この守銭奴に祝福を!   作:駄文帝

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この素晴らしい店に祝福を

カズマside

 

今日の街中は雪が降り積もり、一面の真っ白な銀世界となっていた。

この世界では冬は出歩かず、家に引き篭もるのが常識のため、人どころか足跡すらあまり見かけられない状態となっていた。

そんな中、俺が出歩いているのは、ちょっとショックを受けた出来事があって、その気を紛らわすためだ。まさかアクアの知能がこれ以上、上がらないとはな……考えるだけで気が重くなるから、これ以上考えるのはやめよう……

 

それにしても、本当に誰も居ないな……日本なら雪合戦をする子供を見かけるんだがな。

まあ、ここは異世界、街から一歩出れば危険なモンスターが山の様に居る世界だ。広い土地を使って何かをするというのは、あまり発達しなかったのだろう。

 

「……街に出てどうしたの?」

 

「うおっ!?……なんだ、ルリか。驚かさないでくれよ」

 

後ろから聞こえてきた声に驚いて振り返れば、そこにはルリの姿があった。

 

何度も彼女には驚かされているんだが、未だに慣れる気配はない。人が気を抜いている時や、別な事に集中してるときに現れるから、つい驚いてしまうんだよな。

隠密スキルを使っているか聞いたこともあるが、本人が言うには隠密スキルは使ってないそうだ。じゃあ他のスキルを使っているのかと聞いた際には答えを濁されたがな。

 

まあ、何時もの事なんだから怒っても仕方ないだろうし、質問に答えることにしよう。

 

「ちょっと、屋敷で色々あってな。気分転換に街をウロウロしてただけだよ。それより、ルリこそどうして街の中にいるんだ?何か用事でもあったのか?」

 

「……少し買い物をしてた……冬の時期はあまり客がこない……だから閉店してる店もあるから気をつけて……」

 

閉店してる店のあるのか……客がいないんじゃしょうがないのだろうがな。

それにしても、この世界の冬は本当に望ましい、何もせず家の中に引き篭もっていてもいいなど最高じゃないか。俺も借金さえなければ、今頃は屋敷の中に引き篭もっていられたんだろうがな…………

はぁ……

 

俺がつらい現実に気を重くしながら、ルリと一緒に歩いていると不信な動きをしている変質者が目に入った。

なんだ、あいつらは?路地裏にある建物を見ながら挙動不審な動きをしてるんだが……もしかして強盗か?

でも、武器とかは一切持っていないようだが……って良く見たらこの前にメンバー交換した際に一緒に仕事をしたアーチャーのキースとその元凶になったダストじゃねぇか。あいつらは一体何をやってるんだ?

今の姿を警察にでも見られたら職務質問されかねないし、声を掛けて置く事にするか。

 

「キース、ダスト。お前らこんな所でなにやってるんだ?」

 

「「うおっ!?」」

 

先ほど俺がルリに話しかけられた時のように二人は驚くと、こちらを振り向いて俺の顔をマジマジと見た後、安堵のため息を吐いた。

それにしても、今日の二人は冒険者らしくないラフな格好をしているな。まあ、冬の間は基本的にクエストを受けないのだから、おかしいと言う訳ではないのだが、その所為で良く見ないと二人だと判別する事が出来なかった。

 

「な、なんだ、カズマとルリか、脅かすんじゃねぇよ。これだから潜伏や隠密スキルを持っている奴等は……」

 

ダストがそんな事を言っているが、俺もルリもスキルは一切使っていない。ただこいつ等が周囲の警戒を怠っていただけだ。

こいつ等がそんな状態になる理由があの店にあるのだろうが……何かロクでもない店の予感がするな。

 

俺がそんな事を思っている、キールとダストが顔を近づけて何かを話始めた。

 

「お、おい。ダスト、此処が女性……ルリって言ったか。彼女にばれるのは不味いんじゃねぇか」

 

「大丈夫だ。彼女はまだ常識が通用する。適当に言いくらませば何処かに行ってくれるさ」

 

「……全部聞こえてる……」

 

ルリの行った一言で、二人は驚愕のあまり固まってしまった。

だってこいつ等、相当動揺していたのか、折角耳元で会話してるのに普通の音量で喋ってたんだぞ。そんな事をすれば聞こえるのは当たり前の話だ。墓穴を掘ったと言わざるを得ない。

