でもまあ一週間に一度ペースは守っていこうと思います。
「それじゃあ、そろそろお暇しますね。チーム登録申請もしなくちゃですし」
「あっと、外まで送るよ」
チーム名を決めてから、一時間ほど雑談しただろうか。
背を向けて病室から出てこうとする二人に、メイは声をかけた。
「いやいやいや、寝ててくださいよ」
「腕がちょっと動きにくいだけで他は異常無いよ。正直そろそろ退院できそうなくらい」
「だとしても別に送る必要は……」
「や、まあちょっと受付に用があるしついでにね」
言いながら、三人揃って病室の外に出る。
廊下特有のひやっとした空気が、頬を撫でた。
「べ、別にちょっとでも長くお話したいからとかじゃないんだからねっ!」
「何故ツンデレに……うば?」
「?」
突然シズクが、メイの腕を手に取った。
包帯以外巻かれていない――ブレスレットが付いていない右腕を。
「ブレスレット、取っちゃったんですか?」
「ん――あー、多分腕がちょん切られた時にどっか行っちゃった」
残念そうに、というかばれちゃった、といった感じの表情でメイは言った。
「そう、なんですか」
「あっ、ナベリウスに探しに行くとかしなくていいからね! 今あの辺の座標は壊世区域になってるらしいし!」
壊世区域。
それは突如ナベリウスに顕現した異常地帯。
あらゆる環境数値が異常であり、住んでいる原生生物も超強力になっていると噂の危険区域である。
当然、シズクとリィンの実力では一瞬の内に原生生物の餌になってしまうだろう。
「……まあ、もう【コートハイム】は無いんだし。二人は気にしなくていいよ」
「…………」
「…………」
シズクとリィンは、明らかに納得のいっていないという表情だった。
ただ、新しく買うのもあれだし、取りに行くのは不可能だし。
どうにもできないので、黙るしかないといった感じだ。
「はは、そんな顔するなって。折角の可愛い顔が台無しだぜ」
「わっ」
「ちょ」
どん、とメイに後ろから押され、二人はメディカルセンター外に出た。
いつの間にか、もう出入り口まで着いていたようだ。
「これから色々あるだろうけど……頑張ってな」
キメ顔で放たれたメイの言葉に、二人は顔を見合わせた後、頷いた。
そして、声を揃えて、言い放つ。
「「メイさん(先輩)、そのキメ顔は少しうざいです」」
「ほっとけ!」
*****
「ああもう、いい加減にしなさいよー!」
惑星リリーパに、女性の悲鳴が響き渡った。
金色の髪に、赤い瞳。
妖艶さを感じさせる黒きスーツのようなコスチューム。
ダークファルス【
「うばばー! 待て待てー! あ、これってもしかして憧れの浜辺で戯れる恋人たちのシチュエイション!? きゃー! なおさらやる気出てきた! まあ海岸は無いけどそこはそれ、地面は砂だしオールオーケー。待ってよー! アプちゃーん!」
そして、ダークファルス【若人】をあろうことか『アプちゃん』と呼び、背後から追い掛け回す少女が一人。
白い髪に、白いドレス。
そして真紅の瞳を持った、『白い』ダークファルス。
ダークファルス【
【若人】に一目惚れした
「くっ……! 来なさいダーク・ラグネ!」
【若人】の呼びかけと共に、【百合】の目前の空間が歪んだ。
瞬間、ダーカー因子を撒き散らしながら、一匹の巨大蜘蛛が出現した。
『ダーク・ラグネ』。
【若人】の使役する大型蟲系ダーカーの一体である。
その強さはかのクォーツ・ドラゴンやファング夫妻にも並ぶと言われているが――。
「邪魔」
一閃。
【百合】の手の中に突如として出現した一振りの剣によって、ラグネは綺麗に二等分された。
