カズマside
俺が冬将軍に殺されてから数日たったある日のことだ。
今までは、アクアに絶対安静を言いつけられた事もあって、冒険者ギルドには行かず馬小屋に引きこもっていたり、街中を散歩していたりしていた訳だが、昨日の夜にアクアから激しい動きをしなければ大丈夫だといわれたので、今日は久しぶりに冒険者ギルドに足を運ぶことにしたのだ。
さすがにモンスターの討伐は無理だが荷物運びくらいは出来るだろう。そう思ってギルドにきたのだが…………今日は何時もと違った光景を見ることが出来た。
冬の今の季節は冒険者はギルドに併設された酒場で飲んだくれているはずなのだが、今日は揃いもそろって依頼を受けるためにカウンターに行列をなして並んでいるのだ。
俺が居ない間に何があったのだろう?
俺が誰かに事情を聞こうとしたときに、ちょうどよくアクアたちの姿が見えた。この際だ、こいつらに事情を聞く事にしよう。
「おい、なんで皆クエストを受けてるのかわかるか?」
「それは……私も未だに信じられないのだが冬将軍を誰かが討伐したようなんだ」
俺はダクネスの言葉に思わず耳を疑ってしまった。
だって、魔王軍の幹部よりも強い化け物みたいな奴が相手だぞ。そんな奴を倒せるのがこの世界にいるのか?ましてやここは駆け出しの冒険者の街なんだぞ。
「カズマが信じられないのも分かりますが、本当の話のようなのですよ。実際に昨日、私とマナ、それとルリを連れて雪精狩りに出た際は、いくら雪精を倒しても冬将軍は現れなかったのですよ」
そうめぐみんの顔を見るが、嘘を言っている顔には見えないし本当の事なのだろう。
それにしても一体誰が倒したのか気になるな。
「誰が倒したかはしらないのか?」
「私が聞いた噂だとね。なぜかこの街の近くで倒したにも関わらず隣街のギルドで報酬を受け取ったみたいで、しかもその時対応したギルドの職員はその人の顔も名前も思い出せないらしいわ」
思い出せないって、そんな事があるのか?
顔が分からないくらいの怪しい格好をしているのなら、さすがに受付を拒否するだろう。そもそも顔を覚えられなくても討伐した事の証明として、カードを処理しなければいけない時に受け取るギルドカードに書かれている名前を見るはずだ。
そのはずなのに名前すらも覚えられないなんて……
そんな事を首を捻りながら必死に考えていると、その思考を遮るようにマナが俺に声を掛けてきた。
「カズマ、討伐した人の事なんてどうでもいいじゃないですか。それよりも聞いてくださいよ。昨日、三人で頑張って五百万エリスも稼いだのですよ。特にルリの奮闘が凄くて一人で三十体も捕まえてましたよ。あっ、お金は勿論ほとんど借金の返済に当てておきましたからね」
マジかよ。
これで、約五百万エリスの借金を返したことになる後は三千万エリス。最初は借金の多さに途方にくれたがこの調子で行けば一年以内には返すことが出来そうだ。
「今日はどうするんだ?雪精狩りにいくのか?俺は討伐に参加できないだろうが、それでもかなり稼げるだろう」
「それについてなんだが、昨日でここら一帯に居た雪精は狩りつくしてしまったみたいでな。もし雪精を討伐するとなればかなり遠くまで行かなければならないのだ」
「それでカズマが来るちょっと前まで皆で話し合ったのですが、遠くに行くとなると生き返ったばかりのカズマには負担を掛けますし、ないとは思いますが再び冬将軍が現れたら大変な事になるので、今回は行かないことに決めました」
たしかに、今の身体では長距離の移動は少しきついかもしれないな。
それにあれだけの冒険者が雪精狩りに行っているのや、昨日の事を踏まえると冬将軍が討伐されたのは間違いないみたいだが、もしもと言う事を考えるとやはり遠慮しておきたい。
ここはダクネスやめぐみんの言う事にしたがっておいた方がいいだろう。
「わかった。それじゃあ、掲示板で荷物運びとかの簡単な依頼を受けるとするか」
俺がそう言った後、仲間達が頷くのを確認してから、掲示板に向かおうとした時だった。
「おい、今の話って本当か?上級職ばかりでそんな仕事に行くなんて、お前は随分迷惑掛けているみたいだな。最弱職さんよ?」
俺を馬鹿にしたような声が後ろから聞こえてきたのは……
マナside
「おい、今なんて言った。もう一度言ってみろ」
「何度でも言ってやるよ。なんで荷物運びなんて簡単な仕事をやってるんだよ。お前以外が上級職のパーティでおかしいだろ?どうせお前が足を引っ張てるんじゃないのか、最弱職さんよぉ?」
カズマと一緒に以来を受けようとした矢先の事でした。
金髪の男性……チンピラみたいな男なので名前はわかるまではチンピラAとすることにしましょう。
ともかく、そのチンピラAが急にカズマにいちゃもんをつけ始め、現在は軽い口論のような状態に陥っています。
そのチンピラの言う事はこのパーティで一番ステータスの低いカズマを貶しているような事で、ステータスだけを見れば事実であるのと、余計な騒ぎを起こす訳には行かないので彼は歯を食いしばって怒りを収めようとしています。
しかし、相手のチンピラAはそんなことも知らずに、さらにカズマの事を貶めようとします。
「おいおい、なにも言い返せねぇのかよ。まぁ、最弱職が言い返せるだけの実力が有るとはおもえねぇがな。ああ~~~~羨ましいな、上級職の美人五人に囲まれてハーレム気取りの人生を送ってんだろうな。羨ましすぎて嫉妬してしまいそうだぜ。なあ、皆もそうだろ」
