AKABAKO   作:万年レート1000

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最初に謝っておきます。ごめんなさい。
シズクの父親に関しては、完全に自己満足です。

彼の正体は、後書きにて語りますがぶっちゃけストーリーには関わってこないので好き放題しました。

エミリアやナギサが来れるなら、『彼』が来ていてもおかしくないですよね?


シズクの父親

 所々が跳ねた、癖のついた赤い髪。

 おそらくは2、3日に一度しか手入れをしていないであろう、無精髭。

 

 端から見れば、ただ出不精な中年男性にしか見えない『その人』は――しかして。

 

 『リン』のような、優しい瞳を持った男だった。

 

(……これが、シズクのお父さん)

 

 確かに、何だかシズクと雰囲気が似ている男だ。

 

 何処が似ているのか、と問われれば即答はできないが……。

 

「今、お茶を淹れるよ。その辺に座ってて……えーっと」

「リィン・アークライトです」

「っと、そうだった。いつもシズクがお世話になっているようで、ありがとうね」

 

 言いながら、シズクの父はリビングの椅子に腰掛けた。

 

 その対面に、リィンも座る。

 シズクはキッチンの方へ歩いていった。

 

 どうやらお茶を淹れるのはシズクの役目らしい。

 

「いえ、お世話になってるのは私の方でして……」

「うっばっば、じゃあ言い換えようか。いつもシズクを守ってくれてありがとう」

「…………」

「あの子と連絡取ると、いつも君の話をされてね……自分の前に立って攻撃を庇ってくれるときの背中が格好いいという話を何度聞かされたか……「お父さん!」」

 

 キッチンから、シズクの叫び声が響いた。

 

 おそらくその顔は耳まで真っ赤になっているだろう。

 シズクの父は愉しそうに笑って肩を竦めながらも、話を逸らすように「あっ」と声を上げた。

 

「そうだそうだ。まだ自己紹介していなかったね」

「…………ああ、そうですね」

 

 いつまでも『シズクの父』では面倒くさい。

 赤い髪の彼は、優しげに微笑みながら、自分の名を告げた。

 

「僕の名前は『アカネ』。女の子っぽい名前だから、『レッド・ノート』とでも呼んでくれ」

「あだ名の方が長いんですね……」

「ああ、自己紹介するたびに言われる」

 

 でしょうね。

 

 と、心の中でツッコミを入れていたら、シズクがコップを三つお盆に乗せて持ってきた。

 

 ……今気づいたのだが、椅子が二つしかない。

 いや父娘の二人暮らしなのだから当たり前かもしれないが、シズクはお茶を置いたら何処へ座るつもりなのだろうか――と、いうリィンの心配を他所に。

 

 シズクは自然な動作で父親の膝の上に腰掛けた。

 

「…………」

「うばー、シズクのお茶は旨いなぁ」

「うっばっば、どやぁ」

「…………」

 

 いや別に?

 父親相手に嫉妬なんてしないし?

 全然イライラなんてしてないし?

 

 むしろ仲睦まじい親子のふれあいにほっこりしているくらいなんですけど!?

 

「で、お父さん。早速だけど今日来た理由について尋ねていい?」

「ああ、いいとも」

 

 ……っと、リィンが誰にしているのか分からない叫びを脳内で繰り広げている間に話は本題に入るようだ。

 

 コップを机に置いて、息を吸って、シズクは真剣な声色で言い放つ。

 

「お父さん。あたし以外に娘とかいたりする?」

「娘……? いや、んー……娘っぽいというか、妹分? みたいな知り合いは二人くらいいるけど……」

「……その子たちって、うばうば言ったりする?」

「いや、全然」

 

 むしろうばうば言うのをやめなさい! って怒られてた、と。

 アカネは苦笑いで答えた。

 

「……うばー……そっか」

「え? 何だいシズク。それだけ聞くために来たの?」

「うん。本題は終わり」

 

 所要時間、五秒以下である。

 これなら通信で聞いてくれれば済んだだろうに、と思う人もいるかもしれないが……。

 

 質問者が、シズクである以上。

 目と目を合わせた質問であれば嘘も真意も見破れるので、直接聞いたほうが良いのだ。

 

「うばー……しかし、何だってそんな質問を?」

 

 げんなり、とした表情でアカネはシズクに訊ねる。

 大事な話があるというから身構えたのに、一瞬で終わったのだから脱力しても仕方が無いだろう。

 

 だから、次のシズクの言葉に、彼は一瞬反応できなかった。

 

「口癖が『うば』の、ダークファルスが発見されたから」

「……っ」

「だからお父さんの隠し子とかだったりしないかなぁ……って思ったんだけど、心当たりある?」

 

