「あ、いたいた」
場面は変わってコスチュームショップ。
きゃぴきゃぴ(死語)と服を選んでいたシズクとマコト、それとラヴ(キャストの癖に一番ノリノリ)の三人に近づく影が二つ。
メイとアヤだ。
二人に気付いたシズクが、ぱっと見ていた服から顔を上げて手を振った。
「どーも先輩方、メイ先輩は頭大丈夫ですか?」
「おう。でも『頭の怪我は大丈夫ですか?』って訊いてくれ、それだとウチが頭おかしいみたいじゃないか」
「メーコの頭はまあギリギリ大丈夫よ」
「アーヤ!?」
酷い扱いだ。
しかしアウトと言われなかっただけまだ温情を感じる。
「ところでリィンは? リィンのファッションショーは?」
「リィンは武器迷彩ショップに行ってしまったので中止となりました」
「がびーん!」
折角急いで来たのに、とメイは拗ねるように口を尖らせた。
「仕方ない、先輩に暴力を振るったことを盾に無理矢理連れてくるか……」
「あんたさっき医務室で言ってた言葉もう一度言ってみなさいよ」
「冗談冗談」
けらけらと笑いながら、メイも服を漁りだした。
その様子を見て、アヤは溜め息を吐いてからシズクたちの方を向く。
「……まあいいわ、シズク、マコト、どう? 良いコスチュームあった?」
「はい。……ラヴやんがセクシーコスチュームを次から次から持ってくるので苦労しましたけど……これにしようかな、と」
言って、シズクは買い物かごから透明なプラスチックのようなものに収納されたコスチュームを取り出した。
『ジーナス・レプカF影』。
身体のラインがはっきりと分かるようなぴっちりとした黒いアンダーシャツの上から、体型を隠すようなこれまた黒いコートを羽織っているコスチュームだ。
翡翠色のネックレスと、クロスするように巻かれたベルトがアクセントとしてとても良い働きをしていて、
何よりシズクの赤い髪が、よく映えてくれるであろう色合いだった。
「へぇ、いいわね。マコトは?」
「ボクは……その、まだ迷ってて……」
マコトの手には、二つのコスチュームが握られていた。
『フロートエミッションF雪』と、『ロレットベルディア』。
片やマコトのイメージに合ったボーイッシュなパーカー風コスチューム。
片やマコトのイメージからかけ離れたふりふりの女の子を詰め込んだようなコスチューム。
アヤの視線に気づいてすぐにふりふりの方――『ロレットベルディア』を棚に戻したが、シズクの眼は誤魔化せない。
ははーん、とシズクはにやりと笑った。
「マコト、今戻した服似合うと思うから着てみたら?」
「ぅえ!? い、いやいやボクにこんな可愛いの似合わないよ!」
マコトは頬をカァッと赤くし、顔の前で腕を振って否定した。
しかしなんというか、その態度はこう言っては何だがテンプレ的だ。
実は興味津々、というのがシズクじゃなくても察せられる程には分かりやすい。
「えー? 絶対似合うってー、着てみて着てみて」
「や、やーだー! 絶対似合わないから!」
「こら、シズク」
調子にのりだしたシズクを諌めるように、アヤはぺちりとシズクのおでこを
「てへぺろ」、と反省している感じゼロのシズクを見て呆れつつも、アヤは言う。
「良い? シズク、確かに普段ボーイッシュな子が突然可愛い服を着て女の子らしく振舞うのは凄まじいギャップ萌え旋風が巻き起こるわ……でもね」
「?」
「『美少年のような美少女』、というのもまた貴重な存在だわ。そんな子は、男の子みたいな格好をすることを義務付けられてるのよ」
「一理ありますね……」
「初耳ですけど!?」
シズクは頷いて、マコトは頷かなかった。
当然である。
「と、いうことでマコト、この『レディバトラーコート』を着るのよ」
「どういうことでですか!?」
「いいからいいから、ちょっとこれを着て私に
「こら」
ぺしん、と今度はアヤの頭がメイに軽く叩かれた。
「後輩をいじめちゃ駄目だろ」
「ちぇー……」
「それに…………その、アーヤの執事はウチだけなんだし」
言いながら、メイは照れたように顔を背ける。
最後の一言は余分だったなと後悔するがもう遅い。
「…………へぇー」
それを見て、アヤは一瞬呆気に取られた後にぃーっと満足げに笑みを深めた。
本当に嬉しそうで楽しそうな笑みだ。
でもちょっと怖いのは何故だろう。
「……シズクシズク」
「ん? 何?」
声のトーンを落としたマコトが、こそこそとシズクに話しかけてきた。
まあ内容については、容易に察しがつく。
「あの二人って……恋人同士なの?」
「ううん、どっちかというと夫婦かな」
「そのレベルなの!?」