チンピラAの言葉を聞いたギルドは大爆笑の渦に包まれました。
ほとんどの冒険者たちがカズマを見て笑う中、数は少ないですが例外もしました。その例外とはカズマと比較的仲が良く頻繁に情報交換をやっている冒険者達や、日頃からカズマの苦労を知っている受付の人たちです。
彼らはカズマ見て笑ったりすることはなく、逆に笑っている者を見て顔を顰め、中には注意している人もいます。
カズマもその光景を見たからでしょうか、ぎりぎりのところですが怒らずに踏みとどまっています。
「カズマ、あんな奴の言う事なんか気にしないで行きましょう」
「そうだ、酔っ払いの言う事など、真に受ける必要なんてない。時間が無駄になるだけだ」
「……無視して行こう……」
「ルリの言う通りよ。大方、私達と一緒に居るカズマに嫉妬してるだけよ。早く依頼を決めて行きましょう」
「私もめぐみん達の言う事に賛成ですね。時は金なりっていうじゃないですか。あんなチンピラAに時間を使うなんて馬鹿のする事ですよ」
するとカズマは私達の言葉に耳を傾けたようで、チンピラAに背を向けると依頼を探すために掲示板の方に向かおうとします。
チンピラAのせいで無駄に時間が取られましたがこれでようやく依頼に行くことができそうです。
「上級職におんぶっこで苦労知らずなんだろうな。本当に望ましいよ。俺と代わって欲しいくらいだぜ」
チンピラAのその一言を聞いた瞬間、カズマは掲示板への歩みを止めました。
そして勢いよくチンピラAの方向に振り向くと……
「大喜びで代わってやるよぉぉぉぉおおおお!!」
カズマは大声で絶叫して、言葉をチンピラAに返しました。
そしてこのカズマの声が響いた冒険者ギルドは先ほどまでの大爆笑が嘘のように静まり返りました。
「えっ?」
今まで言いたい放題言っていたチンピラAは、カズマのその反応を見て、金魚のように口をパクパクと開けています。
ちなみに大喜びで代わられたい仲間の扱いを受けた私達は、私とルリ以外の全員がうろたえています。
ちなみに私は今までに似たような経験があるのでこれくらいではうろたえません。
まあ、最初にやられた時は今のチンピラAのように慌てふためきましたが。
私が昔の事を思い懐かしんでいると、カズマはマヌケな表情をしているチンピラAに詰め寄って声を張り上げました。
「代わってやるって言ったんだよ!お前の言うとおり俺は最弱職だよ!ステータスもこのパーティで最低だ!それは認めてやるよ!!だがな、お前はその後になんて言った!美女五人に囲まれてハーレム気取りだと……ふざけるんじゃねぇぞ!!俺のパーティはハーレムなんて甘いもんじゃねぇんだよ!美女といえるのなんてあいつ一人しかいねぇんだぞ!!」
そう言ってカズマはルリに指をさします。
そしてギルド内に居た冒険者達の視線が彼女に集まりました。
「お前はどんな目をしてるんだ!ルリはな、三日前、暇を持て余して俺に街の中の案内をしてくれたんだぞ!しかも俺が依頼で寒がってるのを見てたのか冒険者用の防寒具を売ってる店で俺に防寒具を買ってくれたんだぞ!!それなのにお前はハーレムって…………あの悪女共と一緒にしたんだぞ!謝れよ!今すぐ地面に頭を付けてルリに謝りやがれ!!」
『あ、悪女!?』
失礼な……私はまだこの世界に来てからは、それほど迷惑はかけていないはずです。
やったのと言えば、ロープでダクネスを縛ってカエル釣りに出ただけです。あれはダクネスも喜んでましたし文句を言われる筋合いはありません。
途中で出会った冒険者には驚かれましたが……
それはそれとして、ルリはアクアに安静を言いつけられ、暇を持て余していたカズマにそんな事をやっていたのですか。
私もその店を教えてもらおうと思って彼女の方に振り向くと、そこには冒険者達からの視線を受けてルリが恥ずかしそうに顔を真っ赤に染めていました。
顔を俯かせて、もじもじと身体を動かす様はとても可愛らしく、もし此処が人目のつかない場所であったならルリをお家にお持ち帰りしていたかもしれません。
まあ、腕力的に私が逆に掴まる未来しか想像できませんが……
その後、私は暫くの間、恥ずかしそうなルリの姿を見て和んでいると、カズマの叫び声が聞こえてきたのでそちらに振り向きます。
「これでルリの事は良いとして、お前は俺に苦労知らずとかいったよな!俺が苦労知らずだと!!どれだけ俺が苦労してないか教えてやるから、一回俺のパーティに入って来い!その後に楽だったなんて言えたら何でも言う事を聞いてやるよ!!」
そこでは、膝立ちしているチンピラAの胸ぐらをカズマが掴みあげていました。
あのチンピラAの格好を見るに土下座をしてルリに謝ったみたいですね……ルリの事ばかりを見ていたので気づきませんでしたよ。
「いいのか?俺は代わったままの方が言いとか駄々を捏ねるぞ。それでも本当にいいのか?」
「良いって言ってるだろ。そして依頼から返ってきたお前の姿を予言してやる。お前は一文なしになって元のパーティに帰してくれと俺にせがむ事になる、よく覚えておけよ」
この後、チンピラAは自分が所属しているパーティに確認を取って、メンバーから許可をもらったため、カズマと今日一日の限定で交代する事になりました。
