良い百合ゲーだった……(※個人の感想です)
惑星アムドゥスキア・浮遊大陸。
その一角にある、広場の様な丘の中心で『リン』は一人佇んでいた。
否、『端から見れば』一人で佇んでいた、というのが正しいだろう。
彼女の隣には、不可視の迷彩を纏いし少女――クーナが立っているのだから。
「しかし、驚いたな。クーナがシズクと知り合いだったなんて」
「まあ、一度会ったことがあるだけですけどね……」
「やっぱその妙な迷彩は見破られた?」
「迷彩どころか正体まで見破られましたよ……」
流石だな、と『リン』は笑った。
クーナは苦笑いだ。
「でも、確かに勘の優れた子でしたが……本当にハドレッド裏切りの真実に辿りつくなんてできるんですか?」
「あの子のアレは、直感や勘で済ませられるものじゃない……明確に能力と呼べる代物よ。……何故か本人は、頑なに直感であると言い張ってるけど……っと」
話していると、丘の麓からぴょこりと赤い髪が見えた。
シズクだ。赤い髪の毛は目立つからこういうとき便利である。
「うばっ」
向こうもこちらに気付いたようで、気持ち歩く速度を早くして、手を振りながら寄ってきた。
「おーい、『リン』さーん、クーナちゃーん」
「や、シズク」
「どうも、久しぶりですね」
「久しぶりっ」
テンション高めの笑顔で、シズクはクーナ抱きつこうとして……両腕に付いたツインダガーが突き刺さった。
悲鳴をあげながら、数歩引く。
「痛い……」
「だ、大丈夫ですか?」
「あっはっは、大丈夫か?」
「うぅ……テンションあがり過ぎた」
クーナと会えると、テンションがマックスになるシズクであった。
ファンだからね、仕方ないね。
「さて、シズク、立ち話なんだし雑談もそこそこに……本題に入っていいか?」
「うば、勿論ですよ」
モノメイトを飲みながら、シズクは頷いた。
本題。
通話で話していた、暴走龍の件についてだろう。
ちらり、とクーナを見る。
「ハドレッドのことですか?」
「おおう……流石だな、説明の手間が省ける」
「いえ、以前会った時にハドレッドに会ったら教えてと少し説明を受けてましたから……結局今まで一度も会えてないですけど」
ハドレッドはどの惑星でも出没する可能性があるらしいが、一番目撃情報が多かったのは浮遊大陸と遺跡だ。
浮遊大陸は最近行けるようになったばかりだし、遺跡はまだ探索許可が降りていないので、そのせいかは知らないが一度もクロームドラゴンすら見たこと無いのだ。
「だからそんなに力になれないかもですけど……」
「なぁに、元々シズクの直感で分かったらラッキーくらいにしか思ってないし、気楽に気楽に」
「は、はぁ……それで、何が知りたいんです?」
「ハドレッドが何故裏切ったのか、です」
そうしてクーナは語りだした。
ハドレッドに関する、自分の知っている限りの情報を。
勿論知ってしまったらやばい情報は隠してだが――それでもシズクならば充分推測が立てられるであろう量の情報を、伝えた。
十数分後――話を聞き終えたシズクは、目を閉じて頷いた。
そして、一言。
「ごめん、分からん」
*****
むかしむかし、研究室の実験体として飼われている一人の少女と龍がいました。
少女は偶然『透刃マイ』というどえらく凄い武器に適合し、かつ見てくれもよかったので始末屋兼アイドルとして仕事に従事していました。
龍は度重なる実験でその身を狂わせながらも、少女の歌とダーカーへの怨恨を拠り所に正気を保ち、アークスとして日々ダーカーを殲滅していました。
ふたりは、まるで姉弟のように育ちました。
一度も喧嘩したこともない、仲の良い姉弟でした。
だけど龍は裏切りました。
研究室の全てを破壊し、逃げ去りました。
研究室の人間が八割ほど死亡したので、唯一戦闘のできる人材となった少女には『裏切り者』の始末任務が与えられました。
少女は憤怒しました。
必ず『裏切り者』を始末すると、心に誓いました。
でも。
『裏切り者』は少女に立ち向かうことなく逃げました。
『裏切り者』は少女と戦うことを酷く嫌がりました。
