AKABAKO   作:万年レート1000

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シリアスしか無い回。


代償

 この時。

 メイとアヤが犯したミスは、一つだけ。

 

 咄嗟に、戦闘態勢を取ってしまったことだけだ。

 

 ダークファルス【巨躯】もといファルス・ヒューナルの望みは、『猛き闘争』。

 

 血沸き肉踊る、強き者との戦いこそが彼の本懐である。

 

 故にファルス・ヒューナルは、『弱い者』、『逃げる者』は見逃す傾向にある。

 

 女子供ならば、尚更だ。

 

 だから二人は、ここで戦闘態勢を取るべきではなかった。

 

 脇目もふらず、一心不乱に逃げるべきだった。

 

 そうすれば、この後の惨劇も無かっただろう。

 

 ――まあ、尤も。

 ファルス・ヒューナルのそういった性質は、まだアークスには解明されていない。

 

 だから、仕方の無いことだったのだろう。

 

 二人が、戦闘態勢を取ってしまったことも。

 この後二人に降りかかる悲劇も。

 

 【コートハイム】が、この日をもって解散となってしまうことも。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

「通信、誰からだった?」

「メイ先輩。お祝い会しよーだって」

「お祝い?」

 

 ナベリウス凍土奥地。

 疲れた身体を休めるように岩場に座っていたリィンが、首を傾げた。

 

 そりゃそうだろう。

 シズクは端末を操作して、戦技大会の公式サイトをモニターに映し出した。

 

「うん。なんかね、もう順位が出てるらしくて……あったあった。ほら、あたしたち二位だって」

「ふーん。二位…………二位!?」

 

 思わず、順位表を二度見するリィンであった。

 

 無理もない。

 三位以降に連なっている名前はどれもこれも錚々たる人物なのに、その上に自分たちの名前が記載されているのだ。

 

「うっわ、本当だ……流石に今回ばかりは全部シズクのおかげね」

「……まあ、今日はちょっと冴えすぎだったけど、全部は言い過ぎだよ。あたしだけじゃ、予測(さき)が見えても身体が追いつかない…………ん?」

 

 不意に、シズクが顔を上げた。

 また、何か感じ取ったのだろうかとリィンは釣られるようにシズクの視線の先を追う。

 

 だが今回は、特殊な直感とかそういうのではなかった。

 

 ただ、視界の端に『何か』が映ったので気になっただけなのだろう。

 

 『何か』――ファルス・ヒューナルが、宇宙(そら)から降ってきたのが、目に入っただけなのだろう。

 

「……ねえ、シズク」

「……うん、今のダークファルス、だよね」

 

 ファルス・ヒューナルについては、一般アークスにも公表されている。

 

 故に、シズクとリィンも知っていた。

 黒い外殻に覆われたその風貌も、圧倒的なまでの強さも。

 

「うばー……なんか、嫌な予感がするんだけど……」

「私もよ……万が一もあるし、ちょっと先輩らに通信入れるわね」

 

 言って、端末を開き連絡帳からメイを選択。

 

 コール音が、鳴り響く。

 一回、二回、三回、四回。

 

 まだ、出ない。

 

「……いつもなら、一回目で大体出るのに……」

 

 不安が、胸の中で拡大していく。

 嫌な汗が頬を伝い、リィンの顎に達した時だった。

 

 コール音が、止まった。

 

『……リィン?』

「っ! メイさん!」

 

 ぱあぁっと、シズクとリィンに笑顔が戻る。

 

 よかった、出てくれた。

 もしダークファルスと戦闘中なら、通信に出ている暇など無いはずだ。

 

 つまり、二人の嫌な予感は外れ――。

 

 なかった。

 

『ふっ……! 丁度よかった、今そっちに連絡入れようと思ってたとこ……ぜえ……!』

「……? 息が荒いですね、どうかしました?」

『ああうん、今ファルス・ヒューナルと戦闘中だか――ごふっ!?』

「え――?」

 

 まるで、岩壁に激突したような効果音と共に、メイが苦しそうな声を吐いた。

 

 そう。

 普段からクエスト中だろうが戦闘中だろうが、べらべらと喋りまくっているメイにとって、戦いながら通話を取ることなど、造作も無いことだったのだ。

 

「は? ちょ、メイさん!?」

『げほっ……だ、大丈夫。まだ死んでない。ちょっと掠っただけだから……っ』

「ぜ、全然大丈夫そうに聞こえないんですけど!?」

 

 誰がどう聞いても大ピンチ真っ只中である。

 嫌な予感が、的中してしまった。

 

(なんっで、よりによって先輩らのとこに……!)

