普段真面目で頼れる子が、給食で出てきた野菜を食べられないからと残している姿は、
非常に可愛らしいというか萌えるということを。
わたしと、――否、わたしは主張する。
分からないままのことが、一つだけある。
そんな感覚は、シズクにとっては珍しいものだった。
言われずとも大抵のことは察してしまう、超直感能力(自称)。
そんなものを持って生まれてしまったが故に、分からないのに分かるという矛盾はよくあるのに、
分からないことが分からないという普通のことがあまり無いのだ。
それだけに、今回のことは気味が悪かった。
本当は誕生日会の前にはっきりとさせておきたかったが、流石にそれはと自重した。
だから、誕生日会の翌朝。
深夜まで遊んでいたので皆疲れて眠っている中、シズクは一人「朝ごはんの買い出しに行ってくる」という書き置きを残してリィンの部屋から抜けだした。
勿論、朝ごはんの買い出しというのも嘘では無い。
今から向かうのはマクドナ……ファーストフード店だ。
そこで、『彼女』がいつも朝ごはんを食べているという噂を聞いたことがある。
「……居た」
市街地内の、マクド……某バーガーショップに『彼女』は居た。
とはいえ焦って問い詰めたりはしない。とりあえず注文口でテイクアウト三人分と、ここで食べる用一人分を頼む。
ハンバーガーは、すぐに出てきた。
まるで用意していたかのような早さだが、出来たてである。アークスの技術ぱねぇ。
「さて、と」
トレイを持って、『彼女』の元に向かう。
黒いツインテールと、赤い瞳を持った『彼女』。
キリン・アークダーティの元に。
「『リン』さん」
「んあ?」
バーガーを頬張りながら、『リン』は呼ばれた方へ顔を向けた。
眠たげな瞳だ。朝弱いのだろうか。
「お、シズク。おはよう」
「おはようございます。席、ご一緒していいですか?」
「そんな畏まらなくていいよ。どうぞ」
許可も出たので、遠慮なく対面に座る。
『リン』もまだ食べ始めたばかりなのか、未開封のバーガーが六つほど『リン』のトレイに乗せられていた。
(大食いだなー……こういうところで胸の大きさに格差ができるのか?)
「それで、何か用でもあるのか?」
「あ、分かります? 鋭いですね」
「シズクほどじゃないけどな……困っているなら、手を貸すぞ」
内容も聞かずにさらっとこういうことを言ってのける辺り、主人公体質だなこの人。
などと思いながら、シズクは「いえ、困っているわけではないんですけど」と会話を続ける。
「二つ……いや、一つ訊ねたいことがありまして」
「訊ねたいこと? ……驚いたな、シズクにも分からないことがあるのか」
「あたしの直感は万能じゃないんですよ」
もしもシズクの直感が何でも分かる超能力的なものだったら、シズクはとっくに『母を見つけ出す』というレアドロ以外のアークスになった目標を達成しているだろう。
制限はあるのだ。
ただし、その制限がどんな内容なのかはシズクすら知らないのだが。
「充分チートなんだよなぁ……まあいいや、それで、何?」
「『リン』さんって、時間遡航してます?」
「……………………へ?」
予想外の質問に、思わずバーガーが手からぽとりと落ちた。
幸いトレイの上に落ちたので大事には成らなか――いや、そんなことはどうでもいい。
今この子は、何と言った!?
