次の日、ヴァルゼルドは学園長室に出向いていた。
『失礼します。学園長殿』
「うむ、よく来てくれたの。準備は出来とるでな」
そう言われて、ヴァルゼルドに差し出されたのは書類の数々。
「それらの書類は、この学園における身分の証明するものじゃ。これで麻帆良では身分におけるトラブルは粗方何とか出来るじゃろうて」
『身分の証明でありますか?』
近右衛門の言葉に書類に目を通すヴァルゼルド。
「うむ、言いにくい事なのじゃが……お主は魔法世界でも特に特殊な部類に入る。麻帆良に住む者達を納得させる為の方便じゃよ」
『それで本機の名称が【麻帆良警備兼お手伝いロボット・ヴァルゼルド】になっているのでありますね』
ヴァルゼルドの言葉にウムと頷く近右衛門。
「それと渡しておくのがコレじゃな」
『コレは?』
ヴァルゼルドに手渡されたのは一枚の免許証の様なカード。
「お主の身分証明書じゃよ。それを提示して貰えればお主の出自がわかるんじゃよ」
『トラブル回避の為の措置でありますね。了解しました』
そう言うとヴァルゼルドは身分証明書を自身のボディに収納する。
「うむ、後の細かい仕事は高畑君に聞いとくれ。そろそろ来る筈じゃからの」
『了解しました学園長殿』
再度、ビシッと敬礼をしたヴァルゼルド。
「ふむ、所で昨日は寝れたかね?」
『ハッ睡眠時間はキチンと取れました。残った時間に関してはこの世界のデータ収集に努めたであります』
機械兵士に睡眠の有無を聞く近右衛門。しかし驚くことにヴァルゼルドは睡眠をするのだ。
名も無き島においても寝ぼけて『教官殿』を驚かせた程である。
そしてヴァルゼルドは睡眠時間以外は起きており、自身の体からコードを取り出しインターネットに接続してこの世界の様々なデータをインストールしていたのだ。
「それは凄いのぅ……お、高畑君が来たようじゃ」
「学園長、ヴァルゼルド君お待たせしました」
ヴァルゼルドと近右衛門が話をしている最中、高畑が学園長室に入ってくる。
「待ってとたぞ高畑君。ヴァルゼルド君に学園での仕事を教えてやってくれ」
「わかりました。さ、行こうかヴァルゼルド君」
『了解であります高畑殿』
高畑とヴァルゼルドは近右衛門に頭を下げ、退室しようとした。
「ヴァルゼルド君」
しかし近右衛門に呼び止められる。
「ヴァルゼルド君……くれぐれも……」
『ハッ!魔法の事は厳重に注意するであります』
近右衛門はヴァルゼルドの答えに満足したのか笑うと「後は頼むぞい」と声を掛けた。
大分、登校してくる生徒も多くなってきた時間帯。
まだ時間に余裕がある為、ゆっくりと登校する生徒が殆どだ。
そんな中、駅から校舎に向かう生徒達の流れに逆らう二つの影。高畑とヴァルゼルドである
「僕達の仕事ってのは、学生間でのトラブルの対処が殆どなんだ」
『それほどにまで学生のトラブルが発生するのでありますか?』
業務の説明をしていた高畑だがヴァルゼルドからは当然の疑問が帰ってくる。
「良くも悪くもこの学園の生徒は元気一杯でね。教師や風紀委員が足りないんだよ」
そう言いながらタバコに火を灯す高畑。仕事前の一服の様だ。
「今はそれほどでもないんだけど、もうすぐ一気に混みだすからね。そうしたら僕らの出番だよ」
『その場合の対応策は如何すれば?』
「まあ、事故なら防止とアフターケア、ケンカなら無力化とかそんな感じで。今日は僕も一緒に回るからそれを参考にしつつ一緒にやってみようか」
『了解であります』
律儀に返事と敬礼を返すヴァルゼルドに高畑は笑みを溢した。
この麻帆良でのヴァルゼルドの初仕事が始まった。