この守銭奴に祝福を!   作:駄文帝

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この迷宮の主に安らぎを

カズマside

 

「なぁ、ルリ。待ち合わせはここで合ってるのか?」

 

「……間違ってない……ここは彼女の行きつけの店……」

 

現在、俺はルリと一緒にアクセルの街の外れにある喫茶店にいた。

 

こんな場所にいるのには勿論理由があって、俺に盗賊スキルを教えてくれた人であるクリスと会うためだ。

最初は、冒険者ギルドに居れば会えるだろうと思っていたのだが、二日経っても彼女は冒険者ギルドに現れることがなかった。

俺はクリスの親友であるルリに、連絡を取れないかと頼んでみたところ、すぐに連絡が付いたらしく、今日の昼頃に此処で待ち合わせる約束をしたらしい。

 

しかし、約束の時間はすでに三十分ほどすぎているため、俺はルリが待ち合わせる場所を間違えたのではいかと考えわけだが……

 

「……彼女……最近忙しいらしい……今回の待ち合わせ……彼女にかなり無理を言った……」

 

「忙しいって、一体なにが……」

 

「遅くなってごめん!!ついさっきまでやってた用事に予想外に時間を取られてね。二人とも待たせちゃったかな?」

 

俺がルリに、クリスが忙しい理由を聞こうとした時だった、喫茶店の扉を勢いよく開ける音と共に目的の人物であるクリスの声が聞こえてきたのだ。

その方向を見れば、そこには汗を流し息を整えているクリスの姿があった。どうやら此処まで相当急いで来たらしい。

 

「……別に気にしてない……」

 

「俺も別に気にしていないな。急用が出来て時間に遅れるくらい誰にでもあるだろ。それに、うちのメンバーが起こす面倒に比べたら、これくらいはどうってことないしな」

 

俺たちがそう言うと、息を整えたクリスが俺たちの座っている椅子のテーブルの向かい側にある椅子に座った。

 

「それで、ルリから私に会いたがっているって聞いたけど、一体なんの用があるのかな?」

 

「それなんだが、盗賊のスキルに罠の解除や察知があるって話してただろ、それを教えてもらおうと思ってな」

 

「別にそれくらいならいいけど……一体何をするつもりなの?」

 

教わる意味が分からないと首を傾げるクリス。

彼女が首を傾げる理由も分からなくはない。なにせ今言ったスキルは、普通のモンスター相手に戦ったりするのなら必要ないスキルだからだ。

このスキルが必要となるのは、罠を作るだけの知能を持った相手……人や亜人などの賞金首を相手にする場合ともう一つの場合だけと言っても過言ではないスキルだ。

そして俺はそのもう一つの場合を想定している。

 

「ダンジョンに一人で潜ろうと思ってな」

 

「~~~~~~!?」

 

俺の隣で水を飲んでいたルリはもの凄く驚いたようで、驚いた拍子に気管に入ってしまった水を出そうとげっほげっほとむせている。

一方のクリスの方も驚いた表情のまま固まってしまっている。

 

二人ともそんな反応をしないでくれ、この世界に常識のない俺でもたった一人でダンジョンに潜るのがいかに危険かは想像出来る。だから色々と考えたうえでこの計画を立てているわけだ。

 

しかし俺が自分の考えを話すよりも早く、クリスが焦ったように俺に問いかけてきた。

 

「ちょ、ちょっとキミ、本気で言ってるの!?あの時入ったダンジョンは例外中の例外で本当はすごく危険な場所なんだよ!それでも危険な目にあったのに一人でいくだなんて……」

 

「流石に、ダンジョンマスターを倒すだなんて無謀な真似はしないさ。狙うのは別のやつだ。この前、クリスに潜伏スキルと敵感知スキルを教えてもらっただろ。それを使って上手く敵を避けようと思ってるんだ……出来ないことはないだろ?」

 

「た、たしかそれは出来るかも知れないけど……」

 

クリスが言い淀む理由は大体だが察しがつく。

 

まず一つとしては潜伏スキルが視覚にしか効果がない事だ。上位の存在である隠密スキルはある程度までなら匂いや音も阻害してくれるらしいのだが、潜伏スキルが阻害してくれるのは視覚のみで匂いや音に頼るモンスターにはあまり意味をなさないらしい。

 

そして二つ目としては、視界の確保の問題がある。先日行ったダンジョンは光る不思議な苔が生えていたために気にしなくてよかったが、本来のダンジョンともなれば真っ暗になる。そうなれば松明などを使って明かりを灯すしかないのだが……そうしてしまえば目立ってしまい潜伏スキルを使うのは不可能になってしまう。

 

しかし俺は、この二つの問題を解決したからこそ、こんなことを考えてるのだ。

 

「アーチャーのキールから『千里眼』って言う、暗闇でも見通せるようになるスキルを教えてもらったんだ。これなら真っ暗な洞窟の中でも松明とかの明かりを頼らずに見渡せるようになる。それに匂いを消すポーションを売ってるみたいだから、それを使って匂いを消せば匂いの方はどうにかなるだろ。これらを使って、ダンジョンに隠されているお宝だけを狙ってみようと思ってるんだが……やっぱり無理か?」

 

俺の答えを聞いたクリスは頭を抱えて悩み始めた。

彼女がかなり悩みこんでいる事を踏まえると俺の答えはかなりいい線までいっているのだろう。

 

俺がクリスの答えを待っていると、ルリが不安そうな表情で袖を掴んできた。俺がまた死なないか心配しているのだろう。

そんな表情でこちらを見られると決意が揺らいでしまう……

 

俺とルリが暫くの間、無言で見詰め合っていると、考えを纏めたのかクリスの声が聞こえてきた。

 