『裏切り者』は少女のピンチを救いました。
ハドレッドが、本当に裏切ったのか、クーナには分からなくなってしまいました。
――と、いうのが、クーナが十数分かけて話した事の顛末である。
大分略したが、大体合っているだろう。
でも、こうやって頭の中で童話風に纏めてみても、分からないものは分からなかった。
肝心な時に力になれない自分に、腹が立つ。
「ごめん……力になれない」
「……気にしないでください。元々、駄目もとだったんですから」
「…………」
「それに、真実を知ったところで、わたしのやることは変わりません。……むしろ、真実を知った方が辛い可能性だってありますし……」
「クーナちゃん……」
大好きなアイドルが、悲しい顔をしている。
そんなの、一ファンとして見過ごせる事態ではない。
「ごめんなさい、時間を取らせてしまって」
「い、いや、あたしこそ、力になれなくて……」
使おうか、アレ。
小さい頃一度使って、父親に禁止された。
本当の、能力。
なんて考えが、シズクの頭を過った。
(でもアレは――)
(ただの人間の小娘が持つ力としては、余りにも大きくて――)
「それじゃあ、あたしはこの辺で……」
「……っ、クーナちゃん! 待っ……!?」
悩んでいる間に行ってしまいそうだったクーナを引きとめようと伸ばした手が、空中でぴたりと止まった。
シズクの海色の瞳が、クーナの後方を見つめている。
「……? どうしました? シズク」
「く、クーナちゃん……『いる』」
「?」
「後ろに、ハドレッドがいる」
「!?」
目を見開き、クーナは急いで背後を振り返った。
だが、そこには何もない。
ただ広々とした浮遊大陸の綺麗な景色が広がっているだけである。
「……いないじゃないですか」
「い、いるよ、空間の向こう側に」
反射的に戦闘態勢を取った『リン』の後ろに隠れながら、シズクは言った。
その声は震えている。
そりゃそうだ、ハドレッドの強さはエクストラハード級。
シズクの防御力なら爪の先が掠れただけで即死である。
そんなの怖いに決まっているだろう。
「空間の向こう側……そうか、クロームドラゴンはダーカーみたいに異空間移動できるんだっけ」
「……でも、そんなの分かるんですか? 一体何を根拠に――いや、勘ですか」
「うん」
あっさりと頷くシズク。
でも、こういうときのシズクの直感は当たるということを、クーナと『リン』はよく知っていた。
「…………ハドレッドは、出てくる様子はありますか?」
「い、いや、動く気配は無いかな……でも」
「でも?」
「チャンスです。直接ハドレッドを見れば、もっと何かが分かるかもしれない」
シズクの海色の瞳が薄く光る。
その眼には、何が映っているのか。
それはシズクにしか分からない。
「……でも、どうやって引きずり出す? 流石に空間を割るなんて出来ないわよ?」
「古典的ですが、好きな物でおびき出すのが良いかと」
「好きな物……」
顎に手を当てて、考えるクーナ。
…………自惚れかもしれないし、勘違いかもしれない。
でも、彼が好きな物なんて、一つしか思いつかなかった。
「歌って、みます」
「…………」
「え!? マジで!? クーナちゃんの生歌が聞けるの!? やったー!」
「歌は「わーい!」の子「やっふぅー!」好「うばーっ!」」
「シズクちょっと五月蝿い」
「あだっ、ご、ごめんなさい」
好きなアイドルの生歌が聞けるとあればテンションが上がるのも仕方ないが、今はシリアスな場面である。
ずびしっと軽く『リン』からチョップされ、頭を抑えながらシズクは素直に謝った。
「ごほん、……二人とも、少しの間静かにお願いします」
「おう」
「うば!」
咳払いを一つして、クーナはハドレッドが居るであろう方向を向く。
息を吸って、吐いて、吸って。
ゆっくりと、綺麗な歌声を紡ぎ出した。
「――――♪」
それは、シズクの知らない歌だった。
綺麗で、おっとりしている、優しい子守唄のような曲。
だけど、何処か寂しいような悲しいような、そんな感情が混ざっている、別れの歌。
(何て言う、曲名なんだろう――?)
