AKABAKO   作:万年レート1000

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自己解釈注意。

矛盾点やおかしな点があったら教えて頂きたいです。


海色の光

「オラクル上層部の誰かが――――ダークファルスである可能性が高いです」

 

 シズクがそう言った瞬間。

 『リン』も、クーナも、カスラも、目を見開いて固まった。

 

 ダークファルス。

 それは破壊と絶望の象徴にして、アークスの大敵。

 

 そんなものが、オラクルの上層部に紛れ込んでいるとしたら……それはもう大問題とかそういうレベルではなく。

 

 オラクル存続の、危機である。

 

「それも、研究室と密接に関係しているお偉いさんですね。心当たりは…………うわぁ、ありそうですね」

「…………っ」

 

 ちらり、とカスラの表情を伺っただけでシズクはそう断言した。

 カスラはシズクにとって『分かりやすい』人間なのだ。

 

「まあ勿論絶対では無くあくまでそんな可能性があるよって話なので……」

「それは分かっています…………続けてください」

「うば」

 

 頷く。

 ではまずは、この結論に至った経緯を順番に話していこう。

 

「まず、ハドレッドの暴走の原因だけど……これはまず間違いなく体内のダーカー因子が許容量を越えた結果ですね」

「何故、そうだと?」

「ハドレッドが暴走した原因は研究室の実験の所為……そして、その実験は元々は人に行う実験だった。これだけである程度は絞り込めます」

「……?」

 

 なんか、探偵モノみたいなノリになってきたな、なんて考えながらシズクは語る。

 

「まず前提として、間違いなく『元々人に行う予定だった実験を龍に変更した』は嘘です」

「「えっ?」」

「ああ、それは私も思いました」

 

 クーナと『リン』が驚きの声をあげ、カスラは頷いた。

 

「多分研究室の情報操作の一環ですかね……正確には、『人に行う予定だった実験を準備中に乱入してきた龍が身代わりとなって受けた』って感じだと思う」

「な……!? 何故……」

「クーナさん。アナタなら分かる筈ですよ……ハドレッドと、アナタ、どちらが利用価値があるのか」

 

 片や、エクストラハード級の強さを持つ、ダーカーへの恨みが深い龍族。

 片や、マイに適合しているとはいえ始末屋として失格の烙印を押された人。

 

 使い捨てるのならば、どちらを選ぶかなど論じるまでもない。

 

「……わたしが、始末屋として失格だから……」

「個人的には、始末屋の素質なんて無い方がいいとは思うけどね……さて」

 

 シズクは慰めるようにそう言ってから、話を続ける。

 

「そうなると不可解な点が、一個ありますね」

「…………」

「龍が身代わりになれるような、人体実験って何?」

 

 そう。

 そこが、話の肝。

 

 シズクの推理は、ここから始まったとも言える。

 

「人体実験……って聞いて、思いつくものは……薬物投与、手術、精神的な責め、肉体的な限界測定……とかだけど」

 

 どれもこれも、龍族が身代わりになるのは無理なものばかりだ。

 

 薬物は体格の差が激しすぎて量の問題があるし、

 手術、精神的な責め、肉体的な限界測定なんかは研究員の助けが無いと実施するのは不可能だろう。

 

「だから――消去法でダーカー因子の耐久実験が行われたと言いたいのですか?」

「そうですよカスラさん。ダーカー因子は注射器も噴出口も必要無い……ただダーカーを倒すだけでいいのだから」

「…………ふーっ」

 

 シズクが言い切った瞬間、カスラは露骨に溜め息を吐いた。

 

 まるで、聞いて損をしたと言わんばかりの大きな溜め息だ。

 

「シズクさん、アナタの推理には大きな『穴』があります」

「うばっ?」

「穴?」

 

 シズクと『リン』が首を傾げる。

 消去法、と聞くと確かに聞こえは悪いが消去法は実はかなり有用な技法である。

 

 最後に一つ残れば、間違いなく百パーセント的中なのだから。

 

「他にも可能性があるってことですか?」

「違いますよ。アナタは重要なことを見落としている」

「?」

「ハドレッドは、『クロームドラゴン』です」

 

 クロームドラゴン。

 人によって造られた、血の滴る白き龍。

 

 その最大の特徴は、『ダーカーを喰らって己の力に変える能力』。

 

「当然ダーカー因子への耐性は並大抵のものではない……フォトンに代わるダーカー因子の消化技術として注目されるだけの力が、彼にはあります」

「……あー、いやいやカスラさん。『耐性』であって『無効』ではないんでしょう? なら、耐性を破られるだけのダーカー因子を注入すれば暴走するでしょ」

「無理ですよ。そんな量のダーカー因子を集めるのに、どれだけのダーカーを喰らえばいいと――――」

「あ……っ!」

 