「たぶんそれなら大丈夫だと思うけど……やっぱり心配だな……一人じゃなくてルリも連れて行ったら?彼女、潜伏スキルが効かないゴーレムやアンデットなら攻撃できるし、攻撃さえすればかなり強いほうなんだよ」

 

ルリと二人でか……

 

正直、その考えはクリスに話す前に何度も考えたことはあった。

でも、お宝狙いとはいえ危険がある事には変わりない。うちの貧乏神なら別になんとも思わないのだがパーティ内唯一の常識人であり、メンバーの起こしたトラブルの解決を手伝っているルリをそんな事に巻き込むのは忍びない。

だから、ルリと一緒に行く事は諦めていたのだが……

 

「隠れるなら潜伏よりも隠密スキルの方がいいし、一人でダンジョンなんかに行って怪我をしたらそれだけで命に関わる事もあるんだよ。最低でも二人……出来ればその目的でも三~四人くらいは連れて行ったほうがいいよ」

 

やっぱり一人は危険なのか……

でも借金は早く返したいんだよな。儲けの良かった雪精は比較的安全な場所に居た奴は狩りつくされたみたいで、今は冬将軍のような危険なモンスターが居る場所まで行かないといけないらしい。

だから、手っ取り早くお金を稼げる手段として考えたんだが……

 

俺がダンジョンに潜るかどうかを悩んでいると、ルリが声を掛けてきた。

 

「……私の事なら心配しなくていい……それに借金の原因……私にもある……」

 

「でも……本当にいいのか?」

 

「……また死ぬか心配……だから着いて行く……」

 

そう言って笑みを浮かべるルリ……

 

なんていうか……もうあいつらのポンコツぶりを直せなんて言わない。

だから、ほんの少しでもいいからルリのような優しさを持ってくれと願わざるを得ない……これって贅沢な願いなのかな……

 

毎日のように、アクアの起こしたトラブルで頭を下げ、めぐみんの爆裂魔法のクレームの処理をして、ダクネスがモンスターに突っ込んでいくのを止めて、マナの起こした金銭トラブルで被害を被った人に頭を下げ…………これに耐え切れなくなって、性格だけでも変えて欲しいって思う俺は傲慢な人間なのかな……

 

「?……また頭を撫でて……どうしたの?」

 

「ね……なんか遠い目をしてるけど大丈夫?やる事をやり切った老人のような顔になってるよ……」

 

いけない、話が脱線してしまった。早く本題に戻すとしよう。

 

「ルリが着いてきてくれるなら二人で行く事にするよ。それでさっき言ったスキルを教えて欲しいんだが」

 

「わかったよ。本当は心配だから私もついていきたいんだけどね……ちょっと急ぎの用事があるんだ」

 

そう言って、手を合わせて頭を下げるクリス。

そういえば、クリスは最近忙しくて今回の待ち合わせはかなり無理を言って時間を作ってもらったって、ルリがさっき言っていたよな。

だぶん今回、待ち合わせに遅れたのもその急用の所為だろうし……一体なんでそんな用事が出来たんだろう。

 

「急用って一体なにがあったんだ?」

 

「それがね。昔世話になった先輩……あっ、ルリとは別の人だよ。その人に理不尽な事を言いつけられてしまってね。その後始末をやってるんだ」

 

そう言いながら困った顔で、頬にある傷跡を掻くクリス。

理不尽な事か……クリスもクリスで苦労してるんだな……

 

「ねぇ……キミは、どうしてあたしを仲間を見るような目で見てるの?どうして優しく肩を叩くの?あたし何かやった?……ともかく、これ以上死なないように気をつけてね」

 

 

 

 

 

 

 

 

マナside

 

カズマとダストの一時的な交換から数日たったある日の事でした。

 

「明日はダンジョンに行きます」

 

ギルドの酒場で私達がくつろいでいるとカズマが急にそんなことを言い出したのです。

 

ダンジョンとはそれなりの実力を持ったモンスターなどが様々な目的のために作る場所……私のゲームなどで持っているイメージそのままの場所らしいのですが、そんな場所に行って何をするのでしょう?

私達の今のレベルでいけるダンジョンなんかは他の冒険者に宝などを取り尽くされていると聞いた事があるのですが……

 

「私は別にいいですけど……一体何をしに行くのですか?それにダンジョンのような場所だとめぐみんの爆裂魔法は使い物にならなくなりますし、ダクネスも剣の修理が終わってませんよ」

 

「その二人は、はなから戦力に数えてないから心配するな」

 

「「!?」」

 

カズマの戦力外通告に二人とも傷ついて……いや、一人は若干興奮してますね。頬を赤く染めて、若干息が荒くなっています。

とりあえず、うちの変態の事は置いておいて、めぐみんは床にしゃがみ込んで落ち込むくらいなら中級魔法でも覚えれば良いと思いますよ。

まぁ、言っても無駄だと思うので口には出しませんが。

 

「カズマ、それですと実質…………特に今までと変わりありませんでしたね」

 

「「!?」」

 

よくよく考えてみると、奥の手の爆裂魔法が使えない以外は、今までとあまり変わりありませんでした。むしろ、モンスターに独りでに突っ込んで行く変態が居ないため、今までよりも楽に事を運べるかもしれません。

 

そうとなればダンジョンに行く理由を…………なんかダクネスがさらに興奮してますね。めぐみんも涙目になってギルドの端っこでいじけてますし……ちょっと言い過ぎたかもしれませんね。

変態は半分くらいは喜んでいるので良いとして、めぐみんには後できちんと謝っておきましょう。

 

とりあえず、私がカズマにダンジョンに行く理由を尋ねようとすると、その前にアクアが話しに割り込んできました。

 

「いきなりダンジョンに行くなんて言い出してどうしたの?季節で出るモンスターが変わらないダンジョンに行ってレベル上げでもする気なの?でも、ダンジョンに行くなら盗賊が必須になるわよ」

 

「それなら、先日クリスに罠の発見と解除のスキルを教えて貰ったから問題ない。それと勘違いしているみたいだから行っておくが、別にダンジョンにモンスターを倒しに行くわけじゃないぞ」

 

だったら何をしに行くのでしょう?

