AKABAKO   作:万年レート1000

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ようやく原作キャラ登場。

今回ほぼ会話しているだけです。


Episode1 第1章:零の手・月夜の尊
備えあれば憂いなし


「……ここにも居ない」

 

 惑星アムドゥスキア・浮遊大陸エリア。

 惑星の外郭を覆うように宙を浮かぶこの大陸で、一人の少女が佇んでいた。

 

 毛先だけ赤い、蒼色のツインテールをした少女だ。

 ゼルシウスという機動性が高いピチピチのスーツのような服を身に纏い、憂いを帯びた表情で虚空を見つめている。

 

 両腕には腕に付けるタイプのツインダガー。

 複雑な鉤爪のような形状の黒い基盤に、青色のフォトン刃を纏わせており、一目見ただけでその武器が通常の規格とは異なることが見て取れた。

 

「……次は、火山洞窟の方に行ってみましょうか」

 

 ちらり、とその伏せた瞳が僅かに動き、浮遊大陸の下――火山洞窟へと向けられた。

 

 煌々と燃えたぎるマグマが、遥か上空のこの場からも見える。

 そんな場所に今から行くというのに、彼女の表情は何一つ変わらない。

 

「……――ハドレッド、一体、何処へ行ったの?」

 

 呟いて、少女は消え去った。

 煙か何かのように、そこから消え去った――否。

 

 “そこ”に居ることが、見えなくなった。

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 心地よいまどろみを感じながら、リィンの意識は柔らかに目覚めて行く。

 

 頭に感じる枕と布団の感触が気持ちいい。

 しかし陽の光が鬱陶しいのか、態勢を変えて光が自身に当たらないように位置を調整した。

 

 意識は半覚醒、といったところだろう。

 今が朝なのは認識しているし、もう起きる時間だということも分かっている。

 しかしこのまま放置しておいたらまた眠りに落ちてしまうことは確実だった。

 

 いつもならそろそろ、あの口汚いサポートパートナーが罵倒と共に起こしに来る頃だろう。

 

 そう結論付けて、ベッドの中で起こされるのを待つことにした。

 

(あれ……?)

(昨日、ベッドで寝たっけ?)

「あ、リィンまだ寝てるの? 起きないと駄目だよー?」

 

 聞き慣れない、しかしどこか心地よい声に、急激に眼が覚めていく。

 

「ほらほら起きてー朝だよーって、起きたね。おはよう」

「おは、よう……」

 

 ベッドから上半身だけ起き上がって、声の主を見る。

 そこにはエプロン姿のシズクがお玉を持って立っていた。

 

「…………」

「ほら、もう朝ごはん出来ちゃってるから顔洗ってきて」

「う、うん……」

 

 ベッドから起き上がって、洗面所がある隣の部屋へ向かう。

 扉を閉めて、上下左右に誰もいないことを確認。

 

 両手で顔を覆って心の中で叫ぶ。

 

(エプロン……良い!)

 

 それが萌えという感情であるということは、この時まだリィンは知らないのであった……。

 

 

 

 

 ――十分後。

 身だしなみを整え終わったリィンが食卓に戻ると、そこには白米とみそ汁、焼き魚に漬物といった和食料理が並んでいた。

 

 普段朝はトーストなリィンからすると、物珍しい光景だ。

 

「これ、シズクが作ったの?」

「うん、ルインちゃんにも手伝ってもらったけどね」

「シズク様の故郷の料理らしいです。味わって食べてくださいね糞主人(マスター)

 

 シズク、ルイン、リィンの三人で食卓を囲む。

 朝ご飯を誰かと食べるなんて久しぶりだなぁ、とシズクは笑った。

 

(私は……初めて、だな)

「白米うましうまし」

「……て、あれ? シズク、エプロン取っちゃったの?」

「そりゃご飯食べる時は取るよ?」

「そ、そっか……そうだよね」

 

 がっくしと項垂れた後、白米を口に入れる。

 美味しい。

 

「ん? 何、あたしのエプロン姿に魅了されちゃったの?」

 

 相変わらず察しの良さである。

 リィンは恥ずかしさで頬を赤くし、首を横に振って否定した。

 

