やんでれびより   作:織葉 黎旺

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二。晩酌でも如何でしょう大妖怪様

 

 

寝れない。安眠なんか出来ない。どちらかというと永眠しそう。

 いつもなら結界が張ってあるということが気休め程度の安心感にはなるのだがあんなにあっさり破られているとは……今までは何もされなかった(もしくは気づいてなかった)だけで実は寝てる間に色々されてたんじゃないだろうか。文とかめちゃくちゃ寝顔とってたんじゃないか……?

 考え出すとキリがない。今果たして何時くらいなのだろう。早く朝になってほしかった。出来ることなら今すぐ博麗神社に行って御札を貰ってきたいが、行くまでに絶対妖怪に襲われると思う。それだけならまだいい。下手するとアリスやら文やらに助けられて借りを作る羽目になる。それは大変好ましくない……極論御札を貰うだけなら早苗に頼めばすぐにくれるだろうけどその場合確実に早苗が我が家に住み込むことになる。あれこれ名目を作って迫って来るに決まってる。

 

 

 

 

 ……別にあいつらが嫌いなわけではないがしつこいのは嫌いなのだ。大きく嘆息し、何か飲み物でも飲もうとのそりと起き上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ******

 

「月が綺麗だなあ」

 

 幻想世界の夜は明るい。星や月が闇を優しく包み込んでいるからだ。同じ日本の中にあるはずなのに何故ここまでの違いが生まれるんだろう。なんて、管理者でも分からないようなくだらないことを考えながら、グラスの上の月を飲み干す。

 

「……はあ」

 

 酒なんか飲んだもんだから尚更眠気が覚めてしまった。しかし飲み出すと欲しくなるのはやはり肴だ。はてさて、何か良いものがあったかどうか……

 

「つまみがほしい」

 

 貯蔵庫の中はすっからかんだった。冷静に考えてみると家で料理を作るわけでもないのに、んなもんあるはずがない。

 

「駄菓子でも買っとけば良かったかな」

 

 まあしょうがないか、この空だけでも現代生まれの自分としては大変美味しい肴である。

 

「月が綺麗な夜ね」

「そうですね……って、ん?」

「あら?」

 

 声がした方を振り向くと、そこには夜であるにも関わらずひらひらの付いた少女趣味のフワフワな傘を差す美女、"妖怪の賢者"八雲紫が立っていた。

 

「月夜に金髪が映えてお綺麗ですよ」

「相変わらず歯の浮くようなお世辞ね」

 

 苦笑しつつも、しかし嬉しそうな様子の紫さん。何かを俺の方に差し出して微笑む。

 

「おつまみ持ってきたわよ?」

 

 妖怪だけど天使に見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 *****

 

「相変わらず貴方は楽しそうな毎日を送ってるわよね」

「楽しそうだなんてそんな滅相もない」

 

 喋りながら紫さんの持つお猪口に芋焼酎を注ぐ。

 

「確かに端から見たら楽しそうかもしれませんけど当人としてはもうすごく大変ですからね。その苦労っていったらもう滅茶苦茶ですよ。何で結界破って不法侵入してくるんだよあいつらぁぁぁぁぁ!!」

「はいはい、大分出来上がってきてるわねもう」

 

 グラスのワインを一気に飲み干す。急性アルコール中毒なんて知るか。酒に溺れて全てを忘れたい気分だった。

 

「それでも、現代の生活に比べればマシでしょう?」

「……それはまあ……」

 

 あの頃の話を持ち出されるとどうにもやりにくい。否定したいのだけれど肯定もしたい、矛盾した感情が心の中で渦を巻いている。

 

「人間は二律背反を抱え込める生き物だもの。白黒つけたがる閻魔などとは違いますわ」

「じゃあ妖怪はどうなんです?」

「ふふふ」

 

 いつの間にか紫さんは口元を扇子で隠しながら微笑んでいた。紫さんがこうしてるときは大体こちらを品定めしてるか嘲笑っているかどっちかだ。

 

「心外ね」

「考えてくることを読むなんて貴女は覚り妖怪か何かなんですか?」

「あら、このくらいは訓練やら何やらですぐ出来るようになるわよ」

 

 安楽椅子探偵を目指したことがあったのよ、なんて言って笑う紫さんだが確実に嘘だろうそれは。能力やら何やら使えば余裕だろうし。

 

「仕事は見つかったの?」

「……いや、まだそれは」

「貴方が就職できないなんて、幻想郷にも不況の波が迫ってきてるのかしら?」

「笑い事じゃないんですが……」

「まあ貴方なら簡単に紐になれそうだし、良い御身分よねえ」

「良い身分なんかじゃ全然ないですよ……」

 

 というかそのせいでまともな働き口にありつけないのだ。仕事先にまでヤンデレ少女達はおしかけてくるからな。文が俺の働いてる場面を撮って新聞に載せるからそのせいでそれがバレて、結果的に皆押し掛けてきて、しかも色々やらかすから迷惑なのだ。

 

「長い付き合いだし、もしよければ仕事を提供してあげても良いわよ?」

「え、本当ですか?それはありがたいですが」

「多分雇ってくれるはずよ、しかも言う程働かなくて済むわ。全然お客の来ない骨董品みたいな古道具屋ですから」

「そんな店の店主が俺を雇ってくれるかどうかっていうのが疑問なんですが」

「雇わせるから大丈夫よ」

 

 まあ紫さんがそういうなら大丈夫何でしょうね、と呟いて今度は芋焼酎を一口飲んだ。うーん、俺はやはり日本酒より洋酒の方が好きかもしれない。

 ……何か違和感を感じたが、それを気にしてはいけない。紫さんとの会話での違和感を好奇心で掬い上げても絶対にメリットは無い。

 気さくに接していても相手は大妖怪なのだ。下手につついて蛇を出したくはない。

 

「……そういう考え方をされるのは、少し寂しいかしら」

「どうしました?」

「いえ、そろそろ眠くなってきたなと思っただけよ」

 

 妖怪なのに珍しいですね、と呟くと紫さんはそういう日もあるのよ、と言って軽く微笑んだ。

 

「良い時間を過ごせたわ、ありがとう。これからも色々見させてもらうわ。それじゃあ良い夜を」

「まあもう寝ますけどね。それではまた、お休みなさい」

「お休みなさい」

 

 紫さんはあっという間に暗いスキマの奥深くへと消えていった。疲れていたのかどうか分からないが、急に眠気の波が押し寄せてきた。敷いておいた布団へとダイブする。

 

「……明日は……博霊神社に行って……後は…………んー…………」

 

 両手を広げ、全身を大きく伸ばした。そうすると明日のことなどどうでもよくなる。今はゆっくり寝よう。

 ――出来ることなら、明日は普通に目覚めたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ****

 

 青年が寝た後、部屋の隅、布団の中からは見えない位置に小さな空間の裂目が開いた。そこからゆっくりと顔を出した八雲紫は、愛おしそうに男を眺め呟く。

 

「見させてもらうわよ……ずっと、ずっと…………ね?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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