AKABAKO   作:万年レート1000

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シズクと絡ませたい原作キャラクターTOP3の内の一人【仮面】登場です。


悔恨の仮面に憑かれし者

「うば?」

 

 惑星アムドゥスキア・浮遊大陸エリア。

 

 【コートハイム】一行は、引き続き『凶暴化龍族鎮圧』任務中である。

 

 その途中。

 目標の討伐数を半分ほどこなしたところで、シズクが不意に足を止めた。

 

「うん? どうしたのシズク」

「いや、ここ地面が少し違うから何かなって……」

 

 ほら、とシズクは前方に広がる地面を指差した。

 

 地面、というよりも道路というべきだろうか。

 立方形の石象を何個もくっつけて造ったような、明らかな人工物(龍工物?)だ。

 

 浮遊大陸は、自然に発生した大陸である。

 もしここに生活するとなれば、当然だが『この陸からあの陸に徒歩で移動できればいいな』という発想は生まれるだろう。

 

 この床は、それの解決策なのだろう。

 陸と陸を繋ぎ、空を飛べない龍族が利用するまさに道路の役割を果たす床だ。

 

 しかし、【コートハイム】にとっては別に初めて通るわけではない道だ。

 ならばシズクは何に違和感を覚えたのだろう、と一同が首を傾げたところで。

 

「へぇ、君は勘がいいねぇ」

 

 と、女性の声が後ろから聞こえた。

 

 振り返る。

 するとそこには、一人の女性アークスが立っていた。

 

 前髪を掻き上げた、黒髪のミディアムレイヤーと赤い眼鏡。

 そして何より、好奇心旺盛そうな瞳がこの女性の気の強さを表している。

 

「気を付けたまえよ、そこの床は落下式の罠だ。逃げ場を無くし、敵対生物をなぶり殺しにする龍族の知恵さ」

「……貴女は?」

「ああ、名乗るのが遅れたね。私は『アキ』、龍族の研究をしているしがないアークスだよ」

 

 アキ、と名乗ったその女性は、つかつかと【コートハイム】に歩み寄る。

 じろじろと遠慮なしにリィン、メイ、シズクと順に観察していき、シズクの瞳を覗きこんだ瞬間ピタリとその動きを止めた。

 

 シズクの海色の瞳と、アキの翠色の瞳が交差する。

 

「……珍しい色の瞳だね」

「そ、そうですか?」

「ああ、まるで龍族の鱗のようだ」

 

 あんまし嬉しくないシズクであった。

 

「ところでキミ、何でこの床が落下罠だと気付けたんだい? 専門家の私でも、見分けるには少し時間がかかるのに」

「別に罠だと見抜いたわけではないですけどね。何か変だなって思っただけで」

「ほう? 何処が変だと?」

 

 興味深そうに、アキは身を乗り出して訊ねた。

 おそらく【コートハイム】に話しかけたのも、この質問をしたいがためだけなんだろうなと想像しながら、シズクは答える。

 

「いや、何処がとかはないです。ただなんとなく、違和感があって……まあようするに勘ですね」

「勘、か。その答えは科学的ではないな」

「感覚的な答えでスミマセン」

「……いや、謝ることではないよ」

 

 アキは明らかに落胆した様子でシズクから視線を外した。

 

 龍族の研究をしているとのことだが、実は龍族の生態等に関してはまだ分からないことも多い。

 そのヒントにでもなればと思ったのだろう。

 

 ……が、すぐに気持ちを切り替えたようで、パッと頭を上げて会話を続けた。

 

「しかしキミたち、感心しないな。今この惑星にはかの暴走龍が頻繁に目撃されている。危ない目に会う前に帰還することをおすすめするよ」

「あ、えっと、大丈夫ですよ」

 

 切り替えの早さに驚きつつ、メイは応える。

 

「オペレーターがいるので、危なくなったらすぐ帰れます」

「過信は禁物だよ。……だがまあ、それなら普通より安全か……ん?」

 

 と、そこまで話したところでアキの端末が着信音を鳴らした。

 

 通信相手の名前を確認し、そして嫌な顔をしつつも通信を繋げた。

 

「……ライトくんか」

「……五月蝿いよライトくん、もう少し静かに……へぇ?」

「分かった、すぐ戻るよ」

 

 ピッと通信が切断された。

 相手側の人の声は聞こえなかったが、アキはもう帰るということは分かった。

 

「失礼、助手に呼ばれたので私は帰るよ」

「あ、はい」

 

 短くそう言って、足早にアキは去っていった。

 まるで落下罠の説明をするためだけに登場したような早さである。

 