「俺はダストだ。今日一日だけこのパーティで厄介になるんだが……リーダーは誰なんだ?」
「何時もはカズマ……貴方と交代した男がやってますね。ですから今日一日限定のリーダーを決めた方が良いのですが……ってなんでそんなに驚いているのですか?」
なぜチンピラA改めダストは鳩が鉄砲に撃たれたみたいな表情をして固まっているのでしょう。
別にリーダーが一番に強い人じゃないと駄目だなんてルールは何処にもなかったと思いますよ。金を稼ぐ際にルールや法律に違反しないためにギルドの規約は隅から隅まで読んで丸暗記したので間違いないと思います。
暫くの間、固まっていたダストが正気を取り戻すと、私に信じられないといった感じで私に問い掛けて来ました。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。あの男はこのパーティでステータスが最弱の奴なんだよな」
「はい、そうですよ。それがどうしたんですか?そんな事よりも早くリーダーを決めましょう……と言っても私達の中ではルリ以外には出来ないんですけどね」
先日のリーダーが誰が相応しいかと起こした騒動で私達はカズマ達にメチャクチャ怒られて、リーダーには二度とならないと契約書を書かされたんですよね。
まあ、今回は借金が出来てもダストに押し付ければ良いだけなので、問題はないと思いますが……なんと言うか前回ので懲りました。あんな面倒くさい事なんてやってられません。
一応、アクア達のも確認を取りますが彼女達も私と同意見のようで、コクコクと無言で頷いています。
後はルリになるのですが、彼女はやる気があるのでしょうか?
聞いてみることにしました。
「ルリはリーダーをやりますか?」
すると、彼女は首を横に振りました。
「……私には向かない……」
確かに言われてみるとそうですね。
リーダーになったら仲間の行動を把握して的確に指示を出さなければいけないのですが、ルリの場合は口数が少ないために、十分な指示を与えられそうにありません。
しかし、これだとリーダーが決まりませんね。
私が首を捻ってどうしたものかと考えているとダストが声を掛けて来ました。
「だれもやる人がいないなら、俺がリーダーでもいいか?」
「私は別に構いませんが……皆もそれでいいですか?」
私がアクアたちに問い掛けると彼女達は頷いて承諾しました。
これで取り合えずはリーダーが決まりましたね。これで後は依頼を受けるだけですね。
私が依頼を決めるために掲示板に向かおうとすると、ダストに引き止められてしまいました。
一体何があるというのでしょう?もうこの場でやる事は終わったはずです。
私はダストに抗議の視線を向けると彼は苦笑しながらもその訳を話してくれました。
「まだ自己紹介をしてないだろ?まずはそれをしてから依頼を決めようぜ」
そういえばそうでしたね。
この男の名前を聞いただけで、私達は何もダストに伝えていませんでした。
カズマを馬鹿にした件で私のダストに関する印象は最悪でしたので、できるだけ関わらないようにしていたら最低限の事まで忘れてしまいました。
彼は今日一日限りとはいえ、リーダーになるのですから、名前や能力くらは伝えないといけませんよね。
私はダストに向き直ると、自己紹介を始めました。
「私の名前はマナと言います。職業はソードマスターです。近接戦での攻撃はそれなりに出来ますので、頼りにしてくださいね」
私が愛想笑いを浮かべながらそう言いきると、仲間達も自己紹介を始めました。
「私の名前はアクア、アークプリーストよ。アンデットと回復に関しては私に任せなさい」
「最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る紅魔族随一の魔法の使い手、めぐみん!と言う訳で、ここぞと言う時はまかせてください」
「私の名前はダクネスだ。職業はクルセイダー、いざという時は我が身を盾にして守るので、安心してほしい」
「…………ルリ……アサシン……」
仲間がそれぞれ自己紹介をする中、ダストはそれは鼻の下を伸ばして眺めてました。
そういえばカズマとの口論の際に、ハーレムで羨ましいとか言ってましたね。きっと今の美女に囲まれた状態に浮かれているのでしょう。
でも原因の一つである私が言うのもあれですが、ここがカズマのハーレムだとは思えません。
だってハーレムって言ったら、女性が一人の男性を取り合おうとしたり、その男性にヒロインが気を引こうとして様々な事を手伝ってくれたり、そんな感じの事ですよね。
それに対してこのパーティでは、カズマは多大な迷惑を掛けられた上で、たまにぞんざい扱いをされますからね。
まあ、される時は大概の場合でカズマに非があるのですが……
ともかく、ダストの思い描いている事と現実は違うのですが、あえて此処では何も話さないことにしましょう。
「俺の名前はさっき言った通りダストって言う名前だ。自己紹介も終わったところだし、俺が依頼を決めて来るから皆はここで待っていてくれ」
ダストはそう言ってこの場から離れて掲示板の方に向かって行きました。
一方の残された私達は近くの空いていた椅子に座って飲み物を注文しました。折角の好意ですので甘えさせてもらいます。すると私の近くに座ったアクアは私達に手を振って招き始めました……一体何をしたいのでしょう?