「べ、別にそんなんじゃないわよ」

「ふぅん? まあいいや、それより今日はいよいよアムドゥスキア行くよ」

「昨日は誰かさんが寝堕ちして行けなかったもんね」

「うばっ」

 

 痛いところを突かれたシズクであった。

 ごくん、と白米を飲みこんで、「ごめんね」と謝った。

 

「いや、謝ることはないわよ。正直あの時間から出撃は辛いし」

「フォトンで身体的な疲労はどうにかなるよ?」

「精神的疲労が辛いのよ」

 

 戦いというのは、普通ストレスが結構溜まるのだ。

 常人なら多くても一日三回程度の出撃が限度だろう。

 

 シズクはレアへの物欲でストレスが大分緩和され、一日に何度でも出撃できるのだ。

 

(欲望の力って凄まじいわね……)

「ところでリィン、リィンもアムドゥスキア行くの初めてなんだよね?」

「え? うん、そうよ」

「じゃあちょっとアムドゥスキアについて復習しとこうよ。研修の内容、忘れてるといけないし」

「そうね、良い案だと思うわ。……ルイン、映像出せる?」

「そういうと思って用意していました」

 

 ブゥン、と宙にモニターが投影された。

 画面には一つの特異な形をした惑星が映し出される。

 

「これが惑星アムドゥスキアです」

「相変わらず変わった形してるね」

 

 外郭を覆うように星を囲う、無数の浮遊している(・・・・・・)大陸。

 さらにその大陸たちの隙間からは、星の地核部が露出している。

 

 数ある惑星の中でも特に変わった形の惑星であるといえるだろう。

 

「はい、過去にあった隕石の落下でこのような形になったらしいです。当然環境はかなり厳しく、フォトンによる守りが無ければ降り立つことすら困難です」

「でも確かこの星には知的生命体が住んでるのよね、確か…」

「龍族、だね。超越的な生命力に強靭な肉体を持っていて、更に知恵は人間以上っていう……まぁナベリウスの原生生物よりか厄介なのは確かだね」

 

 シズクが自分の目の前にも端末を作動させながら言う。

 

 生命力、肉体、知恵。

 一番厄介なのは、知恵を持っているところだろう。

 

 昨日戦ったロックベアは結果的に無傷で倒せたが、あれは攻撃が単調かつ直進的だったからだ。

 

 あれ並のパワーの持ち主が知恵を持っているとなると、相当な苦戦は必至だろう。

 

「はい、ですのでくれぐれも全滅には気を付けてください。普通に死にますので。片方が生きてればムーンアトマイザーで回復も出来るし、担いでの撤退も視野に入れることができます」

「ナベリウスみたいに鎧袖一触とは行かないだろうしね、専属のオペレーターでもいれば全滅しても転送して貰えるんだけど……」

 

 オペレーターというのは、アークスシップから現場のアークスに指示を出したり後方支援をする職業のことだ。

 その仕事はアークスのバイタルチェックから周囲の異常検出、そして強制的なキャンプシップへの転送等多岐に渡り、それ故に絶対数が少ない職業なのだ。

 

 専属のオペレーターがいる、というアークスは稀だろう。

 時に危険な任務に着く際には熟練のオペレーターがその任務限定でバックアップに着いてくれたりもするが、今は関係のない話だ。

 

「まあ居ないものをねだっててもしょうがないわ、回復アイテムを目一杯持ってけば大丈夫でしょう」

「そだね、あたしとリィンなら大丈夫大丈夫! ブラオレットもあるしね!」

 

 シャキーン、とブラオレットを取り出すシズク。

 当然まだ傷一つ無い新品だ。

 

「そうですね、糞虫(マスター)なら兎も角『火山洞窟』のエネミーくらいならシズク様がいれば余程のことがない限り大丈夫でしょう」

「私なら兎も角って……確かに実力でシズクに一歩劣ってるのは認め……認め、る、けど……そこまで差があるの?」

(すっごい悔しそうたなぁ)

「はい、確かに技量面にそこまでの差は無いですが、武器の性能にかなりの差があります」

「武器、か」

 

