ちょっと駆け足気味かもしれない。
「アクセサリー? 何買うの?」
「うっばっば、さっき通ったときにチラッと見えて気になってたのがあるんですよ」
アクセサリーショップ前。
店内ではなく、店頭に客寄せとして置いてあるサンプルの中の一つ。
羽根の飾りが付いた皮ブレスレットを、手に取った。
「ブレスレット?」
「はい。でもただのブレスレットじゃないですよー」
言いながら、シズクは同じブレスレットを次々と取っていく。
その数四つ。
内一つを自分の腕に巻いて、残りも【コートハイム】メンバーに着けていく。
「これはチームアクセサリーです」
「チーム、アクセサリー……」
全員の腕にそれを着け終えたところで、シズクは羽根のブレスレットを着けた方の腕を前に出した。
それに追随するように、リィンとアヤも腕を出す。
後は、メイだけだ。
「これを誕生日プレゼントってことで受け取って貰えませんか? メイ先輩」
「…………」
チームアクセサリー。
要するに、チームメンバーが共通で装着するアクセサリーのことである。
結束を強めるため、とか。
メンバーとそれ以外を区別しやすくするため、とか。
色々チームアクセサリーが着けられる理由はあるけれど。
【コートハイム】に於いてこれは、まさしく『家族の証』になるのだろう。
「……ふっ」
メイは、薄く笑った。
勝ち誇るような笑みだ。
「やれやれだぜシズク、リィン。確かに嬉しい――これ以上無いくらい嬉しいプレゼントだが、身構えていた分涙腺崩壊とはいかなかったぜ……」
「ああ、あとこれもプレゼントです。リィン」
「うん」
シズクとリィンが、端末を開いて操作をし始めた。
程無くして、メイの端末がメールの着信を告げる電子音を鳴らす。
二人が送ったメールが届いたようだ。
「日頃の感謝を込めた、
「万が一デパートに良いモノが売ってなかったら送ろうと思って二人で考えたんですよ」
「な……!?」
送られてきたメールを、開き、閉じる。
やばい。
ほんの一行読んだだけだが、もう涙腺崩壊しかけた。
破壊力高すぎである。
危険物指定してもいいんじゃないかこれ。
「これは……マイルームに帰ってからゆっくり読ませてもらうわね」
「えー、今読んでくださいよー」
「嫌だよ! どんだけウチを泣かせたいのさ!」
「さっきからかわれた仕返しです」
「こんな仕返し見たことねー!」
誕生日を利用した、斬新すぎる仕返しである。
ていうか、これが仕返しとして成り立っているのがおかしい。
「はぁ……。全く――本当、困った後輩だよ」
それでも、最後は嬉しそうに笑って。
メイはブレスレットを着けた腕を、前に出した。
こつん、と四つの拳がぶつかる。
「…………にひ」
「ふふ、何だか気恥ずかしいわね」
「喜んで貰えてよかったわね、シズク」
「うばー、ホントね」
ホッと胸を撫で下ろす。
何故か仕返し扱いになってしまったが、何はともあれ喜んでもらえてよかった。
さて……。
「それじゃあ、お会計するので一回外して下さい」
「この、台無し感」
「何故先に買っておかなかったのか。それが分からない」
ぐだぐだである。
が、まあそれもまたそれとして、良い思い出になるだろう。
「どうせなら皆でレジいこっか」
「お金はあたしたちが払いますからねー」
「はいはい、プレゼントだもんね」
話しながら、四人でレジに向かう。
「いいなぁ……」
そんな【コートハイム】ほのぼのとした後ろ姿を見ながら、マコトは羨ましそうに呟いた。