なにせ生まれた時からの幼馴染だ。
互いに知らないことの方が少ない間柄だろう。
そんなのもう、恋人というより夫婦と言った方がしっくりくる。
「ふぅん……進んでるなぁ……」
(爛れてるの方が正しいんだよなぁ……)
「あ、ところでシズクはどうなの?」
「え?」
一転、メイたちにも聞こえるような声量に切り替えてマコトは言う。
からかう様な、ではなくふと気になったから聞いたような口調だ。
「だから、シズクとリィンはどういう関係なの? もしかして恋人同士だったりする?」
「うば……!?」
「あー違うよ違うよ」
メイがすげぇ笑顔で会話に割り込んできた。
もしかして弁明してくれるのだろうか、なんて期待は抱かない。
むしろ(げぇ! メイ先輩!)っと心の中で叫んだくらいだ。
「シズクの片思いだよ」
「うばー! うばー!」
「えー!? そうなの!?」
「え? 何何? 面白そうな話?」
「ラブの匂いがしますねぇ」
流石女子というか何と言うか。
恋バナへの喰いつき具合が半端ない。
少し離れていたところで
「ち、ちがっ……!」
「違うの?」
「違わ…………な、い、けど……」
カアァっと顔を赤くしながら、シズクはゆっくりと頷いた。
それに伴って場のボルテージは上がり、黄色い歓声が飛び交いだした。
「どういうところが好きなの!? なんかこう……好きになったきっかけとかってある!?」
マコトがテンプレ的な質問を飛ばし、
「げっへっへ、ついに認めたねぇシズク」
メイがゲスい声で煽り、
「そこまでにしときなさい」
「あふん!?」
それをアヤが水平突きで諌め、
「やっぱおっぱいが決め手ですか? あの大きいのが決め手ですか?」
ラヴがもっとゲスい質問を投げ飛ばす。
カオスである。
聖徳太子でもないととてもじゃないがさばけないだろう。
とりあえずラヴの質問は無視するとして、マコトの質問に答えることにした。
だが、ここで慌てふためき照れながら答えるなど愚の骨頂。
そんなことをすればこのただでさえカオスな場がさらに盛り上がること間違いなしだ。
ここはクールに、冷静に、慌てることなく、特に恥ずかしいことでも無いように答えるのがベスト。
「えっと……好きなところは、背中。好きになったきっかけは……特にない、けど」
「けど?」
「けど……その……」
やっぱ駄目だ。
顔が赤くなるのを止められない。
視線を逸らして、俯き気味に答える。
「あんなにいつもいつも……守って貰ってれば……そりゃ、ね」
またもや、黄色い歓声が沸いた。
駄目だこれ、滅茶苦茶恥ずかしい。
思わず顔を両手で覆ってしまうレベルの羞恥プレイだ。
「あー、だから背中が好きなんだ」
「うぅ……もういいでしょ解放して……」
「駄目」
マコトが両腕を交差させてバツを描いた。
どうやらまだこの羞恥プレイは続くらしい。
「リィンはどうなのかなー、両想いだったりするのかな?」
「シズク、その辺分かんないの? お得意の察し能力で」
「「察し能力?」」
マコトとラヴが頭上にはてなを浮かべた。
そういえばシズクの察しのよすぎることについて説明していなかったな、とメイは軽く説明を始める。
「そっか知らないのか。かくかくじかじか」
「まるまるうまうま……えーっ!? シズク凄いじゃん!」
なんという便利な説明方法なのだろうか。
一瞬にして事情の説明完了である。
「道理でファルスアーム戦のとき、あんなに的確な指揮ができたんですねぇ」
「じゃあリィンの気持ちも察せるんじゃないの? それとも『制約』ってやつに引っかかるのかな?」
「んー……」
腕を組み、なんと説明したらいいのか考える。
シズクの『察し』は、結構主観的な要素が強くて他の人には説明しづらいのだ。
「なんかこう、分かりやすい人と分かりにくい人といるのね」
「ほほう?」
それは新情報だ。
シズクは話を続ける。
「分かりやすい人は、もうなんか全部『見える』。ほんの少しの情報からその人の思想・本質・性質……その他諸々色々『見える』」
シズクの海色の眼が、薄く光る。
「けど、分かりにくい人はもっと多くの情報が必要になってくるの。それに分かりやすい人ほど色々な情報が見えるわけじゃない」
「……へぇ。ウチはどっち?」
「先輩方は分かりにくいです。【アナザースリー】の皆もどっちかというと分かりにくい、かな」
「リィンは?」
「ぶっちぎりで、分かりにくいです」
お手上げだ、と言った風に両腕を広げるシズク。
それを見て、残念そうにマコト口を開いた。
「あー……じゃあリィンの気持ちは分からないわけだ」