 呟いて、アイテムパックから今使っている武器ーーギガッシュを取り出す。

 正式にアークスになってから一週間経った頃、たまたまドロップして初期装備より強かったからそのまま使っているものだ。

 

 当然、いつかはもっと強い武器に乗りかえる時が来るだろうと思ってはいたが……。

 

「うーん、そろそろ乗り換える時が来たのかなぁ」

「ん? ついにシズクもレア武器掘りをするのかい? 火山洞窟では『シル・ディーニアン』からは『エイトオンス』! 『ディーニアン』からは『ラコニウムの杖』! 『フォードラン』からは『クシャネビュラ』! キャタドランからは『セントキルダ』に『クロススケア』! そしてなんと『ヴォル・ドラゴン』からはソードの『ザックス』が出るよ!」

「いや、私はマイショップで買うからいいよ」

「ずこー!」

 

 古きよきずっこけを披露したシズクであった。

 

「なんでよ! マイショップで買うなんて邪道よ邪道!」

「あ、ザックスが5000メセタで売ってる。買うべきかなぁ」

「もう開いてるー!?」

 

 ちなみに、5000メセタとは二、三回クエスト行けば、貯まるどころかお釣りが来る金額だ。

 

「あばぁー!」

「わ」

 

 身を乗り出してマイショップとの接続を切ろうとしてきたシズクの一撃を避ける。

 

「うーん、ザックス、安いけど形状が斧なのがなぁ……」

「あばー!」

 

 ていうか斧なのにソードなのか。

 なんてツッコミは無粋である。

 

(シズクも怒ってるし乗り換えはまたの機会でいいかなぁ? なんかあばーしか言えなくなってるし……)

「あびゃー! あばばばばー!」

 

 色んなバリエーションがあるらしい。

 思わずくすりと笑ってしまうリィンであった。

 

「あ、そうだ! えーと……シズク、これならどう?」

「あば?」

 

 マイショップでとある武器を検索し、シズクに見せる。

 安く、使い慣れていて、確実に強化になる武器だ。

 

 それに何よりシズクもこれなら許してくれるだろう。

 

「アルバギガッシュ? マイショップってコモン武器も売ってるんだね」

「ギガッシュのアップグレード版だから使い勝手もそう変わらないだろうしこれ買うよ。いいでしょ?」

 

 アルバギガッシュとはギガッシュのアップグレード版である。

 刀身に纏っていたフォトン刃が緑色から青色に変わっただけで、形状に大きな違いが無く、攻撃力も単純に上がるので良案と言えよう。

 

「うーん、んー、うばー、んー、うん、まあレアじゃないし文句は言わないよ」

「良し、じゃあ一番安いのを……」

「おっと、ストップです無知(マスター)、氷属性の武器を買うべきでしょう」

 

 と、その時購入ボタンを押し掛けたところでルインがストップをかけた。

 

「あー、確かにね」

「え? 何で?」

「シズク様は理解が速くて助かります。火山洞窟のエネミーは総じて氷属性に弱いですから、今買うなら氷属性を買うべきでしょう。」

 

 惑星アムドゥスキア・火山洞窟。

 星の地殻に自然発生した洞窟で、多くの新米アークスがナベリウス・森林の次に足を踏み入れるであろうエリアだ。

 火山洞窟で育った龍族は、熱さには当然強い。

 しかし逆に冷気には弱いのだ。

 

「武器には属性値というものが設定されています。エネミーの苦手な属性を把握して武器を使い分けるのも、一流のアークスとしては必要なことですよ」

「な、成る程ね」

 

 買おうとしていた無属性アルバギガッシュの購入を止め、氷属性アルバギガッシュを購入。

 これで数分後には宅配されてくるはずだ。

 え? 早すぎる? テレパイプとかでワープできるので当然の速度である。

 

 そして三分後、アルバギガッシュは届いた。

 傷も少ない、カタログ通り氷属性のソードだ。

 

「さて、これで準備は完了かな?」

 

 言いながらシズクは箸を置いて手を合わせた。

 丁度朝ごはんも食べ終わり、情報の復習も終わって準備完了である。

 

「そうだね、後は火山洞窟に行く許可が降りるかだけど……」

「まず降りると思いますよ、確かロックベアを倒せるかどうかが基準だったと思いますし」

 

