AKABAKO   作:万年レート1000

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KKさん顔見せ回。




三代目クラリスクレイス

『本気で、戦技大会とやらを開催するつもりなんですか?』

「ああ、勿論だ!」

 

 惑星ナベリウス・森林エリア。

 

 そのスーパーハード級エネミーが闊歩するエリアを、暑苦しさマックスの男が駆け抜けていた。

 

 六芒均衡ヒューイ。

 シズクやメイですら足元にも及ばない程の元気と熱さを持った炎の男である。

 

「アークスは! 今! 復活した【巨躯】による不安や、事実をひた隠しにしていたことによる不信感に包まれている!」

 

 通信機に叫びながら、ヒューイは目の前に突如現れた侵食核付きロックベアをワイヤードランスによる一撃で沈めた。

 

「ならば! それらを吹き飛ばすほどの『楽しいこと』が必要だ! 皆催し物は大好きだからな! さらにさらに【巨躯】戦の慰労と増えてしまったダーカーの削減にもなる! これぞ一石三鳥! やらない理由がない!」

『そういうことを言っているのではありません、先日ナベリウス(そこ)で起きたこと》を知らないわけではないでしょう?』

「当然だ! だから十日以上開催を延期したし、今もこうして見回りをしているじゃあないか!」

 

 通信機越しに聞こえてくる丁寧なのになぜか陰湿に聞こえる声――つまりカスラの声に反論しつつ、ヒューイは森林を跳び回る。

 

 ……さっきから、ダーカーの数が異様に多い。

 やはり、先日の『アレ』――――。

 

 ――惑星ナベリウスにて発生した、”六体分”のダークファルス反応が関係しているのだろうか。

 

「レギアスの許可も貰っているし、調査班から問題なしとの報告も受けている! そして何よりオレも参加する! 不安がることはない!」

 

 力強く、頼もしい言葉をヒューイは紡ぐ。

 伊達で六芒均衡に選ばれていないことが良く分かる叫びである。

 

 ……だが。

 

『……企画立案者は参加できないですよ?』

「え"っ!?」

 

 少々頭が弱いのが、ヒューイの弱点なのであった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

「第一回、アークス戦技大会前予行演習ー!」

「わー、ぱちぱちー!」

 

 惑星ナベリウス・森林エリアに、快活な少女二人の声が響く。

 メイとシズクだ。

 

「わー」

「何なんです? いきなりこんなところ連れてきて」

 

 続いて、棒読みの歓声と冷めた質問が飛んだ。

 

 アヤとリィンの声だ。

 テンションの差が激しいチームである。

 

「ほら、戦技大会の会場がナベリウスだっていう話を聞いたからさ、練習ってことで」

「……ちなみにその話は何処から聞いたの?」

「インターネッツ! の、某掲示板!」

「…………」

 

 世界一信用できない情報源(ソース)だった。

 

 だがまあ、ナベリウス森林のエネミーは動きの基礎を復習するのには丁度良い。

 決して自分たちにとってマイナスな結果になるわけでは無いので、まあいいかと口を閉じるアヤであった。

 

「でも、ナベリウス森林じゃあ適正レベルより大分下ですし、せめて凍土にしたほうがよくないですか?」

「それか頑張ってクォーツドラゴン倒して遺跡エリア解放させるとか……」

「はっはっは、大丈夫だ安心しろ後輩ズよ。ちゃんと目的があって森林を選んだんだから」

 

 早速ツインマシンガンを両手に持って、空中を飛びながらメイは笑う。

 

 器用に銃を持った手で、人差し指をびしりと立てた。

 

「ファング夫妻に、挑もうと思う」

「ファング……ああ、そういえば一度レア種と戦いましたけど原種は会ってもいないですね」

 

 ファング夫妻。

 ナベリウス森林において最強とも言われる原生種の一種で、その実力はクォーツドラゴンにも迫ると言われている程の大型エネミーだ。

 

 だが、【コートハイム】のような中堅チームでは戦闘経験が無いということも珍しくない。

 

 何故なら、ロックベアを倒せば次の惑星アムドゥスキアへの探索許可が出るからだ。

 

 緊急クエストや、欲しいレアがあるという理由以外で中堅アークスがナベリウス森林に足を踏み入れることは中々無く、生息が奥地なのもあって自然と戦う機会が少なくなる。

 