 

固まっているダスト達の顔を見たルリは気を利かせてくれたのか、「今度からは音量に注意」と言って一人何処かに行ってしまった。だぶん方向から推測するに、屋敷に帰ろうとしているのだと思う。

それにしても、今回聞かれたのがルリだったのは、そうとうな幸運と言えるだろう。もし聞かれたのがアクアやマナなんかだったら絶対に追求される事になったぞ。

そしてマナの場合はそれを盾に有り金を全て取られる可能性もある。

このパーティで常識人かつ一番優しい人だからな、ルリは。

 

「それで、なんでこんな場所でウロウロしてんだ。不審者と間違えるところだったぞ」

 

「それは……カズマみたいな美人に囲まれている人間には縁のない……」

 

「おい、それは違う。あれはハーレムとかそんな生易しい言葉で済ませられる場所じゃない。あいつらは悪魔の生まれ変わりのような人間だ。こいつは物凄く苦労してるはずだ。そんな言い方は止めろ。カズマが可哀想だろ」

 

一体ダストはパーティ交換の際にどんな目に会ったのだろう……マナに有り金を全て奪われるのは予想していたが、どう見てもそれだけでは済んでいないようだ。

キールの声を遮ったダストは足を生まれたての小鹿のように震わせているし、顔も真っ青だ。おそらくあの守銭奴に飼い殺しのような状態にさせられたのだろう。

 

あいつの恐ろしい所の一つは、俺が教えた知恵を応用して様々な場面で活用するところだからな……

まあ、中途半端な知恵だから失敗する事が多いが、もし成功した際は被害者の被害はかなり膨らむ結果となってしまう。

俺は一時期、人類を滅ぼす化け物に知恵を与えてるんじゃないかと真剣に悩む事になったほどだ。

 

まあ、このことは一旦置いておくことにして、こいつ等が此処に居る理由を早く聞くことにしよう。若干冷えてきたしな。

 

「それで何で此処にいるんだ?いい加減答えてくれよ」

 

すると、二人は今までに見た事のないくらいの真剣な顔を作った。その顔は強大な敵と命を掛けて戦う覚悟を決めたような者の顔と言えばいいのか、街中でするのは場違いと言っても過言ではないほどの気迫が篭っていた。

一体目の前に店に何があると言うのだろう?この二人を此処までするなんて……ほんの少しだが期待をしてしまう。

 

「カズマ。俺は、お前なら信頼出来ると思うから、正直に話すことにするよ。いいか、今から言う事は絶対の漏らしやいけない秘密だ。カズマの仲間の女達には、絶対に漏らさないって約束できるか?」

 

キールの出す重々しい雰囲気に俺は若干押されながらも頷いた。

そると、ダストが他の人に聞こえないように俺の耳元で小さく呟いた。

 

「カズマ。この街には、サキュバス達が経営している、良い夢を見せてくれる店があるんだが……」

 

「詳しくお願いします」

 

期待はずれにならないどころか、期待以上だったのはこの世界に来てからこれが始めてかも知れない。

 

 

 

 

 

 

 

 

今現在、俺を含めたダストとキールの三人は緊張した面持ちで、サキュバスが経営している店の前に立っていた。

 

ダスト達から聞いた話によると、サキュバスと言う悪魔は人間の性的な欲望……精気を吸って生きる、俺が持っているイメージ通りの悪魔なのだが、この街では男性と冒険者とサキュバス達は一種の共存関係を築いているらしい。

なにせ、冒険者は基本的に馬小屋暮らしだ。色々と溜まってしまうものもあるが、周りの目を気にして満足にすることも出来ない。だからこそサキュバスの出番である。

彼女達が冒険者達にとてもいい夢を見せてくれる訳だ。冒険者達は溜まっていたものが解消できるし、サキュバス達は精気にありつける、どちらも損をしない素晴らしい考えだ。

 

正直、この話を聞いた時は、この世界に来て良かったと今までで一番思えた瞬間だった。

経験者の話のよると、とても夢とは思えないような夢を見られるらしいからな。期待のあまり心拍数が上がって心臓がバクバクと音を鳴らしてしまっている。

 

