この守銭奴に祝福を!   作:駄文帝

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この仮面の騎士に隷属を

「フハハハハハっ!!どうしたのだ!?先程からスカばかりしている娘よ!これでは三対一ではなくて、二対一になっているではないか!!」

 

「黙っていろ!!」

 

そう言って顔を真っ赤に染めたダクネスが叫び声をあげますが……ダクネスの剣が的外れで、ほぼ私とカズマの二対一になっているのは事実なんですよね。

恥ずかしいのなら両手剣スキルと取ってください。切実にそう願わざるを得ないですよ。

ともかく、この悪魔意外と身のこなしが良いですね。私とカズマの二人掛かりの剣戟をいとも簡単にそらしてますよ。でももう少しで……

 

「ふむ?そう言えば先程までいた背丈の小さな娘は……」

 

そう言って顔をキョロキョロと動かしてルリの姿を探しますが……もう遅いです。

バニルの死角で隠密スキルを解いて、急にその姿を現したルリがバニルに襲い掛かり、彼を地面へと倒し拘束しました。

そしてその一瞬のスキをついてダクネスが大剣をバニル目掛けて振り下ろします。

 

「ぐうぉ、貴様は何時の間に……し、しまっ……!?」

 

そしてその剣はバニルの首を両断し……

 

「やったのか……?この私が本当に魔王軍の幹部を……」

 

「それだと嬉しいのですが……」

 

「……公爵級の悪魔がこの程度……あり得ない……」

 

「フハハハハハッ!!その娘の言う通りだ!!」

 

そう言って浮かび上がったのは切り飛ばされた首についていた仮面。

まあ、魔王軍の幹部がそう簡単に死ぬなんて思ってはいなかったので、私はそれほどのショックはありませんが……ダクネスは相当ショックだったみたいですね。

本当に倒したと思っていたのでしょう。まあ、世の中なんてそう上手くはいかないものです。

 

「もしかして吾輩が倒されたと思ったのか!?残念、吾輩の本体は仮面であるゆえ、身体をいくら切り飛ばされたところ土くれに戻るだけ、ダメージには全くならないのである!!最も、仮面を狙われたのであれば、少々不味かったが……」

 

では次はその仮面を狙ってやりますよ。

でも先ほどと同じ方法は使い物にならないでしょうし……最初にそれを知れたら良かったのですが……

でも、過ぎた事を悔やんでも仕方ないですよね。

 

「しかし、隠密スキル使いとは厄介な相手が居たものだ。ここは仕方ない、吾輩の必殺技を見せてくれる!!」

 

「おい、なんかやばいのが来るみたいだぞ!気をつけろよ!!」

 

「そんな事…………」

 

分かっている、そう言おうとしたのですが、それを言う事は出来ませんでした。

なぜかと言うと、バニルの仮面が私の目の前に迫って……

 

 

 

 

 

 

 

 

カズマside

 

「おい……マナ?大丈夫か?大丈夫なら返事をしろ!!」

 

俺はそう声を上げるが、マナからの返事は一向になく、彼女の身体は固まってしまったように微動だにしない。

そんな彼女の顔にはバニルの仮面が張り付いていて……クソ、必殺技だとかほざいていたが、一体マナに何をしたんだ?

すると、先ほどまで動かなかったマナが急に動き出して……

 

「フハハハハハ!!この娘の身体は我が力によって乗っ取らせてもらった。さぁ、この娘に攻撃できるものならばしてみるが良い!!」

 

そう言って笑うマナ……いや正確にはマナに取り付いたバニルか。

それにしても厄介な能力を……これがドMクルセイダーだったら容赦なく攻撃できるのだが……

さて、どうしたものか……俺かルリがバインドでも使って身動きを取れないようにするか?そうすれば取り付くのをやめるかもしれないし、何より動かなければ本体である仮面に当てることは難しくはない。

いや、少しまて……

 

「どうだ?手出しできぬであろう!分かったら早くそこを退くが良い!事が終わればこの娘は……」

 

「マナ……一万エリスやるから、そいつをどうにかしろ」

 

「フハハハハハハ!何を言っているのだ!!この娘の身体は吾輩の支配下に(それって本当ですか!!この仮面をどうにかしたら、お金を貰えるのですよね!約束は守ってくださいよ!!)ば、馬鹿な……この娘は我が力によって……まさか跳ね返したというのか!?しかし良いのか、抵抗すればするほど尋常でない痛みが……」

 

「マナ、五万に増やす」

 