「い、今、何て……」
「その反応を見る限り、当たりみたいですね」
バーガーの封を開け、口に運びながらシズクは言った。
だがこれは、別段訊きたかったことじゃない。
ただの確認作業だ。
「……何を根拠に、その結論に至った?」
「未来から来た『リン』さんに会いました」
「…………」
あんぐりと、『リン』は口を開けた。
その展開は予想していなかったのだろう。
頭に手を当てて、溜め息を一つ。
「何やってんだ未来の私は……」
「心中お察しします」
「シズクが言うと重みがあるわねその言葉……」
落としたバーガーを拾いあげ、口に運ぶ。
「未来の私は……誰を助けるためにこの時間軸に来ていた?」
「それは分かりませんでした」
「ふぅん……」
『リン』の中では、誰かを助けるために動いていることは確定なのだろう。
まあ実際その通りなのだろうけど。
(その未来の『リン』さんが)
(仮面を付けていたことは言った方がいいのか悪いのか……)
判断に迷う。
これもシズクにしては珍しいことだが――判断材料が足りな過ぎる場合仕方が無い。
少し迷って――結局話さないことに決めた。
シズクが確かめたいことは、それとは別だ。
「それで、ここからが本題なんですけど」
「さっきまでのは前座だったのね……」
呆れながら、『リン』は未開封のバーガーに手を伸ばす。
封を開け、パンをどけて、丁寧にレタスとピクルスを取り除いた。
「…………」
「ん? 何?」
「あ、いえ……」
野菜、苦手なのだろうか。
肉ばっかり食べてるからあの胸なのだろうか。
いやいや。
(閑話休題……)
「未来の『リン』さんとちょっと会話したんですけど……」
「へぇ、何か言われたのか?」
「言われたというか、何と言うか……未来の『リン』さんが、あたしのことを知らなかったみたいなんですけど、何か心当たりとかありますか?」
「……?」
言っている意味が分からない、とばかりに『リン』は眉を歪めた。
それもそのはず。
『今』の自分が知っている人物を、『未来』の自分が知らないなんてこと――有り得ない。
しかも、相手は特徴もないモブではなく、シズクだ。
この子ほど強烈なキャラクターをしている人間など、そうそういないだろう。
「いや……心当たりもなにも、そんなの有り得るのか? 私によく似た別人、って可能性は無いのか?」
「有り得ないです。あれは間違いなく、『リン』さんでした」
「…………」
『リン』は少し考えるような仕草をしながら、バーガーを一口噛む。
シズクもまた、手持無沙汰になってしまったのでポテトを摘まむ。
薄い塩味と、芋の甘みが丁度いい。
「……すまん」
バーガーを一つ食べ終わって、ようやく『リン』は口を開いた。
出てきた言葉は、謝罪の言葉。
「全然分からない」
「そう、ですか」
明らかに、シズクの声色が落ち込む。
「……でも」
「うば?」
「こういうことに詳しい人なら知っている」
思わず、シズクはがたりと椅子から立ち上がった。
「ほ、本当ですか!? 紹介してください!」
「紹介はできない」
「ええ!?」
「いや、意地悪言っているわけじゃなくて本当に出来ないんだ」
どうどう、と手で抑え、シズクを座らせる。
口を尖らせながらも、シズクは素直に椅子に戻った。
「私も詳しくは知らないんだけどな、どうも私以外に知覚できない存在なんだ」
「うば? 何ですかそれ、妖精か何かですか?」
「まあ、そんな感じだと思っててくれればいい」
一瞬、シズクの直感ならば『彼女』すら知覚できるんじゃないか? という疑問が脳を掠めた『リン』であったが、その考えはあっさり捨てた。
(何と言うか、『シオン』は……)
(もっと別格というか、別次元の存在な気がする)
「兎に角、そいつに訊いておくよ。何か分かったら連絡する」
「うばぁ……分かりました」
微妙に納得していない顔だが、シズクは頷いた。
『リン』が何一つ嘘を吐いていないことも分かるのだろう。
(私も気になるしな……)
(知っているかは兎も角、教えてくれるかは微妙だが)
確か質問があったら何時でも受け付ける的なことを言っていた気がするし、呼べば出てくるだろう。
そんなことを考えながら、『リン』は新たなバーガーの封を開けた。
パンと肉と野菜が幾重にも重なった巨大バーガーだ。
その中から、レタスとトマト、ピクルスを慎重に抜いていく。
「…………『リン』さん」
「ん? 何? ちょっと待って今集中してるから――」
「いや、このお店って食べられない具って抜いてもらえるように頼めますよ?」
「えっ」
マジで? と『リン』は目を丸くした。
マジです。とシズクは頷いた。
「私の、今までの苦労は……いや、何と言うか……」
「…………」
「良いことを教えて貰った、次からはっ、事前に頼むようにしよう」
若干涙目な『リン』から目を逸らし(見てはいけないものを見てしまった気分だ)、シズクはバーガーを食べ終え、立ち上がる。
「あの……その、じゃああたしはこれで失礼しますね」
「うん、何か分かったら連絡するわ」
「はい、お願いします」
言って、シズクはその場を立ち去った。
背後から聞こえる鼻をすするような音を、聞こえないふりしながら。
今更だけどしまむらTシャツ買えなかったぞシーナァ!
これも今更だけどコレクトファイルでサイコウォンド簡単に手に入って嬉しいぞシーナァ!
でももう五属性揃えてるから大して意味無いんだぞシーナァ!