生徒達の登校は問題なく終わり、ヴァルゼルドと高畑は一時的に別行動を取る事になる。
高畑は先ほどの明日菜や木乃香のクラスの担任であり、HRや授業があるので教室へと行ってしまうのだ。
そんなヴァルゼルドは高畑はある場所へと連れて行く。
所変わって、広域指導員の寄り合いに顔を出したヴァルゼルドと高畑。
現在、高畑が他の指導員にヴァルゼルドを紹介しているところだ。
ヴァルゼルドの事は掻い摘まんで説明が行われ、自己紹介となる。
『本機は【麻帆良警備兼お手伝いロボット・ヴァルゼルド】であります。気軽にヴァルゼルドとお呼び下さいであります』
「……というわけで、こちらのヴァルゼルド君がこの度、広域指導員に任命されました。僕と同じで、荒事や学生達のトラブル担当をメインに考えてますので、荒事の対処への増援等、僕がいないときは彼にお願いします」
ヴァルゼルドの自己紹介に補足説明を交えながらヨロシクと指導員達に紹介していく。
「彼が学園長のお知り合いが作成したロボットと……いや、立派な外見ですね」
「ヴァルゼルド、こちらは新田先生。指導員のリーダーなんだ。指導員の仕事で分からないことがあったら彼に聞いてくれ」
『了解であります』
ベテランの雰囲気を滲ませる壮年の男性は新田と言う学年主任の指導員で高畑はヴァルゼルドに新田を紹介する。
「どうも、新田と言います」
『ヴァルゼルドであります』
新田と握手をするヴァルゼルド。中々にシュールな光景である。
「ヴァルゼルド君が生徒指導……大丈夫なんでしょうね?」
「ええ、学園長の許可はとってあるんで。それに今朝も登校ラッシュに居合わせましたが問題ありませんよ」
「……ふむ」
ヴァルゼルドと握手をしたまま新田は高畑にヴァルゼルドの事を問う。本人を目の前にして聞くのは失礼なのだろうが、これは新田が教師として生徒を守る義務があるからである。
しかし高畑はそんな新田に大丈夫ですよと笑顔で答えた。そして新田は一息付くと、それ以上の詮索はしなかった。
その後、ヴァルゼルドは広域指導員の仕事のレクチャーや緒注意を受ける事となる。高畑は既に担当しているクラスへと行ってしまい、この場には居なかった。
一応、指導員の中にも魔法先生は居るので注意は怠る事は無かったと改めて記される。
◇◆◇◆
放課後になると高畑はヴァルゼルドの元へ向かっていた。
新田がヴァルゼルドを指導しているとの事でどんな様子かを見に行く事にしたのだ。
新田の他にも魔法先生が一人、付いて一緒に見ているとの事だから心配は無いのだろうが気になっていたのだ。
「高畑先生……」
後ろから声を掛けられ、高畑は振り返る。
そこには眉間に皺を寄せている、同僚で魔法先生のガンドルフィーニの姿があった。後ろには魔法生徒の高音・D・グッドマンと佐倉愛衣も居る。
「あのヴァルゼルドと言う機械兵士……その後はどうですか?怪しい行動は起こしていませんか?」
「……特に何もありませんし、今、同行して貰ってる魔法先生からもトラブルがあったとの報告はありませんよ。あまり彼を目の敵にし過ぎるのも、良くないんじゃありませんか?」
魔法先生の1人であるガンドルフィーニは所謂偏った正義感を持っていた。
特にヴァルゼルドが別の世界で戦うために作られた機械兵士と知ると破壊もしくは封印するべきだと抗議し始めたのだ。他の魔法先生や生徒達もガンドルフィー二と同様の意見を出し、ヴァルゼルドを受け入れたのは高畑含め少数だったのだ。
「ふう……高畑先生、あまり彼の肩を持たない方が良い。いざと言う時に迷う事になりますよ」
「……いざと言う時とは?」
ガンドルフィーニの発言に高畑は眼鏡を指で上げながら問い返す。
「決まっているでしょう? 彼が本性を現し、我々に牙を向けた時ですよ」
ガンドルフィーニは真剣な表情で、高畑にそう告げた。
後ろに居る高音も同意なのか頷いており、愛衣は迷っているのかオロオロとしている。
確かにヴァルゼルドにその危険性は、絶対に無いとは言い切れない。
だとしても高畑にガンドルフィーニの言い分には納得がいかないものがある。
「その時は僕が……責任を持って対処しますよ」
高畑は冷静な表情で、ガンドルフィーニに告げた。
高畑も魔法教師の1人であり、学園長と共にヴァルゼルドを受け入れたのだ。責任の取り方は心得ている。
「信じてますよ。高畑先生」
高畑の言葉に満足したのか納得した表情を浮かべるとガンドルフィーニや高音、愛衣も高畑と同じ方向に歩き始める。どうやらこのままヴァルゼルドの様子を一緒に見に行くつもりのようだ。
「けれど……その時が来る事は無いと僕は思いますよ」
「……何ですって?」
高畑は微笑を浮かべ呟き、疑問の表情を浮かべるガンドルフィーニ。
「彼がこのままで居れば、きっとその時は来ませんよ」
そう言った高畑の視線の先にはヴァルゼルドが居た。
彼は公園のゴミ拾いをしていたのだ。
近くのベンチでは新田と本日のヴァルゼルドの監視役として来ていた魔法先生の葛葉刀子の姿もある。
「お疲れ様です新田先生」
「おお、高畑君。彼は中々に愉快な人だね」
ベンチに座っていた新田に話し掛ける高畑。
新田はベンチから立ち上がると同時にヴァルゼルドを誉め始めたのだ。
「あの……彼が何か?」
高畑がヴァルゼルドが何かしたのかと新田に問いかけるとベンチに座っていた刀子は思い出し笑いなのかクスクスと口元を抑えて笑う。
新田の説明によると当初は武骨な外見故に警戒されていたヴァルゼルドだが半日でその印象は粉々に砕かれたのだ。
横断歩道が渡れない老人の手助けをしたり、ボランティアにも積極的に参加し、拍手喝采。
幼稚園の近くを通れば男の子の集団から憧れの目を集め、男の子達と女の子達の間で奪い合われる姿が目撃された。
麻帆良大学の工学部に見付かると分解されそうになり、生徒達から逃げる有様。因みに生徒どころか大学教授も混ざっていた。
図書館島に行けばバラバラに置かれていた本を綺麗に並べ替えて司書に感謝され、更に他の本棚も頼むと仕事を任され、バタバタと慌ただしく本棚整理に勤しんでいた。
更に屋外で休憩をしていると身体中を猫に囲まれ、そして悲鳴を上げる。
そのあまりのポンコツっぷりに、新田や刀子の抱いていた『武骨な外見のロボット』や『異世界の自立稼動兵器』というイメージは、根本から粉砕されたのである。
その後、彼等のヴァルゼルドに対する認識は『愉快なポンコツ』へと変貌していき、やがて彼の外見に誰も驚かなくなったのである。
今現在もエプロン姿でゴミの分別をしている彼を見て他の魔法先生や魔法生徒もヴァルゼルドが危険な存在の筈が無いと判断せざるを得なかった。
仮にガンドルフィーニが「彼は危険な存在だ!」と叫んでも「え、あいつが危険だって? あんた冗談キツいな」等と言われるだろう。
「彼を警戒する方が馬鹿らしくなってきますよ」
と半日もヴァルゼルドの監視をしていた刀子は疲れた様な笑みを浮かべていた。
新田に至っては既にヴァルゼルドをロボットではなく一個人として認めていたりする。