 『リン』が、何かに気付いたように声をあげた。

 

「あーあー……成程ねぇ」

「『リン』さんは、気付いたようですね」

 

 にやり、とシズクは笑った。

 

「それで最初の話に繋がるわけね」

「はい」

「最初の……? ……まさか!?」

 

 『オラクル上層部の誰かが――――ダークファルスである可能性が高いです』。

 

 最初に放たれた、シズクの言葉が全員の頭に響く。

 

「ダークファルスは、”無限に”ダーカーを生成できる……アークスだろうとクロームドラゴンだろうと、汚染させることは容易い筈です」

 

 アークスも、クロームドラゴンも、理由は違えど強力なダーカー耐性を持った種族である。

 

 しかし、どれだけ強力な耐性だろうと、耐性は耐性。

 

 限度は確かに存在する。

 

「そして、人を一人完全に侵食する程のダーカー因子は、龍を完全に侵食するのには足らなかった――それでも、消化できる量を上回ってしまったダーカー因士はじわじわと龍の身体を喰らっている……といったところでしょう」

 

 だから、ハドレッドは今も尚苦しんでいる。

 狂おうにも狂いきれず、身体中を這いまわるダーカー因子を抑えて叫び暴れる。

 

 そんな状況にも関わらず、クーナを認識しているのは奇跡とでも呼ぶべきなのだろうか。

 

「以上が、あたしのハドレッドに関する推理です。意見・質問等は常時受付中です」

 

 あえて冗談めかしてそう言って、シズクは三人を見渡す。

 

「…………」

「…………」

「…………」

 

 暫しの静寂が、訪れた。

 皆、今のシズクの推理を胸に落としこんでいるのだろう。

 

「……ハドレッドは」

 

 最初に口を開いたのは、クーナだった。

 眉間に皺を寄せ、目を閉じ俯きながら。

 

 怒っているような口調で、言葉を放つ。

 

「『あたし』を、助けるために……自分を犠牲にしたっていうの……!?」

「……クーナ」

「あの馬鹿……っ! もう……!」

 

 血が滲む程唇を噛んで、肩を震わすその姿は。

 怒っているように見えるけれど、泣いているようにも見えて――。

 

「いつもあの子は……あたしに何も言わないで……!」

「や。クーナちゃん、あたしの推測が絶対当たってるってわけじゃあ……」

「いえ、おそらく当たっているでしょう」

 

 カスラが、端末に複数の映像を映し出しながら口を挟んだ。

 

 映像の内容は、研究室の残骸だろうか?

 倒壊した建物の内部が見える。

 

「これは私が先日研究室の残骸を調査した際の映像ですが――シズクさんの推測を事実だと前提した上で見直してみたら、色々と新しい事実が浮かんできました」

 

 大きなスクリーンから、幾つかの箇所がピックアップされズームで表示された。

 それを見て、シズクは納得したように頷く。

 

「やっぱり、ダーカー因子によって変質している残骸が幾つかありますね」

「濃すぎるダーカー因子は生物だけではなく周囲の無機物までも変質させる……この映像は隠ぺい工作された後のモノですからパッと見分からないですが……」

 

 こうして意識して見ると、そこそこ隠ぺい工作に粗が目立つ。

 

 ハドレッド暴走による被害はやはり大きかったのだろう。

 人員不足というのは本当みたいだ。

 

「……『リン』さん、クーナさん、シズクさん。ハドレッドの件は兎も角、ダークファルスの件についてはこれ以上の詮索を六芒均衡の名において禁じます」

「うばっ」

「…………」

「何で?」

 

 シズクは当然とばかりに頷いて、クーナは無反応で、『リン』は不思議そうに首を傾げた。

 

「私じゃ力不足だっていうのか? 言っとくが身内にダークファルスが居る可能性がある――なんて話しを聞いて私が大人しくしているとでも……」

「その英雄気質は、少し直した方がいいと思いますよ……」

「英雄を気取ってるつもりなんてないわよ」

 

 不機嫌そうに、眉を歪める『リン』。

 カスラは苦笑いをしながら、溜め息を吐いた。

 

「……兎に角、禁止です。禁止。もしこれ以上踏みこんでくるなら絶対令(アビス)の使用すら考慮させて頂きます」

「…………はーい」

 

 頷いたものの、腑に落ちないようで『リン』は唇を尖らせてカスラを睨んだ。

 暫く『リン』の監視すらしなくてはいけないかもしれない、と若干頭を抱えるカスラであった。

 

