AKABAKO   作:万年レート1000

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察しが良すぎる系主人公


初めてのレアドロ

 通常、ドロップアイテムとして落とすアイテムは通貨(メセタ)、回復アイテム、武器防具にグラインダーやシンセサイザーである。

 ボスを倒したからってそれが変わるわけではない。

 

 だがしかし、一定以上巨大なモンスターは『赤い結晶』を落とすのだ。

 この結晶を割ると複数のドロップアイテムが出てくるという仕組みになっている。

 

「……これが赤い結晶かぁ、思っていたより大きいね」

「この中にドロップアイテムが詰まっているんだよね! レア来いレア来い!」

 

 ロックベアを倒した跡地に、若干透けている赤い結晶が浮かんでいた。

 結晶のサイズはシズクとリィンの身長程度だ、この大きさはどんなボスエネミーでも変わらないらしい。

 

「じゃ、割ろうか」

「あたし! あたしが割る!」

「はいはい」

 

 どうぞ、とリィンは一歩後ろに下がった。

 

 シズクは溢れんばかりに目を輝かせ、ガンスラッシュを剣モードにして振りかぶった。

 

「レアドロ、来いこーい!」

 

 銃剣が振り下ろされ、ガラスが割れたような音が辺りに響き渡る。

 

 破片が気化するように消え、ポップな音を立てながらアイテムが散らばっていく。

 

「――……あ!」

 

 シズクの視界の隅を赤い物体が通り過ぎた。

 煌々と赤く輝く、小さな箱。

 

 それは彼女が求めてやまない、紛れもない赤箱《レアドロップ》だった。

 

「や……やったー! 赤箱キター!」

「え!? ホント!?」

 

 ドロップアイテムというのは、原理こそ不明だがアークスごとにドロップするアイテムが違っているのだ。

 つまりシズクにレアがドロップしても、シズクがそれを拾うまではリィンからは認識不可能ということになる。

 

 ただ、パーティを組んでいる人がレアを拾うと他の人に何故か通知が行くシステムがアークスの端末には実装されているので、レアを手に入れると他の人に何を拾ったのかがばれてしまうのだ。(この機能はパーティ内のギスギスに繋がるため一部では廃止が望まれている)

 

「何が出たの?」

「ロックベアからはリドルモールが出る筈だよー! ナックルだからレンジャーじゃ使えないけどコレクターたるあたしには何も問題が……」

 

 赤い箱を拾い、中身を確認。

 した瞬間シズクの表情が固まった。

 

 死んだ魚のような瞳で完全に静止している姿は、まるで時が止まったようで不気味である。

 

「し、シズク?」

「ろ、ろろろろろろ、ろっろっろろろ」

「シズク!? どうしたの!? 一体何が!?」

 

 白目を剥いてがたがたと震え始めた友達に不安を覚えるリィン。

 何と言うか、怖い。純粋に怖い。

 

「ろろろっろおろろろろろろろろろおおおおおおおお――」

「一体何が出たの……ってこれは――」

 

 通知が来た端末を見る。

 

 これは、ひどい。

 リィンは素直にそう思った。

 

「ロックベア……レリーフ」

 

 いらねえええええええええええ! という慟哭がナベリウス森林エリアに響き渡ったとさ。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「あぶぁー。ロックベアレリィフゥー。あびゃびゃー……」

「どんまいとしか言いようがない……ほら、まだ数匹ダーカーを倒さなくちゃいけないんだからがんばろ?」

「うばー……」

 

 すっかり魂の抜けたシズクを背にしつつ、リィンは生い茂る草木に足を取られないように歩を進める。

 

 残り……三匹くらい狩ればノルマ達成なので、さくさく倒してさっさとアークスシップに戻った方がいいだろう、と判断してレーダーでダガンを探し始める。

 

「……っと、レーダーにダガン三匹の出現を確認。……シズク、戦えそう?」

「あばー」

 

 魂の抜けた顔をしながら、しっかりガンスラッシュを構えて親指を立てるシズク。

 どうやら戦えるようだ、少し安心した。

 

「……発見っと」

 

 レーダーを見ながら進むと、赤黒い靄を発しながら地面から這い出るようにダガンが三匹出現した。

 アークスのレーダーは本当に優秀だ。

 

「ソニックアロウ!」

「エイミングあばー」

 

 ソードから放たれるかまいたちと、ガンスラッシュから放たれたフォトン弾がそれぞれ敵を一蹴する。

 

 二匹のダガンが倒れ、黒い粒子を撒き散らしながら散っていく。

辛うじて攻撃から逃れた最後の一匹が突貫してくるも、ロックベアの攻撃すら全てジャストガードしてみせたリィンの反応速度を超えられず、ダガンの爪による攻撃はフォトンの盾によって阻まれた。

 

「ツイスターフォール!」

 

 縦回転と共に振り下ろされたソードがダガンの脳天を叩き割った。

 

 ぎちぎちと虫のような悲鳴をあげて、ダガンは消えて行く。

 跡には赤色の箱だけが煌々と輝いて残るばかり……。

 

 …………。

 

 ……赤色?