私はてっきりアクアがついさっき言った、レベルを上げるためにダンジョンに行くものだと思ったのですが…………他に何か目的なんてあるのでしょうか?

 

「ダンジョンにある財宝を狙って一攫千金を狙おうと思ってな。それと一つだけ言わせて貰うがダンジョンに入るのは俺とルリの二人だけだ」

 

『?』

 

ふ、二人きりっで……これはもしかして……

 

「か、カズマ!!モテなくて寂しい気持ちをしているのは分かります!でも、ダンジョンに潜ると言う名目を使ってルリを襲おうとするのはあんまりです!!彼女まだ幼いんですよ!考えなおしてください!!」

 

「~~~~~~!?」

 

私の言った一言に、先ほどまで賑わっていたギルド内が嘘のように静まり返りました。

冒険者ギルドに居た人達は、顔を真っ赤にして動揺しているルリを一目見た後、カズマに軽蔑の入り混じった冷たい目線を向け始めます。

そして、仲間達はカズマから距離を取り始めます。

 

「ちょ、待て!!違う、違うから!そんな事考えてないから!だからそんな視線を俺に向けるな!!ただ彼女の隠密スキルを使って安全に「と言う名目ですか……さすがクズマです」やめろ!!マナ、お前の所為で誤解が広がってるだろ!!」

 

カズマの言い分を聞くものは誰一人としておらず、彼を中心として、ほとんど人の居ない円状の空間が出来上がっています。その空間内に居るのは、カズマはそんな事をしないと知っている私と、涙目になってそんな事しないよねと顔で訴えているルリだけです。

 

ちょっと、ふざけすぎましたかね……

カズマとは長い付き合いです。カズマにはそんな大それたことが出来るほどの度胸はないのは分かりきっています。先日、悪女と言われた仕返しにと思って言ったのですが……どう考えてもやりすぎました。

 

これは、早く誤解を解かないといけませんね。このままだとカズマは変態の烙印を押されてしまいます。

私がカズマの誤解を解く為に話そうとした時でした。

私とルリ以外は入ろうともしない空間に勇気ある女性が一人…………いや、違いました。己の性癖に抗えず、それにしたがってしまった変態が入って来ました。

なんと言うか……この先が簡単に予想できました……

 

「おいカズマ!!襲うのならルリではなく、ぜひこの私を……!!……んんっ!」

 

「お前は黙ってろ!この変態クルセイダー!!」

 

うちの変態は常時平常運転のようでした。

 

 

 

 

 

 

 

 

街から半日ほどかけて山へ歩き、その麓の獣道を進むと一軒のログハウスが見えてきました。

そのログハウスには『避難所』と書かれた看板がぶら下げており、その隣には洞窟の入り口のような先が見えない真っ暗な穴が山肌にありました。

 

この洞窟の入り口のような場所が今回の私達の目的のダンジョンである、キールのダンジョンといわれる場所です。このダンジョンは受付の人に聞いた話によると、昔に実在した、キールと呼ばれる魔法使いが貴族の令嬢を攫った際に立てこもるために作ったそうです。

 

今となっては、そんな事など忘れ去られ、あまり強いモンスターが出ないこともあってか、初めてダンジョンに挑む冒険者の練習台となっているそうです。

 

「それじゃあ、この先は俺とルリ、それと監視役のマナの三人で進むから、もし一日経っても帰ってこなかったら、冒険者ギルドに帰ってテイラーでも此処に呼んでくれ」

 

カズマはそう言い終えると、ポーチに入った道具の確認などのダンジョンに入る前の最終確認を行なっています。ルリもカズマと同じ事をしていますし、私は私で、音の鳴る金属製の鎧の外し方をやっています。

 

最初はカズマとルリの二人で行く事になっていたんですが、昨日の私の悪ふざけの所為で二人っきりは危険だとの声が上がりそれを取り消す事が出来なかったために、パーティ内では比較的役に立つ私が着いて行くことに成りました。

私が変な事を言わなければ、今頃はアクア達と一緒に地上で待っているだけなのでしたが……墓穴を掘りましたよ。

 

「三人とも危険があったら直ぐに帰って来てくださいよ……本当はついて行きたいのですが、ダンジョンでは私は何も役に立てませんし……」

 

「私も鎧の音が邪魔になるだけだろうからな……めぐみんの言うとおり危険があったら、すぐに引き返してくれ。特にマナが危険な事をしないか心配なのだが……」

 

ダクネスの言葉にうんうんと頷くめぐみん……

失礼な。なぜ私だけがそんな言われ方をしなければいけないのですか。ここは反論を……

 

「マナはお金の事になると常軌を逸した行動をすると言うか……お金に目がない人間ですからね」

 

「お金に眩んだ冒険者がダンジョンの罠で命を落とす……冒険者をやっていれば年に数回は聞く話だからな」

 

なんと言うか……すいませんの一言です。

めぐみんやダクネスが私を心配するのは当然の事でした。自分自身の性格を知り尽くしているからこそ、彼女たちの意見を否定する事ができませんでした。っと言うかその姿が容易に想像できました。