取り合えず私はアクアに顔を寄せる事にしました。
「ねぇ、これってチャンスだと思わない?」
?
一体なんのチャンスなのでしょう?
私だけでなくダクネスやルリの意味が分からなかったようで、私と一緒に首を傾げています。
しかし、めぐみんにはアクアの言いたい事が通じたのかウンウンと首を振って頷いています。
「なるほど、つまりアクアはレンタルされているあの男を使って、私達がどれだけ有能なのかを見せつけてやりたいのですね」
ああ~~、そういった考えもありますね……
だぶんこのパーティだとそんな事は叶わず仕舞いだと思いますが、ダクネスはそれに共感したようで「それはいい考えだな」と言って頷いています。
「だったらこんな所でぼさっとしてられないわ。今すぐダストとか言う男のところに言って、難しい依頼を受けるように言ってきましょう」
そう言って椅子からアクアは立ち上がるとダストが突っ立っている掲示板の方に向かって行きました。
それを見ためぐみんとダクネスが慌ててそれに続きます。
その一方で私はウェイトレスから頼んでいた飲み物を受け取って、それを口に入れました。
すると、アクア達には付いていかなかったルリが私に話しかけて来ました。
「……止めないの?」
「止めるって何をですか?アクアたちがやる気になっているのですから良いじゃありませんか。別に実害は出ないと思いますよ」
実害は出ない……そんな心にも思っていない事を私は口に出しました。
だって、アクア達は普段ですら多大な迷惑を掛ける存在なのですよ。それがやる気になって積極的に動き始める……
その先にあるのは、何時もとは比べ物にならないくらいのトラブルを引き起こすアクア達の姿でしょう。
もちろん私でも簡単に想像できる、この程度の事を思いつかないほどルリは馬鹿ではありません。言った事をそのまま信じ込む駄女神とは頭の出来が違うので、すぐにこの事実に気がつくでしょう。
実際にすでに気が付いたのか、「アクア達を止めよう」といった顔をして私を見つめています。
もうこうなったら仕方がありません。私の本当の目的をルリだけに特別に教えてあげる事にしましょう。
たぶんですがルリなら乗ってくれると思います。
「ルリ、貴方が気合を入れたアクア達が何時も以上の騒動を起こすのではないかと心配している気持ちはわかります。でもそれだからいいんじゃなんですか…………カズマに一方的に難癖をつけた男ですよ。痛い目にあわせてやりたいと思うじゃないですか」
私の真意を聞いたルリはその答えに少し戸惑った後、非常に葛藤しながらも首を振って頷いてくれました。
やはり彼女もダストのカズマに対して言った数々の暴言に腹を立てていたようですね。
ともかく、これでルリの説得も終わったので、私は暫く何もする事はありません。素直にダスト達が依頼を決めて掲示板の方から戻ってくるのを待っていることにしましょう。
私が飲み物を飲んでのんびりとしている時でした。
「……マナ……カズマの事……好きなの?」
「ぶぅぅううっ!!」
ル、ルルルリはいきなり何を言い出すのですか!?
言ったことがあまりにも予想外すぎます!思わず口に入れていた分を全て吐き出してしまったじゃないですか!!私がカズマの事が好き……そんな事を彼女は一体なにを見て思ったのですか!?