 シズクの海色の瞳が、光る。

 

 アカネは、その瞳から逃れるように、シズクの両目を手のひらで覆った。

 

「無い……無い、が。ダークファルスか……」

「…………」

「嫌な単語だな……シズク、いいか?」

「うば?」

 

 両目を覆っていた手のひらを、そっと額へ動かす。

 

 撫でる様に手を動かしながら、アカネは強い口調で言った。

 

「これ以上探りを入れるのはやめておけ」

「…………」

「ダークファルスは、破壊と悪意の化身だ。関わったって碌なことがないぞ」

 

 好奇心は、猫を殺す。

 あんなものに関わって、良いことがあるわけない。

 

 アカネは、まるで経験談を語るように繰り返しそう言った。

 

「……心配してくれてるんだね、お父さん。でもあたしはアークスだよ?」

「それでも、僕はお前の父親だ。心配して忠告する権利くらい、ある」

「……………………そだね」

 

 見上げていた首を戻し、シズクは嬉しそうに笑った。

 

 アークスである以上、関わらなければ会うこともないわけではないだろうが……。

 

 ダークファルスに関わることが、碌なことではないことは、確かだろう。

 

「うば! この件についてはもうお仕舞い!」

「ん? いいの? シズク。なんか露骨にアカネさんの動作が怪しかったっていうか何か知ってそうだったけど」

「いいのいいの。そもそもあたしら平社員だし、ダークファルスなんていうでっかい案件は六芒均衡辺りに投げとけばいいんだよ」

 

 それは一理ある。

 たとえあのダークファルスの正体を突き止めたとしても、シズクとリィンには何も出来ない。

 

 精々上層部に情報を渡すくらいだが……シズクの直感の関係上信憑性が薄いと判断されるかもしれないし。

 

「うば、そうだそうだ。リィンにお父さん秘蔵のコレクションを見せてあげるよ!」

「あ、それは興味あるわね……でもいいんですか?」

 

 ちらり、とリィンはアカネの様子を伺う。

 でもその心配は杞憂だったようで、アカネは優しげに微笑んで一つ頷いた。

 

 さあ、レア武器観覧会の始まりである。

 

 

 

 

 

 

*****

 

 

 

 

 

 

 

「ああそうだ、リィン。気をつけてね」

「? 気をつけるって、何に?」

「迷子にならないように」

「はあ? 家の中で迷子になんかなるわけないでしょ」

「うばー……いやそれがね、ダーカー襲来対策で、武器コレクションは基本地下室にあるんだけど……」

「ああ成る程、壊されたらたまらないものね」

「うん。でもお父さんの趣味というか悪癖というか、そういうのが思う存分発揮されちゃって……」

「趣味? 悪癖?」

「なんと、我が家の地下室は廊下が迷宮になっています」

「あはは、何よそれ。でも一般家庭の一般人が、作れる迷宮なんてたかが知れてるでしょ」

 

 ……と、いう会話をしたのが五時間前。

 つまりシズクとリィンがレア武器コレクションを見に行った際の雑談で行われた会話から、五時間。

 

 想像以上のコレクションに圧倒され、思わずレアドロコレクターという道に興味が沸いてきたのが、四時間前。

 

 今日は泊まっていきなさい、みたいな会話をしながら晩御飯を頂いたのが、二時間前。

 

 お風呂先入りなよ、と言われてお風呂を頂いたのが、一時間前。

 

 ――そして、風呂上りに好奇心から気軽な気持ちで地下室に入ってみたのが、三十分前。

 

 リィンはまだ地下室に居た。

 ていうか彷徨っていた。

 

 迷子である。

 完全に迷子である。

 

 成る程、好奇心は猫を殺すとはよく言ったものである、なんて感心する気もおきない。

 

 本来ならシズクに通話して迎えに来て貰った方がいい状態なのだが……。

 

(は……恥ずかしい)

(あんな口聞いといて、迷子になったとか言うの恥ずかしい……!)

