AKABAKO   作:万年レート1000

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前話を2/10にサブタイトルから大幅に書き直しているので、まだ読んでない方はそちらを先に読んでいただきたいです。
いつも通りオチは変わっていませんが、中身は結構変わっているので注意。



ぴょんぴょん

「ていうかまさかウサ耳買うためにデパート行ったぴょんか?」

「いや、ふ、服も買ったわよ」

(……どうせいつもの代わり映えしない初期服なんだろうなぁ……)

 

 雑談しながら、ゲートエリアへ向かってショップエリアを歩く少女が二人。

 

 最早言うまでも無く、シズクとリィンである。

 

 シズクの頭には黒い兎のカチューシャ。

 今日一日、という約束なので当然継続中である。

 

「何かシズクあんまし恥ずかしがって無いわね」

「慣れたぴょん。ていうか良く考えたら平気でバスタオル姿でロビーを歩くアークスとかいるからこれくらい平気だぴょん」

「そういうもんなのかしら……」

 

 まあこればかりは生来の気質というものがあるだろう。

 

 普段からノリとテンションが高いシズクは、吹っ切れさえすればある程度の羞恥プレイなら対応してしまうのだろう。

 

(……じゃあもっと凄い羞恥プレイなら……)

(なんかリィンから妙なSっ気を感じる……)

 

 本当、表情から考えていることが読みやすい子だ。

 

 ……そう、こんなにも読みやすいのに、根っこの部分は察せない。

 

 シズクの『直感』は、作用しにくい。

 

(本当、変わった人だよなぁ……)

 

 まあ尤も、『変わった人』という分類ならシズクの方が変わっているのだが……まあそれはともかく。

 

 二人は、テレパイプを通りゲートエリアに降り立った。

 

 昼過ぎ、というだけあって、それなりに人の数は多い。

 ビジフォンを触っている人、おしゃべりに興じる人、クエストに向けた準備を進める人等、様々なアークスが各々の目的のために右往左往している。

 

「そういえばそろそろ新しいスキル取得できるかもだし、先にスキル上げして来ようかしら」

「うば。じゃああたしはディリーオーダー受けてくるぴょんね。今は少しでもメセタが欲しい――」

「やめなさい! 何してるの貴方たち!」

 

 っと。

 シズクとリィンもまた、クエスト前の準備をしようと動き始めようとした時。

 

 若い女性の、怒声が響き渡った。

 

「?」

「うば?」

 

 と言っても、それ自体は別段珍しいことではない。

 

 アークスは基本的に脳筋で、ゲッテムハルトを代表に気性の荒い者も多い。

 当然ロビーでの喧嘩もままよくあることであり、普段なら気にも留めないのだが……。

 

 その声は、フィリアさんの声だった。

 

 メディカルセンターの看護婦(ナース)で、心優しく献身的、だけど確固たる意思の強さも持った人気のあるナースさんである。

 

 勿論シズクとリィンも彼女のお世話になったこともあるし、メイの看護をしているのもマトイの世話をしているのも彼女ということで、何かと面識がある人だ。

 

「今の、フィリアさんの声ぴょん?」

「何かあったのかしら。行ってみましょう」

 

 そんな人が叫んでいるとあれば、流石に気になるということで、二人はメディカルセンターの方へ足を運ぶ。

 

 メディカルセンターへの低い階段を駆け足で上がり、二人が見たものは――。

 

 武器を構える【アナザースリー】の三人と、武器を向けられて怯えるマトイ。

 そしてその間に立って、【アナザースリー】の三人を宥めるフィリアというどう見ても尋常じゃない光景が広がっていた。

 

「うば!?」

「あれって【アナザースリー】の……?! あ、シズク!」

 

 知り合いだらけで揉めている状況に、たまらずシズクは飛び出した。

 

 何はどうあれ、ひとまず沈静に手を貸すのが筋というものだろう。

 シズクは珍しく真剣な表情で、銃剣を構えるマコトの腕を後ろから掴んだ!

