AKABAKO   作:万年レート1000

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シリアスな場面のせいでカスラさん弄りできなかった……。



最悪の可能性

「六芒均衡……カスラ……!?」

 

 クーナが、警戒を隠そうともしない緊迫した表情で言い放った。

 

 その言葉に反応して、ようやく『リン』とシズクの二人も彼の名を思い出す。

 

 六芒均衡『カスラ』。

 六芒の三にして『三英雄』が内の一人。

 

 『レギアス』や『クラリスクレイス』に比べると一歩知名度は劣るが、それでもその肩書きは伊達ではないことくらい、二人でも知っている。

 

「……ああ、そんなに警戒しなくても良いですよ。偶然通りかかったら、面白そうな話をしていたので混ざろうと思っただけですから」

「…………それは本当に偶然ですか?」

「ふむ?」

「わたしを監視していたのではないですか? ……と訊いているのです」

 

 クーナの問いに、カスラは苦笑いで答えた。

 皮肉交じりな口調は、何処か某武器強化屋を彷彿とさせ――ないな、あれは次元が違う。

 

「おや? 監視されるような『何か』を、していたんですか?」

「……チッ」

 

 カスラの質問を質問で返すという行為に若干イラついたのか、つい舌打ちが漏れる。

 

 アイドルがやっていい所業ではないが、今は始末屋モードだからセーフ(?)である。

 

「く、クーナちゃんが舌打ちを……」

「あっ」

 

 否、アウトだった。

 クーナの舌打ちにショックを受けた者が、若干一名。

 

 ていうかシズクだった。

 

「ち、違うんです! シズク! これは……その、あの陰湿眼鏡が悪いんです!」

「クーナさん、人の所為にしないでください」

「っ」

 

 凄く愉しそうにニヤニヤと笑うカスラを見て、再び舌打ちをしそうになったが、何とかこらえた。

 

 これだからこの男は苦手なのだ。

 と、クーナが不快感を隠そうともせずにジト目でカスラを睨むが、そんなもの何処吹く風でカスラは視線をクーナからシズクに移す。

 

 目と目が合った。

 シズクの海色の瞳が、微かに光る。

 

「えーっと、カスラ、さん? あの六芒均衡の?」

「はい。初めましてですね、シズクさん」

「は、初めまして……」

 

 六芒均衡。

 つまりはアークスの中でもかなり偉い人ということで、流石のシズクも緊張を隠せないようだ。

 

「はは、そんなに緊張しなくて大丈夫ですよ。六芒均衡といっても……そこまで大したモノじゃありません。普通のアークスと変わらない接し方で構いませんよ」

「は、はぁ……」

 

 何だ、結構良い人そうじゃないか、っと少し安心したところで、気付く。

 

 さっきのハドレッドと比べれば、一目瞭然だ。

 

(この人…………)

(……分かりやすっ!)

 

 今まで会ったことのある人の中でも、ぶっちぎりで分かりやすい。

 こうやって目を合わせているだけでカスラの癖やら思考やらが頭に流れ込んでくるようだ。

 

 個人情報ダダ漏れである。

 

「……シズクさん? どうかしましたか? ぼーっとして」

「うばっ、な、何でも無いですよ」

「……? まあいいです。それよりも、さっきの話を詳しく聞かせて貰ってもよろしいですか?」

 

 怪訝そうにしながらも、カスラはそう切り出した。

 『さっきの話』とはまあ、察するまでもなくあれのことだろう。

 

「『人にやる予定だった実験を龍に行って実験失敗。龍は暴走して研究所崩壊』……のことですか?」

「そう、それです」

「詳しく――なんて言われても困りますよ。あくまで推測なんですから」

 

 あくまでハドレッドの行動や状態から察したうえで立てた推測にしか過ぎない。

 詳しく話せるとしたら、この推測の裏付けが取れてからだろう。

 

「そうではなく、何故、その結論に至ったのかを訊いているのです」

「勘です」

「成程、勘ですか……は?」

「勘です」

 

 勘だと言い張るシズクに、戸惑いながらカスラはクーナと『リン』を順に見る。

 クーナは首を横に振り、『リン』は苦笑いをして首を傾げた。

 

「…………別空間に居る暴走龍を察知し、的確におびき寄せる方法を指示し、果ては私ですらつきとめることに数日かかった研究所の最後に推測とはいえ一瞬で辿りついた……」

(あ、そこから居たんだ)

「そんな勘は、あり得ません」

 

 はっきりと、そこを指摘されたのは。

 何だかんだで、初めてだったかもしれない。

 

「アナタは、何者なんですか?」

「…………そんなの」

 

