「……つまんないの」
握り締めていた手を解き、壁などが砕けた瓦礫の山を一瞥して、少女は小さくため息を吐いた。
――人間はつまらない、だって遊んでくれないから。遊んでもすぐ壊れちゃうから。そう言ってその場にしゃがみこむ。
「また魔理沙とか霊夢とかが遊びに来ないかなぁ……」
孤独の寂しさを感じさせるそんな言葉を聞いて、
――隠れてやり過ごすつもりだったんだけどなあ。しょうがないなあ。
「……俺で良ければ、いつでも遊びに来てやるよ」
「えっ……!?」
瓦礫の山から現れたボロボロの俺を見て、戸惑っている様子のフラン。
「何で……生きてるの?」
「さあ。運が良かったのかな?」
勿論そんな筈はない。アレは運が良いとかそんな程度で回避出来る攻撃ではないからだ。一応理由はあるのだが……ここで教える必要は無いだろう。
困惑していた様子だったフランは一転、高らかに声を上げ、嬉しそうに笑った。
「ふふふ、貴方面白いね」
「そいつはどうも」
「じゃあ……次も壊れないでいてくれるかな?」
そう言ってさっきと同じ、破壊の動作を行おうとしたフランを叫んで止める。
「ちょっと待てっ!」
「え?」
「確かにその能力を使えば、俺の事を壊すことが出来る……しかし、それで本当に遊んでいるといえるのだろうか?」
「私は遊べてるし楽しいよ?」
不思議そうに聞き返すフラン。しかし、聞く耳を持ってもらえたならこっちの物だ。
「確かに俺を壊すだけでも、お前は遊べてるし楽しいかもしれない。しかし、そんな一時の快楽に身を任せていいのだろうか?」
「?」
「遊び上手な人間っていうのはな、フラン。同じ玩具を壊さずに遊び続けて、色々な使い方をしてずーっと使い続けるんだよ」
「私は遊ぶのが下手ってこと?」
「ああ。このままだと、まだまだペーペーな二流だな」
俺の言葉が少しでも堪えたのか、フランは頬を脹らませて不機嫌そうだ。
「……分かった。じゃあ私、ずっと貴方と遊ぶから。やめてって言われてもやめないからね!」
「ああ、臨むところだ」
臨むところだ、とは言ったもののいつかはここを抜け出すことになるんだけどな――と内心でフランに謝りつつ、笑顔で答えた。
「じゃあ何して遊ぶの?」
「うーん……ちょっと待っててくれ。本当、ちょっとだけだから」
地下室の扉を開け、階段を駆け上っていく。その途中で、道を塞ぐようにメイド服の少女――咲夜さんが現れた。
「何処に行くつもりですか」
「貴女や貴女の主に質問したいことも山ほどあるんですけど……まあとりあえず逃げるつもりはないです。ただ、玩具とかがあればいいなと思い、探しに行こうとしただけです」
「……少々お待ち下さい」
現れた時と同じく一瞬で姿を消した咲夜さんは、またもや一瞬で戻ってきた。
「お待たせしました」
「いや、全然待ってないですけど」
「ただの社交辞令なのでお気になさらず」
軽口を叩いていると、両手には収まりきらないほどの何かの山をその場に置いた。
「これだけあれば十分だとは思いますが、もし他にも何か必要なら言ってくれればすぐに揃えますわ」
「……ありがとうございます」
呆気に取られていると、咲夜さんは恭しくお辞儀をして何処かに消えた。床に置かれた玩具の山を抱えられるだけ抱えて、地下室へと戻る。
「待たせたねフラン」
「わー!」
俺が腕に抱えている玩具の山を見て、フランは目を輝かせているようだ。まだ階段の途中に少し残っているから後で取りにいかないと……
――それにしても、こんなに玩具があるなんて少し用意が良過ぎるような……作為的な感じがしないでもない。レミリア氏の能力で予知していたからか?
まあとりあえずそれは頭の片隅に置いておき、フランに話しかける。
「何して遊ぼうか?」
「んー……これ、何?」
フランが指差したのは中央に何かが入れられそうな空間が開いているベルト。大変お目が高い。
「腰に巻いてご覧」
「んー、こう?」
軽々とベルトを付けられる細いウェストが羨ましい。とちょっと嫉妬してしまったが、まあ子供用のモノだし、そんなワガママは胸の奥にしまっておく。
「この後どうするの?」
「ちょっと待ってて。それがあるってことは多分この辺に……」
玩具の山の中を軽く漁ると、果物の様な模様の錠前の様な物が出てきた。
「これをここにセットして、っと……あ、電源を入れてなかったな。ちょっと失礼するぞ」
ベルトを少し緩め、裏側のスイッチを押し電源を入れる。すると待機音が流れた。
「こっちも大丈夫かな……?」
電源を入れ、右にあるスイッチを押すとカチャ、という音ともに錠前が外れ、音声が流れた。
『オレンジ』
「よし、大丈夫だな」
「おー」
まだロックシードの音を流しただけなのに、少し楽しそうなフラン。この音が好きなら変身音でどハマリする可能性が高いぞ、と期待を寄せる。
「これをここにセットして、と……」
外れた錠前を挿し直すと、変身の待機音声が流れる。
「この右側に付いてる剣を、オレンジを斬るように降ろしてみて」
「うん」
シュバッ、と子気味いい音が響いた後に、変身音声が流れる。
『オレンジアームズ!花道、オンステージ!!』
「おおおー!!」
「やっぱりカッコイイよなー」
目を輝かせるフランを見てこちらまで楽しくなってくる。まだまだロックシードはありそうだし、咲夜さんに言えば他にもベルトがあるかもしれないし、仮面ライダーにハマらせられそうだなー。
――まあ普通にジェンガ(負けて怒ったフランが最後は粉々に砕いた)やらトランプ(二人しかいないからほとんど出来る遊びがなかったし、俺が全勝してしまった)やらオセロ(これだけは意外な事に、五戦目からフランが上手くなって全く勝てなくなった)やらをして遊んだ。
でも、フランは楽しんでくれているのだろうか。
「……フラン、楽しいか?」
「……負けると悔しいよ。でも楽しい」
鋭い牙を覗かせ、不敵に笑うフラン。そうか、と呟いて頭を撫でる。驚いた様子だったが、撫で続けると気持ち良さそうに目を細めた。それだけ見ると、ただのひとりの女の子だった。
「ねえ」
「何?」
「貴方のこと、お兄様って呼んでいい?」
「うん、いいよ」
「ありがとうお兄様!」
ぎゅっと俺に抱き着いてくるフラン。可愛い。俺も妹が出来た気分だ。
「さて、次は何をして遊ぼうか?」
「私、そろそろお腹空いてきちゃった……」
背中に悪寒が走る。――え、今仲良くなれたと思ったんだけど……もしかして結局は食糧として見られてる?
