ロックベア。
文字通り岩の様に強靭な太い腕から想像される通りの怪力を持ち、強靭な体毛に覆われた二足歩行のゴリラ型エネミーである。
ちなみにベア、とあるが熊の一種ではない。
ロックベアは所謂登竜門的なエネミーとして有名で、ロックベアが倒せるなら初心者卒業と言っても過言ではない。
何故なら高い攻撃力を持つが、攻撃の予備動作が分かりやすくて且つ攻撃後の隙が大きいので、相手の攻撃を避け、隙を衝いて攻撃し、
次の攻撃に備えるという戦闘の基本が出来ているかの確認になるのだ。
――と、いうのがシズクとリィンの持っているロックベアの知識の全て。
二人とも戦うのは初見だ。
まずは動きを見て予備動作等を憶えるのが重要――だというのに。
「レイジダンス!」
「何でシズク突っ込んでんのぉおおお!?」
リィンの叫びを聞きながらも、シズクは正面からロックベアに突っ込んで銃剣を振るう。
レイジダンス。
剣モードで連続突きを放った後、銃撃による追撃を行うPAである。
発生が早く威力もそこそこあり、ダガン程度なら一撃で沈められる威力を誇る……が、
「うわっ、硬」
「ぐるぁああああ!」
全弾お腹に命中したにも関わらず、体毛が数本切れただけで銃弾は皮膚にすら届かなかった。
ロックベアが拳を振り上げる。
明らかに攻撃の予備動作だ、しかしシズクは技後の硬直で動けない。
「っ……こんの!」
次の瞬間、リィンはロックベアとシズクの間に割り込んでいた。
こうなることを予見して、シズクの後ろに続くように走っていたのである。
フォトンを盾型に収束し、ソードに纏わせ始める。
通常のガードでは、このロックベアの拳は止められない。
ならば、と通常以上のフォトン収束を行う。
ソード等の一部武器は、瞬間的にフォトンの盾を生成することが可能なのだ。
この盾でタイミングよくガードすることを、『ジャストガード』と呼ぶ。
「っ……!」
重い拳がフォトンの盾に激突する。
衝撃は無い、ジャストガードが成功した証拠である。
「よし……成功した……!」
「ナイス!」
シズクが攻撃チャンスを得たと言わんばかりにガンスラッシュの銃口をロックベアに向けた。
一旦離れた方が良い、そう判断したリィンの考えを嘲笑うかのような行動である。
フォトンの弾丸がロックベアの頭部へ命中した。
ヘッドショット効果により、通常攻撃とは思えない程のダメージを叩きだす。
「――でも、ヘッドショットだけの所為じゃなごっふ」
「もう! 一旦下がるよ!」
リィンが怒りながらシズクの腹部を掴み、無理矢理下がらせる。
ロックベアと5メートル程距離を取ったところでシズクを地面に降ろした。
「いたた……」
「何でいきなり突っ込んでいるの!? 馬鹿なの!? 戦うにしても私が前でアナタが後ろでしょう!?」
「あーごめんごめん」
ちょっと確かめたいことがあってさ、とシズクは笑う。
リィンが庇わなかったら死んでいてもおかしくなかったのに呑気なものだ。
「私が庇わなかったら死んでいたんだよ? もう少し考えて行動を……」
「え? だってあのタイミングならリィンが庇えたでしょう?」
「え……?」
「リィンなら、あたしに追いついてロックベアの攻撃をジャストガードしてくれるって信じてたもん」
「なぁ……!?」
かぁっとリィンの顔が赤く染まる。
憤りと恥ずかしさと、嬉しさを混ぜて三で割ったような表情である。
「とっ……当然だわ! と、とと友達を守るのは! それに私ならあれくらい余裕ですし!?」
「リィンは可愛いなぁー」
リィンに聞こえないように呟いてシズクは立ち上がる。
ガンスラッシュを銃形態で構え、一歩後ろに下がった。
「リィン、さっきお腹と頭にそれぞれ攻撃した感じ、ロックベアの弱点は頭だ」