 実際、【コートハイム】の四人もファング夫妻にはレア種としかあったことがない。

 しかもかなりイレギャラーなケースだったし、四人だけの実力じゃ勝てなかったし。

 

「と、いうわけでファング夫妻を探すぞー」

「「「おー」」」

 

 気の抜けた返事をしつつ、各々武器を取り出し空中を駆けるメイを追って歩き出す。

 空中を駆ける、といっても実際そんなにスピードは出ていない。ぶっちゃけ走ったほうが早い。

 

 あっという間に三人はメイを追い抜いて、先に進んでいった。

 

「ちょ、ちょーい、待ってー!」

 

 歩幅を合わせてくれるとでも思っていたのか、メイは焦りながら着地して走る。

 

 そんなリーダーの姿を見て、アヤは呆れるようにため息を吐いた。

 

「飛んだ方が遅いって分かってるのに何で飛ぶのよ」

「そこに空があるからさ! ……だが、ツインダガーもツインマシンガンもウチの潜在能力(ポテンシャル)を活かすには遅すぎるということは認めよう……」

「貴方が使いこなせてないだけでしょうに」

 

 何をー! っと怒るメイを無視して、一同は先に進む。

 

 道中、当然エネミーは沸いてくる。

 だがしかし、適正レベルが下だからか大分余裕だ。

 

 それこそ、雑談交じりに無双できるほどに。

 

「敵、多いですね。それもダーカーが特に」

「【巨躯】復活の影響だろうねー。えるだーりべりおーん」

「真面目に戦いなさいよ、メーコ」

 

 銃弾の雨や、光の魔法や、剣閃が交差して次々とダーカーが倒れていく。

 

 が、おかわりと言わんばかりに地面から倒した数と同じ数だけダガンが湧き出す。

 

「アディションバレット! っと……うばー、ほんと無限沸きかっての……これだけ倒しているんだからレアの一つや二つ落としてもいいと思うんですよ」

「そうね」

「全くだわ」

「うんうん」

 

 メイとアヤは二つ、リィンは三つの赤箱(レアドロップ)を視界の隅に入れながら、頷いた。

 

 拾わない。

 拾えばそのことが何故かパーティメンバーに伝わるシステムなのである。

 

「しかしまあ、出ないなぁ、ファングのやつっと」

「もっと奥に行かないと出ないんじゃないですか? えい」

 

 突如飛び出てきたロックベアの頭部に、メイとシズクはそれぞれチェイントリガーとウィークバレットを貼り付ける。

 

 瞬間、全員の攻撃がロックベアの顔面に集中した。

 

 あっという間にチェインは五十以上の数字を刻み、

 

「サテライトエイム!」

 

 メイのチェインフィニッシュ攻撃によって、呆気なく倒れた。

 

「もう熊吉くらいなら余裕だね」

「……ロックベアはゴリラよ?」

「えっ!?」

 

 ロックベアから出た赤い結晶を割って、特に何も良いのが出なかったことを確認して一同はまた歩き出す。

 

「うばー……しかしまあ何だかチーム四人で活動するの久しぶりな気がしますね」

「そうねぇ、最近シズクが忙しそうだったし……結局ここ最近何してたの?」

「うばば、秘密です……」

「ふぅん……あんまり危険なことに顔突っ込んじゃ駄目よ?」

 

 分かってますよーっと笑って、シズクは頬を掻いた。

 

 瞬間。

 

「っ」

 

 シズクが、ぴくりと身体を震わせた。

 

「リィン!」

「?」

 

 急ぎリィンの後ろに陣取って武器に手をかける。

 

 その一秒後、がさがさと付近の木々が揺れだした!