 

「なっ……!?」

「ちょっとマコト……!」

 

 眉間に皺を寄せて、精一杯の力を込めてシズクはマコトの腕を下げさせる。

 

 ふざけている場合じゃない。

 シズクは同じく武器に手をかけていたリナとラヴも交互に睨みつけて、叫ぶ。

 

「何やってるぴょん! 非戦闘員に手を上げるなんて見損なったぴょんよ!」

「「「「「!?」」」」」

「……あっ!」

 

 ふざけている場合じゃない、とは一体何だったのか。

 

 慣れてしまった弊害が早速現れ、緊迫した空気は何処かへ行ってしまったようだ。

 

 流石のシリアスブレイカーっぷりである。

 毒気が抜かれたように、【アナザースリー】の三人はそっと武器を仕舞った。

 

「……シズク、何その語尾と頭の飾りは」

「うばばこれにはダークファルスの闇よりも深い理由が……」

「可愛いでしょ、私が買ったのよ」

 

 ぽん、とシズクの頭を撫でる様に登場しながら、リィンは言った。

 

 呆気に取られているマトイとフィリア、リナにマコト。

 爆笑しているラヴと、流石に恥ずかしがって顔を赤くしているシズクを見渡して、一言。

 

「それで、何があったの?」

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

「あたしと同じ口癖の……」

「私に見た目が良く似たダークファルス?」

 

 数分後。

 【アナザースリー】がさっき惑星リリーパで経験した、ダークファルス【百合】との遭遇についての説明を終えた後、シズクとマトイは口を揃えて言った。

 

「うん、白い髪と……赤い目をした女の子……だけど、あれは間違いなくダークファルスだった」

「コフィーさんにはもう報告したの?」

「うん、真っ先にしたよ。だからその内通達もあると思う」

 

 今頃【アナザースリー】の提出した映像とデータ、会話ログなどを使い事実確認を行っているだろう。

 

 そう言ってから、マコトは再びマトイの方に向き直った。

 

 ジッと、彼女の顔を観察するように覗き込んで、一言。

 

「……うん、でも似ているけど良く見たら別人だね。ごめんなさい、いきなり武器なんて向けて」

「え、あ、私は別に気にしてないですから……」

 

 ぺこり、と深いお辞儀と共に紡がれた謝罪の言葉に、マトイはおどおどとしながらもそう応えた。

 

 優しい、というよりも気が弱いのだろうか。

 たまに話すとき、別にあんな感じじゃないのにな、とシズクは疑問符を浮かべた。

 

「ラヴやんラヴやん、その新種のダークファルスの映像ってあたしらも見れるぴょんか?」

「ん? ああ、見れますよ。特に情報規制はされてないです」

「うば、じゃあ見せて」

「ちょっと待ってくださいね……ええっと、フォルダは……」

 

「…………」

 

 シズクがラヴに映像を要求しているのを横目に見た後、リィンは視線をマトイの方に移した。

 

 白い髪に、赤い瞳。

 ミコトクラスタと呼ばれる白を基調とした和服らしいコスチュームが良く似合っている、美少女だ。

 

「…………」

 

 リィンはマトイと初対面である。

 なので勿論コミュ症気味のリィンから話しかけることなどできないのだが……。

 

(あの、服……)

 

 胸の部分捲ったらどうなるんだろう。

 あれ下着によっては捲れたらまるだしになるんじゃ……。

 

 と、よこしまな……ではなく同性ゆえの妙な不安感に駆られているリィンは置いといて……。

 

「うばぁ……」

 

 【百合(リリィ)】の映像を見たシズクは、苦虫を噛み潰したような表情で呟いた。

 

 ラヴの映し出した映像には、画質こそ良質ではないものの、はっきりと新たなダークファルスの姿が映し出されていた。

 

 白髪赤目。

 白いドレスに身を包んだ、白いダークファルス。

 