「と、兎に角座標を教えてください! すぐに助けに……!」

『駄目』

「――は? ふ、ふざけてる場合じゃないですよ! ちゃんと座標を……」

『来ちゃ、駄目』

 

 メイの声色は。

 真剣、そのものだった。

 

『貴方たちが来ても、何も解決しない。だから、帰還しなさい』

「な……!?」

『でもその前に、助けを呼んどいて。『リン』でも、六芒均衡でもリィンのお姉さんでもいい』

 

 誰か強い人を、呼んできて。

 と、メイは極めて冷静な口調でそう言った。

 

 実際、それが得策だろう。

 

 シズクやリィンが出張ったところで、犠牲者が増えるだけだ。

 

「…………」

『分かった? じゃあ、座標を――ガガッ』

 

 座標を、メイが口に出そうとした瞬間。

 

 通信が突然切れた。

 

 通信端末が、壊れたのだろう。

 リィンはゆっくりと、耳に当てていた左手を下ろした。

 

「な、何? どうしたの? 先輩たちは、無事なの?」

 

 シズクが心配そうな声色で、そう訊ねてきた。

 一対一の通信だったので、シズクに会話の詳細までは聞こえなかったのだろう。

 

 リィンはシズクに背を向けたまま、淡々とした口調で答える。

 

「……今、ファルス・ヒューナルと交戦中だって」

「え、ええ!?」

「だから、助けを呼んで、だって。『リン』さんとか、六芒均衡とかの強い人に頼んで、逃げろって」

「わ、分かった。多分『リン』さんならこの先に居るはずだからすぐ連絡を…………リィン?」

 

 一歩、リィンは踏み出した。

 ファルス・ヒューナルが落ちた方向へ、一歩。

 

「――ふざけるな(・・・・・)

 

 珍しく、というか。

 初めて聞くような、憤った声色でリィンはそう呟き。

 

 全速力で、走り出した。

 

「うば!? り、リィンー!?」

 

 シズクの静止の声すら無視して、走る。

 

 あっという間に、リィンの後姿は雪景色の向こうへ消えていった。

 

「え、ちょっと、……えー? あたし座標すら聞いてないんだけど……」

 

 だだっ広い雪原の中にぽつんと取り残されて、シズクは呟く。

 

 周囲にエネミー反応は無いので、安全ではあるが……。

 

「……状況を整理しよう。まず先輩らがファルス・ヒューナルに襲われて絶体絶命。そんであたしらに強い人を呼んできてと要請。しかしあたしには先輩らの居る座標が分からない……成る程」

 

 大ピンチである。

 

 メイともう一度通信できないか試してみたが、どうにも繋がらない。

 通話しながら戦闘するなんて真似、いつも戦闘中もべらべら喋りっぱなしのメイだからできることなので、アヤに連絡するのは危険。

 

 普通なら、どうすることもできない状況だ。

 

 でも、どうにかしなければ、メイも、アヤも、もしかしたらリィンも。

 

 皆、殺されてしまうだろう。

 

 それだけは、絶対に避けなければいけない最悪の未来だ。

 

「――仕方ない。周りには誰も居ないし……やるか」

 

 目を閉じて、開いて、閉じる。

 海色の光が、シズクを薄く包み込む。

 

 オラクルの中枢――マザーシップの、さらに中枢に、潜り込んでいく。

 

「…………」

 

 今度は、端末を介さない。

 

 編修用具は必要ない。

 

 ただ、閲覧す()るだけ。

 

 マザーシップに記された、この世界の、この惑星の。

 

 歴史を。

 

「――――見つけた」

 

 数秒後、シズクは薄く目を開いた。

 普段の彼女からは信じられないほどの無表情で、呟く。

 

 海色の光は、溶けるように掻き消えた。

 

「……っぷはぁ! ……うばー、よかった……視えた……」

 

 玉のような汗を流しながら、シズクは呟く。

 たった数秒能力を行使しただけで、もの凄い疲労である。

 

 マザーシップのデータベースを改竄した時は、ここまで疲れることは無かった。

 

 何が違うんだろう、と自分の能力なのに疑問を抱きながら、シズクは端末を取り出す。

 

「はぁ……よし、次は『リン』さんに連絡を――」

 

 入れようと、した時だった。

 

「あ……」

 

 ぽたり、とシズクの鼻から赤い血が滴り落ちた。

 

「ぐっ……」

 

 それを境に、ぐにゃりとシズクの視界が歪んだ。

 

 立っていられなくて雪に膝を付く。

 鼻血によって赤く染まった雪が、霞んだ視界に映し出された。

 

「くっそ……視すぎ(・・・)()……か……っ」

 

 脳みそが、熱い。

 鉄板で直火焼きされてるんじゃないかと思える程の激痛が、シズクを襲う。

 

 でも。

 それでも、立ち止まるわけにはいかない。

 

 倒れるわけには、いかない。

 

 ここで倒れたら、全てが終わってしまう。

 

「端末、を……!」

 

 頭を少しでも冷やすために雪に顔を突っ込みながら、震える手で端末を操作する。

 

 果たして――通信は――――。

 

 

 




本当に申し訳ないんですけどまだシリアス続きます。

次回サブタイトルは、「リミットブレイク」。
土日に更新できたらいいなぁ。
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