 

 今ならまだ、長風呂してたという言い訳が使える。

 連絡するのは、もうどうしようもないくらい時間が経ってからにしよう。

 

 などと子供っぽい決意を固めながら、リィンは舗装された廊下歩く。

 

 似たような模様の壁が続き、似たような曲がり角ばかりで、さらに高低差もあるというおまけつき。

 

 成る程、迷宮だ。

 たかが一個人が、こんなもの作れるのかと思ったが、そういえばアカネさんは元アークスか。

 

「あれだけのレア武器を集めて……さらにこんな家を建てるくらいメセタを貯めて……あの若さ」

 

 現役時代は、さぞ強いアークスだったのだろう。

 まだ若いだろうに、引退しているということは、メイさんみたいに何処か怪我でもしているのだろうか。

 

「あら?」

 

 とか何とか考察しているうちに、リィンは重厚な扉の前に立っていた。

 

 気づかぬ間に、かなり歩いていたらしい。

 道は後ろにしかなく、行き止まり。

 

「……出口、ではないわよね?」

 

 扉に鍵は、掛かっていない。

 一応確認しとこうか、とリィンは今時珍しい手押し式の扉を開いた。

 

 果たして――中には。

 

 レア武器が、並んでいた。

 

「…………あれ? さっき見たコレクションの部屋……じゃないわよね」

 

 先ほど見たコレクション部屋とは、また違うコレクション部屋のようだ。

 

 一部屋じゃ足りなかったのか。

 薄暗くてよく見えないが、さっきの部屋と同じくらい大量のレア武器たちが鎮座されていた。

 

「凄いわね……よくもまあここまで……」

 

 一歩踏み入れ、入り口近くにあったツインダガーに触れる。

 

 埃も付いていない、よく手入れされた一品だ。

 銘は……。

 

「『ナノブラストサイス』……? ふぅん、聞いたこと無い武器ね」

 

 まあ私はレア武器に詳しいわけじゃないし、そういうこともあるだろう、と。

 

 リィンは次々と武器を眺めながら部屋を歩く。

 

 『エンシェントスターロード』、『神杖ウズメ』、『クラスターソードライフル』等とまあ、聞き覚えの無い武器たちが居並んでいる。

 

 そもそも既存の武器種に当て嵌まっていないような武器もあるのだが……。

 

「一個も知ってる武器が無いわねぇ……ん?」

 

 と、本来の目的も忘れて探索しているリィンの視界に、レア武器以外のものが入った。

 

 写真立てだ。

 ごく普通のものだが、武器だらけの部屋に一個だけぽつんと置いてあるのでかなり異質に見える。

 

「写真……?」

 

 結構、古そうなものだ。

 多分十年か、十五年くらい前の物。

 

 年号が入っていれば分かりやすかったが、生憎そんなものはなかった。

 

「…………」

 

 写真は、集合写真のようだった。

 

 毛むくじゃらな、大柄の男。

 スーツを着た、格好いいスタイルの美女。

 キャバクラで働いていそうな格好をした、キャストの女性。

 無邪気そうな、同じ年齢くらいのニューマンっぽい男の子。

 小さな羽根のようなデザインのヘッドホンをつけた、金髪の少女。

 

 そして、アカネさんであろう、赤色の髪の毛を持った青年。

 

 何かの記念に撮ったのだろう。

 皆笑顔で、皆幸せそうだ。

 

「ん? 背景に何か文字が書いてあるわね……ええっと……」

 

 ふと、背景に文字が書いてあることにリィンは気づいた。

 かなり訛りがあって、読みにくい字だ。

 

「んー……リト……ル、ウィング……? かな?」

「ああ、その写真そんなところにあったんだ」

 

 びくーっ! っと。

 リィンの身体が、跳ね上がった。

 

「あ、アカネさん……」

「一向にレッド・ノートと呼んでくれる気配が無いね……いやまあいいけど」

 

 苦笑いでそう言いながらアカネはゆったりとした足取りでリィンに近づき、写真立てを取った。

 

 懐かしそうにそれを撫で、アイテムパックに仕舞い。

 先ほどまでとまるで変わらぬ優しい瞳で、リィンを見る。

 

「それで、どうしてこんなところに居るんだい?」

「あ、あの……ええっと……」

「うばば……いや、怒ってるわけじゃないから安心して。……やっぱり迷子?」

「…………はい」

 

 恥ずかしそうに頷いたリィンに、アカネは笑いながら「ごめんね、複雑な家で」と謝った。

 

 勝手に地下室へ入ったことは、怒らないのか。

 

 そう問いかけようとしたリィンの言葉を遮るように、アカネは口を開いた。

 

「こんな複雑な地下にしてるのは、理由があるんだよ」

「理由……? シズクはお父さんの趣味って言ってましたけど……」

「ああ、シズクにはそう言ってるからね」

 

 レア武器だらけの部屋から出て、廊下を歩く。

 

 流石に道は把握しているのだろう、アカネの足取りは軽やかだ。

 

「シズクは、……なんというか、特異な子だからね」

「特異……」

「うん。それもとびっきり……下手すればオラクルを滅ぼしかねないレベルのモノだ」

 

 リィンは、目を見開いた。

 

 あの、シズクが?

 あのうばうば言ってる小動物みたいな女の子が?