俺達は顔を見合わせた後に覚悟を決めて、扉を開けるとそこには……

 

「いらしゃいませ!」

 

魅惑的な身体をした女性が出迎えてくれた。

店の中を見てみると、そのには同じような肉体を持った綺麗なお姉さんたちがウロウロとしていて、夢のサービスの事を知らなければ、それで満足してしまいそうなほどだった。

そしてその後に、椅子に座って、紙に一心不乱で何かを書いている冒険者と思われる男性達の姿が目に入った。正直、綺麗な女性が多すぎて、男達の姿を認識できたのは入ってから数秒たった辺りだった。

 

俺達は空いている席に案内され、その席に座るとお姉さんは笑みを浮かべて尋ねてきた。

 

「お客様は、この店は始めてのようですが……この店がどういった店で、私達の正体もご存知でしょうか?」

 

俺達は頷いて答えると、お姉さんは微笑のままアンケート用紙のような紙を俺達の一枚ずつ手渡してくれた。その紙にはお好みのシチュエーションや好みの容姿や性格などが……この、性別や外見ってなんだ?

俺が首を傾げるとお姉さんが直に答えてくれた。

 

「このアンケート用紙にご要望を書いてください。夢の中なので基本的に何でもすることが出来ます。自分の立場や外見も変えることも出来ますし。性別も変えられます」

 

そうだよな、これは全て夢なんだ。ならば自分の思う通りに全てを変えられるのは当たり前の話だ。

この店に来ている男性が一心不乱でアンケート用紙に文字を書いている気持ちが理解できたよ。たしかにこれなら、自分の希望を出来る限り書こうとするよな。

夢ならどんな事をやっても許される。日本の憲法でも、心の中で思うのならどんな事を思っても許される事になっている。だったら夢も同じだろう。

 

俺は目の前のアンケート用紙に要望を書き込もうとして…………なんか今カタッって物音がしなかったか?でもこんな人が居るなら物音くらい……あれ?なんでドアノブが独りでに動き出しているんだ?

あそこには人影一つ見えない…………まさかあいつじゃないよな。

俺は予感が的中しないようにと祈りながら扉の方に持っていたペンを投げつけた。するとペンは扉に当たる事はなく、その手前の何もないはずの場所で何かにぶつかったように、動きを止めた後地面に落ちていった。そしてその透明だったはずの場所には……

 

「い、痛い……」

 

頭を押さえて、しゃがみ込むルリの姿が…………これって不味くないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

アクセルの裏路地にある、サキュバスのお姉さんたちが経営するお店。

この店は、日々モンスターの討伐と言う命懸けの非常に危険な仕事をしている、冒険者達の荒んだ心を唯一癒すことの出来る、理想郷といっても過言ではない場所だ。

だからこそ、この場所を守るためなら、例え卑怯者と言われようと、犯罪者になってしまっても許される……それほどの場所だと俺は考えている。それは他の冒険者達も同じらしく、今目の前に居る理想郷を破壊しかねない存在……ルリを全員で逃げ場のないように取り囲んでいる。

 

数ではこちらが圧倒的に優勢だろう。しかし相手はあのルリだ。彼女の腕力は人の域を逸脱しており、この人数でも突破される事は十分にありうる。

だから、この場に居る誰もが油断しない。この理想郷だけは守り抜かなければならないのだ。だから俺達は一切の隙を見せず、そして流れるような動作で…………

 

『お願いします!此処で見た事は黙っていてください!!』

 

この場にいた男冒険者全員が土下座を決行した。

 

……いやだって、ルリだぞ。アクア達と違って一切問題を起こさず、この世界の常識のない俺を面倒見てくれているルリだぞ。暴行とか脅迫なんて真似は出来る訳がないだろ。

俺以外の冒険者達は、ルリの外見から幼い子供だと勘違いしているらしく、暴行といった考えなどは頭の片隅にもないらしい。流石に子供に手を出したら人として失格だからな。

 

ともかく、今は何とかルリを説得して此処を見逃して貰わなくてはならない。

俺が彼女を説得しようと顔を上げると……

 

「えっ、……その、や、やめて欲しい……本当にやめて……」

 

顔を真っ赤にして慌てたルリの姿があった。

そういえば彼女はダストの時もこんな状態になっていたような……もしかして恥ずかしがり屋なのか?