今回ダンジョンに入る中で、一番気をつけなくてはいけないのは、私なのかもしれません。

 

私が気を引き締めようとしていると、アクアから声が掛かりました。

 

「二人ともそんなに心配しなくてもいいわよ、この私がついて行ってあげるから、これなら三人の安全は保障されたようなものよ」

 

アクアが自信たっぷりにそう言っていますが、むしろ嫌な予感しかしません。ダクネスやめぐみんも、それを聞いてこちらにかなり不安げな視線を向け始めましたよ。

いい加減この駄女神は自分がトラブルの大元だと言う事に気づいて欲しいです。

 

「お前は来なくていい……って言うか、お前まで来る事になるとルリの隠密スキルが使えなくなるんだが」

 

そういえばルリの隠密スキルの定員は自分以外の二人まででしたね。

もしアクアがついて来る事になると、隠密を諦めて潜伏スキルを使わなくてはなりません。少しでも危険を減らす事を考えると彼女には諦めてもらったほうがいいのですが……

 

「ちょっと待って。カズマとマナは私の正体を知っているでしょ」

 

「「貧乏神か」ですか」

 

「ち、違うわよ!!せめて女神!女神をつけなさい!!」

 

正直、神と言う言葉をつけるので、私的にはかなり譲歩したつもりなのですが、アクアには不服のようです。しかたがないので今度からは借金の女神と呼ぶ事にしましょう。

 

とりあえず、アクアが女神だからと言ってそれがどうしたのでしょうか?

 

「私は仮にも女神よ。地上に来てかなり力を制限されちゃったけど今でも暗闇くらいは昼間と同じように見ることぐらいはできるわ。真っ暗なダンジョンに入るなら見える眼は多いほうがいいでしょ」

 

アクアの言っている事が本当なら頼りになりそうなのですが……なぜでしょう?

素直に頷く事ができません。何か嫌な予感がします。なにも問題を起こさないといいのですが……

 

 

 

 

 

 

 

 

ダンジョンに入ってから小一時間ほどたったところでしょうか。

今、私達は暗闇でも遠くまで見通せるカズマとアクアが先頭に立って、ダンジョンを進んでいました。人数の制限でルリの隠密スキルでなくカズマの潜伏スキルを使っていたのですが、これだと効果のないアンデットが問題となるはず……そう、問題になると思っていたのですが……

 

「『ターンアンデット』!」

 

アクアの掛け声と共に放たれた眩い光が目の前に立ち塞がるアンデットを浄化していきました。

いつもなら、アクアが何かしらの馬鹿をやらかすのですが、今日はそのような気配は全くと言っていいほどなく、先ほどから一方的にアンデットを葬っていく様は、まさに本物の女神でした。

 

「ふぅ……これで正面のアンデットは浄化したわ。後は後ろから来てるアンデットを……」

 

そう言ってアクアが後ろに振り返ったのですが、急に口篭ってしまいました。

私の振り返って後ろを見ますが、私の目では真っ暗で先を見ることが出来ません。なにが起こっているかは見当がついているのですが……一応カズマに確認を取る事にしましょう。

 

「カズマ、私の目では良く見えないのですが、一体この先に何があるのですか?」

 

「えっと……前と同じだ。胴体と首が離ればなれになったアンデットの死体の山がある」

 

やっぱりそうでしたか。

カズマはそれをやった人は言いませんでしたが、もう何回もあったことなので、誰がやった事なのかは直ぐに理解する事が出来ました。

 

「……後ろは終わった……」

 

私がこの先に有るであろう、アンデットの死体の山の事を想像していると、その光景を作り上げた人物であるルリが私達の前に姿を表しました。

 

ルリは魔王軍の幹部との戦いで言っていた通り、アンデットは例外的に攻撃できるらしくアクアが撃ち漏らしたり、処理し切れなかったアンデットを一方的に倒しまくっていました。

何時もの攻撃出来ないなんちゃってアサシンは何処に行ったのか、アンデットの首が急に飛ばされるその光景は、立派のアサシンに思えました。

 

もしかしてこのパーティ、アンデット限定なら物凄く強いのではないでしょうか?

 

「二人ともご苦労さん。凄く助かってるよ……最初に一人で挑もうとした事を考えるとゾッとするな」

 

「……どういたしまして……」

 

「どうやら、ようやくカズマが私のありがたさに気づいたようね。これからはもう少しは私に感謝することね」

 

カズマの労いの言葉を聞いた二人は、少し嬉しそうですね。

それに対して私はなにも役に立っていないような…………深く考えるのは止めましょう。自分で自分の心に傷をつけても良いことはありませんしね。これが他人による傷なら損害請求を出来るのですがね。

 

まあ、その事は置いておく事にしても、一人で挑むって……最初はルリすらも連れて行く気がなかったのですか。

いくら潜伏スキルがあるとはいえ、今までに大量のアンデットを出くわした事を考えるとかなり無謀な気がします。実際に彼も同じことを考えていたのか、少し冷や汗を流しています。

 

「それにしても、全然お宝が見つからないわね。まあ、あらかた取りつくされた後だからしょうがないけどね」

 

「別に今回はお宝を探しに来たわけじゃない。他のダンジョンで通用するか試しに来ただけだ」

 

「……今の所……他のダンジョンでもする?」

 

「正直、悩んでる……潜伏スキルは通用するみたいだがアンデットがな……マナを抜かして、ルリとアクアを連れて隠密の方を使えばいけるかも知れないが……」

 

かなり悩んでますね……

まあ、借金を返すためとはいえ、命あっての物ですからね。悩むのは当たり前の事でしょう。

でも、この真っ暗闇の中で立ち止まって考え込むの止めて欲しいので、一言だけ言っておきましょう。

 