 

「『ブラオレット』だ……」

 

 リィンは赤箱を手に取り、中身を確認して呟く。

 

 それは紛れもなくシズクの求めるレア武器であるブラオレットだった。

 そして当然、リィンがレアを拾った通知はシズクにも行っているわけで……。

 

「…………あの」

「あびゃー」

「シズク、私ブラオレット出ちゃった」

「…………」

「…………あの」

「…………ぐすっ」

(泣いた!?)

 

 少しの沈黙の後、シズクの瞳からぼろぼろと大粒の涙がこぼれ落ちてきた。

 

 流れ落ちる涙を止めようともせず、鼻を真っ赤にして眉をゆがめるその姿は誰がどう見ても紛うことなくガチ泣きだ。

 

「ひっく……ぐず……どぼじてあたしばっかレアが出ないのぉ……ダガンなんてもうすぐ討伐数が四桁超えるのにぃ……」

「四桁!? 運無さすぎじゃない!?」

「うぅ……これが噂のBUTUYOKUセンサーなのかなぁ……あたしなんてどうせ一生涯コモン武器を使って生きるんだ……ぐすっ」

 

 子供のように泣きじゃくるシズク。

 あまりにもレアが出ない為、そうとう鬱憤が溜まっていたのだろう。

不満が爆発したように涙が次から次へと溢れてくる。

 

「皆当てつけのようにレア拾いやがっでぇええええええ!」

「じゃ、じゃあこのブラオレットあげるわよ」

「え!? ホント!? ……って駄目!」

 

 一瞬顔をあげて眼を輝かせたシズクだったが、すぐに両の手で×を作った。

 差し出された赤箱を、押しのけるように拒否する。

 

 どうやらレア武器コレクターとしてのプライドがあるようだ。

 

「あたしはコレクターだから! レアは自分でドロップして集めるものだからー!」

「でも私ガンスラッシュ使わないし、シズクが持っていたほうがいいでしょう?」

「あた、あたしは、自分で出すし、ブラオレットくらい自分で出すし」

「…………」

 

 強情である。

 レア武器コレクターとは皆こんななのだろうか?

 

 ただ――。

 

(ブラオレットを見る眼が、明らかに欲しいのを我慢してそうなのよね……)

「うぅ……ぐす……」

(……にしても泣き顔可愛いわねこの子)

 

 って、今それは関係ないことである。

 頭を振って、これからどうするべきかを考える。

 

 まあ、少なくともこんなくだらないことで友達解消なんてことは勘弁である。

 

 あまり無い対人関係能力を振り絞る。

 ……むしろ今必要なのは子供をあやす能力なのだが、その辺りに気付かないが故のコミュ力不足者である。

 

「…………いや、やっぱりこのブラオレットはシズクが持つべきよ」

「? だからあたしは――」

「これは私のためよ、シズク」

「リィンのため?」

 

 首を傾げるシズク。

 しかし流石の察しの良さで、すぐにリィンが何を言おうとしたか理解したようだ。

 

「ああ、あたしがブラオレットを使うことによって火力が上がるから、これからよく一緒に組むであろうリィンも助かるってこと?」

「そ、そうよ。話しが早くて助かるわ」

「でもあたしが武器更新するよりリィンが遠距離攻撃手段(ガンスラッシュ)を持った方が殲滅力が上が――」

「いいのよ! 私はソード以外使わないから!」

「そ、そう?」

「そうよ、だからこれはアナタが持ちなさい」

 

 ぐい、っとブラオレットの入った赤箱をシズクに押し付ける。

 シズクの手が、それを手に取――らない、直前で引っ込んだ。

 

 が、その引っ込んだ手を掴み、リィンは無理矢理赤箱を持たせる。

 

「コレクションにしなくていいから、貰って欲しい。それとも、と、とと……友達からのプレゼントは受け取れない?」

「……っ。そんな、ことは、ない」

 

 ようやく、シズクは赤箱を受け取った。

 (ロックベアレリーフを除けば)初めて手に入れたレアに、自然とシズクは頬を緩める。

 

「えへへぇ、ありがとお」

 

涙でぐしゃぐしゃになった赤い顔をにへらと歪ませ、まるで玩具を買ってもらった子供のような表情で笑った。

 

 ドキリ、とリィンの胸が高鳴った。

 

「――っ、え、あ。どういたしまして」

「? どうしたの?」

「い、いや何でも無い。それより早くキャンプシップに戻ろうよ」

 

 いつまでもこんな森林エリアのど真ん中にいたら、また原生生物やダーカーとの戦闘になりかねない。

 帰還は早々にした方が良いだろう。

 

「それじゃ、帰りますか」

 

 シズクも当然その提案を受け入れた。

 こうして、初めてのパーティプレイは概ね成功に終わったのであった。

 

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