正直、今すぐにでもルリにこの事を問い詰めたかったのですが、今の私は冷静ではありません。そんな時に問い詰めても下手をすれば墓穴を掘ってしまいます。
とりあえず、私は口から出した飲み物を裾で拭おうとすると、ルリがハンカチを手渡してきました。私はルリの好意に甘える事にして、彼女からハンカチを受け取って口元を拭きます。そしてその間にルリは、私がテーブルの上に吐き出してしまった飲み物を何処からか取り出した雑巾を使って拭いてました。
ふむ、口元を拭いている間にだいぶ冷えてきましたね、これなら問い詰められそうです。
「なんで、そんな事を聞いてくるのですか?私がカズマに何かしましたか?」
「……カズマの事で腹を立てた……だから好きなのかと思った……」
いくらなんでもそれは結論付けるのは早すぎると思います。
別に好きな人でなくても親友が理不尽に貶されたりすれば誰でも腹が立つと思いますよ。
ともかく私の答えは早く言わないとルリにあらぬ誤解を与えそうなので早めに答えることにしましょう。
「ルリ……それは違いますよ。私とカズマの関係はただのとは少し違う気もしますが親友の範疇です。私はカズマの事が好きではありませんよ」
「……でも冬将軍……あれにカズマが殺された時……マナが一番酷い顔をしてた……」
ほ、本当によく見ていますね。
確かにカズマが冬将軍に殺された時は頭が真っ白になって、どうすればいいのか全く思いつかない状態になりました。
直接見たためかそのショックは地球にいた時に感じたものとは比べ物にならないくらいでした。でもあれはカズマの死に方があまりにも情けなかったのが、ショックをそれほど感じなかった要因の一つになっているとは思いますが……
ともかく、ルリに言われたことは事実ですね……でもそれはカズマとの付き合いがアクア達より長かっただけだと思います。ですので私は、彼に特別な感情を抱いているわけではありません。
私はそう伝えようとすると、ルリは私の事を真っ直ぐ見つめてきます。その目は「嘘を付かないで」と言いたそうな目をしています。
ううう、そんな目で見つめられたら嘘を付く事が出来ないじゃないですか……しかたがありません。もう正直な事を話すとしましょう。
「正直にいいますとね。あまりよく分からないんです。カズマと一緒に居ると楽しいと思えますし、離れたくないとも思います。でもそれが好意なのかよく分からなくて…………私は昔からお金の事を第一に生きてきましたから、こういった事はよく分からないんですよ」
カズマと一緒にいて楽しい……それは地球に居た時から感じていた感情でした。だから私は高校の時に引きこもりになったカズマの元に行って一緒に遊んでいたりもしました。私はこの感情を友人関係の延長線上だと思っており、今もその考えが正しいのだと思います。
でもカズマと一緒に居たいと思う感情、これはこの世界に来てから……正確には地球でカズマが居なくなったと思ってから芽生えました。
カズマがどこか私の知らない場所に行ってしまうと思うと心臓が引き締められた様になってしまうこの感情、これはカズマの事が好きだからなのかそれとも友人を一度失ったと思ったからなのか私でもよく分かりません。
「……変な事を聞いてごめん……それと」
私の答えを聞いたルリは一度私に頭を下げて謝りました。
そして頭を上げた彼女は笑顔を浮かべ……
「……この世界でずっと一緒……それだといいね……」
私はルリの返事に頷きました。
この感情が好きだからなのか友人としてなのかはよく分かりません。でもカズマと離れたくない……これだけは心の底から言う事ができます。
「ふむ……やっぱりこうなりましたね……」
「……想像通り……」
私とルリの二人は真っ平な平原に出来た直径二十メートル強のクレーターを眺めながらそんな事を呟いていました。
なぜこんなクレーターで出来たのかと言うと、私達はダストが決めたゴブリン退治の依頼(アクア達は渋ってましたが、ダストがこれ以上は自分に荷が重いと説得しました)を受ける事になりました。
そこまでは良かったのですが、ゴブリンが生息している場所に向かう途中でダストがめぐみんにどんな魔法を使えるのかを聞いて、彼女が爆裂魔法を使えると答えるとダストが誉めてしまったんですよね。
それで調子に乗っためぐみんが、我が力をみせてやろうと言って平原に爆裂魔法をぶちかましたために、こうしてクレーターが出来上がってしまったのです。
おそらくですが、彼女なりに自分の力を見せつけようと考えてやった事なんでしょうが…………こんなに早くお荷物になってどうするんですか?
まあ、それを止めなかった私やルリにも責任はあるとは思いますがね。
「おおっ!!凄い威力じゃないか!これならどんなモンスターでも倒せるんじゃないか!?」
これがたった一発限りの魔法だと知らないダストは興奮していますね。
私やカズマもこれを最初に見たときは彼女が仲間になってくれた事を心強く思いましたね……その数秒後に裏切られる形となりましたが。
おそらく彼も同じ道をたどる事になるだろうな、なんてぼんやりと考えていると、ルリが焦ったように私の袖を握りました。
「マズイ……此処から逃げた方がいい……」
「逃げるって……一体なにからですか?」
私がルリの慌てている理由が分からずに首を傾げていると彼女は山がある方角を指差しました。
彼女の示す指の先を目を凝らして見ると、そこには虎のような外見をした黒い毛皮を持つ生き物がこちらに向かって走っているのが見えました。
ルリが逃げようと言っていることからかなり強いモンスターなのでしょうが……どれくらい強いんでしょう。
「えっと……あれはなんなんですか?」
「……初心者殺し……相当ヤバイ……戦ったらダストとめぐみんは確実に死ぬ……」
そ、それはやばそうですね……
そんな相手ならとっとと逃げるに限りますね。早くこれをダストに伝えて逃げる事にしましょう。
私は未だにめぐみんの爆裂魔法の威力に興奮しているダストの元に駆け寄り、初心者殺しが近づいている事を伝えようとします。
「ダスト!興奮しているところに悪いですが初心者殺しが近づいているみたいです。早くこの場から逃げる事にしましょう」
「初心者殺しだって……そんな相手、逃げる必要なんてないんじゃねぇか?此処にはあの魔法を……」
初心者殺しをめぐみんの爆裂魔法で倒す事を考えていたのでしょうね。
めぐみんの魔法の使用を指示しようと彼女の居る方に振り返ったダストはめぐみんの仰向けに倒れている姿を見て固まってしまいました。
初心者殺しも徐々に近づいているので早く正気に戻って欲しいんですけど……
まあ、暫くは戻らないだろうと思った私はダストを放って置くことにして、めぐみんの元に駆け寄ると素早く彼女を背負いました。これで後はダストが正気に戻れば直ぐにでも逃げ出せるでしょう。
「お、おい、ちょっと待てよ!なんでそいつは倒れてるんだ!?まだ一回しか魔法を使ってないだろ!!」
「爆裂魔法はかなりの魔力を使うので、どんな魔法使いでも一発しか使えない魔法だそうですよ。知らなかったのですか?」
「じゃあ……あの子はもう魔法が使えないのか?」
「はい」
私が笑顔を浮かべてそう言い切ると、ダストは再び固まってしまいました。
この男は先ほどから何回も固まっていますが、固まる事が趣味なのでしょうか?