 確かにマトイに似ている……が、よく見れば普通に別人だ。

 テレビ番組に出てくる、芸能人のそっくりさんレベルの似てる度といえば伝わるだろうか。

 

 無尽蔵に剣を出現させ、自在に操るその能力は直接対峙しなくとも脅威であると分かるし、何より……。

 

 『女の子は女の子同士で結婚して、男は死ね』というセリフを平然と言葉にし、

 マコトが女と分かるや否や、表情から殺意が消えたことから容易に察せられる女性至上主義っぷり。

 

 外見こそ白く清楚な美少女だが、『ダークファルス』の名に相応しい狂気に満ちた中身を持っていることは映像からでも容易に伝わってきた。

 

「……ねえマトイ、フィリアさん」

「はい?」

「な、何かな?」

「有り得ないことだと分かってるけど一応聞いていい?」

 

 もったいぶったような言い方をするシズクに、マトイとフィリアは首をかしげながらも頷く。

 

 そしてマトイは、直後に頷いたことを後悔するのであった。

 

 シズクの、言葉によって。

 

「マトイってさ、経産婦だったりしないよね?」

「ぶっ!?」

 

 説明しよう!

 経産婦というのはようするに出産したことのある女の人を指す言葉である!

 

 マトイは齢にして18。

 有り得……無くはないが、ほぼ無いと言っても過言ではない年齢である。

 

「ち、違うよ! そんなわけないじゃん!」

 

 当然、マトイは顔を真っ赤にして否定した。

 

 さっきまでのおどおどとした態度が嘘のような強い言葉だった。

 

「……フィリアさん、マトイの言ってることは本当ですぴょん?」

「……間違いないでしょうね。検査の結果を見る限りでは……その……何と言うか、マトイさんは不純な恋愛経験は無いようでしたし」

「……ああ、処女ってことで――」

「ふん!」

 

 フィリアさんのぼかした表現を無意味に帰すような発言をしたラヴに、マコトの鉄拳が飛んだ。

 

 相変わらずな関係である。

 

「そ、それで? シズク、変な質問をした理由は当然あるんだよね?」

「あるぴょん。今の答えで、このダークファルスの正体が三割ほど絞れたぴょん」

「「「「マジで!?」」」」

 

 シズクとリィン以外の全員が、驚いたように声をあげた。

 

 あんな突飛の無い質問で何が分かったというのか。

 シズクの直感、フル作動中である。

 

「まあ、まだこれだ! って断定できるものはないから何も言わないけどね。でもとりあえずこのダークファルスがマトイじゃないことは確かぴょん」

「だ……だよね?」

 

 シズクの言葉に、マトイはほっと胸を撫で下ろした。

 

 一抹の不安はあったのだろう。

 何せ記憶喪失の真っ最中なのだ。自分が知らないことに、自分がなっていてもおかしくない。

 

 まあ頻繁に検査はしているだろうから、本当に僅かな不安だったろうが……。

 

「うばば。でもこれから先、【アナザースリー】みたいな人が出てくる可能性はあるぴょんね、容姿似てるし」

「そのたびに説明するのは面倒ですね……私がいつも傍にいれるとは限りませんし……」

「う、うぅ……」

 

 そう。それこそが難題だ。

 これから先、【百合】の知名度が上がればマトイを疑う者も増えていくだろう。

 

 フィリアさんが弁明すれば、誤解は解けることが殆どだろうが……あらぬ誤解を抱かれるのはマトイにとって望むところではない。

 

「ど、どうしよう……」

「うばー、そうだね、まずは見た目を変えるところから始めよっか」

「見た目を……?」

「そうだぴょん」

 

 頷いて、シズクはマトイに近づいていく。

 

「人っていうのはね、結局のところ顔や体型とかの見た目で個人を判別することが多い『らしい』から、髪型は……元々違うけど、髪色を変えるとか、タトゥーを入れるとかで大分印象が変わるぴょんよ」

