出るかどうかは別として頑張らねば……!
10年前。
恋人を失った青年が居た。
青年は全てを恨んだ。
ダーカーを、ダークファルスを、そして何より、弱き己を。
青年は、死に場所を求めた。
10年前。
家族を失った少女が居た。
少女は全てを悔やんだ。
反抗期を、己の弱さを、そして何より、過去の自分を。
少女は、生きる希望を求めた。
青年の名は、ゲッテムハルト。
少女の名は、メイ・コート。
正反対でありながら何処か似ている二人の会合は、最早永劫に『有り得ない』未来となってしまった。
*****
「――良き、闘争であった」
言って、ファルス・ヒューナルは背に大剣を仕舞った。
視線の先には、肘から先の腕が切り離され、雪の上で大の字になって倒れているメイ。
血が、止め処なく雪を赤く染めていく。
まだ息はあるが、それももう数分の命だろう。
「メーコ!」
だが、息があるなら。
命があるなら、回復できるアイテムがある。
「む」
金色の光が、辺り一面に降り注ぐ。
ムーンアトマイザー。
言わずと知れた戦闘不能回復アイテム。
アヤの投げたそれは、メイの傷を癒し、流血を止め、体力を回復させた。
それでも、両腕は失ったままだが。
「無粋な……だがまあ、もう戦えぬ者に興味等無い……」
「メーコ! メーコ! 生きてるなら返事を……!」
アヤが、メイに向かって駆け出した。
闘いの衝撃に巻き込まれないために離れていたため、距離は遠い。
「さて」
ファルス・ヒューナルが、走るアヤを睨みつけた。
瞬間、アヤの足が止まる。
「次は貴様か?」
「う……ぐ……」
放たれる、殺気。
身体が動かなくなるほどの、威圧感。
でもメイは、こんなの相手に正面から戦っていた。
「……っ」
震える手で、ロッドを構える。
涙目で、敵を睨みつける。
「――ふん。見逃してやろうと思ったが……立ちはだかるのなら容赦はせんぞ」
拳を握り、ヒューナルはアヤに向かって歩み始めた。
雪を踏みしめ、一歩ずつ。
絶望的な殺気と闘志を撒き散らしながら。
「やってやるわよ……!」
自分自身に活を入れて、アヤはフォトンをチャージしていく。
何も勝つ必要は無い。
イル・グランツで目を眩ませて、隙をついてメイを回収して逃げることができれば……と。
思った矢先のことだった。
「――待て」
声がした。
聞き慣れた――聞き慣れすぎた、声がした。
「待てよ、ダークファルス、【
「…………ほう」
メイが、立ち上がっていた。
口にツインダガーを片方咥えて、ヒューナルの歩みを阻むように立ち塞がる。
「まだ、終わってない」
「…………」
「まだ、ウチは生きているぞ」
「メーコ!」
もうボロボロなくせに戦おうとするメイに向かって、アヤは叫ぶ。
嘆願するように、叫ぶ。
「もういい! もういいから! 後は、私がやるから……!」
「アーヤ」
最早メイは、逃げろとも言わなかった。
振り向きもしなかった。
ただただ、背中で語る。
逃げてくれと、懇願するように。
「……っ」
アヤは、言葉に詰まった。
二十年間一緒にいるが、こんな幼馴染は見たことが無い。
「メー……」
「くはっ、ふははははは!」
アヤの言葉を遮って、ヒューナルは
高らかに、嘲笑うかのように。
「……両腕を失い尚、友のために我が前に立つか!」
「……友達じゃあ、無いさ」
「ほう?」
「ウチらは、恋人同士さ」
ヒューナルが、高笑いを止め目を見開いた。
女同士なのに、とかそういう意味で驚いたわけではなく。
恋人、というワードが。
彼が器にしている男の、琴線に触れたというべきか。
「……何?」
「だから、両腕よりも命よりも……彼女を失うことが一番怖い」
まるでそれが当然のことのように、メイは語る。
というか、彼女にとっては実際当たり前なのだろう。
『十年前』を”生き延びてしまった”者は、総じてこういう自己犠牲の精神が強い傾向にあるのだ。
「ま! ダークファルスにゃ分かんないかもしれないけど……」
「……いや」
ファルス・ヒューナルが、拳を構えた。
深く腰を落とし、真っ直ぐにメイを見据える。
「それが闘争の理由に成るのならば――是非も無い。構えろアークス。一撃で引導を渡してやろう」
「……へっ」
メイは、笑った。
笑って、腰を落とし構えた。
逃げない。
勝ち目が無くとも、立ち向かう。
「それが家長ってものでしょう」
誰にも聞こえないように、呟いた。
「行くぞ……!」
ヒューナルが、雪原を蹴り駆ける。
一瞬で、メイを拳の射程範囲に収めた。
黒腕が、振り被られる。
「メーコ!」
アヤが思わず叫び、駆ける。
だが、足を雪に取られ、転んでしまった。
黒腕が、振り下ろされる。
終わった。
と、アヤの頬に、涙が伝った瞬間。