こんな事をしているうちにも初心者殺しはこちらに近づいているのですが…………もういっその事、この男をこのまま放置して囮として使いましょうか。
私がそんな邪悪な考えを実行するか悩んでいると、正気を取り戻したダストがこちらに大声で叫んで着ました。
「なんでそんな魔法を使ってるんだよ!他の魔法を使えばいいだろ!ギルドの噂で聞いた頭のおかしな爆裂娘ってお前の事だったのかよ!」
「しょうがないじゃありませんか、私は爆裂魔法しか使えないのですよ。それと一つ聞きたいのですが、その噂を流したのは誰ですか?ちょっとその人に私がどれだけ頭がおかしいのか、その身をもって実感させてやるので教えてください」
めぐみんは爆裂魔法しか使えないと聞いた瞬間にダストは倒れこみました。
うん、よほどショックだったみたいですね。
でもこの男が何度もショックを受けている所為で、すでにかなりの時間を浪費しています。これ以上構っている時間はありません。
いざとなったら先ほど考えた事を実行に移すつもりで仲間に呼びかけようとした際に、私は自分のしでかした致命的なミスに気づきました。
そのミスとは、かなり強いモンスターである初心者殺しが近づいていることを、声を上げて言ってしまった事です。私はあの時、ダストの耳元で呟いて知らせるべきでした。だってそうしないと彼女の耳に……
私はこの場からいつの間にかいなくなっている仲間を探そうと、初心者殺しが向かってきている方向に目を向けます。するとそこには……ダクネスが初心者殺しの方に向かって走っていました……
うん、予想通りの光景ですね。
「お、おい!?なんで彼女は初心者殺しの方に向かってるんだ!?一人じゃなくて皆で戦えばいいんじゃないのか!?」
「それは、彼女がモンスターに虐められるのが大好きだからですよ。まあ、防御力は高いので大きな怪我はしないと思いますよ。ただし攻撃を当てられないので倒せもしませんが」
なにせ魔王軍の幹部の攻撃でも鎧の破損だけですんだのですからね。
初心者殺しの名前からすると、たぶん中級ほどの冒険者なら相手をしても問題ないのでしょう。それなら鎧を着てないとはいえダクネスが大怪我をする心配はありませんね。
暫く時間が経てば、ダクネスの硬さに初心者殺しが諦めるだろうと、静観を決め込もうとした時でした。アクアが急に初心者殺しの方に片足を踏み出したのです。
凄くいやな予感がするのですが……一応アクアの考えを聞いて見ましょう。
「アクア……一体何をする気なのですか?」
「初心者殺しをぶっ飛ばしに行くに決まってるじゃない。ゴブリンなんかじゃ私の有り難さをカズマに知らしめるには役不足だと思っていたところなのよ。あれならちょうどいいわ。私の力をその目に焼き付けなさい!」
「ちょ、アクア!?」
私の静止の声も聞かずにアクアはダクネスとじゃれている(ダクネスが喜悦の表情でいるのでこの表現が正しいと思います)初心者殺しの方に向かっていきます。
そして、初心者殺しの目と鼻の先まで近づいたアクアは拳を握り締めます。
「ゴッドブローッ!」
アクアの拳が初心者殺しの身体にめり込み、初心者殺しは大きく吹き飛ばされました。
厄介ごとを増やすだけになると思ったのですが、今回は例外なのでしょうか?でもまだ第六感的なものが油断するなと訴えてきているのですが……
「まずいですね」
「やっぱりまずいのですか?」
私に背負われているめぐみんがぼそっと呟いた言葉に反応した私は彼女に問い掛けます。
するとめぐみんは私の第六感が正しかったと証明するかのように答えました。
「初心者殺しは分厚い毛皮に邪魔をされて、カエルほどではないのですが打撃が効きにくいのですよ」
私は確信めいたものを感じながらも、めぐみんの答えを聞くために彼女に方に向けていた首をゆっくりとアクアの方に戻します。
するとそこには、ガルルルっと怒っている初心者殺しに睨み付けられているアクアの姿が……
「ねぇ、よく見てみると、その大きな牙ってかっこいいと思うの」
そんな泣き言を言い始めたアクアに、初心者殺しは容赦なく襲い掛かりました。