「ああいうの、ボクらも何か買う?」
「い、いいわね。どんなのにする?」
「それじゃあ私はこのピンクの――いたっ!」
ラヴが何か言う前に、マコトのチョップが炸裂した。
最早反射行動的な攻撃である。
しかし、今回ばかりは……。
「ピンクの……小さい宝石が付いた……首にかけるタイプの指輪」
マコトが、悪かったようだ。
俯きながら、ラヴは店内から持ってきたネックレスリングを二人に見せるように掲げた。
「…………ごめん、なんかこう、震える奴かと思って」
「うぅ……これがHIGOROのOKONAI……」
「じ、自覚はあるんだね……」
「お待たせー」
そんなやりとりをしていたら、【コートハイム】の四人がレジから戻ってきた。
腕には全員お揃いのブレスレット。
やはり少し羨ましい。
「さ、次何処行く?」
「あ、ちょっと待って」
歩きだそうとしたシズクを止め、マコトはラヴの手からネックレスリングを取った。
うん。
悪くない。
綺麗なネックレスだ、とマコトは頷いた。
「ラヴ、リナ。ボクらもチームアクセサリーとしてこれ買わないか?」
「マコト……」
いいの? という目で、ラヴはマコトを見る。
リナも頷いた。異論は無さそうだ。
だが――問題が、一つ。
「……あのね、マコト」
「うん? 何?」
「それ一つ五百万メセタする」
「…………てい!」
何でそんなの持ってくるんだ、というツッコミと共にもう一度チョップが炸裂するのであった。
*****
一方その頃。
惑星アムドゥスキア・浮遊大陸エリア。
最近の日課になりつつあるこのエリアの探索を行いながら、『リン』は考える。
何故。
ハドレッドは始末屋から逃げるのだろう。
裏切り者だから。
始末屋は追手であり、ハドレッドを殺そうとしている者だから。
なんてことは、有り得ない。
暴走龍の名の通り、ハドレッドは暴走しているのだ。
理性を保っていない。
目に付くものを破壊する、一種の災害になっていると聞く。
しかし何故か、始末屋に対しては逃げの一手だ。
そう。
まるで、
(…………でも暴走、している筈だよなぁ)
「――――」
「ん?」
もやもやしたまま、湧いたエネミーを片手間に燃やしながら歩いていると、何かが聞こえてきた。
「これは……」
美しく、静かな旋律が風に乗って『リン』の耳に届く。
歌、だ。
それも、何処かで聞き覚えのある綺麗な歌声。
「らーららー――」
「こっちの方から……あっ」
「らららーらららーらーらー……ん? あ……!」
歌声が聞こえてくる方向に向かうと、岩に座る少女の後ろ姿が目に入った。
毛先の赤い、蒼髪のツインテール。
両腕に付いた特徴的な蒼い刃のツインダガー。
どう見ても、件の始末屋だ。
しかしこの歌声は、誰が聞いても明らかな程に――。
――あのショップエリアで出会ったクーナというアイドルと全く同じモノだった。
「…………」
「あ、いや、えっと、これは……! なんというか、なんていうか!」
岩から立ち上がり、必死に弁明しようとしている始末屋の姿を見て確信する。
間違いなく、彼女はアイドルのクーナと同一人物だ。
「……えーっと」
「そ、そのっ違うんです!」
「いやどう考えても……っ!?」
突如。
何の前触れもなく、クーナの背後に赤黒い光の球体が現れた。
ダーカーが出現するときに発せられる光だ。
「危ない!」
「え……?」
現れたダーカー――キュクロナーダが、棍棒型の右腕を振り上げ飛び跳ねる。
クーナの頭蓋を目がけて、その腕を振り下ろ――――!