でも俺達には普通に会話してるし、パーティメンバー以外の人とも会話をしている姿を見たことがある……もしかして誉められたり、煽て上げられたりなど、自分を高評価されるのが苦手なのか。

 

だったら、その手を使わせてもらうまでだ。

 

「お願いします!ルリ様!!どうか寛容なお心を持って見逃してください!」

 

「さ、様!?」

 

俺が様付けした瞬間、ルリはさらに顔を真っ赤にして慌てふためいている。どうやら俺の考えは正解だったらしい。

俺は隣に居るキースやダストに作戦を伝えると、それは一瞬で冒険者達の間に伝わり、皆がルリを誉めたてる言葉を叫ぶようになっていた。誉められているルリは、水を沸かせるんじゃないかと思ってしまうくらいに顔を真っ赤にして動揺している。

その姿はとても可愛らしく、加虐心がそそられると言えばいいのだろうか。別な機会でまたやってみたいと思わせるほどだ。

 

でも、今はこの店のことだ……これで彼女が言わないと言えば良いのだが。

 

「言わない!言わないから、それをやめて!!様付けをしないで!!」

 

どうやら俺の心配は杞憂に過ぎなかったらしい。

ルリは誉められてから三分も経たないうちに、この場所を言わないと約束してくれた。彼女は俺の知る限りでは嘘をついた事はないので、信頼することが出来るだろう。

しかし、何時もは口数が少なく淡々した物言いのルリが、あんなに動揺して口早に話す所を見られるなんて、得をした気分だ。こんどアクア達と一緒にルリを誉めまくるのもいいかもしれない。

たぶんアクアなら賛同してくれるだろうしな。

 

何はともあれ、これで理想郷を守ることに成功した訳だ。冒険者達は安堵のため息をはくと共に、席の戻って座ってアンケートを書くのを再開し始めた。

そして、それを見たルリも息を整えると俺の方に向かってきた。

 

「……さっきの二度としないで……そんな事をしなくても、別に言い触らしたりしない……」

 

どうやら先ほど、様付けされたのにご立腹らしい……

確かにルリは相当嫌がってもんな……でも可愛かったからまた見てみたいという欲求もある。

流石のルリでも短期間で繰り返せば怒るかも知れない、彼女を怒らせれば、パーティメンバーの誰か暴走した時に止めるのを手伝ってくれなくなるだろう。それだけは避けなければいけない。

しょうがない……暫く間をおいて、彼女が忘れた頃にまたやる事にしよう。

 

それにしても、言い触らしたりしないとは本気で言ってるのだろうか?

確かにルリは優しいと思う。これはアクアなどのトラブルメーカーに囲まれているから相対的に優しいと思っているわけではなく、絶対的な評価だと断言出来る。

でもいくら優しいルリでも、このサービスを見逃してくれるのだろうか?これは言ってしまえば売春行為に近いし、悪魔と取引をしていることになるのだが、本当に彼女はこれを許せるのだろうか……

 

すると、ルリは俺の顔を見て察したのか説明をしてくれた。

 

「……男性なら、溜まるのしょうがない……それを実害のない形で発散してる……文句を言う事なんて出来ない……でも浸かり過ぎないようにはしてね……」

 

どれだけ彼女の心は寛容に出来ているだろう。

たぶん今の事を話したら天使や女神でも怒ると思うぞ。それを咎めない許してくれるなんて……俺はなんと良い仲間と出会えたのだろう。アクア達の所為で俺の出会いに関する運は無いと思っていたが、それを改めざるを得ない。

でも……一つだけ、たった一つだけ聞きたいことが出来た。

 

「なあ、ルリ。それって自分が題材に使われた場合でも言えるのか?」

 

「!?っ~~~~~~~~~!?」

 

さっき誉められていた時よりも動揺してしているようだ。

どうやら、流石の彼女も自分が題材に使われるのだけは許せないようだ。

まあ、当然と事と言えば当然の事なんだがな。でも彼女にはこの場を見逃してもらった恩もある。彼女を題材に使わないように後で冒険者達と話し合っておこう。たぶん皆賛同……

 

「………………ゅ……ぃ………」

 

なんだ?ルリが何かを小声を言ったように気がするが……一体何を言ったんだ。

 

「ルリ?今なんか言ったか?聞こえなかったらもう一度だけ頼む」

 

「その……だから…………夢くらいなら良いって……」

 

今ルリは何て言った?

