お風呂上がり。
着崩した服、微かに濡れた肌、しっとりと肌にはりつく髪の毛。
三つの要素が女性の色っぽさを強調する筈なのだが、フォトンの力ですぐに乾燥したので皆いつも通りの見た目である。
「あ、そういえばさー、シズク」
「はい?」
チームルームの椅子に座ってジュースを啜るシズクに、メイが思い出したように話しかけた。
内容は、さっきアヤと話し合ったアレについて。
「リィンがさ、自分の家について知らなかったのってどう思う?」
「どう、とは?」
シズクは首を傾げた。
ちなみにリィンはお手洗いだ。
「さっきアーヤとウィスパーで話し合ってたんだけどさ、リィンが自分の家の凄さを知らなかったのって、おかしくないか?」
「私でも、サイジョウ家が普通と違うだなんて五歳から教わってたわよ」
ずい、とアヤが会話に割り込んだ。
そう、教わっていたのだ。
例外はあるかもしれないが、名家の家というのは家柄を重視するものだ。
アークライトは最上級の武家一族。
そのお嬢様が家のことも知らずに、【
「だからこう、お得意の直感でその理由を察してくれないかなと」
「私たちは姉の仕業だと睨んでるんだけど、アナタの意見が聞きたいわ」
「うばー……」
シズクはストローから口を離し、考えるように腕を組む。
一分ほど考えて、ようやくシズクは口を開いた。
「分かんないです」
「……え?」
「皆目見当がつかないです」
推測すら浮かばない。
直感がまるで働かない。
「そんなこともあるんだね」
「多分、制限に引っかかってます。どうもあたしの直感って何かしらの制限があるみたいで……」
ジュースを再び啜りながら、シズクは申し訳なさそうに言った。
制限。
そんな単語が出てくるならば、もうシズクの直感は『直感』というよりも『能力』と言い換えた方が良い気がしてくる。
「いやいや、分かんないなら仕方ないわよ」
「そーそー、気にすんな」
と、その時だった。
【コートハイム】全員の端末が、メールを受信した旨を知らせる音を鳴らした。
何か上層部から重要情報でも発表されたのかな? とメール画面を開き、シズクは「あっ」と思わず声を漏らした。
差出人はマコト。
【アナザースリー】との、合同祝勝会の日程が決まったとの連絡だった。
*****
(ハドレッド……か)
惑星アムドゥスキア・浮遊大陸エリア。
エメラルド色の空に浮く草原を、黒いコートに身を包んだ女性――『リン』は歩いていた。
(裏切り者の暴走龍……それだけなら、確かにアークスの敵なんだけど……どう考えてもそれだけじゃないよなぁ)
「……どうですか? ハドレッドの足取りは……」
突如。『リン』の知覚の外から声がした。
しかしそれも最近はよくある話である。
『リン』は落ち着いて、背後から来た始末屋の方に振り返る。
「……って、つかめていないですよね」
「…………」
「顔を見ればわかります。気にしないで下さい、わたしも似たようなものですから」
背後には、想像通り見知った少女が居た。
毛先が赤い、青色のツインテール。
ゼルシウスと呼ばれる隠密機動向けのぴっちりした服を身に纏い、両腕に仰々しい形のツインダガーを携えた美少女だ。
名は、教えてもらっていない。
ただ、『始末屋』という物々しい役割であることだけを知っている。
「……でも、諦めはしません。あの裏切り者を、この手で始末するまでは、絶対に……!」
「…………」
「わたしたちを……わたしを裏切り、去っていったあいつは……絶対に許さない!」
「……なぁ」
思い出しただけで腹が立つのか、唇を噛み、肩を振るわせる『始末屋』。
この様子だと、この子にとってハドレッドは『裏切り者』なのだろう。
少なくとも、そう知らされてきたのだろう。
けど、ただの『裏切り者』に、ここまで憎悪を抱くものか?
有り得ない。
ならば、ハドレッドなる暴走龍は、この少女にとって信頼できる
友なのか、姉弟なのか、恋人なのか。
それはまだ、分からないけど。
「……なんですか?」
「いや、訊きたいことがあってだな」
訊きたいことは、一つ。
ハドレッドが何故裏切ったのか、何か、理由があったんじゃないか? ということ。
この少女が知らなくても、少なくとも上司は知っているだろう。
それが分かれば、『ハドレッドを助ける道』もあるのではないか、と何処までも救世主的な考えをする『リン』だったが、その問いは少女を怒らせるトリガーだったようで……。
「ハドレッドが何故裏切ったのか? 理由があったんじゃないか、って?」
「うん」
「……っ! 知りません! わかりませんよ! わたしはそこにいなかった!」
「いや、君が知らなくても上司とかに……」
「裏切り者は、裏切り者なんです! ハドレッドは裏切ったと、そう、伝えられたから……」
そこまで口にして、カッとなったことに気付いたのか少し声音を抑える少女。
だが、まだ怒っているようでその声色は怖い。
「結局、わたしはあいつのことなんて何もわかっていなかった! それだけのことなんですよ……!」
「…………そう、か」
少女の、怒号は。
『リン』に向けられたものではない。
ハドレッドに、か。はたまた自分に、か。
このことを、これ以上訊くにはまだ情報が足りないように思えた。
「…………」
失礼します。の一言も無しに、少女は去っていった。
いつも通り認識阻害の『何か』を使って、視界から消えていく。
「……んー、あー……」
分からん。と一人になったことを確認した後、呟いた。
何か、とっかかりが欲しい。
推測でも直感でもいいから、手掛かりが一つあればなぁ……。
「あっ」
と、そこまで考えて、思いついたように『リン』は声をあげた。
およそ自分の知る限り、最強の推測と直感を持つ女の名前を呟く。
「シズク……」
訊いてみる価値はあるかもしれない。
例え本物の答えじゃなくても、彼女なら『とっかかり』を作ってくれるかもしれない。
でもそれには、およそこちらからコンタクトは不可能な『始末屋』にもう一度会う必要がある。
「……次、会った時紹介してみるか、シズクを」
呟いて、浮遊大陸の探索を再開し始めた。
彼女の内に眠るマターボードの光が、微かに弱まったことに気付かずに。
ストーリーが少し進んだと思ったら次は合同祝勝会です。
いつも四人を動かすことにすらヒーヒー言ってるのに七人同時日常会とか、今から怖いです。