「――――ぐるぁああああああああああああああああ!」
――した瞬間、巨大な白い龍が突如次元の狭間から超特急で飛びだし、ダーカーの脇腹に噛みついて掬い取るとそのまま駆け抜けた。
「……きゃあっ!」
衝撃で、吹き飛ばされかけるがなんとか耐えきる。
舞い上がった粉塵と草を手でガードしつつ、なんとかその白き龍を視界に収めた。
白い龍――ハドレッド。
咥えたダーカーを噛み砕き、彼は高らかに吼える。
「は、ハドレッド……!? う、裏切り者が何をしに!」
明らかに動揺した様子で、クーナは武器を構える。
だが、その動揺は当然というものだろう。
今まで、ハドレッドはクーナを避け、逃げていた。
それだけなら、まだ自分を始末しようとしているやつから逃げているという理由は付けられる。
でも、今回は違う。
明確に、『助けられた』。
「いまさらダーカーからわたしを助けるなんて……! 恩でも売ったつもりですか!? 許しを請うつもりですか!?」
ハドレッドは、何も答えたない。
口元からダーカー因子を滴らせ、悠然とクーナを見つめるばかりである。
「でも、もう遅い、全て遅いんですよ!」
クーナの肩が、怒りで震えている。
いつもの冷静さは、まるで無い。
「なぜ裏切ったんです! なぜ……なんで、あなたが……!」
ハドレッドは応えない。
ただゆっくりとクーナから視線を外し、身体を反転。
逃げるように、次元の狭間へと飛び立っていた。
「ま、待ちなさい! ハドレッド、ハドレッドっ!」
呼んだところで、届く訳もない。
ハドレッドの空間跳躍能力は、ダーカーとほぼ同質のものだ。
アークスが扱うフォトンによる空間跳躍とは、完全に別モノ。
追えるものではない。
「逃げるな! わたしと戦え!」
この叫びが無意味なことを、彼女は理解している。
それでも、叫ばずにはいられなかった。
「…………なぁ、クー――……始末屋」
「っ……すみません。取り乱しました」
『リン』に呼びかけられ、クーナはようやく平常を取り戻したようだ。
いつもの冷静な声色で謝りながら、『リン』を見る。
しかしすぐに視線を逸らし、背を向けた。
「…………失礼します。訊きたいことは、あるでしょうが……今は、そっとしておいてください」
クーナの身体が、透明になっていく。
いつもの、消えるやつだろう。
普段の『リン』なら、否――本来の、歴史なら。
この場はここで、別れていただろう。
でも――。
「待った」
「……?」
消えかかったクーナの腕を、『リン』は掴んだ。
「な、何ですか?」
「次会ったら、言おうと思っていたことがあるんだ」
「…………手短に、お願いします」
怪訝そうに眉を顰めながら、クーナは透明化を止めた。
話を聞いてくれるようだ。
「会わせたい人がいる」
「会わせたい……人?」
「ああ」
反芻するように呟いたクーナの言葉に、頷く。
「ハドレッドの裏切った理由、真意――真実を、見抜いてくれるかもしれない人だ」
*****
「はっくちゅ!」
「おっと、シズク、大丈夫? 風邪?」
「いや、……誰かがあたしのことを噂しているのかもしれません」
時刻は、午後八時。
SGNMデパートの出口から少し進んだ広場で、【コートハイム】と【アナザースリー】の計七人が集合していた。
名残惜しいが、もうお開きの時間である。
「今日は楽しかったです。また集まりたいですね」
「こちらこそ、誘ってくれて嬉しかったよ」
できればこの後も明日の朝まで徹カラとかしたいが、彼女等はアークス。
明日もクエストに行かなければいけないのだ。
故に今日はここで解散だ。
「じゃあ、ボクらはこっちだから」
「ま、また遊びましょうねー」
「またねー」
「ばいびー」
別れを告げて、各々のマイルームがある艦行きのテレパイプへ向かう。
【アナザースリー】の三人は七十七番艦。
シズクとリィンは七十八番艦。
メイとアヤは六十五番艦。
それぞれ自分の部屋へ続くテレパイプに入っていった。
「いやしかし、今日は楽しかったねぇ」
「うん……」
七十八番艦。
マイルームへ続く廊下。
笑顔で放たれたシズクの言葉に、リィンは眠そうにしながらも頷いた。
「眠い?」
「いや、大丈夫……部屋まで我慢できる」
「昨日あんまし眠れなかったんだっけ?」
「うん……楽しみ過ぎて、さ」
リィンは眠そうに瞳を薄めながらも、にへらと笑う。
今日一日の出来事を、思い返すように。
「楽しかったなぁ……」
「……また行こうね。まだ行けてないとこもあるしさ」
「カラオケとか遊園地とかね……ホント、あそこ広すぎよね……あっ」
「……ん?」
何かを思い出したかのように、リィンは声をあげた。
「そういえばね、前メイさんと二人でアヤさんの誕生日プレゼント取りにナベリウス行ったときなんだけど……」
(二人で……)
「花畑が綺麗なところで、エネミーも弱いやつばっかの穴場見つけたから、そこでピクニックしよって話ししたの」
「へぇ、ピクニックかー。いいねー」
「今度のお休みに、皆で行こうね」
「うん!」
楽しみだ。
ピクニックなんて、何年ぶりだろうか。
「ふふふ、また楽しみなことができちゃったわね」
「……っ」
本当に嬉しそうに笑うリィンに、思わず心臓が跳ねた。
デパートで、リィンの以外のメンバーにカミングアウトしたときのことを、思い出してしまう。
(さっきあんな会話したからか、妙に意識しちゃう……)
「そ、そだねー。楽しみだなぁ」
なんだか照れ臭くて、リィンから視線を外すように前を向く。
そして、気付く。
今、この廊下に自分たち以外の人間がいないことに。
二人、きりである。
(…………い、いや! いつものことだし! いつも泊まったりしてるし!)