俺の耳がおかしくなければ、題材に使っても良いって言ってんだよな。

俺は信じる事が出来ず無言で顔を見合わせると、ルリは涙目になりながらも首を振って肯定してくれた。どうやら、本当に良いらしい。

 

俺はこれを見て一つだけ決めた事があった。

それは彼女をサキュバスのサービスで題材には絶対に使わないと言う事だ。いや、だってこんな反応をされたら、使うことなんて出来ないじゃないか……

 

 

 

 

 

 

 

 

マナside

 

日が徐々に落ちていき、暗闇が包みだす夕暮れ時。

私達は屋敷のリビングでカズマ達の帰りを待っていました。あの男は暇を潰しに街に出て行ったみたいなのですが、未だに帰って来ないのですよね。一体何処で道草を食っているだか……

ここまで帰るのが遅いと少しだけですが心配してしまいますよ。

まあ、まだ帰って来ないルリも一緒に居ると思うので、大丈夫だとは思いますが。

 

私達がカズマ達の帰りを待ってから十分ほどたったところでしょうか。ようやく扉が開く音が聞こえて来たので振り向けば、そこにはカズマとルリの姿がありました。

 

「カズマにルリ、遅かったじゃないですか?何をやってきたのですか?冬の季節の街に行っても酒場で飲んだくれるぐらいしかやる事は無いと思いますが」

 

「ちょっとダスト達に付き合わされてな。抜けるに抜けられなかったんだよ。それよりも一ついいか……」

 

私は別にいいですが、何でしょうか?カズマが質問するような事なんてありましたか?

今日は私は冒険者ギルドにいただけですし……なんのトラブルも起こしてないと思いますよ。

 

私が首を傾げていると、カズマはある一点を指差しました。私がカズマの示す方に向き返ると、そこには調理の手伝いをしているキャルの姿が……

 

「なんであいつは此処に居るんだ?」

 

あっ!!

そういえばカズマには事情を話していませんでしたね。

まあ、今日カズマと会ったのは私が冒険者ギルドに行って以来なので話す時間がなく、当たり前と言えば当たり前の事なのですが……事情を話したアクア達はすでに納得していて、気にした素振りもなく普段通りにしていたので、すっかり忘れていましたよ

一応、カズマとルリにも説明しておいたほうがいいですね。

 

「これは私が冒険者ギルドにいた時の話なんですが…………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふぁ~~~~~~~~。いけません、眠たくなってきました」

 

高く上った太陽が徐々に下がっていく昼下がり。

私は冒険者ギルドの一角で、口に手を当て、大きな欠伸をしていました。

今の冒険者ギルドには依頼を受けようと思う者などいるはずなく、ただの酒場と化していました。そんな冒険者ギルドに私が居るのは一応目的があります。

 

その目的とは美味しい依頼を確保するためです。今此処はやる気のない冒険者の集まりとなっていますが、それでも美味しい依頼が張り出されれば受けてみようと思う者がいてもおかしくはありません。

だから、こうして掲示板から一番近い席を確保した待っているのですが……今日は特に良い依頼はありませんね。無駄足だったみたいです。

まあ、後もう少しすれば夕方になるので、そこまでは粘ろうと思いますが……

 

「ネェ、ちょっといいかな」

 

「?キャルですか……別に構いませんけど、どうしたのですか?」

 

私が声をした方向に振り向くとそこにはウェイトレスの衣装を手の平サイズの妖精……キャルがいました。

彼女は借金返済のためにギルドでウェイトレスの仕事をしているのですが、物珍しさあってか今ではこのギルドのマスコット的な立ち位置にいます。実際に彼女が仕事をしている時は注文の数が増えるそうです。

 

そんな事はさておき、一体彼女が私に何の用なのでしょう?

