AKABAKO   作:万年レート1000

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2017/2/10 22:41 大幅に書き直ししましたー。

サブタイトルから変わってるけど、オチは変わってないので見なくても一応平気。
だけど経緯が結構変わってるから読んで欲しいという乙女心。……乙女心?


黒兎は誇りを捨てた

「お買い上げ、ありがとうございましたー」

 

 SGNMデパート。

 コスチューム・アクセサリーエリア。

 

 数多くのお洒落グッズを販売している、お洒落さんご用達のお店だ。

 

 そんなお洒落によるお洒落のためのお洒落空間に、

 はたから見たら違和感が無いのに、見る人が見れば違和感しかない少女が一人。

 

 リィンが、コスチュームショップのレジから恥ずかしそうに姿を現した。

 

「…………買っちゃったわ」

 

 即座にアイテムパックへと仕舞った新コスチュームを眺めつつ、呟く。

 

 気分は、初めてお洒落に手を出す男子中学生だ。

 

「こういうのが……シズク好きなのよね? ……こういうので、いいのよね?」

 

 ぶつぶつと可愛いことを言いながら、リィンはコスチュームショップを出た。

 

 出た、と言っても服や装飾品関連のお店が立ち並ぶエリアなのでまだアウェイ感はある。

 

 早々に立ち去って武器迷彩エリアにでも行こうかしらとリィンが歩みを進めたところで――。

 

 とあるアクセサリーが、リィンの視界に入った。

 

「…………ん?」

 

 ショッキングピンク色の外装をした、派手なアクセサリーショップの店頭販売。

 

 網棚に引っ掛けるように、『それ』は売っていた。

 

「……これは……」

 

 『それ』――黒いウサ耳付きカチューシャを、リィンは手に取った。

 

 ふわふわの黒毛で覆われた、可愛らしいというよりあざとい頭部アクセサリーである。

 

「…………シズクに似合いそうね」

 

 買おう、と小さく呟いて。

 

 リィンはそのアクセサリーショップのレジへと歩いていくのであった。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 あくまでこれは自己評価だが、シズクは自分で自分のことを『他人の期待に応えられる人』だと思っている。

 

 ……勘違いしないで欲しいが、これは自惚れや自意識過剰ではない。

 『期待』というのは、『こいつなら多少無理なことやらせても大丈夫だろう』とかそういう重たいものばかりではないのだ。

 

 例えば、性格。

 シズクの非常に子供っぽい性格は、実のところ半分演技である(なので半分は素)。

 

 理由は、『容姿が子供っぽいから』。

 

 人並み外れすぎた観察力と洞察力を持ったシズクには――見えてしまうのだ。

 

 相手が、自分に何を求めているのか。

 

 どんな反応を求めているのか。

 どんな振る舞いを求めているのか。

 

 『こんな小さくて愛らしい容姿なのだから、無邪気で天真爛漫な子供っぽい人なのだろう』。

 

 大抵の人がシズクに抱くであろう第一印象のキャラを、半ば無意識に演じている。

 

 故にシズクの自己評価は、『他人の期待に応えられる人』なのだ。

 

 だって、他人が自分に何を期待しているのかが察してしまうのだから。

 

(だから――)

 

 アークスシップ・カフェ。

 小規模ではあるが、甘く美味しそうな匂いが充満しているアークスたちの憩いの場。

 

 そこで、シズクとリィンは向き合っていた。

 

 食べ終わった昼食が乗った机を挟んで、二人で。

 

(――だからって)

 

 冷や汗を滲ませ、引き攣った笑みをシズクは浮かべる。

 

 対照的に、リィンはニッコニコだ。

 

 黒毛のウサ耳カチューシャを前方に突き出して、

 シズクじゃなくても分かる程分かりやすい期待の眼差しを、彼女に向けていた。

 

(だからって、この期待には応えたくねーっ!)

「絶対似合うから! 絶対シズクに似合うから!」

「う、うば……流石にちょっと……」

 

 頬を紅潮させながらカチューシャを全力で推してくるリィンに、シズクは若干某姉の面影を見ながらも、拒否の意を示した。

 

 流石にこれはもう可愛いとか似合うとかより、あざといという言葉が出てくるレベルだ。

 

(リィンが兎好きなのは知ってたけど……まさかこんな要求をされる日がくるとは……)

「お願いシズク。折角買ったんだからさぁ……」

「うばー……なら自分で着けてみたら?」

「それじゃ意味ないのよー……」

 

 むーっ、とリィンは不満を示すように頬を膨らませた。

 

 そんな可愛い顔をされても、可愛いだけである。

 何を言われようと流石にこんな公衆の場でウサ耳を付けるわけには……。

 

「…………シズクは、私の猫耳姿見たのになぁ……」

「うばっ」

 

 ぼそり、と小さく呟かれた言葉は、シズクの胸をぐさりとえぐりこむように突き刺した。

 

「う、うばば……いやあれはサポパで……」

「勝手に人のそっくりさん作って自分好みの格好させちゃってさ……それなのに自分がちょっと恥ずかしい格好させられそうになると拒否るとか……」

「ぬぐ……っ。で、でもリィンだって猫耳を拒否……」

「あーそういえばさぁ、今日朝からクエスト行く予定だったのに寝坊した人がいるらしいね?」

「う、うば……!?」

 

 罪悪感という刃が、シズクの胸を穿った。

 

 その反応を見て、リィンはにやりと笑う。

 

「あー、朝からクエスト行きたかったなぁ、シズクと二人で。……辛いわぁ、シズクと一緒に朝からクエスト行けなくて精神的に磨耗してるわぁ……あーあ、こんな時シズクのウサ耳姿でも見れば癒されそうなのになぁ……」