まあ、ダーカーがダークファルスに勝てるわけないので当然の結果ともいえるが、それにしても倒されるの早すぎである。
「ちょっとアプちゃーん! 愛に障害は付き物だから邪魔するのは構わないんだけど、弱すぎて邪魔になってないよー!」
「うっさいわね! 愛なんてダークファルスに要らないわよ!」
「えー? 愛こそダークファルスに相応しいと思うんだけどなー?」
「記憶喪失のくせに……!」
【若人】の周囲に、濃いダーカー因子が集まっていく。
砂漠に点在する岩石の上に駆け上り、背後から迫る【百合】を睨みつける。
「知ったような口、利いてんじゃないわよ!」
極大のダーカー因子が塊となり、形を成していく。
黒く立派で巨大な角。
肩口から伸びた、四つの豪腕。
これぞ【若人】が操る眷属の中でも最上のダーカー、『ダーク・ビブラス』。
カブト虫を連想させるその姿は、一目で強大な存在だということが分かる存在感を放っていた。
「うばー!? こ、これは!?」
「その小娘を捻り潰しなさい! 我が眷属よ!」
「黒い角が男性器を彷彿させて不快ー! 消えてー!」
【百合】がそう叫んだ瞬間、彼女の背後に六本の剣が顕れた。
中心に金色の装飾を纏ったダーカーコアのような物体を持つ、金色と茜色の刀身を持った剣。
それが、六本。
右手に持ったさっきラグネを切り裂いたものを合わせて七本である。
「きしゃああああああああああああああ!」
「そんな卑猥な
跳躍し、瞬時に【百合】はビブラスの眼前へと肉薄した。
「アプちゃんに、相応しくないっ!」
そのまま、右手の剣を横一閃。
ビブラスの立派な角は、根元から切り離された。
「きしゃっ……!?」
「そのまま、どん!」
先ほど展開した六本の剣が、空から降り注ぐ。
金色の剣はビブラスの装甲を容易く突き破り、完全にビブラスの身体を地面に縫いつけた。
「はい一丁あがり! さあアプちゃんは……」
「くっ……」
「いたー!」
ビブラスを踏み台にして、【百合】は跳んだ。
【若人】目掛けて、一直線に。
そして、彼女の腰に抱きついた。
「うばー、やっと追いついたよアプちゃーん」
「はぁ……なんなのよ一体、何であたしがこんな目に……」
抱きついてきた【百合】の頭を除けようと押しながら、【若人】はため息を吐いた。
もう逃げるのは諦めたようだ。
実際疲れるだけで逃げ切れるものではないので正しい判断だろう。
「はぁはぁ、アプちゃんの手のひらペロペロ」
「一々舐めるな!」
舐められた手のひらを【百合】の服で拭い、その後チョップを彼女の頭に繰り出す。
しかしダメージは無い様で、【百合】は「うっばっば」と奇妙な笑いを漏らすばかりである。
「もー、可愛いなーアプちゃんはー」
「アンタに言われても嬉しくないわ……ていうか、生まれたばかりの癖にやけに強いわね、アンタ」
「んー? いや、アプちゃんが弱いんじゃない?」
【若人】の顔が、引き攣った。
そりゃそうだろう。誰だってこんなこと言われれば腹が立つのは当たり前だ。
「アンタねぇ……!」
「だって、アプちゃんから感じるダーカーの感じが凄く薄いじゃん?」
「……っ」
【百合】の真っ赤で真ん丸な瞳が、【若人】の同じく赤い瞳を覗いていた。
あまりにも真っ直ぐ見つめられて、思わず目を逸らす。
「薄い? あたしが? このダークファルス【若人】が?」
「うん、事情は知らないけど、この前一緒に居た変な双子とか、仮面のお姉さんよりダーカー! って感じがしないよ? 何で?」
(仮面のお姉さん?)