私とキャルの接点なんて名前を付けてあげたぐらいですし……あっ、でもアクアとは仲がよかったみたいなので、彼女への伝言か何かでしょうか。

 

「その、今、屋敷に住んデるんだよネ」

 

「?そうですが……それがどうかしましたか?」

 

「お願い!ボクを屋敷に住ませテ欲しいだ!図々しいのは分かっテるんだけど、お願い!!」

 

す、住まわせてほしいって……まあ、部屋はまだ余っているので大丈夫だとは思いますが、ただで住む事を承諾すれば、他の人も住みたいと言い出してしまうかも知れません。

本当なら断っておくのが良いのでしょうが……なんか切羽詰ってるみたいなので迷いますね。話くらいは聞いてげましょう。

 

「どうしてですか?住む場所がないのなら馬小屋に住め……ちょ!?どうしたのですか!?顔が真っ青になってますよ!?」

 

馬小屋、その言葉を聞いた瞬間、キャルは身体を守るように両手を抱え、身体を物凄い速さで震わせています。肌の色は顔どころが全身まで真っ青になっていますし……馬小屋の何かトラウマがあるのでしょうか?

 

でも馬小屋でトラウマになることなんてありますかね?うちのトラウマ製造機ことアクアでも馬小屋でトラウマを作ったことはないと思います。そもそも、馬小屋なんて文字通り馬しか居ませんからね。

でもキャルの様子を見る限り、何かあったのは確かだとは思うのですが……

 

私が彼女が怯えている理由が分からず首を傾げると、キャルは今にも消えそうな声で答えてくれました。

 

「そのネ……最初は馬小屋に住もうとしたんだよ……でもネ……馬にネ………………食ベらレそうになったんだ……」

 

ああ、そういえば彼女はキャベツの妖精でしたね……そりゃ、馬なんか近くにいたら食べられてもおかしくはありません。彼女の場合、馬しか居ない馬小屋じゃなくて、馬と言う捕食者の居る馬小屋だったんですね。

確かにそんな状況に置かれたら、馬小屋は諦めて野宿するしかありませんよね。自分を食べようと者の隣で寝るなんて正気の沙汰ではありません。いたらそいつは変態か狂人だと思います。

これほどの理由があるのなら住ませても良いのかも知れません。

 

「分かりました。でも無償でだと他にも言い出す人が出るかも知れないので、こちらの言う条件に従ってもらいますよ」

 

「そレくらいは覚悟しテるよ」

 

「わかりました。では………………」

 

 

 

 

 

 

 

 

「っと言う事があったので、召使いのような事をして貰う代わりにこの屋敷に住まわせる事にしました。構わないですよね?」

 

「それなら、構わないが……なんであいつウェイトレスの衣装を着てんだ?お前の指示か?」

 

「あの衣装を気に入っているみたいで、私が指示した訳ではありませんよ」

 

別に私は衣装までは指示したりしませんよ。

服が変わったからといって金が出来るわけでもないのに、こだわっても意味がないと思います。むしろこの服を着ろなどと指示をするのは、その衣装を買わないといなくなるので非効率だと思っています。

まあ、お金が出来るのなら、どんな服でも指示して着せますが……

 

「カズマ、ようやく帰って来たのね!ほら、見なさいよ!今日の晩御飯はカニよ、カニ!さっき、ダクネスの実家の人が、引越しの祝いに、超上物の霜降り赤ガニを送ってくれたのよ。しかも、凄い高級なお酒まで付いているのよ。」

 

私とカズマが入り口で話していると、満面の笑みを浮かべたアクアが話しかけて着ました。

 

アクアがかなり機嫌が良いみたいですね。まあ、かなり値が張るというカニを大量に貰ったので無理は無いと思います。こう言ってる私もカニが茹で上がるのが今か今かと待ち遠しいですからね。

私は家が貧乏だったので、カニなどといった高級な物はめったに食ったことはありません。私が普段口にするのなんて残飯だったり、カズマから恵んでもらった食べ物だったり、酷い時は雑草なんかを食べたこのもありましたからね。

でも以外と雑草って美味しい物もあるんですよね……カズマに食べさせたら戻しかけましたが。

 

ともかく、とても高いカニが食べられるなんて嬉しい限りです。

 

「おっととと、調理が終わったよ」

 

