AKABAKO   作:万年レート1000

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連絡:10/31の夜に76話を大幅加筆修正しています。結末は変わってないけど、内容は結構変わっているので暇な方は是非前話を読んでから今話を読んでいただきたいです。



ちょっと時系列が分かりづらいかもしれないので先に解説しておくと、

五回目の戦技大会(アフィン同行)の奥地到達シーンの回想をしているシーン

六回目の戦技大会(サラ同行)の凍土エリア突入直後シーン

です。

オーザ、マールー、リサ、パティエンティアとの大会シーンは全カットです。


待ち人来たりて

『さあ、帰還するといい! 皆が君を待っ……』

 

 惑星ナベリウス・遺跡エリア奥地。

 

 『リン』にとって五度目となる戦技大会のエピローグに、それは起こった。

 

「……ッ!」

「……これは」

 

 高らかに締めの言葉を放っていたヒューイとの通信回線が突然切れた。

 それと同時に、周囲に黒い粒子のようなものが浮き上がる。

 

 これは、見間違うわけも無い。

 ダーカー、因子だ。

 

「な、なんだこの感覚……!」

「……注意しろ、アフィン」

 

 隣で先ほどまで一緒にナベリウスを駆け抜けていた相棒――アフィンがうろたえながら周囲を見渡す。

 

 傍目には、誰も居ない。

 でも確実に、『何か』が居る筈だ。

 

「お、おい、誰だッ……! 誰かいるんだろ、出てこい!」

 

 アフィンが叫ぶ。

 存在するだけで闇を周囲に溢れさせ、ヒューイの滾るフォトンによって繋がれた通信を切断できる何かに向かって。

 

「へぇ、アークスにしては鋭いじゃない」

 

 『それ』は、存外あっさりと姿を現した。

 

「邪魔しないように上手く隠れてたつもりだったんだけど、まだこの身体にも慣れないなぁ」

 

 毛先が紫に染まった、金髪。

 長く伸びた、ニューマンを示すエルフ耳。

 血を連想させるような、赤い瞳。

 

 そんな顔立ちが特徴的な美女が、

 赤と黒を主軸とした、鋭利な印象を持っているスーツを纏い『リン』とアフィンの前に立った。

 

「お、お前……!」

 

 驚愕の表情で、アフィンは突如現れた美女を見つめる。

 

 いや、男なら突然美女が現れればそりゃ見つめるとは思うが、そうではなく。

 

 まるで、『信じられないもの』を見るかのような表情で、アフィンは言葉を漏らした。

 

「ん? あたし、そんなにヘンな顔してる? ちゃんと人間の顔や格好してると思うんだけどなあ?」

 

 そんな表情で顔をジッと見つめられたものだからか、彼女は自身の身体を見直しつつもそう言った。

 

 だが、特にヘンな所は無いと自分の中で結論付いたのか、やがてまた二人に向き直ると、「ああ」と納得したように一つ頷いた。

 

「覗き見に怒ってるのかしら? いいじゃない減るもんじゃないし」

 

 楽しそうだったから、つい、ね。

 と言って、彼女は『リン』を値踏みするように視線で嘗め回す。

 

「それに……【巨躯(エルダー)】を撃退した奴ってのをこの目で見ておきたかったの」

「…………」

「【巨躯】……この前の、ダークファルス……!」

 

 彼女の口から出てきた【巨躯】という単語に、アフィンは敏感に反応した。

 

 ダークファルス【巨躯】。

 つい最近――二週間程前にアークスシップを襲撃してきた、アークスの大敵。

 

 そんな存在を、まるで自身と対等かそれ以下みたいな口調で呼び捨てたということは――。

 

「そんなに警戒しなくても、今この場で事を構える気はないわ」

 

 『リン』とアフィンの緊張が高まったのを見て取れたのか、女は砕けた口調で言う。

 

「だからほら、そんなに肩肘張らずリラックス、リラックス。すぐに去ってあげるから」

 

 本当に戦闘の意思は無いらしく、あっさりと女は『リン』とアフィンから背を向けた。

 

 もう、帰ってしまうのだろう。

 このまま見過ごすのが、普通なら正しいのだろうが……。

 

「お、おい!」

 

 アフィンは、彼女を呼び止めた。

 怖いけれど、言いたいこと、訊きたいことがたくさんあるような表情で。

 