女の子が一人、青い髪を靡かせてアヤの横を猛スピードで駆け抜けていった。
「――ぅ、あああああああああああああああ!」
咆哮と共に、駆ける。
飛んでいるのかと錯覚するようなスピードで、一直線に。
一瞬で、少女はヒューナルとメイに肉薄した。
「……っ!? リィン!?」
「間に合っ――――たぁっ!」
青髪の少女――リィンの飛び蹴りが、黒腕の側面に炸裂。
見事、拳の軌道を逸らすことに成功した。
「ぬぅ……!?」
「はぁああああああ!」
蹴りの反動を利用して、速度を殺しメイとヒューナルの間に割り込む。
そのまま流れるように手に持った
当然、弾かれる。
まだリィンではヒューナルの外殻に傷一つつけることはできない。
「っ!?」
もう片方のヒューナルの拳が、振るわれる。
驚異的な速度と力で振るわれたそれを前に、リィンは慌てず剣を構える。
ジャストガード、成功。
一瞬のみ生成されるフォトンの盾に、ヒューナルの拳が激突し。
盾が、砕けた。
「……は?」
拳の勢いは止まらず、
そして当然のように、ザックスも砕けた。
それでも勢いは止まらず、ヒューナルの拳はリィンの腹部に減り込む。
「かはっ……!?」
「うぐっ!?」
背後のメイを巻き込んで、木っ端のようにリィンは吹き飛んだ。
宙を舞って、二、三回雪の上をバウンドして、岩壁に激突。
メイがクッションになったとはいえ、かなりのダメージだ。
リィンの口から、血が吐き出された。
「げふっ……っ!」
「リィン……!」
「リィン!?」
岩壁に激突した二人に、アヤが駆け寄る。
リィンの腹部は、かなり深く抉れていた。
即死するほどではないが、間違いなく致命傷である。
「何で……なんで来たの!? あれほど来るなって言ったじゃない!」
「……はぁーっ……! はぁーっ……! ……ふっ!」
腹を抑えながら、余りの痛みに気を失いそうになりながら、
リィンはメイの胸倉を掴んだ。
そして、怒りの形相で叫ぶ。
「ふざけないでくださいっ……!」
「!?」
「なぁにが『来ちゃ駄目』、ですか! 私たちを巻き込みたくなかったんですか!? 自分を犠牲にしてでも、私たちに生きていて欲しかったんですか!?」
「……そう、だよ」
「ふざけるな!」
ついに、リィンの口調から敬語が抜けた。
それほどまでに、怒っている。
尋常じゃないほど、怒っている……!
「先輩たちが居なくなった未来なんか、私たちは要らない! 四人が揃っての【コートハイム】でしょう!?」
「…………だ、だって、ウチらは貴方たちのことを思って……」
「私たちのことを思うなら……! げほっ……!?」
ダメージが、肺にも届いているのだろう。
お腹を抑え、血反吐を吐きながらも、それでも。
リィンは言葉を紡ぐ。
「……私たちは、勝ち目が無くても『一緒に戦おう』って言って欲しかった。『助けを呼んできて』、じゃなくて『助けて欲しい』って言って欲しかった」
「…………リィ、ン」
「私たち家族じゃないですか。家族を失った、
と、そこまで言って、リィンの口が止まった。
痛みが、限界に達したのだろう。
これ以上は喋るのも辛いようだ。
「リィン……! 駄目! 死なないでよ……!」
「だい、じょーぶですよ。……メイ、さん」
私はこのくらいじゃ死にませんから、と気丈に笑った後。
本当にもう限界なようで、リィンは気を失った。
一瞬死んだのかと焦るメイだったが、息をしているのを確認して、安心するように大きく息を吐く。
「……死なない覚悟、か」
強い子だ。
本当に、強い子だ。
気絶したリィンを、抱きしめようとして抱きしめられないことに気づいた。
仕方なく、倒れかけた彼女の身体を肩で支える。
そんなメイの後頭部に、チョップが繰り出された。
ヒューナルのチョップ――ではなく、アヤの攻撃である。
「あいたっ!? え、ちょ、アーヤ?」
「……リィンが言いたいこと殆ど言ってくれたから、これで勘弁してあげるわ」
言いながら、アヤはリィンにレスタをかけていく。
焼け石に水だが、ムーンアトマイザーがもう無い以上仕方が無い。何もしないよりはマシだろう。
「……怪我は、どんな感じ?」
「相当深いわ……でも、絶対死なせない。死なせて、たまるものですか」
「ほう、腹を貫くつもりで殴ったのだがな……存外、硬いな」
「!?」
「あ……!?」
気づけば、ファルス・ヒューナルが目前まで迫っていた。
そうだ。
今は、戦闘中なのだ。
「っ……!」
アヤがリィンを庇うように抱きかかえ、ヒューナルを睨む。
その姿に、メイは幼き日。
自身をああやって庇い死んだ父親の姿を思い出した。
「……!」
立ち上がり、無い両腕を広げてヒューナルの前に立ち塞がる。
「…………」
ヒューナルは黙って拳を振り被った。