「まって、ください!!今すぐこれを取り外し……なんですか、この仮面!?接着剤でくっつけられたようになって……(貴様、一体どのような神経をしているのだ!?我が力を完全に跳ね返しただと!!しかもその理由がお金とは……)そんな事はどうでも良いんですよ!!早くお金を……(どうでも良くないわ!!小僧、この娘の精神はどうなっているのだ!?このような事態、永きに渡る人生で初めての事だぞ!!)」

 

もう完全に主導権を取り返したみたいだな。

バニルにはどうなっているとは言われたが……それがマナって存在だからな。お金の事になれば不可能を可能にする女とでも言っておこう。

だが、仲間達の心の底から呆れたような視線に気付いてほしい。

ともかく、今はそれよりも……

 

「ルリ……当初の目的を果たすぞ。こいつを使って魔法陣を消すのを手伝ってくれ」

 

「……分かった……」

 

マナが仮面を剥がそうとしている時間を利用して魔法陣の痕跡の削除、もとい証拠の隠滅を始める俺達。腐っても女神であるアクアの作った魔法陣なので時間は掛かったが……無事に消す事が出来た。

これで当初の目的は果たすことが出来たし後は……

 

「(そろそろ、耐えがたい激痛が走っているはずだ!諦めてその身体を吾輩に……)た、確かにこれ以上は……」

 

「十万」

 

「さぁ、もうひと頑張りしましょう!!なんか急に力が湧いてきました!!(だから、この娘はどうなっているのだ!どうして値段が上がると力が増すのだ!!もしや、人間の形をした新種のモン……)失礼な事を言わないでください!両親共に人間です!私は普通の人間ですよ!!」

 

ただし、両親共に守銭奴で、その力が組み合わされたハイブリッドと言える守銭奴だがな。

こいつの金に関する欲望と行動力はすでに両親を軽く超えているからな……まだ子供なのに……

ちなみにマナはすでに剥がす事を諦めたのか、そこら辺の岩に頭突きをかまして仮面の破壊を試みている。

あっ……バニルが途中で仮面を外した所為で、地肌に直撃……

その結果悶絶している。

 

「本当に何者なのだこの守銭奴は……まあ良い。次はそこの鎧娘だ!!」

 

「ダクネス、避けろ!!」

 

俺は慌ててそう声を上げるが時はすでに遅し……

マナの顔から外れたバニルの仮面は、ダクネスの顔の取り付いてしまった。

クソ……マナなら金の力でどうにでもなるが、ダクネスでは不可能だ。こうなったらダクネスの精神力に掛けるしか……

 

「フハハハハ!!どうだ?今度こそ手出しは(ああっ!!どうすれば良いのだ、カズマ!!私の身体が乗っ取られてしまった!!)…………………………(お前たちとは戦いたくない、戦いたくないのだが、身体言う事をいかないのだ!!カズマ、こうなっては仕方ない、私の身体ごと……)ええい!!鬱陶しいわ!!先ほどの守銭奴と言い、この(麗しき)娘と言い……って余計な言葉を挟むのではない!!ともかく、お前の仲間はどうなっているのだっ!!」

 

どうなってると言われても……

ルリ以外は超が大量に付く問題児ってところか?

普通の人なら一人ですら扱いに困るような奴らだからな……実際にマナに至っては中学の先生から、あの怪物を御しきれるのはお前しかいないって言われたし、高校では枷が外れて相当暴れたらしいからな。

実際、籍だけの高校生であった俺が、何度かマナを止めてくれと学校に呼ばれたからな……

多分俺を退学にしなかったのには、そこら辺が関わっていると思う。

 

ともかく、今はそんな問題児たちが増えて四人に…………

あれ?なんだか視界がにじんで前が良く見えない……

 

「……か、カズマ……?」

 

もう、ルリだけが俺の癒しだ……

お願いだから彼女だけは変わらないで欲しい。変わったら屋敷に引きこもってやる。

 

「ちょと、どうするのですか!?貴方がカズマに事実を認識させる一言を言ったせいで、カズマがへこんだじゃありませんか!!」

 

「わ、吾輩の所為にするでない!事実を作り出す者たちが悪いのであろうが!!ともかくこの娘は失敗(おい、人の身体に失敗などと言うな!失礼だろうが!!)もう良い、すぐにでもこの身体から……」

 

って、へこんでる場合じゃなかった。

ともかく、バニルはダクネスの身体から出ていってくれるらしい。それはありがたい事……

ちょっと待て?本当にダクネスの身体から出て行ってしまっても良いのか?どうやらダクネスの鋼の精神はバニルの支配力に耐えられるようだし……

もしダクネスの身体から出て行ったとしよう。ではその次にバニルが乗り移ろうとするのは誰だ?