「なによ。あたしは帰るんだから死にたいって相談以外には乗る気はないわよ」

 

 僅かに放たれた、殺気。

 それは、僅かとは言えど普段のアフィンならば充分に威圧足りえるものだったが――。

 

 珍しく、彼は退かなかった。

 

「お前……その顔は……。ううん、な、何者なんだよ……!」

 

 何者なのか。

 なんて、答えの半分分かりきった問いを、アフィンは叫ぶ。

 

 果たして彼女は――振り返った。

 赤い瞳で二人を見ながら、答える。

 

「貴方たちの、敵よ」

 

 ぞくり、と『リン』とアフィンの背が震えた。

 

 やはり、間違いない。

 目の前にいる存在は、【巨躯】と同じ――ダークファルスであると二人は確信した。

 

「いや、正しくはあたしたちの敵が貴方た――」

 

 と、そこまで言いかけて、女は口を噤んだ。

 キョロキョロと周囲を見渡して、舌打ちを一つすると。

 

「チッ、見つかったか」

 

 それだけ言って、赤黒いフォトンのようなエネルギーが彼女を包んで、消えた。

 

 ダーカー特有の、ワープ航行だろう。

 あまりにも唐突だが、立ち去ってしまったようだ。

 

「…………」

「…………な、何だったんだよ、あいつは急に――」

 

 まだ緊張の抜けない口調で、アフィンは声を絞り出す。

 

 今起こったことを、頭の中だけじゃ整理できないようだ。

 

「あの口ぶり……あの雰囲気……桁違いの威圧感……」

「『見つかったか』とも言ってたわね……一体誰に……」

「……なあ、相棒、あいつ……」

うば(・・)? あれれ? ここに居ると思ったんだけどなぁ」

 

 瞬間。

 背後から、少女の声が響いた。

 

「っ!?」

「なっ……!?」

 

 武器を構え、二人は即座に振り返る。

 

 だが、背後には。

 

 誰もいなかった。

 

「…………は?」

 

 思わず間の抜けた声が、『リン』の口から漏れた。

 

 確かに声は聞こえた。

 確かに気配は感じた。

 

 間違いなくついさっきまで誰かがそこに居た。

 

「なあ、相棒……聞こえたよな? さっきの声……」

「ああ……間違いなく、聞こえた」

 

 気づけば、宙を舞うダーカー因子は消えていた。

 

 濃いダーカー因子の塊とも言えるダークファルスが去ったことで、静まったのだろう。

 

 でも、因子が消えたのはさっきのダークファルスの女が去った後ではなく、背後から声が聞こえた直後。

 

 つまり――。

 

(や、でも、さっきの声……)

(『うば』って……確かシズクの口癖――)

 

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、『リン』!」

「うわっ!?」

 

 惑星ナベリウス・凍土エリア。

 『リン』にとって六度目の戦技大会中。

 

 ボーっと考え事をしていた『リン』に、グレー色のポニーテールとバッテン前髪が特徴的な少女――『サラ』の怒りが飛んだ。

 

「どうしたのよ全く……まあここは小休止スペースみたいだからいいけどさ、呼んだら返事くらいしてよねっ」

「ごめんごめん、ちょっと考え事しててさ」

「はあ……まあいいわ、少し休憩しましょう」

 

 言って、サラは立ち止まった。

 

 特に椅子等は無いので立ったままの休憩だが、それでも戦技大会の道程は結構長い。

 中間地点でしっかり休息を取り、後半戦を戦い抜けるように体力を回復させておくのは決して悪い手ではないのだ。

 

「しかし、会うたびにあなたの動きは洗練されていくわね。正直、羨ましいぐらいの成長速度。……染みついたようなその動き……幾度も繰り返された、執拗な訓練の成果と言ったところかしら」

「そこまで言われると、照れるわね」

「どれだけ繰り返せばこの短期間にそれほどの力がつくのか、わからないけど……」

 

 それは、際限も無く――というか節操なく人を助け続けている成果だろう。

 まあ、そんなこと『リン』は自覚していないし、自覚していても自慢などしないだろうが。

 

「ああ、ごめん。なんか責めてるみたいになっちゃってた」

「いや、別にいいよ。気にしてない」

「そう? ならいいけど。強いことは悪いことじゃないわ。調子に乗ったり、度が過ぎたりしなければ、間違いなくいいことよ」

 

