加賀さんは後進の育成に専念するようです   作:時環

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次の投稿で終わると言ったな

あれは嘘だ


姉妹 ―鶴のお話・後編その1―

五航戦の二人を含む主力艦隊が敵主力艦隊の撃退に成功した。

作戦の完遂と二人の無事の知らせを聞いた加賀は、息を吐いて胸を撫で下ろす。

加賀は普段秘書艦をしている金剛が出撃しているので、代理で提督の秘書艦に着いていた。

赤レンガの執務室には、艦隊情報が早く入って来るので、提督の配慮もあったのだろう。

加賀は二人の成長も信じていたが、何よりも僚艦に長門型や金剛がいる。

あの三人が着いていれば大丈夫だと頭ではわかっていたが、それでも無事の知らせを聞いて加賀の中で緊張が解れた。

 

―流石に今回ばかりは二人を素直に褒めてあげなければね―

 

葛城との一件から加賀の中では、何をしたらあの二人を手放しで褒めようかずっと考えていた。

思い返せば何かと小言ばかりを言っていたので、相当嫌われていても可笑しくはなかった。

それでも二人は直向きなまでに自分の厳しい鍛錬にも着いてきて、それを見事に成し遂げた。

 

―本来ならばこういう役割は赤城さんにやって貰いたかったのだけれども―

 

提督の執務机の上に飾られている、かつての戦友達の写し出された写真を見て加賀はそんなことを考えていた。

あの時、赤城が無事に帰っていたのなら―――珍しく加賀はかもしれない仮定のことを考えていた。

やがて艦隊が作戦海域から凱旋する、と連絡があり漸く提督も肩の荷が降りたように背もたれに体を預ける。

 

「お疲れ様です、提督」

「ああ、加賀も慣れない秘書艦代理お疲れ様」

「いえ、私は基本的に何もしていません」

 

これは世辞ではなくほぼ事実だった。

秘書官代理と言っても大淀の補佐があり、彼女が殆どの業務を遂行していた。

 

「心配性な加賀のことだから二人の安否が気になるかと思ってな」

「私はあの子達の心配などしていません」

「そうか?敵主力艦隊撃破の報告よりも、

 二人の一応の無事を聞いたときの方が、表情が和らいでいたぞ」

 

そんな馬鹿なと言いたげに加賀は自分の口元を左手で覆う。

最早その仕草で丸わかりのようなものだった。

鎮守府に帰投するまでに時間はあるので、提督は執務室に残り後処理をそのまま行う。

加賀は提督の代わりに艦隊の出迎えを命じられ、波止場へと足を向けていた。

鎮守府近海の水平線の向こうに、主力艦隊と護衛艦隊を乗せた輸送船の姿が見える。

既に葛城が実戦形式の鍛錬を行いながら、主力艦隊の帰りを待っていた。

残心の後、加賀に気付いた葛城が足場近くへと来た。

 

「お疲れ様、実戦形式での鍛錬はどうかしら?」

「お疲れ様です。やっぱり慣れないと難しいですね!

 足場が確りしていないので、的に当てるのだけでも一苦労です!」

 

元気一杯に言われても困るのだが、と加賀は苦笑するしかなかった。

実戦形式の訓練も行うようになってから一週間は経っていた。

そろそろ足さばきや体勢の整え方も身に着けなければならない。

こればっかりは、体験して経験を積むしかないので、艦娘によって修得の速さには個人差が大きく出る。

(赤城は始めて丸一日程度で修得してしまったので、当時の嚮導役を仰天させた)

葛城の鍛錬を見ていると、輸送船が大分近くにまで来ていた。

もうすぐで会えると思うと葛城は少し緊張した面持ちで、加賀は安心しきった面持ちで出迎える。

中破した翔鶴が瑞鳳に介抱されながら船から降りる、骨折した腕は一先ず簡単に固定されていた。

 

「その右腕は……」

「私の不注意です、申し訳ありません」

 

よく見れば右腕だけではなく、装甲化された飛行甲板までもが見るも無残な状態だった。

それだけに戦闘は激しいものだったのだろうと、葛城は思わず固唾を呑み込む。

加賀はこの状況に違和感を覚えていたが、その原因はすぐにわかった。

主力艦隊の残りの瑞鶴が船から降りるや否や、不機嫌そうにそのまま空母寮へと歩き出していた。

いつもの瑞鶴ならこんな怪我を負った翔鶴を放っておいて、勝手に帰ることなどまず有り得ない。

葛城もそれに気付いた様で、不安そうに翔鶴と瑞鶴を交互に見つめている。

 

「兎に角、貴女はすぐに明石のところへ行って修復してもらいなさい。

 腕の骨折なら入渠すればすぐに治るでしょう」

「はい、金剛さんお先に入渠ドックに行かせて頂きます」

 

ドックへ行く前に艦隊旗艦である金剛に了承を取る、金剛はいつもの気さくな笑顔で了解と告げた。

翔鶴と瑞鳳、更に葛城も伴って入渠ドックへと行ったタイミングを見計らって金剛は加賀に話しかける。

 

「Youは二人の教育係りなので、今作戦の出来事を伝えておきマース」

「それならば、翔鶴について私からも報告がある。加賀には悪いが鎮守府本部で話し合おう」

「そうしてもらえると助かるわ、全く二人ともまだまだな様ね」

 