それは俺かルリしかなく、マナやダクネスの様に普通とは違った精神ではない俺達がバニルの支配力に抗うのは難しいだろう。

もし仮に、二人の件で懲りて乗り移るをやめたとしても、バニルが本来の力を出されるのは不味い。少なくとも、ダクネスに乗り移っている内はそれほどの力は使えないはずだ……それは敵判別スキルによって感じる力が少ないことからも証明されている。

つまりは……

 

俺は無言でセナから受け取ったお札を取り出すと、それをダクネスが被っている仮面に張り付けた。

 

「む!?……なんだ、この札は?……触れぬ。おい、一体何を張ったのだ?手が弾かれて仮面を外す事が出来ないのだが(カズマ……これは確か?)」

 

「セナに貰ったお札だよ。このまま地上に連れて行ってアクアに中身だけ浄化して貰おう」

 

「(ちょ!?)」

 

その声は二人揃ったのか、綺麗に聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

マナside

 

「小僧!!吾輩の支配力に抵抗しておるこの娘には、常に激痛が走っているのだぞ!!仲間をこのような目に合わせて良心が(はぁ……はぁ……カズマ!!これはヤバいぞ!かつてない痛みだ!!もしこれがこのまま続くようであれば私は堕ちてしまうかもしれない!!そのときはカズマが私を……んっ!!)」

 

「凄く嬉しそうにしているんだが……」

 

「………………」

 

カズマの指摘に黙り込む魔王軍幹部。

肝心のダクネスがこれではその説得は意味をなさないですからね。

それにしてもこんな作戦を考え付くなんて、やはりカズマは鬼畜ですね。

近隣の不良共が名前を聞いただけで、有り金を置いて逃げ出すのは当たり前ですよ。まあ、私も同じような経験があるのですが……

私とカズマが揃った時なんて命乞いをされましたからね……

不良だからと言って少しやり過ぎましたかね?

 

ともかく、地上まではもう少しです。

それまでダクネスの精神が優勢であってくれれば良いのですが……

 

「ダクネス。もう少しで地上だからな。地上に付いたらアクアに直ぐ浄化……」

 

「……フハハハ……フハハハハハハハ!!ダクネス?一体誰に話しかけているのだ!!」

 

急に人が変わったかのように笑いだすダクネス……これってまさか……

ダクネスの心が負けてたと言う事ですか!?地上までは後ほんの少しだというのに……

ともかく、取り押さえなければと思った私が動きますが……ダクネスはそれよりも早く地上に向かって走り出してしまいました。

 

「おい!ダクネス、聞こえてるんだろ!?あと少しだからそいつの支配を振り払え!!」

 

「フハハハハハハ!無駄だ、小僧!この娘の身体は先ほど支配を終えた!!このまま地上に行って、仲間だと油断しているプリーストに手痛い一撃を食らわせてくれる!!」

 

本格的にこれは不味いですよ。

いくらアクアと言えども、油断している時にダクネスの一撃を食らったんじゃ無事ではすみません。

私もカズマも必死に追いかけようとするのですが……ステータスの低いカズマは論外ですし、私もダクネスの方が早く動き出した所為で追いつくことが出来ません。

このままではアクアが……

 

「さあ、ダンジョンから生還した仲間との再会……」

 

「『セイクリッド・エクソシズム』ッ!!」

 

「(あああああああっ!!)」

 

アクアの声が響いたと思った瞬間、ダクネスの身体は白い炎に包まれました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「おい、アクア!!お前何やってるんだよ!悪魔に乗っ取られたとは言え、あれはダクネスなんだぞ!!」

 

「なによ、いきなりそんな大声を出さないでくれる。それに、あの魔法には悪魔にしか効果がないから、ダクネスは無事なはずよ」

 

「そうなのですか……出会い頭に魔法をぶち込まれたので心配しましたよ……それとアクア、その口に付いた米粒は何ですか?」

 

「な、なんの事なのか私は分からないわね!?決して、後で一緒に食べようとカズマに言われてた弁当を一人で食べてなんていないわ!!」

 

食べたんですね……

私達が危険なダンジョンに潜っている間に、悪意がないとは言え元凶であるアクアが弁当を食べていた……その事実には、正直すごく腹が立ちますが、今回は私は何も手を出しません。

だって…………

 

「アクア……覚悟はできてるんだろうな?」

 

菩薩のような顔になった、本気で怒ったカズマが居ますから……

そのカズマの姿を見たアクアはトラウマを刺激されたのか。顔は真っ青、瞳からは涙を流してカズマに許しを請います。

 