少しフランを疑ってしまったその時、見計らった様なタイミングでノックの音が響いた。
「失礼します、フランお嬢様、客人殿。おやつをお持ちしました」
「わー、ブラッドケーキだー!」
咲夜さんが持ってきた皿の上には、一つだけのブラッドケーキが。それを見て全てを悟った。
「フラン、俺はお腹が空いてないから、君が全部食べていいよ」
「いいの?ありがとう」
嬉しそうに笑って、ケーキを食べ始めるフラン。あっという間に食べ終えると、少し目を細めた。
「お兄様、何だか眠くなってきた……」
「寝ていいよ、フラン。おやすみ、良い夢を」
「……私が寝ても、側にいてくれるよね……?」
「………ごめん、フラン。俺はそろそろ行かなくちゃいけない。でも、絶対また戻ってくるから」
「……あー、そっかあ…………」
右手を前に伸ばし、フランは倒れる様に眠りについた。その体を抱き上げ、ベッドへと運んだ。
「お嬢様がお待ちしております」
「分かりました」
咲夜さんに連れられ、地下室を出て、図書館を抜けて、レミリア氏の部屋へと戻ってきた。コンコン、とノックして中に入ると、レミリア氏はテラスから月を眺めているようだった。
「一つ文句を言わせてもらっていいですか」
「ええ、どうぞ」
「わざわざ薬なんかを仕込んで地下室に運ばなくても、言ってくれれば俺はあの子の元へ行きました」
「そうかもしれないわね」
楽しそうにワインを飲む様子からして、例えそれが分かっていてもこの方法を取ったんだろうな、と思う。一時はヒヤヒヤしたが……とりあえず、今度ばかりは早苗に感謝しないとな。ポケットに入っていた、
「……っていうか、アレ絶対レミリアさんの趣味ですよね」
「ん?」
「変身グッズやら何やらの玩具のことです」
「何のことかしら?」
惚けるように笑うレミリア氏の様子を見て、少さく笑った。
――楽しかったし名残惜しいが……そろそろ帰るか。空に浮かぶ、満月を見ながら思う。何故か少し頭痛がするし、そろそろ行くか。
「色々とありがとうございました。その分迷惑もかけられましたけど」
「合わせてトントン、むしろこちらの大損だと思うけど。まあ気をつけて帰れ。何ならメイドに送らせようか?」
「そこまでして頂かなくても大丈夫ですよ」
「いや、今日は気をつけた方がいいわよ?満月の夜っていうのは、人も妖も月の魔力に取り憑かれておかしくなる。外の世界でも、満月の夜には犯罪が増えるらしいよ?」
「そーなのかー」
まあ犯罪だ何だとそんな事を言い出したら、普段から不法侵入やら窃盗やらの被害に遭いまくってる俺だからキリがない。はははと笑って、失礼することにした。
「それではこの辺で失礼します」
そういったものの、自分の言葉に違和感を覚えた。――失礼?失礼して何処へ向かうんだ?そもそも、俺は何をしていたんだっけ……?
「待ちなさい、満月の夜は犯罪が増えると言ったでしょう?貴方が誘拐されたり悪い妖怪に襲われたりなんかされたら、招待した私の威厳にも関わる。今日はもう遅いし、泊まっていきなさい」
「はあ、でも……」
「フランだって待ってるわよ?」
フラン――そうだ。
俺は、フランにまた帰ってくるって約束したんだ。
何をしようとしたのか思い出せないし、まあ忘れということはどうでもいいことなんだろう。レミリアにお辞儀して、再び地下室へと向かった。
「……今度は、私も行こうかな?」
ん、おかしいな。ポケットに何か入ってる……粉々になった何かをポケットから捨てて、歩き出した。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆
「………ごめん、フラン。俺はそろそろ行かなくちゃいけない。でも、絶対また戻ってくるから」
「……あー、そっかあ…………」
眠い。ひたすらに眠い。消えそうな意識の中、私を抱えベッドへと運んでくれるお兄様の暖かい温もりを感じた。なのに、足音が遠ざかっていく。ドアの開く音がする。
「……一人は……嫌だよ………」
伸ばしてあった手を強く握り締めた。大切な物を離さないように。それでいて壊れない様に、優しく。