 

「これは……」

「でかいのが来るわね……皆、油断しないようにね」

 

 言いながら、アヤも杖を構えてリィンの傍に寄る。

 

 シズクの視線の先。

 正面右の木々の隙間を縫って、それは姿を現した。

 

「が、お、ぉおおおおおおおおおおおおお!」

 

 雄雄しさを表現しているかのような黄色いタテガミ。

 地を力強く踏みしめる強靭な四肢。

 

 ファング夫妻の夫のほう――ファングバンサーが何かから逃げるように(・・・・・・・・・)この場に現れた。

 

「……っ!?」

「え、この子もう弱ってません?」

 

 タテガミは焼け焦げ、爪は砕け、身体中傷だらけ。

 

 森林の王様と呼ぶには、あまりにも痛々しい姿だ。

 

「――――フォイエ」

 

 テクニックの発動音が鳴り響いた。

 

 アヤのモノではない。

 リィンが発動したわけでもない。

 

 遠く、ファングが逃げてきた方向から。

 

 通常では考えられないサイズの、巨大な火の玉が真っ直ぐに飛来してきた。

 

「がああああああああああああああ!」

 

 フォイエは見事直撃し、ファングは火に包まれた。

 

 既に死にかけだったのだろう。

 その一撃でファングバンサーは塵となって消え、赤い水晶のみが残った。

 

「り……」

 

 こんな強力な炎テクニック、彼女以外にはいないだろうとシズクがその名を口にしかけて、止まる。

 

 森の奥から堂々と現れたその姿が、『リン』とはとても似つかない程幼稚なものだったからだ。

 

「――ふっふーん! ただの犬? ライオン? がこの私に楯突くからこうなるのだ!」

 

 赤いウィオラマギカをノースリーブにしたような衣装――『イリシアスタッフ』に身を包み、

 ウィオラキャップを頭に着けた茶髪の少女が、尊大な笑い声と共に現れた。

 

 身長は150cm程だろうか。

 シズクとそう変わらないだろう。

 

「ふー、満足満足。では帰るとするかな……えーっと、帰り道は……」

 

 満足そうに何度も頷いて、キョロキョロと周りを見渡し始めた。

 

 丁度草木が邪魔で見え辛いのか、【コートハイム】には気づいていないようだ。

 

「……んー?」

 

 首を、傾げる。

 帰り道が分からなくなったのだろうか。

 

 少女の目尻に涙が浮かびかけたその瞬間、メイがその足を動かした。

 シズクの肩にポン、と手を置いて、一言。

 

「ねえ、ロックベアってマジで熊じゃないの?」

「どんだけ気になってたんですかー!?」

「さっきから大人しいと思ったらこの子は……」

「だってよー! ロックが岩で、ベアが熊でしょ!? どう考えても熊じゃん!」

 

 まさかの少女関係なしの質問に、思わず声を荒げてツッコむシズク。

 

 ちなみにどうでもいいと思うが、ロックベアのベアは『熊』ではなく『掴む』で、『岩を掴む者』という意味の名前であるというのが通説である。

 

「おい、そこの貴様ら」

「っ!」

 

 気がついたら、赤い少女がすぐ近くまで来ていた。

 まあ、あれだけ大声を出せば気づくだろう。

 

 若干目元を赤くしながらも、少女は偉そうな態度で【コートハイム】に詰め寄った。

 

「貴様ら、どっちに行くつもりだ? いや、どっちから来た? ここ何処だ?」

「あん? 何この子誰?」

「いいから答えろ! さあ早く!」

 

 今さっき目の前で繰り広げられていた惨劇を見ていなかったのか、メイの対応が完全に生意気な子供に対するそれである。

 

 さりげなく、アヤとシズクはリィンの後ろに一歩近寄った。

 いざとなったら盾にする気満々である。いやまあ、それが役割なのだが。

 

「帰り道が分からないのか? 迷子?」

「ま、迷子ではないっ! 失礼なこと言うな貴様ぁ!」

「じゃあウチが質問に答える義理は無いなぁ」

「うっ、ぐぅ……! わ、私は偉いんだぞ! 強いんだぞ! 私の言うことを聞かなかったらどうなるか分かってるんだろうな!」

 

 涙目で凄んでも、まるで偉そうに見えないし強そうに見えない。

 先ほど放ったフォイエの威力を見ていなければ、だが。

 

「しょーがないなーもー」

 

 見てなかったメイは、幼女が背伸びしているだけとでも思っているようだ。

 微笑ましいものを見るように笑いながら、アイテムパックからとあるアイテムを取り出す。

 

「帰りたいだけなら、テレパイプ使えばいいじゃん」

「てれぱいぷ? なんだそれは」

 

 赤い少女は首を傾げた。

 

 テレパイプ。

 今まで何度も登場しているアイテムなので説明は省くが、ようするに携帯型の帰還用ワープ装置である。

 

