『申し訳なかったであります!』
「いや、判ってくれたのであれば良いのじゃが……」
学園長室でヴァルゼルドは土下座をしていた。
事の次第はヴァルゼルドが学園長を妖怪と勘違いした事に始まる。
ヴァルゼルドには高性能のセンサーが搭載されており、広範囲で様々な物を関知できるのだ。
そしてそのセンサーで麻帆良に居る魔法使いや人外を探し当てたヴァルゼルドは茶々丸の案内で学園長室に案内される前にセンサーを作動させていた。
中から感じるのは強い魔力。
そして内一人からはサプレスの者と同様の気配を感じたヴァルゼルドは人外が居ると判断した。
そして学園長室に入ってみれば人体的にあり得ない頭をした老人。つまりヴァルゼルドは見た目で近右衛門を妖怪と勘違いしたのだ。
そしてその説明を茶々丸経由で聞かされたエヴァはソファーの上で大爆笑。高畑は顔を背けてプルプルと笑いを堪え、近右衛門はセンサーまで使われたのに妖怪と間違えられた事にショックを受ける。
そして冒頭の土下座となったのだ。
「では、客人方に改めて自己紹介しようかの。ワシが、この麻帆良学園及び関東魔法協会理事会の長をやっておる、近衛近右衛門と申す」
「僕はタカミチ・T・高畑。麻帆良の先生をしているよ」
「エヴァンジェリン・AK・マクダウェルだ。茶々丸、随分と面白い物を拾ってきたな」
コホンと咳払いをすると近右衛門はヴァルゼルドに自己紹介をする。それに習い高畑も自己紹介を済ませ、エヴァはヴァルゼルドを見るとニヤニヤと笑う。
『本機は形式番号VRL731LD、強行突撃射撃機体VAR-Xe-LD。親しみを込めてヴァルゼルドと呼んで欲しいであります』
三者の自己紹介にヴァルゼルドも敬礼をしなから自己紹介をする。見事な敬礼に近右衛門も息を漏らす。
「ホッホッホッ、まるで軍人じゃのぅ。さてヴァルゼルドくん、単刀直入に訊こう。お主は何用でこの麻帆良に参った?」
ヴァルゼルドの対応に笑っていた近右衛門だが雰囲気が一変する。
先程から飄々とした近右衛門だが麻帆良学園を預かる身として害を成す存在を容赦する気は無い。
ヴァルゼルドの返答次第では……そう告げるかの如くの重圧。
その重圧を真正面から受けヴァルゼルドは重々しく口を開く。
『わからないので……あります』
「フォ?」
ヴァルゼルドの言葉に部屋を覆う重圧が霧散する。
「ふむ、判らぬと?」
『本機は【忘れられた島】に居たはずなのに気が付けば此処にいたであります。本機にも何故に此処に居るのか不明なのであります』
近右衛門の問いに自身にも答えは持ち合わせていないと告げるヴァルゼルド。
「嘘はついていないと思われます。ヴァルゼルドさんから道すがら話をお聞きしましたが、そもそも麻帆良自体を知らない様です。逆に先程のヴァルゼルドさんが仰ったサプレスやシルターン等のデータは此方にありません」
「ふむ…………話を聞く必要がありそうじゃな。スマヌがヴァルゼルドくんが麻帆良に来た時のことを詳しく教えてくれんかの?」
茶々丸の補足も入り、ヴァルゼルド個人からは話は進まないと判断した近右衛門はヴァルゼルドの身の上を聞くことにした。それで少しでも判断材料があればと考えたのだ。
『………了解であります』
ヴァルゼルドは数瞬の間を開けてから了承する。この仕草からヴァルゼルド以外の者は話しづらい過去なのだろうと感じていた。
その後、ヴァルゼルドの調書で様々な事が解った。
ヴァルゼルドが元々居た島と言うのは【忘れられた島】と言う島で巨大な召還術実験施設だったのだと言う。
──機界ロレイラル──
──鬼妖シルターン──
──霊界サプレス──
──幻獣界メイトルパ──
四つの召喚獣の世界から召喚獣を呼び出す実験。
それ以外にも『名も無き世界』が存在するが今は語る時ではない。
ヴァルゼルドはその中のロレイラルに属するのだが、故障して身動きが取れなくなり、数十万時間もの間、エネルギーの補給を行えないままガラクタに埋もれていた。
たまたま近くを通りがかった『あの人』に助けを求め、それ以来自分のために懸命に奔走してくれる『あの人』を『教官殿』と呼び、慕うようになる。
しかし修理を終えたヴァルゼルドに悲劇が訪れる。
修理を終えたヴァルゼルドは暴走した。
その人格はバグにより発生したものであり、それを直すにはサブの電子頭脳を取り付けバグを消去しなければならない。
しかしそれはヴァルゼルドの人格を消す行為。
『あの人』はそれを実行するか悩むがヴァルゼルドは告げる。
『教官殿の笑顔を守りたい』と
『あの人』は悩んだ末にヴァルゼルドの願いを聞き入れ、バグで発生した人格は消えた筈だった。
『本機が覚えているのはここまでであります。気がついた時には茶々丸殿が側におりました』
掻い摘まんでの説明だったが全てを語ったヴァルゼルド。
学園長室はシンと静まり返っていた。
近右衛門は予想以上の話に頭を悩ませ、高畑は顔を俯かせる。
エヴァはソファーに座ったまま足を組んで何か思案中だった。
茶々丸は普段と変わらぬ表情だが、何処か悲しげな雰囲気になっていた。