「カズマ、待って!約束を破って弁当を食べたのは謝るわ!!でも仕方ないじゃない!カズマ達を待っている間は暇だったのよ!それにお腹も空いてきたのよ!!これで弁当を食べずに…………待たないといけませんでした!すいません!!」

 

カズマが菩薩の顔でニコッと笑った瞬間に、言い訳をやめて素直に許しを請うアクア……

今のアクアを見て女神と思える人はいないでしょうね……ですがそれも仕方ないと思います。

本気で怒ったカズマは人の精神を一日ほど崩壊させるようですからね。

実際にそうなった人が居ますし……って言うかアクアがそうなった人でしたね。

少しだけ可哀想に思えてきましたが……ですが今のカズマを止められる人なんて……

そんな事を思っていると、なぜかめぐみんが近寄ってきました。

 

「まぁ、まぁ、カズマ。そんなに怒らないで上げてください。アクアだって我慢しきれなかったのですよ」

 

「めぐみん、顔にソースが付いてるぞ」

 

「そんな馬鹿な!?私はちゃんとハンカチで拭いて……あっ……」

 

めぐみんも食べたのですね……

アクアを助けようとしたのは、そう言った事情からでしたか……

ですがその所為でカズマはより怒り狂っていますよ。菩薩を超えて如来のような笑顔になってますよ。正直今のカズマには怒りを向けられていない私でも近寄りたくはありません。

それは辺りに居た冒険者やセナも同じようで、皆顔を真っ青にして事の成り行きを見守っています。

 

「俺達の分は残ってるんだろうな?」

 

「わ、私は半分しか食べたないから、きっと残り半分が……」

 

「私も半分しか食べていませんよ。だからきっと残り……が……」

 

要するに二人合わせて全てを食べてしまったのですね。

ともかく、それを聞いたカズマは笑顔のままゆっくりと二人に近寄っていきます。

すでに冒険者達は見ていられなくなったのか、目を閉じ耳を両手で塞いでいます。そしてそれは私も同じことで……

たぶんですが、今からあの、見ていただけのルリが思い出したくないと言うほどのお仕置きが行われるのですね。私達がこれから響き渡るであろうアクア達の悲鳴に覚悟していると……

 

「フハハハハハハ!!倒されたと思ったか!?残念、吾輩は無事でした!!」

 

未だに燃え続ける白い炎の中から、そんな笑い声が響いてきました。

 

 

 

 

 

 

 

 

「良いところ……じゃなくて、よくも現れたわね!このクソ悪魔!!」

 

白い炎の中から現れた仮面を被ったダクネスに、良いタイミングに現れてくれたと言わんばかりの表情で、アクアは駆け寄って対峙しています。

そして、めぐみん助かったと安堵の息を吐いています。実際はお仕置きが先延ばしにされているに過ぎないというのに……

 

それにしてもあの悪魔はアクアの魔法を受けてどうして大丈夫なのでしょうか?

同じ幹部であるデュラハンは一撃で消し去る事は出来ませんでしたが……それでもある程度のダメージは与えていたと思います。

それなのに今回は全くダメージになっていません。ただのやせ我慢……そんな答えでいてくれるとこちらとしてはありがたいのですが……

 

「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』ッ!!」

 

「甘いわ!!」

 

って、そんな事を考えている内にアクアとバニルの戦闘が始まったみたいですね。

アクアは退魔の魔法と思われる魔法を次々と放っていくのですがバニルはそれを次々と回避、たまに当たったりもしますが、やはりそれほど効果があるようには見えません。

 

「ちょっとダクネス、避けないでよ!!ダクネスはその悪魔に乗っ取られたままでも良いの!?」

 

「(そう言われても、身体が勝手に……)」

 

あっ、一応まだ意識はあったんですね。

でも身体の支配権は奪われたまま……せめてほんの少しでも体の支配権を取り戻してくれれば……

そんな事を思っているとセナが私達に声を掛けてきました。

 

「ちょっと、これはどういうことなのですか!?あの仮面は魔王軍幹部、見通す悪魔、バニルのものだと思いましたが……」

 

「その魔王軍の幹部がダクネスの身体に乗り移ったんだよ。今はお前に貰ったお札で封じてるから、ダクネスの外に出ることはないと思うが……」

 

「仲間の身体に悪魔を封印!?貴方は一体何を考えてるのですか!?そんなこと……」

 

「でも、そのバニルとかいう悪魔、殺人光線とか物騒な単語を言ってましたよ。もしダクネスの身体から解放されれば、それこそ手が付けられなくなるのではないですか?」

 