 アークスがこれを知らないというのは有り得ない程基本的なアイテムで、当然養成学校でも使い方を教えている筈である。

 

「テレパイプを知らないのか? ……あー、もしかして授業サボってた悪い子?」

「なっ!? 違う! 私は天才だったからな! 学校なんて行かなくても問題無かったのだ!」

「はいはい。仕方ないから一個上げるよ、はい」

「……貰っておこう」

 

 メイの差し出したテレパイプを、少女はぶんどるように手に取った。

 

 存在を知らなかったのだから、当然使い方も分からないだろう。

 手に取ったはいいがそこで止まった少女に、メイは使い方を伝えていく。

 

「ここをこうして……そう、そのボタンを押して」

「こうか? ……おお! 見覚えのある形状になった!」

「それでこれにアクセスすると選択肢が出るから帰るを選べば帰れるよ」

「ほうほう、成る程な。全く、こんな便利なものがあるなら研究室の連中も最初から渡してくれればいいというのに……」

 

 ぴくり、とシズクの肩が震えた。

 今、とても聞き覚えがあって不穏な単語が出てきたような……。

 

「ところで、テレパイプって何処で手に入るんだ?」

「普通にショップエリアで売ってるよ」

「む。ショップエリアか……行った事無いんだよなぁ」

「えー、その年で引きこもりはちょっと……」

「引き……!? ち、違うぞ! さっきから失礼だな貴様!」

 

 少女が大声を出すたびに、彼女の周囲のフォトンが震える。

 

 シズクたち三人の脳裏に、先ほどのファングバンサーが映った。

 

 これ以上怒らすと、やばい。

 もうシズクとアヤは完全にリィンの背後に回り、リィンもまた武器に手をかけた。

 

「はっはっは、メンゴメンゴ」

「めんごめんご? なんだそれは、何語だ?」

「最大級の謝罪を意味するビジネス用語だよ。敬意を称するべき相手にのみ使うんだ」

「……敬意かーそうかー、しょうがない、特別に許してやろう!」

 

 少女からの殺気が、収まった。

 

 メイの鈍感さと陽気(ばか)さが良い具合に噛み合ってて、逆にハラハラする。

 地雷原でタップダンスを踊っている馬鹿を間近で見ているような気分だ。

 

「ええーっと、貴様。一応感謝するぞ、これでようやく帰れる」

「そういえばお互い名前も言ってないわね。……ウチはメイ、メイ・コートよ」

 

 こっちの三人はチームメンバー、と言ってメイが三人を指差す。

 

 こっちに話題を振らないでくれ、マジでと全員一致で思った。

 

「ふん、いいだろう、私も名乗ってやる。名前を聞いて腰を抜かすなよ!」

 

 言って、名前を問われた少女は両手を腰に当てて、ふんすと無い胸を張った。

 

「私の名はクラリスクレイス。六芒均衡の五にして三英雄の一人だ!」

 

 三英雄、クラリスクレイス。

 その名は、いくら子供だろうと冗談で名乗ることは許されない。

 

 そして何より……。

 

「…………」

「……っ」

 

 貼り付けた笑顔のまま、メイはシズクを見る。

 シズクは、ゆっくりと肯定の意を示して頷いた。

 

 嘘は、吐いていない。

 彼女は本当に六芒均衡にして三英雄なのだ。

 

「…………そうか、本当に凄かったんだな」

「ふふん、そうともさ!」

 

 反り返るほど、無い胸を張るクラリスクレイスであった。

 

 さっきまで可愛らしかったその姿も、何だか別物に見えてくる。

 

「では私はそろそろ帰るとしよう。ではな貴様ら、テレパイプについては礼を言っておこう」

 

 言って、クラリスクレイスはテレパイプに触れた。

 

 触れて、時が止まったかのようにその動きを止めた。

 

 やがて照れくさそうに、メイの方を振り向く。

 

「……なあ貴様、帰るにはどうすればいいんだっけ?」

「…………」

「あ! なんだその可哀想なものを見る目は! やめろ! いいから使い方をもう一度教えろ!」

 

 前言撤回。

 やっぱまだ子供なんだなぁ、と微笑ましい気持ちになるメイであった。

 




メイは年下と絡ませやすいなぁ。
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