「ところでカスラさん」

「?」

 

 話しが一区切りしたところで、シズクがカスラに話しかけた。

 

「何でしょう」

「いや、ダーカー因子に侵されたクロームドラゴンを救う方法はあるのかなって」

「っ!」

 

 ハッと、クーナは顔を上げた。

 だが、すぐにまた顔を俯かせてしまった。

 

 そんな方法、あったとしても意味が無いからだ。

 

「無いです。ダーカーに深く侵食された生命体は最早フォトンによって侵食が他に移らないように処理するしかない…………常識でしょう?」

「嘘ですね」

 

 きっぱりと言われて、思わずたじろぐ。

 

「カスラさん、嘘を吐く時目線が一ミリくらい逸れて耳が普通の人に分からないくらい微かに動くから気を付けた方がいいですよ?」

「…………普通の人が気付かないなら普通問題ない筈なんですけどね……ご忠告ありがとうございます」

 

 直感、推理力、そして洞察力。

 それらがここまで優れていると、こんなにも厄介なのか。

 

 サングラスの位置を直しながら、カスラは答える。

 

「深く侵食したダーカー因子を浄化する方法は、あります」

「……あるんだ」

「……コールドスリープというものを、知っていますか?」

 

 コールドスリープ。

 簡単に説明すると、人体を冷凍することで冬眠状態にするという技術である。

 

「生命体に侵食したダーカー因子は、不思議なことに侵食元の身体が一定以下の体温になると活動を停止する――死んだ、と判断されるのかもしれませんね。そこのところは専門では無いので詳しくないですが……兎に角、重要なのはコールドスリープさせればダーカー因子は増殖しなくなるというところです」

 

 そうして、ゆっくりと数年かけてダーカー因子を除去していく。

 針で小型の虫を一匹一匹丁寧に潰していくような地道な作業を繰り返せば、生命体に負担をかけずにダーカー因子を除去することができる。

 

「けれど、例えダーカー因子を浄化することができるとしても、ハドレッドを助けることは不可能です」

「……どうしてですか?」

「ハドレッドは、暴走していたとはいえ研究室を潰した本人ですよ? 抹殺命令も出ています……正気を取り戻したところで、『処分』されるのは目に見えている」

「ならばせめて――」

 

 クーナが、ようやく口を開いた。

 

 皆から背を向けていて、その表情は伺えない。

 

「――理性の無い内に、『始末』してあげるのが、せめてもの救いでしょう」

「……クーナちゃん」

「シズク。今日はありがとうございました。……おかげで、覚悟ができました」

 

 クーナの姿が、消えていく。

 今、何を考えているのか、どんな感情を持っているのか。

 

 シズクには、何一つ察せなかった。

 

「『わたし』は、ハドレッドを『始末』します――誰のでも無い、わたしのために……ハドレッドのために」

「まっ、待って! クーナちゃん! それでも……!」

 

 もう、視界に映らなくなったクーナに向けて、シズクは叫ぶ。

 

「それでも――ハドレッドが生き残る道があるなら……! また姉弟で暮らせるような結末があるなら……! クーナちゃんはそれを選ぶよね!?」

 

 …………。

 ……………………。

 

 返事は、無かった。

 

 もう、この場を去ったようだ。

 

「……っ」

「……シズク、私はクーナを追うよ。あの様子じゃ、一人でハドレッドに挑みかねない」

 

 今日はありがとう。

 そう言って、『リン』もシズクに背を向けた。

 

「今度お礼はするよ。それじゃあ」

「……はい」

 

 『リン』も、姿を消したクーナを察知できる程の鋭敏な感覚を持ってはいるが、それでも一度見逃したら捜すのは困難だろう。

 急ぎ足で、クーナを追うために去っていった。

 

 その後ろ姿をしばし見つめていたシズクとカスラだったが、リンの姿が豆粒ほどのサイズになったところで視線を外し、互いに向き合う。

 

 先に口を開いたのは、カスラだった。

 

「……シズクさん、アナタの正体について色々聞きたいところですが――」

「カスラさん」

 

 しかしカスラのセリフはカットして、シズクは言葉を発する。

 

 その表情は、今までに無い程の真顔。

 

「姉弟が――家族が殺し合いをするなんて、あってはならないとあたしは思うんですよ」

「…………」

 

 脳裏に、メイの顔が自然と浮かんだ。

 うん。あの人も、多分同じことを言うだろう。

 

 それも、シズクが言うよりも説得力のある言葉で。

 