「カズマ、悩むのは良いのですが何時までこのダンジョンに居るのですか?試すだけならもう十分だと思いますよ」

 

「ああ、悪い。それと帰るのは折角だから金目のものを見つけてからにしようと思ってな。お宝はさすがにないと思うが、ちょっとしたものなら十分可能性はあるだろ」

 

たしかに、こんなに時間をかけて一銭も手に入れられなかったと言うのはいやですね。

私はカズマの意見に頷くと、前方にある扉の前まで進みました。そこでルリやカズマが入念に罠などがないか確かめた後、カズマたちに続いて私やアクアも部屋の中に入ります。

 

「なにもねぇな」

 

「……取りつくされた後……」

 

私の視界では何も見えないのですが、カズマやアクアなどが落胆している事を踏まえると何もないのでしょうね。

それにしても本当に真っ暗ですね。二人がいなかったら松明は必須……?なんか今、四角い物体が見えたような……

 

私がその場所を目を凝らして見ると、そこには宝箱が……

 

「宝箱!宝箱がありますよ!!これでお金がかなり手に入りますよ!!」

 

私はそれを見つけて瞬間、大声で叫びながら宝箱に駆け寄ります。

かなりの大きさがある宝箱なので、中身もかなり期待できますね。もしかしたらこれ一つで借金の返済が終わるなんて事も……

私が期待に胸を膨らませながらも宝箱に近づき、あと一歩といったところでした……

 

「おい、マナ!!この所に一つだけ宝箱が残ってるわけねぇだろ!今すぐ戻って来い!!」

 

「危険!!今すぐ離れて!!」

 

カズマもルリもどうしたのでしょう?宝箱に危険なんかあるはずないじゃないですか。

私が宝箱の中身を確かめようと一歩踏み出したその時でした…………急に回りの壁が私を囲うように盛り上がりました。

 

「へ?」

 

私があまりの事に呆然としている間に盛り上がった床が徐々に狭くなって行き私を丸呑みに……って、ぼっと突っ立っている場合じゃありません!!

私はここから抜け出すべく、盛り上がった床を登ろうとしますが、粘液で覆われておりうまく上がる事が出来ません。私が必死に上に上がろうともがいているうちに狭くなってきた床に押しつぶされれてしまいました。

 

ひぃ!!真っ暗になりました!身体中がヌメヌメした冷たくて気持ち悪いです!!

ってそんな事を考えてる場合じゃありません!

 

私は必死に上を目指そうとしますが、身動き一つ出来ません。それどころか咀嚼運動が始まった徐々に身体が下の方に……

 

もしかして、私は丸呑みにされて消化されるのですか……私が諦めかけた時でした……

 

「はあぁぁぁぁああ!!」

 

そんな声と共に、上からほんの少しだけ光が見えて来ました。

上の方に顔を向けると、そこには歯を食いしばって私を押し付けている床を離しているルリの姿が……

 

「『バインド』ッ!!……よし!これでマナの身体に巻きついた!アクアも引っ張るの手伝え!!」

 

私の身体にロープが巻きついたかと思うと、そのロープから思いっきり身体を引っ張られました。

それから、数分ほどで私は盛り上がった床から引き抜かれ、そのままカズマたちの所まで引きずられました。

 

た……助かったのですか……

あのまま、消化されずに抜け出せたのですよね……私は、一安心と安堵の息を吐いているカズマに抱きつきました。

 

「カズマ!カズマ!!ありがとうございます!!暗くて、ヌメヌメしして、身動き一つ取れなくて、凄く怖かったです!もう終わりだと思って……うわぁぁぁぁぁあああああ!!」

 

「わかった!!わかったから、泣くな!モンスターが近寄ってくるだろ!おい!聞いてるのか!!」

 

その後、カズマに抱きついた私が泣き止むのに、十分ほどの時間を要しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ううう……ヌメヌメしてて気持ち悪いです……早く地上に帰りませんか?」

 

私が襲われた生き物……名前はダンジョンもどきと言うそうなのですが、それに丸呑みにされてしまった私は全身がベトベトの粘液で覆われています。

アクアたちがカエルに食われるのを嫌がっていた理由を身に染みて実感できましたよ。こんなのが全身に付いているのなんてとてもじゃないですけど耐えられません。しかも私の場合は、今から街に帰ろうとしても半日ほどかかってしまいます。

 

でも、まだ一銭の手に入れておらず、このままでは踏んだり蹴ったりになるので、今まで我慢はしていましたがもう限界です。もしこの提案を拒絶させたら、カズマも粘液まみれにしてやります。

 

「それもそうだな。そろそろ帰らないと、地上に残っているダクネスとめぐみんが心配するだろうしな。アクアとルリはそれでいいか?」

 

「沢山のアンデットを浄化して満足したし、私は別にいいわよ。」

 

「……構わない……」

 

どうやら、地上に帰れるみたいですね。

早く銭湯に行って身体中に付いた粘液を洗い流したいですよ。

 

私がそんな事を思いながら道を振り返ろうとすると、アクアが急に壁をペタペタとさわり始めました。一見普通の壁にように見えるのですが何かあったのでしょうか?