「痛い!痛いんですけど!!なんでこいつは私を食いついてはなさいの!?ダクネスを食いついた時は硬くて直ぐに諦めたじゃない!なんで私だけこんなに噛みつかれなきゃいけないの!?」
「ずるい!羨ましいぞアクア!!なんでアクアにだけそんなに食いつくのだ!?噛み切れないのは私も同じだろ!アクアだけでなく私にも噛め!不平等だぞ!!」
はぁ…………
今までの付き合いで慣れてきたつもりでしたが、その私でもこの現状には頭を抱えたくなって来ましたよ。いろいろ突っ込むところが多すぎて……いつもならカズマが大概の事に突っ込んでくれるのですが、今はいませんからね。
さすがの私でも、カズマがいない弊害がこんな所に出るとは思いませんでしたよ。
とりあえず、私は膝を抱えて一体俺は何処で間違ったんだと、後悔を始めているダストの肩にやさしく手を掛けました。
「頑張ってこれをどうにしてください」
「なんで俺なんだ!?付き合いの長いあんたたちの方がどうすればいいのかを知ってるだろ!?」
「私には無理ですよ。何時もは収集がつかなくなった際はカズマがルリと協力してどうにかしています。貴方はカズマの代わりに入っていたのでしょう?だったら貴方がどうにかしてくださいよ」
私はそう言うとダストの顔が徐々に青くなっていきます。
自分が貶した存在が日頃どんな苦労をしているか、ようやく理解できたようですね。
「そうだ、ルリはこれにどうにかできるんだよな……あれ?一体どこにいったんだ?」
ダストが首を回してルリを探しているようですが、彼女を見つけられないようですね。
私も一応辺りを見渡して何処に居るか確認をしますが、見つけることは一向にできません。ここまでして見つからないと言う事は隠密スキルを使って居るのでしょうが……一体どんな理由なんでしょう?
初心者殺しの意識はアクアに向いているのですから怖くなったというのは考えられませんし………………あっ!!なるほどそういった理由なのですか。
一応この男ににも伝えておきましょう。
「どうやらカズマの事を馬鹿にした貴方の指示を聞きたくないみたいです。まあ、あれだけカズマの事を貶したのです。一人で出来ますよね」
その言葉を聞いたダストは瞳に涙をにじませ始めています。
無理だと首を振っていますが、あれだけの大口を叩いたのはこの男なのです。はっきり言うと自業自得だと思います。
「だったらお前が俺に手を貸してくれ!お願いだ!!」
「別に良いですけど、その場合は有り金を全てと、今後半年間、貴方が受け取る報酬の八割を貰いますよ」
「へ?」
「なに変な顔をしているのですか?当たり前の事でしょう。カズマでも余計な事を私にさせるときはお金を払ってもらっているのですよ。今回の依頼はゴブリン退治……初心者殺しは依頼とは一切関係がないじゃないですか」
最も、カズマは親友なので、親友割引として格安でやってますし、最近は莫大な借金を背負っているのでほぼ無料で行なったりもしてますけどね。
しかし、目の前に居る男は私の友達とかではないですし、カズマを馬鹿にした男です。容赦する必要はありません。
私の返事を聞いたダストは暫くの間、考え込んでいましたが、決心を決めたようで財布の中身を全て私に手渡した後、即席の契約書のサインをしてくれました。後で契約書は受付のお姉さんにでも渡すとしましょう。
それにしても、こんなに早く同意してくれるとは……悩んでいる際に耳元で「このままだと最弱冒険者以下って噂が流れますよ」と言い続けたのが効いたみたいですね。
私がお金を受け取って上機嫌でいると背負っているめぐみんの呟きが聞こえました。
「さすがマナ……お金のことになるとカズマ以上に容赦がないですね」
「失礼な、さすがの私でもカズマのいない時はある程度の自重はしますよ」
カズマは私が面倒ごとを起こしても泣き付けば最終的には「しょうがねぇな」などと言いながら大概の事はどうにかしてくれます。だからカズマの居る時だけ羽目を外すようにしてるのですが……
もしかしてカズマが居たから、私はこんな性格になってしまったのではないのでしょうか?