「さっきはそれを確かめていたのね……言ってくれれば私がやったのに」
「ごめんごめん。じゃ、頑張ろうか」
瞬間。
二人の居る地面が影で真っ黒に染まった。
ロックベアのボディプレスだと気付いたのはすぐだった。
リィンは即座にソードを構え、ジャストガードの準備をする。
シズクは後ろにステップすることでそれをかわした。
「――今だ!」
フォトンの盾が、ロックベアのボディプレスを受け止めた。
ジャストガード成功である。
リィンは一歩下がってロックベアの下から抜けだし、そのままソードをロックベアの頭目がけて振るった。
「ツイスターフォール!」
縦に回転しながら敵を切り裂くソードのPAだ。
傍目に見ると結構シュールなモーションだが、威力は折り紙つきだ。
(確かに……頭は柔らかい……ような)
切っても切っても怯む気配が無いロックベアに辟易としながら、剣を振るう。
時折頭を外して肩等を切ったときの感触と比べると、確かに頭に剣が当たった時は大きくダメージが入っているように感じる。
(でもそれをたった一度ずつの攻撃で見抜くなんて……)
シズクの強みは、そこなのだろう。
観察眼の才能。
リィンとの会話の時もそうだったが、『見抜く』ことに関しては相当な才能を感じる。
「ぐぬぬ……クエストに出てた回数が段違いとはいえ、負けてられないなぁ」
ロックベアの大振りパンチを、ジャストガードで上手くイナし反撃のソードを振るう。
ソードを振るった腕の脇を正確無比な弾丸(エイミングショット)が通り過ぎ、追撃のようにロックベアの頭に命中した。
続けざまの二連攻撃に、ようやくロックベアも頭を抑えて後ずさりをした。
「押してる……!?」
「よっしゃー! リドルモール落とせー!」
「まだ早いまだ早い! ……ん?」
突如、ロックベアの身体に異常が起こった。
拳で地面を打ち鳴らし、体温の上昇からか煙が立ち上る。
「……? 何しているの?」
リィンが眉を顰める。
威嚇だろうか? 何にせよ攻撃チャンスだ、ソードを握りしめて剣を振り上げる。
「ライジングエッジ!」
下から上へと跳びながら大きく切り上げるPAだ。
自身より遥かに身長が高いロックベア相手でも、これなら頭を狙うことが出来る。
クリティカルヒットした子気味いい音を鳴らして剣閃がロックベアの顎から額まで切り裂く。
我ながら良い攻撃ができた、と満足げに微笑んだのも束の間。
リィンとロックベアの眼が合った。
「っ……!? 眼が赤く……?」
「ぐるる……」
瞬間、ロックベアが視界から消えた。
突然のことに驚きながら左右を見渡してもロックベアの姿は無い。
「リィン! 上!」
「うぇ!?」
シズクからの指示を聞いて、急いで上空を仰ぎ見るリィン。
そこには身体を丸めた態勢で、今にもリィンにボディプレスを喰らわせてやろうとしているロックベアの姿があった。
「ぐっ……」
反射的に、後ろにステップ。
足先の数センチ先をロックベアの巨体がプレスし、背中に嫌な汗が流れる。
フォトンの防具を纏っているものの、これに潰されれば重症は免れないだろう。
「けど避けられた……反撃を――」
と、ソードを振ろうと両手に力を込めた瞬間だった。
ロックベアが、両腕で自身の身体を支えて逆立ちになり、そのまま再び跳躍したのだ。
再び空へと跳ぶロックベア。
狙いは勿論地上のリィン。
「な……!?」
再びバックステップ。
ロックベアの着地地点から逃れるように後ろに下がった。
ボディプレスが再び炸裂する。
ロックベアの着地による地響きを感じる間もなく、ロックベアは両腕を地面に付けて再び跳躍を開始した。
「こいつ……当たるまで跳ぶ気か!?」