「それは……」

 

私の言葉に理があると判断したのか、セナは黙り込んでしまいましたね。

しかし、この事態本当にどうしたらいいのでしょうか?誰か教えてください……

 

 

 

 

 

 

 

 

「あの悪魔、アクアの悪魔祓いの魔法をダクネスの耐久を使って耐えているようですね。ダクネスの職業はクルセイダー、光の魔法には特に強い耐久があります。それが防御特化のダクネスとなれば……」

 

常識を超えた、とんでもないレベルの耐久になるって事ですね。

それで、バニルは女神であるアクアの魔法に耐えていたのですか……

めぐみんのおかげで納得する事が出来ましたよ。でもそれで事態が好転するかと言うと、別の話になってしまうのですよね。

 

今現在は、ダクネスに取り付いたバニルに対してアクアは魔法を放ち、セナの連れてきた冒険者たちがそのアクアを庇うかたちでダクネスを取り囲んでいます。

何時ものダクネスであれば、冒険者たちに袋叩きになれるのでしょうが……

 

「くそっ!!どうしてあのダクネスに当てられないんだよ!!」

 

「畜生、ダクネスがこんなに強いなんて聞いてねぇぞ!!」

 

「駄目だ!剣を振ってもはじき返されるか、避けられてしまう!そして、今俺達が立っていられるのもダクネスが致命量になる所を避けているから……クソっ!!」

 

バニルの乗り移ったダクネスが異様なまでに強く、冒険者たちは攻めあぐねています。

それにしても、ダクネスのステータスを正しく使うとこれほどまでとは……出来ればダクネスには両手剣のスキルを取って貰いたいですよ。ここまで強ければカズマの悩みの種が一つ消えると思う居ますよ。

まあ、無理なんでしょうが……

 

「カズマ、何かいい案はありませんか?このままだとアクアが大変な事になってしまいますよ」

 

「そう言われてもな……一応、最終手段的な案は一つ思い浮かんだんだが……これ言ったらお前ら、絶対に俺から引くだろうしな……」

 

「なにを言ってるのですか!?アクアが助けるのであれば、引いたりしません!だからその案を早く行ってください!!」

 

案があると言うカズマにめぐみんは早く言えと追及しますが……

カズマはまだ迷ってるみたいですね。これだけ悩んでいると言う事は、カズマでも実行に移すのは躊躇してしまうほどの、外道な案に違いないでしょう。

下手すると私すらも躊躇するようなものの可能性があります。本能にこの外道の考え付くことは人の思考からかけ離れたものばかりですからね。

ともかく、カズマはようやく覚悟が出来たのか、ゆっくりとその案の事を話始めました。

 

「まず、ダクネスに取り付いたバニルがアクアに一撃を入れるだろう。そうなれば満足したバニルはダクネスから出て行こうとするはずだ。そしたら札を剥がしてやってダクネスを無事に取り返した後、急いでアクアを持って街に帰るんだ。街に着いたらギルドにいってプリーストにリザレクションでも…………」

 

「その案では、アクアは全く助かってないじゃないですか!!この外道冒険者!!」

 

うわぁ………………

めぐみんの言う通りアクアが助かってませんよ、それ。

まあ、アクアを助けられなかった時の案としては悪くないのかもしれませんが……今考えるようなことではないと思います。それは、実際にアクアが傷ついてから考える事ですよ。

本当にどんな思考回路をしているのか……

って私達が怒ったり引いたりした所為でカズマが「だから引くって言ったじゃん」っと言いながら背中に闇を纏った状態で丸くなってしまいました。

ちょっと引きすぎましたかね……でもそんな案を聞いて引かない人はいないと思います。

 

「と、ともかくカズマは案を考えてください。このままだとアクアが……!!」

 

「いいよ、どうせ俺の外道な案なんて聞くに堪えないだろう。だったらめぐみんが考えてくれよ。学園じゃトップの成績を取ってたんだろ?今こそ、その力を見せる時だ」

 

「えっ!?そんな事、私には無理ですよ!!この状態を好転させる案なんて……謝ります!引かないって宣言したのに引いてしまった事には謝ります!!なので、どうか良い案を考えてください!!」

 

完全にいじけてしまったようですね……

カズマを立ち直らせるのはめぐみんに任せることにして、私はバニルとアクアの様子を見守る事にしましょう。

決していじけたカズマの相手をするのが面倒だなんて事は思っていませんからね。一番の原因がめぐみんであるため、彼女に一任するのが正しいと思っただけです。

 