キャルの声がしたので、テーブルを向けば彼女が調理済みのカニを運んでいるところでした。

それにしても、自分の図体よりも大きいカニを運ぶだなんて結構凄いですよね。そういえばウェイトレスの仕事をしている際も飲み物の入ったグラスや料理を平然と運んでいましたし……身体からは考えられないほどの力は持っているようです。

 

でも今はそんな事よりも目の前にあるカニです。私はカニの足を手に取り殻から取り出した身を口に入れます。

 

「!?」

 

……ヤバイです。

何がヤバイのかと言うと、今まで食べた事もない美味しさで言葉で表現する事が出来ません。それほど美味しいカニです。初めてダクネスが仲間になってくれて良かった思えた瞬間でしたよ。

 

「めぐみん、本当のこのカニは……って、どうして泣いているんですか!?」

 

「いえ……その、家が貧乏だったもので、ここまで美味しい物を食べたのは始めての事で…………感激して思わず涙を流してしまいました」

 

その気持ちは分かります。

このカニの美味しさはそこまでする価値があると思います。ただ私の場合だとお金の事を気にしてしまって、涙を流すまでの感動は出来ないんですよね。これが安いまでとは言わなくとも、普通の値段だったら私もめぐみんのように涙を流せたのですが……ほんの少しだけ残念ですね。

まあ、美味しい事には変わりないので堪能させてもらいましょう。

私がカニを食べようと手に取って……

 

「キャルは食べないのですか?もう調理は終わってるので食べてもいいですよ」

 

「え?た、食ベテ良いの?ボク居候の身だし……」

 

彼女はそんな事を気にして食べなかったのですか?

どこかの図々しい駄女神とは大違いですね。彼女には此処までのとは言いませんけど、少しは謙虚さと言うものを知って欲しいです。

まあ、駄女神の事は置いておくとして、今はキャルの事でしょう。

 

「別にそんな事を気にしなくて良いと思いますよ。ダクネスもいいですよね」

 

「ああ、これからこの屋敷でいろいろ世話になるからな。先払いだと思って食べてくれ」

 

それを聞いたキャルはカニを食べようとして……流石に殻を割るのは無理だったらしく、ルリに割って貰っています。

 

美味しそうにカニを頬張るキャルを横目で眺めていると、アクアがなにやら七輪のような物を作り始めました。

それをカズマが『ティンダー』で火をつけると、その上にカニ味噌の残った甲羅を置いて、その中にお酒を注ぎ込みます。そして甲羅に焦げ目が付く程度に炙ったそれを一口入れて……

 

「はぅ……っ」

 

実に美味しそうに息を吐きました。

行動はもはやおっさんと言われてもしょうがないほどでしたが、あの飲み方はとても美味しそうです。私達はすぐさまアクアの真似をして…………?カズマだけがやってないのですが、どうしたのでしょうか?

 

その後も、めぐみんを除く皆がお酒を美味しそうに飲む中、カズマだけは決してお酒を飲む事はありませんでした。食べ終わった後も直に寝ようとしてますし……今日なにかあったのでしょうか?

でもルリに聞くと「…………………………知らない……」と言われましたし、具合が悪いでしょうかね。こんなに美味しいお酒なのに、少しだけかわいそうに思えましたよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、カニを食い終えた私達はリビングでゆったりとしていました。

ダクネスはお風呂に行ったみたいで、ルリとキャルは晩御飯の片付け、めぐみんとアクアはボードゲームをしています。

あのボードゲーム、テレポートとかがあって、ここが異世界だと言う事を再認識させられましたよ。それとめぐみんが異様に強いですよね。

唯一勝てたのは、完全に詰んだ状態でめぐみんが目を離した一瞬の隙を突いて、ボードの向きを変えたり、『スティール』の構えをして思考を妨害した、カズマだけです。カズマ曰くルールには書いてないから反則ではないそうです。

本当に悪知恵ばかり働く男です。

 

そんな中、私は特にやる事もないので、ソファーに座ってぼっとして……

 

「曲者!曲者よ!!この屋敷に曲者がきたわ!!」

 

なんなんでしょう?

急に大声を上げたアクアは広間の方に走っていきました。曲者ってモンスターでも入ってきたのでしょうか?