(……あ、でもいつもはルインがいるから正確には二人じゃないか……)
やばい、駄目だこれ。
妙に意識してしまう。乙女モード全開ずっきゅんだ。
(ちくしょおおおおおドキドキするぅううううう!)
(手とか繋ぎたいぃいいいいいいい!)
リィンは、あたしのことをどう思っているのだろう。
気になって、ちらりとリィンの顔を見る。
「…………」
「……?」
全然、分からない。
考えていることが何一つ分からない。
いや、それが普通なんだけど。
シズクにとっては普通とは言い難い状態だ。
(何でこんなにリィンは分かり辛いんだろう……最初会った時は分かりやす過ぎて驚くレベルだったのに……)
(ちくしょう……もういっそ握るか? なんかこう、女子的なノリで行っちゃうか?)
「あ、シズク」
「え?」
突然、リィンの手がシズクの手を握った。
しかも、そのままぐいっとシズクを自分の方に引き寄せる。
「え? ……えっ!?」
不意打ち過ぎる出来ごとに、思考が追いつかない。
ていうかずるい。このタイミングでこれはずるい。
「シズク」
「な、な、何っ?」
「前から人が来てるわよ? 前見なさい危ないわね」
「え」
言われて前を見ると、確かにそこにはこちらに向かって歩いてくるアークスの姿があった。
赤いサングラスに、赤いアイハットが特徴的なヒューマン男だ。
彼は二人を一瞥し、道を譲ってくれたことに軽く一礼するとそのまま通り過ぎて何処かへ歩いて行った。
「ご、ごめん。ありがと」
「でも珍しいわね、シズクが人の接近に気付かないなんて……いつもはオペレーターより早くエネミーに気付くのに」
「う、うん……それよりも、その……リィン、手」
「手?」
ぎゅうっと、シズクの手を掴んだままのリィンの手を、指差す。
すると、パっとリィンは即座に手を離した。
「あっ、ごめん、痛かった?」
「い、いや、そういうわけじゃ、ないけど」
「?」
リィンは首を傾げた。
察しが悪い女なのだ。
(な、なんか、あたしだけ意識してるみたいで恥ずかしい……!)
「…………何でも無いよ」
「そう? 変なシズクね」
そんな感じで会話をしていると、リィンの部屋の前に着いた。
今日は流石に泊まる気にはなれなかった。
ていうか今の状態でお泊まりなんてしたら心臓が持たなそう。
「じゃあ、また明日」
「う、うん……明日」
負けた。完全敗北だ。
なんて思いながら、シズクもまた、自分の部屋へと足を進める。
その時だった。
シズクの端末が、通話の着信を知らせる電子音を鳴らした。
「……?」
端末を取り出し、画面を見る。
そこには、でかでかとした文字で『リン』と刻まれていた。
次回から、暴走龍編にシズク介入します。
能力の条件の伏線貼るために最近察しの良さを活かせて無かったシズクですが、
ようやく本領発揮します。エピソード1の残りはほぼ全てシズク無双の予定です。