それにしても、バニルとアクアの戦いは一見拮抗状態のように見えますが……徐々にですがアクア側が不利になっていますね。

あの悪魔、段々と動きが良くなってるように見えます。ダクネスの抵抗が少なくなったからか、それともダクネスの身体に慣れてきたためか……理由までは分かりませんが、このままだと……

 

「がぁ……畜生っ!!」

 

聞こえてきたのは冒険者の悲鳴……

ダクネスの大剣に腹の辺りを叩かれたためです。

これによってバニルとアクアの間にあった壁の一部が削り取られたわけで……そしてその部分は広がっていくだけでしょう。そうなればバニルがアクアの所に辿り着くのは時間の問題のわけで……

私も行った方が良いですかね?でも今のダクネスに私が相手したところで、ほんの少し時間を稼ぐのがやっとだと思うんですよね。

それほど今のバニルに操られたダクネスは強くなっています。

 

「貴方は操られてるクルセイダーや奮闘しているプリーストの仲間なんですよね!?助けに行かないのですか!?」

 

「勿論、行かないわけではありませんが……正直、私が行ったところで事態は好転しないと思いますよ。精々、アクアが切られるまでの時間を引き延ばすのが限界です。事態を好転させられそうな人と言えば……」

 

私は未だにいじけているカズマの方に目をやります。そしてセナも私につられてしまったのか、彼女はカズマに縋りつくような視線を向け始めます。

そしてカズマのの隣を見ればめぐみんがアクアを助けてくれと土下座を始めていますし、そんな事を言っている私もカズマに……

そして……

 

「カズマさーん!!冒険者の人が次々と倒されてるんですけど!徐々に私に近寄ってる気がするんですけど!!今までで一番のピンチに陥ってる気がするんですけど!!私を助けてぇぇぇぇぇ!!」

 

そんなアクアの悲鳴が響いて来ました。

そしてそれを聞いたカズマは、一息を突くと立ち上がって大声で叫びます。

 

「しょうがねぇなぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「フハハハハハ!!フハハハハハハハ!!まさか、このような場所で我が宿敵と決着をつける事になろうとはな!覚悟は良いか、貴様を仲間の一撃をもって…………どうしたのだ。この場において紛うことなき最弱の男よ!貴様の性格を見通した上で、見通す悪魔が予言をしよう」

 

すでに冒険者は全て倒されてしまい、残るはアクア……そんな状態になったところでカズマが二人の合間に割って入りました。

カズマには何か作戦があると思いますが……頼みますよ。

 

「安定と平穏を求める汝に告ぐ。余計な事は考えず、このまま去るが良い。汝の折角の幸運は、目の前にいる運のない仲間の所為で、ものの見事に相殺されている。自らの身を守るには、パーティを切り替えるのが吉。さすれば汝には、今までの苦労が嘘のような幸運が訪れるであろう」

 

ま、不味い……

洞窟の中でやられた甘言と同じ様ですが、今回は何一つ間違っていないためカズマがそれに従いかねません。だって、カズマが何時も思っていそうな事ですし……

もし悪魔の甘言にカズマが惑わされたら……私はそんな不安を抱えつつカズマの方を向きますが……

そこには、それがどうしたと言わんばかりの平然としているカズマの姿がありました。

 

「俺の幸運が相殺されている?そんな事はな、やる事なる事全てを問題に変える駄女神や、息を吐くように金銭問題を引き起こす守銭奴に、壊してはいけない物を破壊する一発屋の魔法使い、しまいにはモンスターが居れば所かまわずに突っ込んでいく変態が仲間になった時点で分かりきってる事なんだよ!!それでもパーティー組んでるんだ!!なんか文句あるか!?」

 

み、耳が!耳が凄く痛いです!!

何ですか、その悲痛な叫びは!?魂からの叫びなんですか!?

なんか、今のカズマを直視できませんよ!なんか、めぐみんとアクアですら同じ状態になってるようですし……本当にすいませんでした!!