「……何と言うか、言いたいことだけ言って、訊きたいことだけ訊いて去っていったね」

「根っからの科学者、って感じの人でしたね……」

 

 興味があることには、とことん。

 興味が無いモノは、全然。

 

 それがアキの――というより、科学者全体にも言える性質だろう。

 まあ、アキはそれが特に顕著なようだが。

 

「さて……」

 

 アキの後姿が見えなくなった後、メイは仕切り直すように言った。

 

 目の前の、罠だとかいう床を見つめる。

 

「これどうしようね」

『確か床を落下させて、閉じ込めてから囲んで叩くための罠、って言ってたわね』

「つまり?」

『敵が沢山出てきてクエストポイントうはうはね』

「よし」

「わざと」

「ひっかかってやりましょう」

 

 わざとひっかかろう、と満場一致で決定した。

 

 これだからアークスは脳筋だらけとか言われるのである。

 

「じゃあウチとリィンが床に乗るから、シズクは待機ね」

「え? どうしてですか?」

「上からの方がヘッドショット狙いやすいでしょ?」

 

 成程、とシズクは頷いた。

 

 龍族は接近戦を好むものが多い。

 ならば袋叩きにする際も、直接罠床の上に出現してくるだろう。

 

 それなら罠床の外から射撃できるシズクは上に残るべきだ。

 

「それじゃ、行くぞリィン!」

「あいさー」

 

 何のためらいもなく、メイとリィンの二人は罠床に跳び込んだ。

 

 足を着けた瞬間、ガコン! と何かが外れるような音と共に床が急激な速度で落下した。

 

「ひゃっ……!?」

「うおっ……」

 

 想定外の早さに、驚くメイとリィンだったが、床はすぐ止まった。

 

 距離にして五メートルほどだろうか。

 メイは兎も角、リィンが登って戻れるような高さでは無いし、

 

 何より四方は強力な電気の壁に阻まれている。

 

「成程、アークス以外になら有効そうな罠だな」

 

 さらに、ぞくぞくと龍族が沸いて出てきた。

 サディニアン種を中心に、ウィンディラ、ノーディラン、バリドラン等その種類は多種多様だ。

 

『脱出用のカタパルトをそっちに転送するから、それを邪魔されないように敵を殲滅して』

「了解!」

「了解です!」

 

 そして、乱戦が始まった。

 

 リィンの剣が、メイの双銃が、龍族を次々と屠っていく。

 首を刈るように放たれたセト・サディニアンの斬撃は、リィンの盾に防がれる。

 口からビームを放とうしたウィンディラの頭蓋を、シズクの銃弾が撃ち抜く。

 

 龍族優位の場であるにも関わらず、状況は完全にアークス優位だ。

 

 龍族とて、弱くは無い。

 強靭な生命力に、人より遥かに高度な知識を持つ(ドラゴン)

 

 RPGのラスボスとして登場してもおかしくはない性能だ。

 

 だがしかし、非常に残念なことながら。

 

 フォトンを操るアークスは、さながらRPGの違反者(チーター)である。

 

 まあ、ダーカーという腫瘍(バグ)と戦うにはそれくらいできないと、とてもじゃないがやってられないのだ。

 

『メーコ、後ろに三体再出現よ』

「おっけーおっけー」

『リィン、メーコは守る必要無いから攻撃に集中して』

「分かってます……けど……!」

『(身体が勝手に動いちゃうのね……トコトン騎士体質だわこの子)』

 

 この子はやっぱ、シズクとワンセットの方がいいわねぇ、とアヤは溜め息を吐いた。

 

 戦況は楽勝ムードだ。

 故に、アヤの気が緩んだ。

 

 瞬間だった。

 

「……うば?」

 

 ざわり、と全身の産毛が逆立つような感覚がシズクを襲った。

 

 反射的に、振り返る。

 そこにあったのは、渦。

 

 赤黒く、茨のような何かで構成された渦巻き形の『何か』。

 

『っ……! 『ファンジ』よ! シズク、逃げ――』

 

 間に合わない。

 シズクの手足が、黒い茨の渦に絡め取られていく。

 

「あ――」

「シズク!」

 

 リィンの悲痛な叫びが響いて。

 

 シズクの姿は完全に消え去った。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 ファンジ。

 捕縛トラップ型のダーカーである。

 

 まず渦巻き状の形態で狙った獲物を追跡、捕獲。

 その後獲物を仲間から遠く離れた場所までワープし引き離す。

 

 最後の仕上げとして、檻のような形状に変化して獲物を閉じ込める。

 