これで終わらせるつもりなのだろう。
満身の力を込めて。
その拳を振るおうとした。
瞬間だった。
「――ラ・フォイエ」
爆炎が、ヒューナルの横っ腹を襲う。
常識はずれのフォトンによって放たれた爆炎に、流石のヒューナルも大きく態勢を崩した。
「おぉおおおおおおおお!」
その隙を逃さず、岩壁の上から大きな雄叫びと共に、男が一人ヒューナルに向かって突貫した。
赤刃のワイヤードランスを振るい、ヒューナルの黒腕にワイヤーを巻きつけて、
ぶん投げた。
「ぬぅ……!?」
「イル・フォイエ!」
空高く打ち上げられたヒューナルを、叩き落すように隕石が更に上空から降り注ぐ。
「ぬぉ――」
爆音と共に、着弾。
こんな大爆発を受ければ、流石のダークファルスもただでは済まないだろう。
「この、炎は……」
「あの男は……」
「――よく」
男――ヒューイは、メイとアヤに背中を向けながら顔だけ振り向き、言った。
その姿からは、いつものおちゃらけた態度はまるで見えない。
「持ち堪えてくれた、後はオレたちに任せろ」
「メイ! アヤ! 無事か!?」
続けて岩壁の上から、黒いコートを着た女が雪原に降り立った。
言わずもがな、『リン』である。
あんな威力の炎テクニックを撃てるのは『リン』かクラリスクレイスくらいのものだろう。
「『リン』……! 助かった、来てくれたんだな!」
「ああ、間に合ってよかった……とは言い切れないな」
『リン』はメイの肘から先が無くなった腕を見て、痛ましさから目を逸らした。
「……? ……ああ、腕くらい、安いもんさ。それよりも本当に来てくれてありがとう」
「……礼ならシズクに頼むよ。今メディカルセンターに居る筈だから、早く行ってあげるといい」
「えっ!?」
驚きの声をあげたのは、リィンだった。
もう気絶から回復したようだ。早い。
「シズクが!? 何で!? ちょ、先輩方早くメディカルセンターに行きまごっふ……!」
「言われなくてもアンタの腹とメーコの腕のこともあるし行くわよ……」
言いながら、アヤは付近に落ちていたメイの千切れた腕をアイテムパックに回収した。
くっつくかは分からないが、それでも可能性があるなら回収しておくべきだろう。
「じゃあ『リン』、頼むわよ」
「それとヒューイさんも、お願いします」
「ああ、任せろ」
「ははははは! 任せておけ少女よ! さあ早く行け! 流石にダークファルス相手に庇いながら戦うのは、その、何だ、オレも辛い」
メイとは比べ物にならない安心感に、【コートハイム】の三人は躊躇わずテレパイプに飛び込んだ。
「……行ったか」
「…………さて、と」
テレパイプが消えて、三人がナベリウスから完全に退去したことを確認して、ヒューイと『リン』は武器を構えなおす。
相手はダークファルス【
イル・フォイエ一発で終わるだろうなんて、思っちゃいない。
「ふはっ、ふははははははははははは!」
イル・フォイエが着弾したクレーターから、哄笑が響く。
もうもうと立ち上がる煙から、黒い巨闘士が姿を現した。
「いつかの黒きアークスに、そしてそっちは新たな六芒均衡か? ふははははは! 愉快! 愉快ぞ!」
「…………」
「…………」
「さあ! 猛き闘争を始めよう――!」
「イル・フォイエ×10」
イル・フォイエが、まるで流星群のようにファルス・ヒューナルへ降り注いだ。
轟音と大量の熱を撒き散らしながら、次々と凍土にクレーターを作っていく。
「……悪いがダークファルス、楽しむ暇なんて与えないよ」
『リン』の周囲に、炎が巻き上がる。
テクニックをチャージした際に集める大気中のフォトンが、使用者の体内から漏れることで発現するものだ。
「
「…………」
「私の友達の両腕を切り落とした罪は重いぞ、ダークファルス【巨躯】!」
業火の如き火炎が、次々とファルス・ヒューナルに放たれる。
並みのエネミーならば、塵すら残らない攻撃だろう。
だが、相手はダークファルス。
勿論並みのエネミーなどでは決して無い。
「ふはははははははは!」
燃え盛る炎の中から、嗤いながらヒューナルは姿を現した。
ダメージは、受けているはずだ。
だが、それは微々たる物なのだろう。
余裕そうに、ファルス・ヒューナルは嗤う。
「良い! やはり良いぞ黒きアークス! よもやこれで終わりではあるまい? もっと見せてみろ! 貴様の力を見せてみろ!」
「……! 来るぞ『リン』! オレが前、君が後ろだ! 行くぞ!」
「ええ、頼りにしてるわよヒューイさん!」
ファルス・ヒューナルvsキリン・アークダーティ&ヒューイ。
後に歴史の教科書に載ることになる勝負が、今始まった。
次回で外伝は終了です。
ファルス・ヒューナルvsキリン・アークダーティ&ヒューイ?
オールカットですよ?