 

 オラクルを、滅ぼしかねないなんて。

 

「うばば、君も見に覚えがあるんじゃないか? シズクの異常なまでの『直感』を」

「ええ、まあ……」

「シズクの『直感』は、勿論ただの直感なんかじゃない。もっと別の『何か』だ」

「…………」

 

 それは、流石に最近薄々思っていたことだ。

 

 尤もリィン以外のシズクと交友がある人たちは皆感づいていることなのだが……それは置いといて。

 

「あの直感は、彼女が持つ力のほんの一端――その応用、みたいなものだと思っている」

「…………」

「もしかしたら、あの子の力に気づいた人がそれを利用しようと彼女を捕らえようとするかもしれない。……だから、僕はいざというときシズクを守れるように、この地下室は要塞のようにしてあるんだよ」

 

 守れるように。

 シズクが、自分の身を自分で守れるようになるまで。

 

 親として、彼女を守る。

 

「仮にアークス全体が敵に回っても、シズクだけは守れるようにってね。そう造ってある」

「…………それを、何で私に話すんですか?」

「うば? まあ知られても問題ないことだし……なんか嬉しくなっちゃって」

「嬉しい?」

「だって、あの子が友達を連れてくるなんて初めてだからさ」

 

 アカネは、心底嬉しそうに微笑む。

 

 それは紛れも無く、交じりなき――父親としての顔。

 

「あの子は――シズクは、へたれで、臆病で、寂しがり屋な子だったから」

「…………!?」

 

 へたれとか、臆病とか、シズクに似合わない言葉が出てきてリィンは驚いたように目を見開いた。

 

 寂しがり屋はまあ――分からなくもないが。

 

「相手の本音が見えてしまうあの子は、その所為で『クラスメイト』はいても『友達』は居なかった。だから家に帰ってもずっとレア武器コレクションを眺めているような子だったんだけど……」

 

 素敵な友達ができたみたいで、よかった、と。

 

 おおらかな笑顔を、アカネはリィンに向けた。

 

「…………」

「でも実際どうなんだい? あの子といると、隠し事ができないだろう? その辺りは、どう思っているんだい?」

「……あー……その、私は口下手なので……言葉にしなくても考えてることが伝わってくれるのは、嬉しいですね」

 

 リィンの回答を聞いて、アカネは目を丸くした。

 

 ぱちくりと目を閉じ開き、そして口元を段々と歪めていき……。

 

 「うばっ」と、堪えきれず噴き出した。

 

「うばっはっはっは! そっか、そういうことか! そうだな、そういうのも有りだったな!」

「……?」

「うばー! いたー!」

 

 突如、シズクの叫び声が響いた。

 

 見ると、前方からシズクが怒りの表情でこちらに駆け寄っている様子が見える。

 

 どうやら、リィンがあまりにも遅いから探していたようだ。

 

「お父さん何リィンと楽しそうにしてんのー!」

「うばっはっは! いやシズク、お前も良い子を見つけてきたなぁ! 大事にしろよ? このお嬢さんを!」

「う、うば? な、何だよぅ突然」

 

 いきなりばしばしと背中を叩かれ、困惑するシズク。

 流石に何があったのか、一瞬察せられなかったシズクだが……海色の瞳が、かすかに光り。

 

 シズクは、全てを察したようにかぁっと顔を赤くした。

 

「お父さんんんんんん! 何か余計なこと言ったでしょ!」

「うばっはっは、まあいいじゃん減るもんでもあるまいし」

「うばー! そういう問題じゃないでしょー!」

「それよりシズク、先リィンさんをリビングまで案内してからゆっくり風呂入って来い。父ちゃんちょっとそこの倉庫からアルバム引っ張ってくるから」

「あたしの居ない間に何をする気だー!」

 

 うがーっと今にも噛み付きそうなほどの勢いで、シズクは父親の胸倉を掴んだ。

 だがしかし、そんなものでこの父親は止まるはずもなく、シズクをぶら下げたままアカネは倉庫の中に入っていった。

 

「…………」

 

 廊下に取り残されたリィンは、一人じゃまた迷うので手持ち無沙汰で二人を待ちながら――。

 

「……羨ましいなぁ」

 

 お父さんと仲が良いって、っと。

 

 自分の父親を思い返しながら、小さく呟いた。

 

 




はい、というわけで分かる人には分かる。
分からない人は分からなくても問題ないので気にしないでくださいということで。

シズクの父親は、『女の子一人を救おうとしたら世界を救っちゃった系男子』こと、
リトルウィングのアイツです。

pspo2iが好きだった作者の自己満足です。
不快に思われる方がいたら申し訳ございません。
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