 

「アクア?一体どうしたんですか?ただの壁にしか見えませんが……なにかあるのですか?」

 

「この先から、アンデットの臭いがしてくるのよね」

 

「?敵感知スキルには反応はないが……ルリはどうだ?」

 

「……反応はない……」

 

カズマとルリの敵感知スキルに反応しないのなら敵は居ないと思いますが……アクアは仮にも女神です。何時ものアクアなら信用はしなかったかも知れませんが、今日の活躍を見た私は少しだけ信じてみてもいいように思えてきました。

カズマに目をやると彼も同意見だったようで、暫くの間はアクアの自由にやらせる事になりました。

 

そして十分ほどたったあたりでしょうか、アクアが手探りで探っていた壁がクルリと回転して先へ続く道が出来ました。そしてその奥から声が聞こえてきました。

 

「そこにいるのは、プリーストか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隠し扉の先にはこのダンジョンの主であるキールと言う名前のリッチーが居ました。

暗くて正確には見えなかったのですが、キールはこの前墓場で会ったウィズとは違って人間の姿をしておらず、ゲームなどに良く出てくる骸骨のような姿をしていました。

 

少しの間、キールと話してみたのですが、彼はかなり良い人のようで、貴族を攫ったのは事実だそうですが、その人は虐げられていたらしく、それを彼が黙ってみている事が出来なくて彼女に自分と来ないか言ったらオッケーを貰ったらしく、それで連れ出したようです。

 

ウィズの時の事や目の前にいるキールの事を考えるとリッチーが良いモンスターだと勘違いしそうになってしまいますよ。実際はこの二人のような者が少数なのだと思いますが……

 

ともかく、今はそのリッチーはアクアの作った部屋を多い尽くすほどの巨大な魔方陣の中央に佇んでいました。なんでも攫ってきた貴族の令嬢が死んだあとは、この部屋で朽ち果てるの待っていたようですがアクアの力に反応して起きたらしく、彼女に自分を浄化してくれと頼んできたのです。

それを聞いたアクアは気合を入れているみたいで、部屋を覆い尽くすような魔方陣を作っています。

 

何時もこれぐらい気合を入れてくれたら良いのに……

 

「いや、助かるよ。アンデットが自殺なんてシュールな事はさすがに出来なかったからね」

 

確かにアンデットが自殺するのはシュールですね。

 

私がキールの意見に頷いていると、アクアが魔法の詠唱を終えたらしく魔方陣が柔らかな光に包まれていきます。

私がアクアの方を見るとそこには、今まで見た事のないくらいの優しい笑顔を浮かべるアクアの姿が…………

 

「カズマ……目が疲れたのか幻覚が見えてきました。目薬はありませんか?あったら貸してください」

 

「非常に残念だが、あれは現実だ。信じたくないのは分かるが現実逃避するな」

 

だって、あのアクアですよ。お調子者でトラブルメーカーで馬鹿なアクアですよ……

その彼女があんな表情を浮かべられるのですか?私達がこんな会話をしている最中にキールに何やら真面目な事を言ってますし……正直、顔が同じだけの別人だといった方が信じられます。

 

私達がアクアの豹変振りに困惑している中、アクアは魔法を発動させました。

 

「『セイクリッド・ターンアンデット』!」

 

アクアの掛け声と共に光は消え、その後にはなにも残っていませんでした。

アンデットのキールは勿論の事、魔方陣の中に有ったお嬢様の骨も消えていました。

 

「……帰るか」

 

カズマのその一声を聞いた後、私達はこの部屋を後にしました。

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマside

 

このダンジョンの主の浄化を終えた俺達は、地上への帰り道を歩いていた。

もう潜伏スキルなどが通用するかの実験は十分にやったし、キールにもう要らないからとタンスにしまってあった財宝を貰ったので、このダンジョンにこれ以上いる理由がなくなったからだ。

そういえば、アクアがキールを浄化する際にエリスに会うとか行ってたような……

 

「なぁ、アクア。俺が死んだ際に会った時には、エリスはモンスターとの戦いで死んだ者が担当と言っていたような気がするんだが……キールって彼女の所にいくのか?」

 

「…………あっ」

 

おい……なんだその「あっ」は……

一体何をやらかしたんだこの駄女神は、折角今日の行動で上がった株をまた下げるのか?どこかで馬鹿をやらかさないと生きていけない生き物なのか?

俺から顔を背けるな……口笛を吹くな……こうなったらしかたがない『スティール』食らわせて……

 

「話す!話すからその構えは止めて!!……落ち着いて聞いてね。まず、スケルトンのような低位のアンデットは違うんだけど、リッチーやデュラハンのような高位のアンデットは問答無用で地獄に行く事が天界の規則で決まってるのよ」

 

「なんだ。じゃあキールは今頃、地獄に行ってる可能性が高いってわけか?」

 

なんだよ、その後味の悪い話は……

アクアじゃどうする事も出来ないのはわかってるが、あんなに良い人が地獄行きってそれはないだろ。

神にとってアンデットは確かに良い存在じゃないのかも知れないが……

 

「あ~~~、でも、確かこの世界の地獄行き担当はメ、メイだったから、たぶん大丈夫よ。彼女たまに独断でアンデットの転生とかやってたし……あのアンデットの性格を考えると、メイなら転生させてあげると思うわ」

 

それなら一安心ってところか……

だがアクアの奴はどうしたんだ?メイって名前を出した瞬間に顔を青くして身体を震わせ始めたが……メイって名前の女神の何かあったのか?

