あ、短めです。
少女が一人、泣いている。
薄暗い部屋の中で、その小さな両腕から零れそうになっている沢山のナニカを抱えて、泣いている。
抱えているものは、『思い出』だ。
亡くなってしまった両親との、思い出の品々。
「…………」
そんな少女の後ろ姿を見て、メイは瞬時にこれが夢だと判断した。
だって、この目の前に座り込んでいる少女は自分自身だ。
幼き日の自分。
両親の死を受け入れられず、ただただ後悔の渦に囚われていた頃の自分だ。
こういう夢は、時々見る。
どれだけ時間が経とうと、後悔は色褪せないのか。
「…………ん?」
背中に、何か違和感を感じた。
振り返るも、背後には何も無い。
――背後には何も無かったが、背中には何か生えていた。
というより、翼が生えていた。
大鷲のような、立派な翼
朽ちた翼が、生えていた。
*****
「メイさーん。メイ・コートさーん」
「んあ?」
いい加減聞き慣れて来たナースの声に引っ張られるように、メイはゆっくりと瞼を開けた。
目を擦って右、左と周囲を見渡し、状況把握。
右には観葉植物。
左にはメディカルセンターの受付。
座ってる椅子は待合室のソファ。
膝には開きっぱなしの雑誌データ。
目の前には、少し
ああ、待合室で雑誌読んでたら寝ちゃったんだな、と理解するのにそう時間はかからなかった。
「こんなところで寝てたら風邪引きますよ。ちゃんと自分の部屋で寝てください」
「ふぁ……すいません」
身体を解すように伸びをして、立ち上がる。
フィリアさんは「気をつけてくださいね」とだけ言うと忙しそうに何処かへ歩いていった。
「……寝ちゃってたか」
若干恥ずかしそうに頬を染めながら、メイは雑誌に目を落とす。
昨今、注目されがちな『アークライト家』に関する記事だ。
リィンの実家ということで読んでみたが、まあ大して新しい情報は無かった。
(やっぱしっていうかなんていうか)
(……変な家だよなぁ)
雑誌を待合室の棚に返し、病室へと向かう。
その途中だった。
廊下に、少女が一人立っている。
困ったようにキョロキョロしながら立ち尽くすその姿は、誰がどう見ても迷子そのものだ。
(親とはぐれたのかな?)
と。
メイが当然のように手を差し伸べようと近づいたところで、向こうもこちらに気がつき振り返った。
「……おおっ」
「ん?」
瞬間、ぱぁっと少女の表情が明るくなった。
よく見ると、その少女は以前会った幼いアークス決戦兵器。
六芒の五、クラリスクレイスその人であった。
「おーい、そこの貴様! 702号室というのは何処にあるのか……うん? 貴様何処かであったか?」
「…………また、迷子?」
「ま、迷子などではない! 失礼だぞ貴様! ……ん? またってことはやっぱ会ったことあるのか?」
まあ向こうからしてみれば数日前に少しばかり会話を交わしただけの一般アークスなので、憶えてなくても無理は無いといえるか。
「ほら、あのテレパイプの使い方教えてあげた……」
「…………あ、ああ! あの時の失礼なやつか!」
「失礼なやつて……」
まあ実際その通りなことをしてしまったのだから否定はできない。
ただただ苦笑いを浮かべるのみである。
(でもこんな威厳の無さそうな幼女が偉い人だとか気づけるわけがないのでウチは悪くない、うん)
「まあいい、今回も特別に私を702号室へ案内させてやってもいいぞ」
「いいよー」
「……随分と物分りがいいな」
軽すぎる了承に驚いた様子でクラリスクレイスは言った。
まあ暇だったし、と言ってメイは壁に貼ってあったメディカルセンターのマップを開く。
「702はっと……階間違えてるじゃん。ほら、こっちだよ」
「う、うむ……」
クラリスクレイスの手を取って、メイは歩き出す。
自然とこういうことをする女なのだ。
「ところでクラリーちゃんは誰のお見舞いに来たの?」
「ああそれはだな……ってクラリーちゃん!?」
「だってクラリスクレイスって長くて呼び辛いし」
あだ名だよあだ名、とけらけら笑うメイを見て、クラリスクレイスは絶句した。
あだ名なんて付けられたの初めてである。
ていうかそれ以前に、六芒均衡でもない、特殊な力すら何も持っていないであろう一般アークスが、
畏れもせず、
恐れもせず、
笑顔で話しかけてくるなんて、初めてのことだった。
「…………なんていうかー、変わったやつだな、貴様」
「そう? 至極一般的なアークスだと思うけど……っと、そういえばもうアークスじゃなかった」
「? どういうことだ?」
前会ったときは、戦闘区域内だった気が……っとクラリスクレイスは記憶を振り絞るように頭を抱えた。
本当に記憶力の悪い子なんだな、と思いながら、メイは答える。
「別に、難しい話じゃないわ。少し前にアークスを辞めただけよ」
「はーん、成る程なぁ……なんで辞めたんだ?」
「両腕をちょん切られちゃってね……くっついたけど以前のように動かすには時間がかかるって言われちゃって……」
未だに包帯に巻かれた腕を見せながらメイは言う。
何もしていないのに、指先が震えて上手く動かない。
「……? 動くようになったら復帰しないのか?」
「クラリーちゃんみたく才能に溢れていないんですー。半年も休んでたら元々大したことない腕が更に落ちて新人アークス以下になるんですー、多分」
「ふん、私の才能を見抜くとは中々見る目があるではないか! ……まあそれはともかく、腕がうまく動かないならテクニックを使うのはどうだ? あれなら多少腕が不自由でもフォトンさえ操れれば……」
「テクニックis苦手なんですyo」
アヤがいたら何キャラだよとツッコまれていただろう。
とまあそんな感じに雑談を交え歩くこと数分。
二人は目的地である、702号室前にたどり着いた。
「とうちゃーく、っと」
「おお、着いたか。ふふん、案内ご苦労だったぞ」
「いいってことよ」
最初から最後まで偉そうなクラリスクレイスであった。
まあ尤もメイも最初から最後までマイペースなのでどっちもどっちなのだが……。
少なくとも、二人の相性は悪くなかったようだ。
「じゃあな、えーっと……」
「我が名はメイアンブル・デュア・コートライト。略してメイ・コート、更に略してメイと呼んでくれ、そしていい加減憶えてくれ」
「そ、そんな長い名前だったか? ……まあいいや、一応感謝しておくぞ、メイ」
笑顔で、最後に名前を呼んで。
クラリスクレイスは病室に入っていった。
「……そういえば結局誰のお見舞いか聞いてないな」
まあいいや、と踵を返してメイはその場を去った。
何故か、あの子とはまた会うことになりそうだなぁ、と呟いて。
数時間後、帰り道が分からず迷子になっていたクラリスクレイスをメディカルセンター入り口までメイが送ってあげたというのは、まあ言うまでもない話である。
アヤ「他の女の匂いがする……」
メイ「ちゃうねん」