「リィン! ジャストガード!」
シズクの声に、はっとしてソードを構える。
そうだ、当たるまで跳ぶならジャスガで受けてしまえばいいのだ。
空に浮かぶロックベアをジッと見て、タイミングを計る。
「――ここ!」
フォトンの盾と、ロックベアの巨体が衝突する。
ジャストガードは成功だ。
ロックベアは知能の高いエネミーではなく、ボディプレスが当たったということで跳ぶのを止め、起き上がってしまった。
「ライジングエッジ!」
「エイミングショット!」
剣撃と銃撃が交差する。
これにはたまらずロックベアも大きく後退し、執拗に狙われた弱点の頭からはついに血が噴き出た。
「ゴォオオオオオオオオオ!」
「このままとどめまで……持っていく!」
とどめを刺すべく、リィンは後退したロックベアを追う。
重たい両手剣を持っているとは思えない程軽やかな動きで距離を詰める。
「ライジング……」
「がぁあああっ!」
しかし、さっきまでとは打って変わって俊敏な動きで右腕が振るわれた。
シズクとリィンはまだ知らないことだが、ロックベアが先ほど行った地面を拳で打ち鳴らし、身体から煙を発する行動は威嚇行為ではなくて怒り状態への移行サインだ。
怒り状態になったロックベアは腕力も俊敏も僅かに上がり、何より攻撃前の予備動作が短くなるのだ。
「危ない!」
シズクが叫ぶ。
が、それよりも早く。
リィンは防護態勢に移っていた。
「――ふっ」
フォトンの盾と、ロックベアの拳が衝突する。
ジャストガード――成功である。
即座にロックベアの左腕がリィン目がけて振るわれる。
だがそれすらリィンはジャストガードで受け切った。
「凄い……」
思わず、シズクは呟いた。
ロックベアは攻撃の予備動作が分かりやすいとはいえ、考えてみればこの戦いの中リィンは一度たりともジャストガードを失敗してはいない。
生来の反射神経と、運動神経。
そして研修時代から続くソロプレイにより培った野生的とも云える生存本能。
それが、リィンの強みだ。
ロックベアの全身全霊を掛けられた大振りの拳は、またもフォトンの盾に阻まれた。
大振りすぎる攻撃をしたロックベアは、態勢を支えきれず足を滑らせ転倒した。
「今だ……!」
ムーンアトマイザーという、戦闘不能になった他者を回復するアイテムが使用不可なソロプレイでは一度の油断が死に繋がる。
生存能力が高いハンターを選んだのも、ジャストガードが比較的し易いソードという武器を選んだのも。
全ては独りだったから。
でも、今は。
「シズク!」
「分かっている!」
シズクが、ガンスラッシュではなくアサルトライフルを取り出してロックベアへ近づく。
『ビーム』と呼ばれる種類のアサルトライフルだ。
黒い銃口から、一発の弾丸が放たれる。
『ウィークバレット』と呼ばれる、特殊弾だ。
その効果は当てた部位を数十秒間柔らかくするという『弱体弾』。
熟練のレンジャーならば短い間隔で複数回撃てる弾だが、シズクにはまだ長い間隔を開けても一発しか撃てない必殺技だ。
だから、確実に当てられて効果のある
「ライジング……エッジィイイイイ!」
「エイミング――ショット!」
元々弱点な上に、ウィークバレットによってさらに弱くなった頭部へ全力の剣撃と銃撃が放たれた。
いかに生命力の高い生物でも、ここまでダメージを受ければ耐えられない。
漸く、ロックベアは倒れた。
解けて消えて、大地に還元されていく……。
「はぁ――はぁ――!」
「ぜぇ……ぜぇ……」
後に残ったのは、赤く大きな結晶。
ロックベアに、勝利した証。
荒くなった息を整えて、彼女らは顔を見合せて笑いあった。
シズク「リィンは笑うと可愛いなぁ」
リィン「!? ななななな!?///」