 そんな、自己完結型の捕縛罠である。

 

 閉じ込めた後は、他のダーカーが群がって敵を仕留めるのだ。

 龍族の落下床なんて話にならないほど高性能かつ狡猾な罠と言えよう。

 

『――とまあ、ファンジっていうのはそんな感じのやつよ』

「大変じゃないですか! 早くシズクを助けに行かないと……!」

 

 龍族を蹴散らしながら、リィンは叫ぶ。

 

 その表情は、心配一色。

 

『落ち着きなさい、リィン』

「これが落ち着いていられますか! あ、そうだ強制送還で……!」

『落ち着きなさいって』

 

 アヤは、あくまで冷静な声で言う。

 オペレーターは、焦ってはいけない。

 

 それは鉄則だ。

 

『シズクの座標は掴んでいるわ。大丈夫、私たちもこの罠をさっさと抜けだして助けに行くわよ』

「な、なんで強制送還しないんですか!?」

『したくても出来ないのよ』

 

 ファンジはアークスを捕獲するための罠だ。

 それなのに、即行で逃げられたら意味が無いだろう。

 

 ファンジ内には、アークスの通信は届かない。

 

 通信阻害をこじ開けられるようなフォトンがあれば別だが、シズクにはまだ無理だろう。

 

「リィン。シズクなら大丈夫だ、アイツも強くなってる」

「で、でも……」

「信じられないのか? シズクのことが」

「ぐっ……」

 

 そう言われては、黙るしかない。

 目を閉じ、開いて、目の前の龍族らを見据える。

 

「――シズクを、助けに行くんだ」

 

 だから、退()け。

 

 

 

 と、リィンが鋭い眼光で龍族を睨めつけている頃。

 

 シズクは目を回していた。

 

 ぐるぐるぐるぐるとコミカルな感じで、だ。

 

「うばー……ダーカー式ワープ、目が回る……成程なぁー、テレパイプが一旦身体をフォトン化するのはこのためでもあったのか……」

 

 生身でワープは、アークス的にも無茶というか、わりと三半規管にクるものがあるのだった。

 

 生命かどうかすら怪しいダーカーか、超越的存在であるダークファルスでもないと耐えられないだろう。

 

「……で、ここどこ?」

 

 ぼやけた視界で、辺りを見渡す。

 黒い茨の檻に囲まれているものの、エリア自体は変わらず浮遊大陸のようだ。

 

 アヤと通信できないか試すも――失敗に終わる。

 

「……成程、そういう罠ね」

 

 ぞろぞろと、まるで虫のようにダーカーが周囲から這い出てきた。

 

 複数人がひっかかってしまう可能性もある龍族の落下罠と違って、

 結構な時間孤立させられるこっちの方がよっぽどか優秀な罠だな、なんて思いながらシズクは銃剣を構える。

 

 幸い、出現したのは小型ダーカーばかりだ。

 檻が壊せればいいんだけどな、と攻撃してみるが、かなり固い。

 

「これはリィンたちが救援に来るまで耐久したほうがいいかな……」

 

 ダガンの爪の様な腕が、シズクに迫る。

 シズクはそれをかわし、すれ違いざまにダガンの足を切りつけた。

 

 しかし、倒しきれない。

 

(近接モードだと、流石に火力落ちるなぁ)

(でもこの狭い檻の中で射撃モードは……)

 

 攻撃を、かわす。

 反撃は最低限に、生き残ることを意識して動く。

 

 それが今のシズクにできる最善だった。

 

(リィンと、先輩)

(まだかなー?)

 

 ちらり、と檻の外を見る。

 

 その瞬間、シズクは目を見開いた。

 

「――『リン』さん!?」

 

 どうしてここに――? という思考が脳を掠める。

 

 いや、今はそんなことはどうでもいいだろう。

 後で訊けばいいだけの話だ。

 

 どうやらまだ向こうはこちらに気付いていない様子。

 

 必死に声を張り上げて、叫ぶ。

 

「『リン』っさーん! おーっい!」

「こっちー! 気付いて『リン』さ……うぉっと」

「『リン』さーん! キリン・アークダーティさーん!」

 

 遠くに居る黒いコートに向かって、叫びまくる。

 

 途中ダーカーに切られかけたが何とか避け、再び叫ぶのを再開する。

 

 その甲斐あってか、向こうはこちらに気付いたようだ。

 真っ直ぐにこちらに向かって走り始めた。

 

「よかった、気付いた。おーい、助けて『リン』さーん!」

「…………」

 