「そういうことですね」
「意外だなぁ、リィンって結構分かりやすい性格してると思うんだけど」
「最初は分かりやすかったんですけどね。段々と分かりにくくなっていったんですよ……あ、あたしレジ行ってきます」
「ん? おう………………あっ」
逃げられたーっというメイの声を背に、ジーナス・レプカF影を持ってレジに向かう。
コスチュームショップのレジも、武器迷彩ショップと同じく円の形をしているレジだ。
丁度一列誰もいない列があったので、ラッキーと呟いてそこに向かう。
「これください」
「ありがとうございます。七十五万メセタになります」
「はい」
七十五万。
新米アークスにとっては高額に感じる値段だが、実はアークス用のコスチュームの中では安い方だ。
それに、【コートハイム】クラスのチームならば、既に出せない額ではない。
「あっ」
お金を払って、商品を受け取ったところでシズクは何かに気付いたように声をあげた。
一旦アイテムパックに商品を入れようとしたら、アイテムパックが一杯になってて入らなかったのだ。
アイテムパックとて万能ではない。
何でも入れられるわけではないし、無制限に入れられるわけではない。
でも要らないものを倉庫に送ればまだ入るのでまるで問題なしだ。
アイテムパックを開き、倉庫に送っていいものがないか探す。
グラインダーやシンセサイザーとかの装備強化品や、特殊能力追加のために拾ったコモン武器防具を選択しつつスクロールしていくと……。
とあるアイテム名が、シズクの眼に映った。
「『クーナのライブチケット』……そういえばあったなぁ」
【巨躯】戦前、の更に前の森林緊急前。
先輩方から貰ったチケット二枚。
悪いから返すって言ったのに受け取ってくれなかったので、結局貰ったままだったやつだ。
「…………」
リィンと一緒に行くことになるんだろうけど……それはそれで悪くないんだけど……。
「……なんか、どうしても意識しちゃうなぁ」
絶対このタイミングで二人きりでライブとか、からかわれるじゃないか。
「皆で行きたいなぁ……」
皆で行けるだけのチケットが、手に入ればいいんだけど。
……だがまあ、叶わぬ夢だ。
なんせクーナは今が旬の大人気アイドル。
そのライブチケットが簡単に手に入るわけがない。
しかももうライブ当日まで数日だ。
逆に考えよう、リィンと距離を縮めるチャンスだと。
からかわれてもいいから、好きな人にアタックするチャンスだと。
そんなことを考えながら、レジを離れてマコトらが居る場所に向かう。
(メイ先輩女性平均よりも背が高いから、分かりやすくて助かるなぁ……ん?)
橙色の髪の毛を頼りに皆と合流したシズクの眼に、見慣れた青い髪の少女と巨乳ニューマンが入った。
リィンとリナだ。
丁度シズクが席を外した瞬間に戻ってきたのだろう。
手を振りながら、近づく。
「リィン! リナ! …………ん?」
「むあ、シズク。さっきぶりね」
「……何やってるの?」
シズクが思わずそうツッコんでしまったのには、当然理由がある。
謝ろうとしているのか、必死に頭を下げようとするリィンと、
謝らせまいと、リィンの顎を持って上を向かせているメイという珍奇な光景が繰り広げられていたのだ。
こんなのツッコミを入れざるを得ないだろう。
「シズク聞いてよ、メイさんが謝らせてくれないのよ」
「だーかーらー、ウチが悪いから謝らなくていいって言ってんじゃん」
「せめて気絶させてしまったことくらい謝らせて下さいよ!」
「いらん!」
仲良いなぁ、と嫉妬半分呆れ半分で渇いた笑いを浮かべつつ、シズクは二人に近づく。
からかわれた仕返しを、思いついたのだ。
「リィンリィン」
「ん? 何?」
「あたしに良いアイデアがある。ちょっと耳貸して」
ごにょごにょかくかくじかじか、とリィンに耳打ちをするシズク。
その作戦を聞いたリィンは、一瞬驚いた顔をした後、にやりと笑って顔をあげた。
「メイさん」
「何? 何の悪だくみ?」
「いえいえ、全然悪い事とか考えていないので……」
アクセサリーショップに行きましょう、とリィンはシズクに言われた通り提案するのであった。
ちなみにシズクからリィンへの気持ちは先輩方気付いていましたが、リィンからシズクの気持ちはまだルインくらいしか知りません。
……知らないよね? 特に描写なかったよね?
シズクの能力について補足。
普通の人間が他人を見ることで得られる情報量を10とすると、
シズクは分かりやすい人なら100、分かりにくくても30くらいは察します。
リィンは20くらいです。