮遊大陸の下は当然火山洞窟だ。
この高さからでも、赤々と燃え盛る様子が見て取れる。
「……あれ? メイさんは?」
「うば?」
浮遊する大陸なんて一番はしゃぎそうな人の声が、しない。
もしかして先に進んじゃったのかしら、と心配した瞬間、後ろから足音がした。
「あー、楽しかった」
「ん?」
メイが、入口として設置したテレパイプから出てきた。
記憶にある限りでは、いの一番にテレプールへ飛びこんだのだが……何故後から出てくるのだろうと疑問に思った瞬間。
その疑問を解消してくれる怒号が通信機から鳴り響いた。
『メーコォ! アナタ降り立つなり即行で大陸から飛び降りるってどういうことなの!?』
「空が……ウチを呼んでいたから、かな」
『言うと思ったわよバーカ!』
「もう一回跳んでいい?」
『駄目に決まっているでしょう!』
ちぇっちぇのちぇーっと不満そうに口を尖らせるメイ。
その様子を見て、リィンは冷や汗を掻きながらメイに問うた。
「お、落ちたんですか……?」
「ん? おう、リィンもやる?」
「いややりませんけど……落下死しなかったんですか?」
リィンの疑問も尤もだろう。
浮遊大陸から火山洞窟まで、控えめに見ても一万メートルはあるだろう。
落下して無事であるとは思えないのだが……。
『落下したわけじゃないわよ。途中で強制送還したの』
「強制送還……?」
「オペレーターが居れば使える裏技だな。テレパイプとかの経由無しでキャンプシップに戻ってこれるんだ」
それで、落下する前にキャンプシップに転送されたのさ、と何故かメイが自慢げに言った。
しかし成程。
それならもし落ちても大丈夫だな、とリィンとシズクは安心するように息を吐いた。
『……と、お喋りは一旦ストップね。エネミー反応二体、正面よ』
アヤの言葉に、三人は雑談をピタリと止めて正面を見据える。
正面にある岩の陰から、青色の肌をした龍族が二体、姿を現した。
ワニのような顔に、猿のような体躯の龍族だ。
正直あまり格好良いとは言えないデザインである。
「『バリドラン』ね。体力は高く、光の弾で遠距離攻撃もできる厄介なエネミーよ、注意して」
バリドランは、おもむろにカエルのような伸びる舌を天に掲げ始めた。
するとどうだろう、舌先に光が収束していき、巨大な光弾になっていくではないか。
「あれが光の弾? 喰らったら痛そうね」
「なら放つ前に壊しちゃいましょう。――エイミングショット!」
狙いを定め、引き金を引く。
シズクの放った弾丸は、正確無比にバリドランの舌先に命中した。
結果、バリドランの溜めに溜めた光弾は爆発。
その反動でバリドランは仰向けに倒れた。
『またこの子は何気なく最適解を……』
「お、成る程放つ前に壊しちゃえばああなるのか、シズク、もう一体にも同じく頼む」
「了解です」
シズクがブラオレットをもう一体のバリドランに向けて構えたのを確認してから、メイは最初に倒した方のバリドラン目掛けて走り出した。
とどめを刺すためである。
「エイミングショット!」
再び放たれたシズクの弾丸が、またも見事にバリドランの舌先に命中した。
反動で転がるバリドラン。
そのとどめを刺すべく、今度はリィンが駆ける。
「オウルケストラー!」
「ノヴァストライク!」
双小剣と、大剣がそれぞれ、無防備なバリドランを切り裂いた。
バリドランは青色の光になって消え、跡にはドロップアイテムが残るだけ。
浮遊大陸での記念すべき初戦闘は、あっさりとコートハイムの完全勝利に終わったのであった。
「……成長したなぁ」
戦闘が終わり、歩みを進める一行の後ろを歩きながら、メイはアヤのみに聞こえるようにそう呟いた。
『ええ、ファルスアームとの連戦、それにサブクラスの就任を経て、あの子達の力は相当上がってる』
はっきり言って、もう追い付かれてるわ。
と、アヤもまた、メイにのみ聞こえるように言った。
「才能、か」
少し、羨ましそうに。
そして結構嬉しそうに、メイは笑みを浮かべた。
「どうしようアーヤ、追い付かれて悔しい先輩としての気持ちと、娘の成長が喜ばしい親心とが混ざって色々複雑」
『何よそれ……と言いたいところだけど、概ね同意見だわ』
【コートハイム】。
その設立目標は、家族のようなチームを作ること。
既にその目標は――達成されている。
メイとアヤは、確かにそう感じた。
「メイさん何立ち止まってるんですかー?」
「先輩早く! あっちに何かあったよ!」
「……次は、大家族を作ることを目標にするかねぇ」
今度は誰にも聞こえないように呟いて、メイは後輩二人の後を追うのであった。
Q.オペレーター居ないチームが浮遊大陸から落ちるとどうなるの?
A.浮遊大陸探索の許可が降りる程度に強いアークスなら落ちても死なない。