 檻の目の前まで来た彼女は、背に携えた『紫色に光る刀身を持ったソード』を握った。

 

 両手でそれを振りあげ、一閃。

 

 ただの一振りで、ファンジの檻を切り裂いた。

 

「おお……」

 

 流石『リン』さん。と賞賛の声をあげようとして、シズクは『リン』の顔を見た瞬間。

 

「ぶふぉ!」

 

 噴きだした。

 腹を抱えて、笑いだす。

 

「あっはっはっは! ちょ! ちょっと『リン』さん不意打ちすぎでしょ! ぶっふふふ!」

「…………」

何その変な仮面(・・・・・・・)! 受け狙いにしてもセンス無さすぎ! ぷっくく……」

 

 シズクの目の前に居る、シズクが『リン』だと呼ぶそれは。

 

 誰がどう見ても、『リン』ではなく。

 誰がどう見ても、アークスですらない。

 

 ダークファルス、そのものだった。

 

「ひーっ……ん? うば!?」

 

 そいつの手が、シズクの襟元を掴んだ。

 物凄い怪力でシズクの身体を持ち上げ、そのまま地面に叩きつけた。

 

「がっ――!?」

「…………」

 

 押し倒した状態から、さらに剣をシズクの首元に突きつける。

 数ミリ剣を動かせば、シズクの命は絶たれてしまうだろう。そんな距離。

 

 しかし、シズクの対応は呑気なものだった。

 

「わっ、ちょ、ごめん! ごめんよ『リン』さん! その仮面気に入ってたの? い、いやー、良く見ると良い仮面じゃない! 素敵だなー格好いいなー」

「貴様……」

 

 シズクの弁明など無視して、仮面のダークファルスは言葉を紡ぐ。

 

 仮面の所為か、非常にくぐもった声だ。

 

何者だ(・・・)?」

「……?」

貴様は一体(・・・・・)誰だ(・・)?」

 

 流石に、シズクの表情から笑顔が消えた。

 

 目を見開き、海色の瞳で目の前の仮面を見つめる。

 

「――ああ」

 

 少しして、シズクは口を開いた。

 何かの謎が、解けたように。

 

「アナタ、未来から来た『リン』さんなんだ」

「――……!?」

「どうしてこの時間軸に来てるの? ……って、どうせ誰かを助けるためか」

「――何なんだ、何なんだ、貴様は――!」

「ダークファルスになってまで」

 

 助けたい誰かが居るの?

 

 と、シズクが言った瞬間、彼女は剣を振り上げた。

 

 シズクを切りつけるため――ではなく。

 

 横から飛来した銃弾から、身を守るため。

 

「エルダーリベリオンッ!」

 

 銃弾の雨が、シズクの上に乗った彼女を襲う。

 

 仮面は瞬時にシズクの上を退き、放たれた銃弾を全て迎撃した。

 

「シズク!」

 

 次いで、リィンのジャンプ斬りが彼女目がけて放たれた。

 しかしそれはバックステップで避けられる。

 

「シズク、大丈夫!?」

「り、リィン……」

 

 こくり、とシズクは頷く。

 それを見て、リィンはホッと息を吐いた後、剣を構えてシズクを守るように前に出た。

 

 【コートハイム】、集合である。

 

「…………」

「シズク、コイツ、何?」

 

 当然の疑問を、メイはシズクに問いかけた。

 

 シズクは、目の前でソードを構えている(シズク曰く)未来の『リン』を見る。

 

 見つめ合い、末に。

 

「……分からない」

 

 と、言った。

 

「…………」

「全然、見当もつかない。けど、凄く強いのは分かる」

「……!」

「アヤ先輩、ここは逃げましょう」

 

 了解、と通信機から声がした後。

 シズクと、リィンと、メイの姿はそこから掻き消えた。

 

 キャンプシップに、送還されたのだろう。

 

「――――あれは、誰だ?」

 

 仮面の彼女――否、ダークファルス【仮面(ペルソナ)】は、周りに誰も居なくなった浮遊大陸で、一人ごちる。

 

「記憶には、無い。……しかし、あいつは私の正体を……」

「…………」

「……それに、メイ・コートと、アヤ・サイジョウ」

 

 【仮面】は、空を見上げた。

 何処かを、見つめるように。

 

「――何故まだ生きている(・・・・・・・・・)?」

「歴史を改変できる者が――奴以外にもいるとでも……?」

 

 その問いに、答えてくれる者は居ない。

 

 【仮面】はこれ以上考えても仕方ないと思ったのか、握ったままだった剣を背に仕舞い、歩きだした。

 

 




色々と謎が深まる回。
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