直接こんな事をカズマに言ったらどんな目に会わされるか想像もできないので、この考えは胸の中にしまっておきましょう。
ともかく、未だにアクアの頭に噛み付いている初心者殺しをどうにかしないといけませんね。
「ルリ!!聞こえているのでしょう!出てきてください!」
すると私の目の前にルリが姿を表しました。
私はルリの耳元でこの状況を打破するための作戦を伝えます。
先ほどダストには、手を貸すような事を言いましたが、この作戦に必要なのはルリだけで他に人手はいりません。私は何もしないのにお金をむしり取ったかのように少しだけ感じてしまいましたが、私が動かなければルリは出て来なかったと自分に言い聞かせることにしました。
ともかく、私がルリに作戦を伝えると、ルリに後ずさりされました。
その反応は止めてください。これを考えたのはカズマです。
私が先日カズマに、もしカズマと離れた際にどうやって厄介ごとを解決したらいいのかを聞いて、それをそのまま言っているだけにすぎません。
ともかく、作戦を聞いたルリは暫く悩んでいましたが、作戦に従うことにしたようで姿を消しました。
「一体どんな事を話したのですか?」
「カズマに直伝された作戦ですよ。これで確実に初心者殺しをどうにかできると思いますよ」
「なんでしょう……それなら一安心だと言う気持ちがある一方で、嫌な予感がして汗が止まりません。こんな感覚は初めてですよ」
まあ、カズマの考えつく作戦は人としての倫理やプライドなどを明後日の方向に投げ捨ててますからね。本当に人が考えついたのか思うような作戦ばかりです。
あの男の頭の中がどうなっているのか、少し興味がありますよ。
「……『バインド』……」
私とめぐみんが、ルリが行動に移すのは何時かと待ち構えていると、虚空から急に現れたロープがアクアに絡みつきました。そしてそのロープの先にいるルリがロープを引っ張って、初心者殺しからアクアの距離を離すことに成功しました。
でも初心者殺しはアクアの事をまだ諦めていないようで……今にも飛び掛かりそうな状態ですね。
「ル、ルリ!?あ、ありがと……」
きっとルリに感謝の言葉を言おうとしたのでしょう。
しかしルリはそれに気にも留めず……いや、かなり申し訳なさそうな顔をしてますね。まあ、これからアクアの身に起こる事を考えると必然でしょう。
ともかく、ルリは手ぬぐいでアクアの口を縛り、彼女が一切言葉を話せないようにします。これでアクアの『バインド』のようなスキルを解くスキルは使えなくなったはずです。
後はやる事は一つだけですね。
「ルリ!私達は先に街に帰っているので、初心者殺しを撒いたら冒険者ギルドで会いましょう!!」
それを聞いたルリは手を上げて返事をした後に、アクアを縛っているロープを持ったまま全力で走ります。ロープに縛られたアクアは勿論引きずられる事となり、そのアクアを目掛けて初心者殺しも必死で追いかけます。
「マナ……その……カズマの作戦と言うのはもしかして……」
「ええ、そうですよ。仲間を餌に使って強いモンスターを引き離すといった作戦です」
「やっぱりあの男は最低です!!」
それについては同感ですね。
でもこの作戦は本来は餌になるのはアクアではなくダクネスだったんですよね。
なにせこの作戦は、ダクネスが強いモンスターに一人で突っ込んでいた時を想定して作られているのですから当然といえば当然なのですが。今回はモンスターがアクアを標的にしていたためアクアに変更しましたが……そのためか多少の罪悪感がありますよ。
今のアクアの現状の見て、頬を赤く染めて「ずるい」などと言っているダクネスなら罪悪感など抱かずにいられるのでしょうがね。
「ともかく、これで初心者殺しは大丈夫でしょうから、街に帰ることにしましょう」
「ひっぐ……ぐっす……」
「……ごめん……ごめんね……」
冒険者ギルドの一角、そこでは泣いているアクアをルリが謝りながらも慰めている光景が目に入りました。
あの後、初心者殺しを十分に引き離したルリは隠密スキルを使って、初心者殺しを撒く事には成功したようなのですが…………アクアがあの通りで一向に泣き止む気配を見せません。
ルリに聞いた話では、あの後かなりの速さで走ったので、初心者殺しに噛まれはしなかったようなのですが……それでもトラウマになってしまったようですね。
「……ごめん……本当にごめんね……」
「ぐっす……いいのよ……ルリはいいの……ひっぐ……あの時はああするしかなかったし……でも初心者殺しが……初心者殺しがね……あぐっ……よだれを垂らし私を餌を見る目で……うわぁぁぁぁああああ!!」
作戦を指示した者として心が押しつぶされそうですよ。
仕方がありません。ここはいつものやつを使って罪悪感を和らげましょう。
これは考えたカズマが悪い、カズマが悪い、カズマが悪い、カズマが悪い、カズマが悪い、カズマが悪い、カズマが悪い、カズマが悪い、カズマが悪い…………
うん、罪悪感がなくなって来ました。こんな事で和らげることが出来るだなんて人間は不思議な生き物ですよね。
それにしてもカズマはまだ帰ってこないんですかね。もう日が沈んで夜中になってますよ。
一体どこで道草を食っているのかと私が思っていると、ちょうどギルドの扉が開かれ、そこにはダストの仲間達とカズマの姿が見えました。
カズマはこちらの惨状を見て大体の事を把握したようで、有り金を全て私に取られて落ち込んでいるダストの肩を優しく叩きました。
「なにか俺に言う事はあるか?」
「調子に乗って、本当にすいませんでしたぁぁぁぁああああ!!」
ダストが心の底からの謝罪と共に土下座をカズマにしました。