「な、なるほど……」

「後は大きめのアクセサリーをつけるとかも効果的だぴょん。あ、でもマトイってそういうの持ってないよね? よーししょうがないなー、丁度あたしの頭に大き目のアクセサリーが付いてるからこれをマトイに贈呈……」

「させないわよ?」

 

 がしり、と。

 頭に付いた、黒兎のカチューシャを取ろうとしたシズクの手を、リィンが止めた。

 

「体よくそれを外そうったってそうはいかないわよ?」

「…………ぴょんぴょん」

 

 そっと、シズクは外しかけていたカチューシャを自分の頭に戻す。

 その表情は、ばれたか、とでも言わんばかりの不満顔だ。

 

「ええっと……」

「うばー、ごめんねマトイ。リィンがこれは駄目だって」

「う、うん……気にしなくていいよ。……本当に」

 

 ぴょこぴょこと後ろからウサ耳を弄られながら、シズクはぺこりと頭を下げた。

 

 可愛い。

 そしてとてもあざとい。

 

「……まあ、ダークファルスと似ている、という件については今すぐどうこうしなくても大丈夫でしょう。アークスシップではPAやテクニックの行使はできませんしね……」

「うば。そういえばそうだったぴょんね」

 

 アークスシップ内では、アークスの力は大きく制限されている。

 

 そうしないと、上位アークス同士の大喧嘩でも始まろうものならアークスシップが壊れてしまいかねないので、まあ当然の処置といえるだろう。

 

「……まあ、ならフィリアさんが気をつけていれば……あと『リン』さんとか事情を話しやすい人たちに説明しておけば大丈夫、ですかね?」

「そうですね……『リン』さんには私から説明しておきます。ラヴさん、先ほどの映像データを私の方にも送ってもらってよろしいですか?」

「はーい」

 

 と、いうわけで。

 

 マトイとダークファルスの姿が似ている問題は解決しそうである。

 よかったよかった。

 

(だから次は……『こっち』の問題か)

 

 シズクはリィンにウサ耳をぴょこぴょことされながら、ラヴに貰った映像データを開く。

 

 映像には勿論音声も入っており、この白いダークファルスがシズクの口癖である「うば」を使っていることは、はっきりと分かった。

 

 勿論ただの偶然だって可能性も無くはないが――。

 

「リィン、明日暇ぴょん?」

「ん? 明日は……ルインの定期メンテが終わった後なら時間あるわよ」

 

 ぐにーっとウサ耳を曲げて目元を隠されながら、シズクは上を向いた。

 背後に立たれていても、身長差の関係で十分目を合わせることが出来るのだ(目元がウサ耳で隠れているが)。

 

「じゃあ、その後一緒に来て欲しいところがあるんだけど……」

「? 何処?」

「あたしの口癖……『うば』の原点――」

 

 そう。

 シズクの口癖は、元はシズクのものではない。

 

 幼い頃からずっと、憧れてきた人が使っていたものを真似ているうちに口癖になってしまったものなのだ。

 

「お父さんに、会うためにあたしの実家へ行こう」

 

 もしダークファルスの口癖が、シズクと同じく彼から派生したものだったのなら、かの白いダークファルスに関する大きなヒントが得られるかもしれない。

 

「え? 何で私も?」

「いやこの前お父さんにリィンのこと話したら連れてきなさいって言ってたからついでに」

「ああそう……いいわよ、行きましょう」

 

 シズクの父親といえど、知らない人と会うのやだなーっとか内心思いながらも、リィンは了承の意を示した。

 

 ……だって将来、お養父さんと呼ぶ日が来るかもしれない相手なのだ。

 一目見ておきたいという気持ちも、あるに決まっているだろう。

 

「……って、そういうのはまだ早いわよ!」

「うばー!?」

 

 照れ隠しのチョップがシズクの頭を襲ったところで、今日のところは解散の流れとなったとさ。

 

 

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