 と、そんな会話をしている最中。

 突如、通信機に着信が入った。

 

『はーっはっはっは! 参加者諸君、ごくろうごくろう! 楽しんでくれているかなー!』

『うう、私も参加したいなあ……』

 

 戦技大会の主催、ヒューイとクラリスクレイスである。

 そういえば毎度毎度凍土に着いたくらいに連絡があったな、と『リン』は前回までの戦技大会を思い出しながら、耳を傾ける。

 

『……んん? なんだ、呼び出しか?』

 

 開幕早々、クラリスクレイスの通信機になにやら連絡が入ったようだ。

 安定のぐだぐだ進行である。

 

(ん? でもあれ? こんな展開あったっけ?)

『通信回線切っておくように! こほん……気を取り直して途中経過の報告だ!』

 

 途中経過。

 ゴールまで後半分くらいといったところだから、タイミングとしては丁度いいと言えるだろう。

 

(毎回毎回私が居るペアは一位か二位だったな……)

『……現在の成績優秀者は、フォースのキリン・アークダーティとハンターのサラのペアか!』

『えー、なになに? なにっ! 私の力が必要な事例!? しかもマリア直々にご指名だって!』

『ハンターのオーザと、フォースのマールーのペアも頑張っているようだな!』

 

 クラリスクレイスが全く関係のない話をしている所為で聞き取りづらかったが、やはり一位は『リン』とサラのペア。

 そしてそれに続くようにオーザとマールーのペアが上位にいるようだ。

 

 まあオーザとマールーは共にハンターとフォースというクラスの代表者みたいなもの。

 全アークス内で見ても上位に入る実力者たちだ。この結果にも納得が行く――。

 

『……ああ、それと』

 

 だが。

 次に紡がれたヒューイの言葉に。

 

 『リン』は目を見開いた。

 

『ハンターのリィン・アークライトと、レンジャーのシズクも頑張っているな! 資料によればこの二人は最近入隊したばかりの新人! 若いアークスの台頭というのは先達として嬉しいところだ! よしよし、頑張れよー!』

「はっ……!?」

 

 それはおかしい。

 絶対におかしい。

 

 だって、今までの途中経過発表で、二人の名前が出ることなんて無かった。

 

 オーザやマールー、リサにパティエンティアとかならまだ分かる。

 

 時を繰り返す中で、ペアを組んだり組まなかったりしているからあの人たちの順位に変動が出るのは分かる。

 

 だが、それ以外の参加者は別だ。

 

 多少順位は変動しても、大幅に変わることはない。

 

 ましてや、言い方はあれだがリィンやシズク程度の実力で上位入賞できるほどこの大会のレベルは低くない。

 

「…………!」

「ど、どうしたのよ『リン』」

「……いや、なんでも、ないよ」

 

 いつの間にか、主催からの通信は切れていた。

 それでも尚動こうとしない『リン』を心配するように、サラは声をかけた。

 

「そう? ならいいけど……無茶はしないようにね。上位にいるようだからこのまま独走と行きたいところだけど、体調が悪いなら棄権するからね」

「大丈夫だよ。さ、行こう」

 

 行って、『リン』は歩き出す。

 心配そうにしながらも、それに続くようにサラも歩き出した。

 

(シズクが、ハドレッドの時みたいに何かをしたのか?)

(……前の戦技大会の最後、後ろから聞こえたあの声……シズクのものでは、無かったけど……)

「……っ」

 

 『彼女にはあまり関わらないほうがいい』という、シオンの台詞が何度も頭を過ぎる。

 

 でも。

 それでも、この『リン』という女は。

 

(それでも、私は――っ)

 

 杖の先から放たれた炎で、原生生物を焼き払う。

 

 不安を吹き飛ばすように、力強く。

 

(私は、友達を信じたい――!)

 

 その強さが、いつか来る『何か』に於いて。

 枷になることも、知らずに。

 

 

 




突然出てきた謎のパツキンボインダークファルスは一体何プレンティスなんだ……(フルフル)

え? それよりも声だけ登場した新キャラが誰かって? エピソード2をお楽しみに!


しかしまあ何というか、外伝はわりとすぐ終わりそうですね(フラグ)
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