そして、セナもそんな目で私達を見つめるのはやめてください。今回の言葉は結構心に来ているのですよ。

 

「だいたい、ダクネスもそんなポッと出の奴に躾けられてるんじゃねぇよ!!そんな簡単に跪いていいのかよ?それともお前はチョロインなのか?これからチョロネスって言うぞ、このチョロいお手頃お嬢様め!!」

 

「フハハハハハ!!何を言っても無駄である!この娘の心は(誰が、お手頃お嬢だ!!別に躾けられたわけではない……だが、この悪魔の支配と心を抉る手段が、これまた巧妙で……!!)……一体、どんな神経をしているのだ。先程の守銭奴と言い、ここまで抵抗されたのは初めてのことだ」

 

変な神経をしていて悪かったですね。

でもあの程度の力、お金の為なら簡単に振りほどけます。

きっと他の人でも自らの欲望の為なら……こちらを向いているカズマの視線が痛くなってきたこの考えはやめましょう。

 

「ともかく、ダクネス!!今からその札を剥がしてやるから、そうなったらお前は身体を取り返してその仮面と取れ!後はアクアが魔法で何とかする!!」

 

「悪くない作戦だが、一つだけ重大な欠点がその作戦には存在するぞ。この中で最弱である貴様が、どうやって吾輩に付いた札を剥がすというのだ?今の吾輩はこの娘の力を完全に引き出しているのだぞ(そうだ、カズマ。今の私は誰と戦っても負ける気がしない)」

 

「なんでお前は敵と同調してるんだよ……ともかく、札は何とかするから仮面はお前が何とかしろよ」

 

どうやらダクネス、大勢の冒険者相手に大立ち回りを演じて調子に乗っているみたいですね。

一言だけ言うのであれば、それは貴方の力じゃなくてバニルの力によるものが大きいと思いますよ。

だって普段は当てられませんし……

ともかく、カズマは剣を抜くとそれを構えました。

 

「カズマ、魔法の準備は出来たわよ!!早くその札を何とかしなさい!!」

 

「簡単に言うんじゃねぇよ。まあ幾つか作戦は……」

 

「むむ、小僧。貴様何かを企んでいるな。貴様の後ろに佇む、ピカピカと眩しい奴の所為で、詳しく見通すことは出来ぬが……どうやら剣を合わせるつもりはないらしい(スティールだ!カズマはスティールを使って札を盗むつもりなんだ!!)」

 

「お前は俺の手の内を教えてどうするんだよ!!たく…………ダクネス!後で決闘での勝者の権利としてもの凄い要求をしてやるから覚悟しろ!!お前が泣いて嫌がる姿が目に浮かぶぜ!!」

 

「(な、なんだと!?カズマ、貴様いったいどのような要求を……!!)ええい!心を乱すな!!魔力を高め、スティールに耐える用意を……」

 

カズマの一言によってダクネスはあたふたと慌てはじめました。

凄い要求と言ってましたが……そういったことはしませんよね?ダクネスを動揺させるために言ったでまかせですよね?ほんの少しだけ気になって……ってこれじゃあ、私がカズマに好意があるみたいじゃないですか!?

なんで私は気になって……

 

って私も慌ててしまっている内に、カズマは剣をそこらへんに投げ捨てると、右手を突き出してダクネスに目掛けて突っ込み始めましたね。そしてダクネスはまだ動揺しているようです。

これならきっとスティールは……

 

「フハハハハハハ!!残念、この娘の動揺は封じ込ませてもらったわ!!動揺さえしてなければ、冒険者如きのスティールなど聞かぬわ!!貴様がスキルを使った後、仲間の剣をもって……」

 

「……『バインド』……」

 

ダクネスが突っ込んでくるカズマに目掛けて剣を構え、このままでは不味いと思った瞬間に聞こえてきた耳慣れた声……

その声と同時にダクネスに目掛けて大量のロープが襲い掛かりました。四方から伸びてきたそれは、両手足や腹回り、そして首やダクネスの持った大剣などのありとあらゆるところの巻きつくと、ダクネスの動きを完全に止めてしまいました。

そのロープをたどれば、ロープの端は地面に深く刺さっています。

 

そしてダクネスの後ろを見れば、少し疲れた様子のルリが……

って、ダンジョンの途中から姿が見えなくなったと思っていたら、これの準備をしていたのですね。

たぶんカズマに指示されたのだと思いますが……

 

ともかく、カズマは身動きの取れなくなったダクネスに近寄ると、普通に手で札を剥がし、ルリと一緒に急いでこちらに戻ってきました。

 

「何度も言ってるだろ、ダクネス!俺が正面から戦うとでも思ってるのか!?少しは学習しろ!!」

 

「(ああっ!カズマ、卑怯だぞ!!スティールを使うと思わせて、普通に剥がすなど……で、でも身体中を縛られるのは、これはまたこれで……)なぜか感じる喜びの感情……しかし、この見通す悪魔をだまくらかすとは、やるではないか!!後で褒美として、バニル人形を……」

 

「いらん。それよりも、ダクネス!!そのロープは直ぐ解けるから!そしたら、その仮面を取り剥がせ!!」

 