あいつ女だったのか? なんて今はそんなことどうでもいい。
ダーカーとしての気配が薄い、という理由の心当たりはある。
今、【若人】は全盛期ではないのだ。
『身体』を、封印されている。
身体というのは勿論この美しいお姉さんの
前の身体の時、とあるアークスによってここ惑星リリーパに力の大半を封印されてしまったのだ。
「……確かに、今のあたしは全盛期とは程遠いわ。憎たらしいアークスに、力を封印されてしまったのよ」
「封印を……ぺろり」
「胸元を舐めるな! ……ったく、それでこの星に力が封印されているから、今探しているところなのよ。分かったら邪魔しないで」
【百合】の肩を押して、引き離……せなかった。
がっちりと腰をホールドしていて、離せそうにない。
しつこいわね……っとダーカー因子をその身に集めようとした瞬間――。
「じゃあ、手伝うよ」
「……え?」
あっさりとした口調で、【百合】は言った。
「うっばっば、貧弱アプちゃんを無理やり押し倒すのも捨てがたいが、やはりあたしとしてはラブラブな路線が一番好きだし、アプちゃんの好感度を稼ごうかと」
「…………」
なんという不純な動機なのだろうか。
ある意味ダークファルスらしいと言える……のか?
だがまあ【若人】としては有難い提案である。
実のところ、『身体』探しはかなり難航している。
器の探索能力が低いせいか、自分の力だというのに何処に封印されているのかが感じ取れないのだ。
ダーク・ビブラスですら歯牙にかけない強さ。
【若人】が弱っていることを見抜いた感知能力。
どちらも、今【若人】が欲しいものだ。
(けど……)
「……?」
ちらり、と未だに腰に抱きついている【百合】を見る。
彼女は可愛い顔に満面の笑みを浮かべながら、首をかしげた。
(……貞操の、危機を感じる……!)
「うばー、どう? あたしの力は必要かい? まあ必要なくても貸すけど! 利子はマウストゥーマウスでいいよ!」
「……そうね、手伝ってくれるっていうのなら、手伝ってもらおうじゃない」
「うば!」
きらり、と【百合】の瞳が光った。
嬉しいという気持ちが、ひしひしと伝わってくる。
「やったー! アプちゃんの傍にいるお許しが出たぞー!」
「…………ふん。早速だけどこの星であたしの力を感じる場所とか分かる?」
「んー…………多分、あっち」
びしり、と【百合】は彼方へ向けて指を差した。
あっちは……そう、惑星リリーパの『採掘基地』がある方面だ。
「ふぅん……本当に?」
「多分、ね。近くまで行けば、もっと正確に分かるかも」
「そう。じゃあ行きましょうか」
ようやく離れてくれた【百合】に背を向けて、【若人】は彼女の指した方向へ歩き出す。
その後ろを、生まれたての雛鳥が親鳥に着いて行くように、【百合】も歩き始めた。
「うばー♪ 本当に『身体』があったら褒めてねー!」
「はいはい」
「頭撫でてねー!」
「はいはい」
「暖房の効いた部屋で汗ぐっちょりの濃厚レズセ「貴方記憶喪失なのにどうしてそういう知識はあるの!?」」
そんなのどうでもいいじゃーん、と楽しげに笑いながら、【百合】は子供のようにはしゃぎながら砂漠を駆ける。
「はぁ……」
これからどうなることやら、と【若人】は【百合】の背中を見ながらため息を吐く。
――――力が戻ったら殺してやる、と。
心に誓いながら。
マザー可愛いよマザー。
しれっとEP3までで完結しようと思ってたけどマザーが可愛かったからEP4も書くことが決定したよあーマザー可愛い。
マザーとシズクを対談させたい。
マザーとメイを合わせたい。
マザーをボウリングに連れてって、「演算、完了……!」とか言いながら投げたボールがガーターになってへこむマザーが見たい。
それか演算通りストライクを取ってどや顔するマザーが見たい。
あ、ところで勘違いされている方が多い?ようなので明言しておきます。
【百合】は性格こそシズクに似てますが、見た目は似てません。
どちらかというと、【百合】はマトイに似ています(白髪赤目ですし)。