この駄女神の性格を考えると、何があってもおかしくはないが……例えば、トラブルを引き起こして、それで被害の被ったメイに殺されかけたとか……

 

たぶんそんなところだろうな、っと自分を納得させているとマナが話しかけてきた。

 

「カズマ……キールからどんな財宝を貰ったのですか?見せてください」

 

「却下だ。見せようと思って、取り出した瞬間に奪って独り占めする可能性がある。お金に関してはお前は信用できないからな」

 

「失礼な。そんなことは絶対やらない……と思います、たぶん……いや、きっと…………その……」

 

自分で言いながら自信をなくしてるじゃねぇか。

しっかし、今回はアクアじゃなくて、こいつが厄介事を引き起こすとはな……いや地球に居た際もしょっちゅう迷惑を掛けられたが、起こす頻度はアクアよりは少なかったから、アクアの事ばかりを考えていた。

予想とは真逆の結果になるとは思いもしなかった。

 

今回はアクアは迷惑を掛けるどころか活躍してたし、ルリもルリで活躍してたし……ルリ?

 

「なあ、ルリの姿が見えないんだが、知っている奴はいるか?」

 

「私は知りませんが……アクアは?」

 

「私も知らないわよ」

 

まさか、迷子になったとかはないよな……

アクアならまだしも、ルリがそんな事になるはずは無いと思うが……

 

俺がそんな事を考えながら首を捻っていると、ルリが急に姿を現した……隠密スキルを使っていただけのようだ。

勝手に消えると心配するからあまりしないでほしいんだが……今度ルリに強く言い聞かせておこう。

 

「……ごめん……大きな反応が有ったから確認してた……この先から手強い敵がこっちに来てる……」

 

ダンジョンの主を倒したからと油断しすぎてたみたいだな。

おそらく、俺達の話し声に反応してこちらにやってきたのだろう。こういった話はダンジョンを出て安全な場所に行ってからするべきたっだ。

 

ともかく、敵と戦う理由はないので潜伏スキルを使ってやり過ごそうと思い、アクアやマナに視線を向けて……なんでマナはある一点をじっと見つめてるんだ……

俺がマナに視線の先を見ると、そこには宝箱のようなものが……おい、まさかこいつ……

 

「カズマ!!お宝ですよ!宝箱があります!!」

 

「おい!!どう考えてもダンジョンもどきだろ!お前は学習能力がないのか!?おい、そっちに行くな!アクアでもルリでもいいからあの馬鹿を止めろ!!」

 

「そんな事を行って私が見つけた宝を奪おうとしても無駄です。さあなにが……ふがぁ!?!?」

 

宝箱に化けたダンジョンもどきを見つけたマナはそのまま直進。アクアやルリの静止を振り切って宝箱の前に行くと、馬鹿な事を言いながらダンジョンもどきに丸呑みされ、その姿は見えなくなってしまった……

 

はぁ…………

もうあの馬鹿の事を置いていっていいかな?たぶん誰も俺を責めないと思う。

 

この短時間の間に二度失敗するなんてアクア並みの馬鹿でないと出来ないぞ。あの守銭奴はお金が絡むとアクア並みの馬鹿になるのか?

本音を言うとマナを放って帰りたいが、なんだかんだで長い付き合いだ。目の前で死なれるのも後味悪いしな……しょうがないから今回だけは助けるとしよう。

 

俺がルリに指示を出して、ダンジョンもどきの口を開かせようとした時だった。

 

「!?……マナの声に反応した……モンスターがすごい速さでコッチに向かってくる……」

 

あぁぁぁぁっ!!

なんで、厄介事が連鎖して起こるんだよ!?起きるならひとつにしろよ!マナの奴、今回はどんだけ迷惑掛けたら気が済むんだよ!!

 

ともかく、何とかしないとマズイ。マナは今もダンジョンもどきに飲み込まれたままだ。早く救出しないと奥底まで飲み込まれてしまうだろう。そうなったら助け出す事は不可能だ。

かと言って、救出をすればかなりの物音を出してしまう……隠密ならそれでも大丈夫なのだろうが潜伏スキルではモンスターをやりすごす事は不可能だ。

俺がダンジョンもどきのそばまで近寄って、ルリにくっつきながらやれば良いのだろが、ダンジョンもどきの周囲の足場はかなり不安定で、足場を安定させるスキルを持っているルリ以外が近寄れば逆に食べられかねない……

 

しかたない……非常に気は進まないが、ここは奥の手を使うことにしよう。

 

「アクア、今俺が持っているポーションなんだが、これは一時的に潜伏スキルと同じ効果を与えてくれるものらしい。俺とルリは今からマナの救出作業をやるが物音で敵にばれる可能性がある。だから、俺達の見えないところに行ってこれを使って欲しい」

 

「あら、気が利くじゃない。ありがとねカズマ。それじゃあマナを救出したらまた会いましょう」

 

俺に礼を言った後にこの場から歩いて去っていくアクア…………

そしてアクアの姿が見えなくなって、俺達がマナの救出作業に入り、ルリがダンジョンもどきの口を開けたところで彼女が俺に声を掛けてきた。

 

「……あのポーション……本当の効果はなに?……あんな便利な効果なんてない……」

 

どうやら、馬鹿な駄女神と違ってルリは俺の嘘に気づいたらしい。

まあ、普通に考えれば分かることだよな。あの馬鹿は俺を信頼してるのか、それとも疑うって言葉を知らないのか……前者だった場合は罪悪感で心が押しつぶされそうだ……

ルリが顔で答えの催促をしてるし、真実を話すことにしよう。

 

「アクアにやったポーションは有名なポーションにして、どこにでも置いておるポーションで……ダクネスが喜んで使いそうなポーションだ」

 

「……ま、まさか……」

 

「そのまさか……………………モンスター寄せのポーションだ」

 

俺の答えを聞いたルリは顔を青くして身体を震わせて……あっ、力が一瞬抜けてダンジョンもどきの口に挟まれそうになって慌てて力を入れ始めてる。

 