カズマがそう叫ぶと、彼の言った通り直ぐにロープは解けダクネスは再び自由に動けるようになりました。

ダクネスも何とか身体の支配を取り返したのか仮面に手を伸ばしますが……

 

「(……ッ!駄目だ、外せない!!)」

 

そんな……

でも、私が外そうとした際もバニルに抵抗されてたのか、一切仮面を外すことは出来ませんでしたから、今の状態は不思議ではありません。きっと今は私の時以上に抵抗しているはずですし……

ですがここで仮面を取って貰わないとバニルを倒すことは……ってなんか少し騒がしいですね。

私が音のする方向を向けばそこにはダンジョン入口から溢れてきたバニル人形が……って、これは不味いですよね。

それに気づいてめぐみんが慌てて爆裂魔法の詠唱を始めますが……それでもダンジョン内にはまだ多く残っているため時間稼ぎにしかならないでしょう。

あと一歩、あと一歩なのにどうしたら……

 

「(めぐみん、その爆裂魔法を私に当てろ)」

 

へ?

今なんて言いましたか、このお嬢様は?

 

「ダクネス?それ、本気で言ってるのか?」

 

「(勿論、本気だ。このままでは、アクアの魔法が通じないのだろう?ならば仕方ない……爆裂魔法で私諸共吹き飛ばしてしまえ)よし、ここは引き分けでどうだ?」

 

なんだか、バニルの余裕がなくなっている感じなので効果はありそうですが……

いくらダクネスが固いといっても、さすがに爆裂魔法を耐えるのは無理だと思いますよ。

めぐみんだって、それがわかっているので躊躇していますし……って、そのめぐみんの肩をカズマがやさしくポンッとたたきましたね。

 

「めぐみん、こうなってしまったら仕方がない。ダクネス諸共、バニルを吹き飛ばしてしまえ。なに、心配するな。ダクネスならきっと、最悪の場合でも死体だけは残るはずだ。なら後でアクアのリザレクションで……」

 

「本当にこの男は、今日は最悪の事しか言ってませんね!!お願いですから、仲間の死を作戦に組み込んのはやめてください!!」

 

この場にいる皆の軽蔑したような視線に早く気付いてください。

まあ、カズマとしても本気ではなくて、めぐみんの緊張を解きほぐすための、冗談のつもりで言ったのでしょうが……それがわかるのなんて、長い付き合いの私ぐらいなものですよ。

普通の人の前で言えば軽蔑されて当たり前のセリフです。

ともかく、めぐみんは覚悟を決めたのか、ダクネスをまっすぐと見据えます。

 

「いいか、今から十秒以内にダクネスから出ないのなら、爆裂魔法で吹き飛ばしてやる。それが嫌なら、ダクネスの身体から出ていくんだ。アクア!」

 

「わかってるわよ。もし、悪魔がダクネスの身体から出たら退魔魔法を使えばいいんでしょう。任せておきなさい、とっびきり強力なやつを食らわせてやるわ」

 

「おい!?本気で言っておるのか!?この娘の恐怖に怯える声を(そういえば、爆裂魔法をこの身に食らうのはこれが初めてだな。最初に見たときから、一度は食らってみたいと思っていたのだが……まさかそれが叶うとは……)………………」

 

「……恐怖ではなくて……期待の声……」

 

ルリの言うとおりですね。

まあ、ダクネスが悲鳴の一つでも上げるものなら、めぐみんは爆裂魔法を打ち込むのを躊躇ってしまうので、助かってはいるのですが……正直、微妙な気分ですよ。

 

「(見通す悪魔よ、ここまでのようだな。さあ、選べ。このまま爆裂魔法よって消し飛ばされるか、退魔魔法で浄化されるか、二つに一つだ)」

 

なんて無茶な選択……どちらにしろ、死ねって言っているようなものじゃないですか。

ともかく、そんな選択を突き出されてバニルは、ついに観念したのか、ゆっくりと言葉を紡ぎます。

 

「……吾輩は悪魔である。ならば、浄化されるなど真っ平だ!!さあ、そこの紅魔族の娘よ!やれるのならばやるが良い!!」

 

「めぐみん、やれっ!!」

 

「ダクネス、歯を食いしばって耐えてくださいね。『エクスプロージョン』ッ!!」

 

めぐみんが、爆裂魔法を解放……

そして、ダンジョンの入口には轟音が鳴り響き………………

この日、魔王軍幹部、見通す悪魔バニルは滅びを迎えることとなりました。




また、遅れてしまいすいません。
次も出来るだけ早く投稿できるように頑張ります。
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