 成程、じゃあ心配ないか。

 と、納得したところでふとリィンの頭に疑問がよぎった。

 

「……さっきからルイン色々と詳しすぎない? サポートパートナーって普通こんな博識だっけ?」

「ピッ。ソノ質問ニ対スル答エハ開発者ニヨッテロックサレテイマス」

「「!?」」

 

 今まで流暢に話していたルインが、突如無表情になり機械的な音声を発した。

 あまりに突然の出来事に固まる二人。

 

「……る、ルイン?」

「――は。すいません、今一瞬システムがダウンしてました」

「……えーと、大丈夫?」

「はい、システムオールグリーン、異常ありません」

「…………そ、そう」

 

(私、なんか厄介なサポートパートナー受け取っちゃった!?)

 

 誰かサポートパートナーに詳しい人がいたら調べて貰おう。

 そう決心したリィンであった。

 

(というか、こうなるとさっきから違和感を感じてたことも心配になってきたわ……)

 

 実はリィンには朝、起きてからずっと気になっていることがあるのだ。

 さっきまで問題ないだろうと思っていたが、あんな妙チクリンなことされたら心配にだってなる。

 

「じゃ、じゃああたし朝御飯片付けるね」

「手伝います、シズク様」

「あ、ルインちょっと待って」

 

 シズクが二人分の食器を重ねて台所に向かうのを追おうとしたルインの腕を掴み、止める。

 

 ルインは酷く不機嫌そうな顔でリィンの方に振り向いた。

 

「何か用ですか? 大気中の酸素が勿体ないので手短にお願いします」

「いきなり辛辣!? い、いや今日は何だかその辛辣さっていうか毒舌さが控えめだなって思ってどうかしたのかなって」

 

 そう。

 リィンが気になったのはそこ。

 

 今日のルインの言動を振り返ってみると、明らかに悪口毒舌が少ないのだ。

 精々マスターの発音が不穏だったくらいだろう。

 

 これは二週間とはいえ彼女と一緒に暮らしていて初めてのことだった。

 

 しかしルインは、なんだそんなことですか、と呆れたように溜め息を吐く。

 

「ワタクシだって、尊敬している人の前で礼節を弁える程度の機能は備わっているんですよ」

「尊敬……? もしかしてシズクを?」

「ええ、あの方は素晴らしいですよ」

 

 尊敬。という言葉がこの毒舌マシーンから出てきたことにまず驚き、そしてシズクの名が出てきたことにさらに驚いた。

 

「確かにシズクは(色々と)凄いと思うけど、ルインが尊敬するような部分あったっけ?」

「本当に救い用のない愚鈍っぷりですね、その頭蓋骨の中にメロンパンでも入っているんじゃないですか?」

 

(あー、いつものルインだ)

 

 少し安心感を覚えるリィンであった。

 

「説明してあげましょう。今日朝、目が覚ましたワタクシの目に入ったものは朝御飯の下準備をするシズク様の姿でした。なんと彼女はワタクシより早起きしてたのです」

「は、はぁ。朝弱くて悪かったわね」

「さらに炊事洗濯掃除全てが家事特化サポートパートナーであるワタクシに匹敵……いえ、それ以上の家事力の持ち主でした……正直勉強になりました」

「いつもその辺任せきりで悪かったわね」

「こうしてシズク様は、ワタクシにとって憧れであり尊敬の人物になったわけです」

 

 成る程、と納得したようにリィンは頷いた。

 

 要するに、家事特化サポパとして、自分より家事が出来る人間は尊敬できるのだろう。

 家事を一切やらないリィンに辛辣なのもそれが理由の一端なのかもしれない。

 

「食器洗い終わったよー」

「なんと! 流石の速度ですねシズク様」

 

 食器洗いを終えたシズクが台所から戻ってくる。

 それを手放しで褒め称えるルイン。

 

 ちなみにリィンはルインに褒められたことは無い。

 

(……ふぅん、家事、ね)

(……やってやろうじゃん)

 

 露骨に嫌なフラグを立てるリィンであった。

 

 




眠気眼で書いているから誤字脱字あったらすいません。
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