まあ、ルリが恐れを抱くのはしょうがないと思う。やった俺もどうかと思う作戦だし。

俺の奥の手、アクアを囮に使ってその間にマナを助け出す作戦なのだが、囮に使われたアクアは今頃モンスターに追いかけ回されているだろう。

アクアには申し訳ないが、マナを安全に助けるのにはこれしかないのは事実だ……あいつは仮にも女神、ステータスは高いし死ぬことはないだろ。たぶん……

 

「ルリ……アクアが身をもって稼いでくれている時間だ。一秒の無駄もなくマナを助ける事にしよう」

 

そう、アクアは女神なんだ。仲間のために身を挺しての時間稼ぎなんて、女神らしい行動じゃないか。きっとアクアは今頃、女神のような行動が出来て喜んでいるはずだ。

そう考えると罪悪感が少しまぎれてきた気がする。

 

「……ものは言いよう……」

 

 

 

 

 

 

 

 

「カズマ、一つ聞いてもいいですか?」

 

「なんだ?」

 

「アクアが泣いている事は予想済みだったのですが、どうしてマナまで泣いているのですか?しかも、ヌルヌルの粘液で覆われていますし……貴方は一体ダンジョンで何をやってきたのですか?」

 

めぐみんの質問を聞きながらも、マナとアクアの方向に視線を移すと彼女達は未だに泣いており、ルリはマナを、そして俺はアクアをあやしていた。

 

「ダンジョン怖い……ダンジョン怖い……ううう……もう行きたくないです……ひっぐ……」

 

マナの奴は軽く精神崩壊を起こしてるようだが、たぶん大丈夫だろ。あいつ意外と精神が図太いから明日には元どうりになっているはずだ。底なし沼にはまって泣いていた時もオオクワガタを見た瞬間泣き止んだしな。

それより問題はアクアだ……

 

「ひっぐ……ぐす……はひぃ……カズマが……カズマがね……私を……うわぁぁぁぁあああっ!!カズマの馬鹿!馬鹿!馬鹿!馬鹿ぁぁぁあああ!!」

 

さっきからこの調子で俺を力なく叩きながら泣いている。

ダンジョンから出る途中で何度も謝っているのだが、アクアは一向に俺を許してくれない。まあ、やった事を考えると当然なのかもしれないが……

 

ともかく、めぐみんにこうなった理由を伝える事にしよう。他の奴等に言わせたら変な誤解を生みかねないしな。

 

「マナの奴は、ダンジョンもどきに二度引っかかったんだよ。一応は止めようとしたんだが止められなくてな。アクアはマナが二度目に引っかかった際に近づいてくるモンスターの囮になってもらったんだよ」

 

俺が説明を終えると、二人は納得してくれたみたいだが、なぜかめぐみんは顔を青くしている。

 

「めぐみん、顔を青くしてどうしたんだ?」

 

「いえ、ダンジョンもどきに丸呑み、それも二回もされてよく生きて返ってこれたと思っただけです」

 

「あれって相当ヤバイモンスターなのか?」

 

「ああ、敵感知スキルを持った仲間さえいればまず引っかかる事はないが、一度飲み込まれればどんな怪力を持った冒険者でもその口を広げる事など出来ず、抵抗も虚しく徐々に胃袋に送り込まれるの待つしか……んんっ!!……その、飲み込まれたら終わりのモンスターだ」

 

「今、説明してる時に興奮してなかったか?」

 

「……してない」

 

嘘を言うな……俺に目を合わせろ……

たっく、この変態はモンスターに虐められる事しか頭にないのか?

失礼だが、一度精神科にでも言ったほうがいいと思う、医者があまりのダクネスの変態ぶりに逃げ出すとは思うが……

 

「もう一つ聞きたい事があるのですが、なぜアクアはカズマを非難しているのですか?カズマの言った理由ならアクアは非難しないと思いますが……」

 

「……カズマが敵から隠れるポーションをアクアに渡した……でも本当はモンスター寄せのポーション……」

 

「ちょっと待て!!真実だけど、ちょっと待て!おい、めぐみんは俺から離れるな!そして変態は俺の方に来てせがむな!!」

 

めぐみんは俺の言い分を少しは聞いてくれ!そしてダクネスは己の性癖を少しは抑えろ!

なんでこのパーティは問題児しかいないんだよ!!

 

「はぁ……まあ、そうするしかなかったのだとは思いますが、それでも酷すぎますよ。アクアが許さないのは当たり前です」

 

「いや、さすがの俺も今回はアクアに悪い事はしたとは思ってるからな。今回はアンデットを浄化したりリッチーを浄化したりで大活躍だったし」

 

「リッチー?一体お前達はこのダンジョンで何をしてきたのだ」

 

そう言って首を傾げるダクネス。

そういえば、ダンジョンであった事を詳しく話していなかったな。俺はダクネスとめぐみんにダンジョンであった出来事をかいつまんで説明した。

 

「って事があったんだ。リッチーに付き添ったお嬢様はアクアの話じゃ未練はなかったそうだが……逃亡生活はどうだったんだろうな?お嬢様は幸せでいられたんだろうか?」

 

リッチーが消える間際にお嬢様を幸せに出来たのだろうかと言っていたが、俺にはそれを答えることは出来なかった。貴族であった事を考えると逃亡生活はかなり困惑したに違いないと思う、でもそれでも幸せだったのかも知れないし、もしかしたら幸せでなかったのかもしれない。

正直、貴族と言うものが良く分からない俺には、心情を考えることなんて出来なかった。

 

しかし……

 

「……幸せだったさ。断言できる。きっとそのお嬢様は逃亡生活は人生で一番幸せだったに違いない」

 

ダクネスは、そんな意味深なことを呟きながら、少しだけ寂しげな笑みを浮かべた。

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