「う、うばばば……! そ、そんな交渉術何処で知ったの!?」

少女漫画(サクラとジュリエット)よ」

「でしょうね!」

 

 リィンのこういう知識は大体メイから貰った少女漫画からである。

 

 漫画ゆえに時々突飛も無い知識も植えつけられてしまうが、読み始める前と比べると大分色んな知識がついてきたリィンであった。

 

「さ、シズク」

「…………」

 

 差し出されたカチューシャを、シズクは無言で受け取る。

 

 もふもふの黒毛の感触を確かめるように数度撫で、「マジで?」という表情でリィンを見る。

 

 リィンは、とてもいい笑顔で頷いた。

 

「……分かった。分かったよ、ちょっとだけね。一瞬ね」

「今日一日ね」

「…………ぱーどぅん?」

「今日一日ね」

 

 さーっと、シズクの顔が青ざめていく。

 

 本気だ。

 本気の口調だ。

 

 妥協する気も譲る気もさらさら無さそうだ。

 

「……羞恥心で死んだらリィンの所為だからねっ!」

「羞恥心じゃ人は死なないわよ?」

「知ってるよ! 畜生! ……そう、ちゃく!」

 

 最早どうにでもなれとばかりに、シズクはカチューシャを装着した。

 

 黒いウサ耳が、シズクの赤い髪の毛にはよく映える。

 

「…………」

「…………どう?」

「……可愛いっ!」

 

 満足げに鼻を鳴らして、リィンは頷いた。

 思わず親指を立ててしまうほど、可愛い。

 

「やっぱ似合ってるわー、買ってよかった」

「うばー……よかったね」

 

 何だか周囲から見られている気がして、思わずキョロキョロとカフェを見渡してしまうシズクであった。

 

 幸いにも、客足は少なく、まだ誰にも気づかれていない。

 店を出るなら、今だろう。クエストに出てしまえば他のアークスと遭遇する可能性も低い……。

 

 何だか急に端末を開いてなにやら操作しているリィンを疲れた目で眺めながら、シズクは深いため息を――ん?

 

 端末? 操作?

 しかも、こっちに向けている……?

 

「シズク、写真取るから笑って笑って」

「うば!? 映像に残すの!?」

「当たり前じゃない」

 

 何言ってんの? と言わんばかりの表情に、シズクは焦る。

 こんな姿、映像に残されるなんて冗談じゃない。

 

 良く考えたらリィンの例の自己紹介動画とかまだ持ってる自分が言うのもなんだが、それはそれこれはこれ。

 

 思考をフル回転し、回避策を搾り出す――!

 

「待って! なんかそれはちょっとリィンのお姉ちゃんっぽいよ!」

「えっ」

 

 シズクの叫びは、それはもう絶大な効果があったようだ。

 リィンはすぐに真顔でカメラを下げて、「あ、そうだそうだ」と話題を逸らし始めた。

 

 ミッション、コンプリート……!

 

「忘れるところだった。シズク。語尾に”ぴょん”を付けてね」

「ミッションコンプリートしたのに!」

「ん? みっしょ……え? まあいいわ、絶対可愛いから着けて頂戴」

「いーやーだー! あのねリィン、そういうのは可愛いんじゃなくてあざといって言うんだよ!」

 

 首を大きく横に振って、最大限の拒否を表す。

 

 成熟したとは言い難い年齢だが、幼年とも言えない年頃の少女にとって、ウサ耳つけて語尾にぴょんは羞恥の限界を越えてると言っても過言ではないのだ。

 

「そんなに嫌?」

「嫌」

「……ふーん」

 

 リィンは、手元にあった食後のコーヒーを口に運び、残念そうに俯いた。

 

 そんな顔をされると、少し申し訳ない気にもなるが……シズクにだって譲れない一線は――。

 

「さっき」

「うば?」

「クラフトのしすぎでメセタが無くなった可哀想な子に、昼食を奢ってあげたのは誰だっけ?」

「うばあああああああ! ま、た、そういうこと、言うっ!」

 

 その交渉術やめなさい! っとシズクは若干涙目になりながら叫んだ。

 

 おかげでカフェにいた数名がシズクのウサ耳に気づいたようだが、シズクはそのことに気づいていない。

 

「分かった、分かったよ。昼食代くらい払うよ! いくらだっけ?」

「Bランチセットは1100メセタね」

「1100ね……えーっと」

 

 シズクは、残金を確認するべく端末を開いた。

 

 20メセタしか残ってなかった。

 

 シズクはそっと端末を閉じた。

 

「…………」

「……シズク?」

「……リィン……」

 

 顔を隠すように、シズクは机に顔を伏した。

 

 だが、そのウサ耳じゃないほうの、真っ赤に染まった耳は隠し切れていない。

 

「……やっぱお金ないから奢って……ぴょん」

「……もっと可愛くお願いできたらいいよ」

「か、可愛く…………」

 

 伏せていた顔を上げて、真っ赤な顔でシズクはリィンに向き直る。

 

 ぺしぺしと頬を叩いて気合をためて、

 覚悟を決めたように眉をキリッとさせて、

 勿論語尾にぴょんをつけて――。

 

「――――――!」

 

 シズクは、全力のあざとい声色で懇願した。

 

 彼女の名誉のために、具体的に何を言ったのかは伏せておく――が、これだけは言っておこう。

 

 今日、この日。

 確かにシズクは自身のプライドというものを捨てたのだと。

 

 

 




シズクは何かこういう扱いばっかだなぁ……(今更)。
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