 その問いは、シズクの今までの人生で……。

 何度も。

 何度も。

 

 しなかった日が無いくらい、繰り返し続けた。

 

 自問自答と、全く同じ問いかけで――。

 

「――あたしが一番、知りたいですよ」

 

 シズクの悲しそうな顔を見て、それ以上カスラは言葉を紡げなかった。

 

 以外にも思われるかもしれないが、このカスラという胡散臭い男は……。

 結構、『良い奴』なのだ。

 

「……そうですか」

「六芒均衡カスラ」

 

 話題を切り替えようとしたのか、はたまた業を煮やしたのか分からないが、クーナがシズクとカスラの間に割って入った。

 相変わらずの厳しい目線で、カスラを射抜くように見つめながら言う。

 

「今の話を聞いている限りですと、『シズクの推測が当たっていた』ように聞こえるのですけど……もしかして」

「はい、その通りですよ」

 

 案外素直に、カスラは頷いた。

 

「ここ数日……研究室に潜りこみ、情報を集めていました。その結果得た情報の中に、一つ不可解なものがありましてね」

「不可解……」

「人間に行う筈だった実験を、唐突に龍へ行ったという、記録が残っていたのですよ」

 

 シズクの推測通りに。

 ぞくりと、クーナの背筋に痺れが走った。

 

「…………どんな、実験だったんですか?」

「そこまでは調べられませんでした……まあ、どんなのにせよ碌な物ではなかったでしょうが――」

「多分、ダーカー因子の耐久実験か何かですよ」

 

 シズクが、自分の推測が当たっていたというのに浮かない顔をしながら、口を挟んだ。

 

「ダーカー因子の、耐久実験?」

「……有り得ない話では無いですね。研究室は、当然ダーカーの研究も行っていたでしょうし……」

 

 でもそれも、数ある可能性の一つでしかない。

 何故そう断言できるのだろう。

 

「シズク、それも勘か?」

「いえ、違いますよ『リン』さん」

 

 『リン』の問いかけに、シズクは首を振った。

 その表情は、変わらず浮かない顔をしている。

 

「……シズク大丈夫か? 顔色が悪いぞ?」

「ええ、まあ……何と言うかあたしの推測が当たったことでチラチラと見えてた最悪の可能性が濃厚になったというか……」

「……?」

「シズクさん、一人で勝手に悩まれても、我々にはアナタのような直感は無いのですから、説明して頂かないと分かりませんよ」

 

 カスラの言葉に、シズクは力なく頷く。

 なんというか、泣きそうだ。

 

「カスラさん……説明する前に一つ頼みがあるんですけど……」

「……? 何ですか?」

「もし今話す内容が原因であたしが始末対象とかになったら……せめてクーナちゃんを刺客にしてください」

「……は?」

「死ぬならせめて、クーナちゃんに殺されたい……」

 

 それなら、ファン冥利につきるというものだろう。

 いやまあ、勿論半分冗談の発言なのだが。

 

 というか今のセリフでつっこむべきところはそこじゃない。

 

 始末対象になり得るようなことに、気付いてしまったとでもいうのだろうか。

 

「始末対象って……一体何に気付いてしまったというのですか?」

「……今から言う話は……あくまで推理推測予測予想」

 

 カスラの言葉をスルーして、シズクは語り始める。

 どうやら順に説明していくらしい。

 

「それを念頭に置いたうえで、絶対に他言無用をお願いします」

「……それは、話さないという選択肢は無いのか?」

「有るにはありますけど……多分、話しておいた方が良いです。『リン』さん、クーナちゃん、カスラさん、アナタ達を信用して、言います」

 

 カスラを信用? っとクーナが眉を歪めてカスラを睨んだが、カスラの性質諸々を色々察しているシズクにとって、彼はかなり信用できる部類の人間だ。

 

 胡散臭くて、性格が歪んでるけど、根は優しい。

 それがシズクの抱いたカスラへの評価だ。

 

 おそらく、アークスシップ中を捜し回ってもカスラに対してそんな評価を下せる存在はシズクだけだろうが。

 

「ん。安心して信頼していいぞ、何かあったら私が守ってやる」

「うわぁい、『リン』さんが滅茶苦茶頼もしい……ごほん、じゃあ一度しか言わないので聞き逃さないでくださいね?」

 

 『リン』の異常な程の頼もしさに少しだけ緊張が和らぐ。

 それでも尚真剣な面立ちで、シズクは告げる。

 

 最悪の、可能性を。

 

 

「オラクル上層部の誰かが――――ダークファルスである可能性が高いです」

 

 

 




理由は次回。
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