発表前の、新曲だろうか。
でもそれにしては、やたらと歌い慣れているような感じがする。
(ああ、そうか……)
クーナの後ろ姿を見ながら、シズクは誰にも聞こえないように呟く。
(この歌は、ハドレッドのための歌なんだ)
ぴしり、と空間に罅が入った。
そこから、のそりと赤く大きな腕が顔を出した。
ハドレッドだ。
左角に付いた黄色い布が、彼の証。
「……ホントに出てきたっ!」
「クーナちゃん、歌い続けて! あたしにハドレッドを観察する時間を頂戴!」
「……っ! ……――――♪」
飛び出しそうになったクーナの肩を抑えて、シズクはハドレッドを海色の瞳で見つめる。
ハドレッドは、暴走龍の名に反するように、大人しく歌を聞いているようだ。
本当に好きなのだろう。
歌も、クーナも。
「弟……ね」
まあこんな可愛いお姉ちゃんがいればシスコンにもなるだろう。
なんて余分なことを考えつつ、シズクはただ只管に彼を見つめる。
すると、朝トーストを見つめた時のように彼に関する様々な情報が脳に直接降りかかってきた。
シズクが直感と言い張る、能力の『一端』である。
でも……!
(分かり……にくい……!)
シズクの
その理由の一つとして、人によって察し易さが変わるというものがある。
どんな基準で分かりやすい、にくいが分別されているのかはシズクにすら分からないが――。
ハドレッドの分かりにくさは、リィンのそれと匹敵する程だった。
「――――♪ ――♪」
「……っ」
五分程経っただろうか。
長い曲でも、五~六分で普通歌い終わってしまうだろう。
その間見続けても、結局、殆ど何も分からないまま。
「――――……」
歌は、終わってしまった。
アンコールを、とクーナに頼もうとした瞬間。
まるでアンコールをせがむように。
ハドレッドは高らかに吼えた。
「がっぁあああああああああああああ!」
「きゃっ!?」
「くっ……!」
「うばっ」
吼えたときの風圧だけで、かなりの圧力が三人を襲った。
一番弱いシズクは、それだけで遥か後方に飛ばされそうになったが――『リン』が腕を掴み、背後に隠すことでそれは逃れた。
が、その一瞬の隙を見逃さず、ハドレッドは赤黒い腕を振り上げて――真っ直ぐにクーナへと振り下ろす。
完全に、直撃する軌道だった。
にも、関わらず。
ハドレッドの爪はクーナに届く一歩手前の地面を抉り、切り裂いただけだった。
「ぐっ……! がぅ……!」
「……は」
「がぁ……! がぁああああああああああああ!」
「ハドレッド……!」
苦しそうな、叫び声。
まるで、体内で蠢く
「――っ……ハドレッドぉ!」
「あぁ――がぁあああああああああああああああああ!」
クーナの叫び虚しく。
ハドレッドは、時空の裂け目へ飛びこんでいった。
「ハドレッド……あんなに、苦しそうに……」
「……シズク、何か分かったか? …………シズク?」
背後に隠れていたはずのシズクに、『リン』は意見を求める。
だがしかし、シズクからの返事は無い。
どうしたのかな? っと背後を振り返ると、そこには。
涙で頬を濡らす、シズクの姿が合った。
「……シズク? 泣いてる、のか?」
「え? ど、どうしたんですか? シズク」
「…………繋がった、んです」
ぼろぼろ、と溢れる涙を服で拭いながら、シズクは語る。
今の行動から、ハドレッドの真意を悟ったと。
「全部、じゃないけれど、大方繋がりました……ぐすっ……クーナちゃん、『リン』さん」
「な、何ですか?」
「……何?」
「研究所が最後に行った実験って何か分かる?」
その質問に、二人は答えられない。
『リン』もクーナも、それを知るような立場にいなかった。
「調べてみてくれない? あたしの予想では……『人にやる予定だった実験を龍に行って実験失敗。龍は暴走して研究所崩壊』……だと思うんだけど」
「……? 人に行う予定だった実験を、龍に? ……ってまさか!?」
「面白い話をしていますね」
クーナが驚きの声を挙げた瞬間だった。
岩の陰から、男が一人。
黄緑色の髪から伸びる、長い耳とサイバネティックなサングラス。
そして、道化師のようなでかい被りモノが特徴的という、ふざけた格好でありながら、
漂う大物感と、イケメンボイスは隠し切れていなかった。
彼の名はカスラ。
「私も混ぜて頂けませんか?」
六芒均衡の三にして、『三英雄』の一人に名を連ねる大物中の大物である。
カスラ登場。
シズクと絡ませたい原作キャラトップスリーの内の一人です。