とりあえず私達はアクアに続いて広間に駆け寄ると、そこには背中に小さな羽を生やしたサキュバスのような生き物がアクアに取り押さえられてました。

 

「皆、見なさい!私の結界に引っ掛かって、身動きの取れなくなったサキュバスが……って此処にも曲者がいた!」

 

「誰が曲者だ!……あれっ!?何でサキュバスが此処にいるんだ?……夢じゃないのか……」

 

こちらを向いたアクアが驚いたような声を上げたので振り返ってみると、そこにはタオルを腰に巻いたカズマの姿がありました。

確かにその格好は曲者と言われてもしょうがないと思います。でも、なぜタオル一丁なのでしょう。風呂に入っていたからと考えればおかしくはないのですが……ダクネスが風呂に行ったはずです。

もし、カズマが入っていたのなら、直に帰ってくるでしょうし……

 

私が悩みこんで居ると、カズマと同じくタオル一丁のダクネスが広間に入って来ました。まさか、混浴したわけじゃないですよね。

いや、ダクネスがいくら変態だからとはいえ、流石にそれは…………しませんよね?なんか段々と自信がなくなってきましたよ。

 

まあ、そんな事は後で追求すれば良いだでなので、今は目の前に居るサキュバスをどうするかですね。たぶんカズマを狙ってきたのでしょうが、相手が悪かったですね。

此処には女神であるアクアが居るのです。きっとアンデットの時のように直に浄化してくれるでしょう。

 

「さあ、観念するのね!今とびきり強力な対悪魔用の……?カズマ、どうしたの?そんなに近寄ると男のあんたは操られるわよ」

 

アクアが一旦、サキュバスから距離を取って強力な魔法を食らわせようとした時でした。カズマはそれを邪魔するようにサキュバスとアクアの間に割って入りました。

一体この男は何を考えているのでしょう?相手は悪魔ですよ。いくら可愛いからと言っても庇うだなんて正気であるのかを疑ってしまいます。

 

実際に仲間達はそんなカズマに軽蔑の視線を…………?

ルリだけ頭を抱えているのですが、どうしたのでしょうか?何か今にもこの場から逃げたいような表情になっていまし……

 

私が皆とは違うルリの挙動を不思議に思っていると、ダクネスが思い出したように叫びました。

 

「アクア、サキュバスだ!おそらく今のカズマは、サキュバスに洗脳されているんだ!先程から、カズマの様子がおかしいと思っていたが、サキュバスに洗脳されていたなら納得がいく!おのれ、私のあのような真似を……ぶっ殺してやるっ!!」

 

確かにサキュバスに洗脳されているなら納得がいきますが……ダクネスは一体カズマに何をされたのですか?今までに見た事もないくらい怒ってますし……

でも、今はサキュバスの事です。早くあの悪魔を退治して貰わないと……あれ?サキュバスの姿が消えてます。もしかして、私達がダクネスに気を取られているうちに逃げ出したのですか。

なんと逃げ足の速い悪魔なんでしょう。

 

私達は外に出てサキュバスを追跡しようとして……カズマに遮られました。

まだこの男は洗脳に掛かっているのですか?

 

「カズマ、何をしているのか自覚はあるのですか!?可愛くても、あれは悪魔、冒険者が倒すべきモンスターですよ。しっかりしてください」

 

めぐみんの声を聞いたカズマは一瞬だけ正気を取り戻したかの用に動揺しましたが、直に身構えした……もう言葉でどうにかできるような領域にはいないようですね。

私はアクアとアイコンタクトをして、同じタイミングでカズマに襲い掛かりました。

 

「かかってこいや!!」

 

それを迎え撃つカズマは、屋敷中に……いや、街中まで響くんではないかと思わせるほどの大声で叫びました。

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、数の差もあってかカズマを取り押さえる事には成功しましたが、随分と苦労させられましたよ。特に『バインド』は厄介でした。解除できるスキルを持っているアクアがいなかったら負けていたかも知れません。

四人同士の襲い掛かられて、かなりの時間を稼ぐのは流石と言えばいいのか…………四人?そういえばルリは何処に行ったのでしょう。戦闘には参加してなかったと思いますが、広間には一緒に来たはずです。

仲間と戦うのが嫌だったのでしょうか?今度、機会があったら聞いてみる事にしましょう。

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