「そんな結末、少しもハッピーエンドじゃない。当人たちが満足しても、あたしが許さない」

「……だったら、どうするんですか? いくら察しが良くても、洞察力が優れていても、どうにもならないことでしょう」

 

 会話をしながら、カスラの横に並び立つように、シズクは移動する。

 こうして並ぶと、身長差が物凄い。

 

「ハドレッドを救います」

「だから、どうやって……」

「例えば」

 

 シズクが、二本指を立てて、それをカスラに見せつける。

 

「クロームドラゴンのコールドスリープによるダーカー因子除去実験の許可証と、ハドレッドの始末完了報告受理書。この二つがあったら、カスラさんなら口八丁でどうにかハドレッドをコールドスリープにぶちこめない?」

「…………はぁ」

 

 カスラは、今日何度目かの溜め息を吐いた。

 

 確かに、そんなものがあればハドレッドを始末したことにして、コールドスリープさせることだって不可能じゃないだろう。

 だが、そんなものを用意することは、絶対に不可能なのだ。

 

「あのですね、シズクさん……そういったアークスにとって重要となる書類や記録は全てマザーシップのデータベースに登録されます。言わずもがなマザーシップに侵入は不可能……六芒均衡ですら一部資料の閲覧しか許されていない――」

「いいから、できるかできないかで答えてください」

「…………そうですね」

 

 カスラは、顎に指を当てて少し考えた後、答える。

 

「今アナタが言った二つの書類を、やり方を私に見せながら用意して頂ければ、手を貸しますよ」

「できる。んですね?」

「はい。……それで? どうやるんですか? まさかマザーシップに侵入しようというのなら流石に止め――――」

 

 瞬間。

 カスラは言葉に詰まった。

 

 シズクの端末から、モニターが開かれる。

 そのモニターはどんどんサイズを広げていき、やがて幾重にも重なる幾何学的な模様を映し出した。

 

 そう。

 これこそが、マザーシップのデータベース。その全容である。

 

「これ……は……!?」

「ええっと、ここをこうして……」

 

 幾何学的な模様の一部をズームアップし、そこの値をまるでパズルを解くような気軽さでシズクは改変していく。

 

 閲覧権限、だけでなく。

 編集権限すら、持っている。

 

 それは、一アークスが持つ権限としては、大きすぎる権限(ちから)だ。

 

「な、何故こんなに容易くマザーシップのデータベースにアクセスができたんですか!?」

「さあ?」

 

 シズクは、首を傾げる。

 

「生まれた時から、出来ましたから」

 

 シズクの瞳が――否。

 シズクの身体が、薄い海色の光に包まれていた。

 

「あ……アナタは本当に、何者なんですか……!?」

「だから、それはあたしが一番知りたいことですよ」

 

 ものの数分で、改変は完了した。

 アクセスした痕跡すらも消し、データベースを閉じる。

 

 同時に、シズクを包んでいた海色の光も消えうせた。

 

「さ、カスラさん。約束です」

「…………」

 

「ハドレッドを、救いましょう」

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

「ん?」

 

 ぴしり、と何かが割れるような音が耳に入って、『リン』はクーナを捜す足を止めた。

 

 またハドレッドでも現れたのかな? と周囲を見渡しても、誰も居ない。

 

「空耳か……?」

 

 いや、違う。

 ぴしりぴしりという亀裂音は、止まることなく聴こえてくる。

 

「……これは?」

 

 ようやく見つけた、亀裂音の正体を手に持ってかざす。

 

 音の正体は、『マターボード』だった。

 

 マターボード。

 簡単に説明すると、『リン』の時間遡航能力に歴史改変能力を付与してくれる装置だ。

 

 また、ありとあらゆる全ての『可能性』を演算し、そこから『最適』を示す『リン』の道標ともなる便利なアイテムである。

 

 こうして軽く説明しただけでも、物凄い装置だということがわかるだろう。

 

 だが、そんなマターボードが……。

 

「罅、割れている?」

 

 しかも、罅割れは止まらない。

 

 音を立てて、端から中心に向けて崩れ落ちていく。

 

 そうしてやがて。

 

 マターボードは、完全に砕けて消えた。

 

 

 一匹の少年――――ハドレッドの、歴史(うんめい)が。

 

 シオンの演算すら超えて、今、歪み始めたのである。

 




いつだったか書いた運命が歪む一匹の少年というのは、ハドレッドのことでしたー。

というわけでまさかのハドレッド生還ルートです。

マザーシップにアクセスできるとかいうチート能力を披露してしまったシズクですが、
これからもあまり使わないと思います。

使わない理由に関してはまあ……その内本編で。
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