思わず悪態を吐いてしまう、人が手放しで褒めてあげようかと思った矢先のこの空気だ。

流石の加賀も自分の間の悪さに呆れつつも、そう言うしかなかった。

 

 

 

赤レンガの鎮守府の小さな会議室で金剛、長門は加賀に今作戦の出来事を話した。

作戦は大成功で終わったのだが、二人の軋轢が帰投後のあの険悪な空気の原因だとわかった。

 

「そういう事ね、二人の関係性については一先ず置いておくとして気になるのは翔鶴の方ね」

「あの時の翔鶴は正直言えばどちらが深海棲艦かわからなかったぐらいだな」

「言語をmasterした個体は幾つか居ますからネー」

「そしてお前たちも知っているだろうが、あの様な状態になった艦娘を一人だけ知っているだろう」

 

加賀達の脳裏に想起されたのは、かつて鎮守府の機動部隊の不動のエースにして一航戦を務めた艦娘。

黒く長い髪と瞳を持ち、長弓を携えて射掛ければ脅威の命中率を叩き出していた、赤城の姿だった。

 

「赤城さん」

 

反芻するように加賀は彼女の名を口にする。

彼女が沈んでから加賀の口から名前が出たのを、金剛達は初めて聞いた。

 

「赤城さんも、極度の集中状態では翔鶴と同じ状態になっていたわね」

 

先の作戦で翔鶴は開幕攻撃時にまるで呪詛の如く、『沈め』という言葉を繰り返していた。

その言葉は深海棲艦でも姫や鬼級の上位種が良く口にする言葉だった。

勿論、艦娘の中でこの言葉を使う者がいない訳ではない。

ただ空母が艦載機に意識を集中する状態、一種のトランス状態になって言葉を発することは稀だ。

遠距離からの艦載機の操作には尋常ではない集中力を要求される。

そんなほぼ無意識の状態で、その者の本質が現れる状態で深海棲艦に近い行動を取るということは

 

「もしかしたら翔鶴も()()()()に近付き過ぎているのではないのか?」

「改二改装によって何等かの変化があったかもしれませんネー」

「そういう事もあるのか?私も加賀も改二改装はしたことがないからわからないのだが」

「本来ならば私達は兵器デース、テートクがどれだけ私達を大事にしてくれてもそれは変わらないネー」

 

何でもないことのように金剛は、紅茶を飲み下しながら言う。

 

「そしてそれは深海棲艦も同じネー、If(ならば)私達とは何が違うのでしょう?

 強化されるということはそれだけ兵器の姿に近付くものだと私は考えマース

 つまり、私達が艦娘としていられる何かを代償に兵器へと近付いているかもしれせんネー」

「強くなればなるだけ、深海棲艦に近付いている、ということかしら?」

「深海棲艦に近付くというよりもborder(境界)が曖昧になってる気がしマース

 なので、ちょっとした切っ掛けさえあれば No problem デース」

「切っ掛け、というと?」

For example,(例えば)……その艦娘にとって大事にしてるものとかデース。

 ナガモンならムッツーとか」

「だ、大事って……それは妹分なのだから当然だろう」

 

思わぬ変化球に長門が少々赤くなりながら言葉を濁す。

 

「何だかrealな反応が返ってきましたネー

 Jokeは兎も角、翔鶴にとっての大事なものは明白デース」

「まぁ、とっても判りやすいわね」

「私が言うのも何だか奴は相当なアレだからな」

 

三人とも呆れるように溜息を吐く、翔鶴の大事なものは誰がどう考えても妹の瑞鶴だった。

なので、現在の瑞鶴との険悪な状態は余り好ましくはない。

赤城と同じ状態に陥っている、ということは彼女と同じ結末を辿る可能性が高い。

それを回避する為、出来れば瑞鶴との関係修復の切っ掛けを作り出せないものか。

 

「私には妹がいないから特に出来るアドバイスはないわ。貴女達はどう?」

「私は……人のことが言える立場では余りないな」

「そうですネー、初めてムッツーを実戦に連れて行った時のナガモンのReactionは凄かったデース」

「あれはもう忘れろぉ!!」

 

羞恥に顔面を歪めて長門は額を机にぶつける、その衝撃で机は真っ二つに破壊された。

机に置かれていたティーセットをすかさず金剛が持ち上げていたので、

机が壊れた程度で済んだが、また備品の修理担当もしている明石に小言を言われるだろう。

 

「そういうコントはまたの機会にして貰いたいものね」

「すまん」

「それで、金剛は思うところはないのかしら?」

「そうですネー、言いたいことは山ほどあるので入渠が終わったら、

 翔鶴に執務室に来るように言ってもらえますカー?」

 

笑顔の圧力に加賀も長門も緊張感を走らせる。

やはり金剛は少なからず翔鶴に対して、思うところが色々とあったらしい。

加賀は小さく程々にして頂戴と呟いた。

 

「それと申し訳ありませんが、加賀から瑞鶴にビンタして悪かったと伝えて欲しいデース

 暫くはまともに話も聞いてくれないと思うのでお願いしマース」

「構わないけれども、私は謝罪を伝えるだけよ。後でちゃんと自分でもフォローして頂戴」

「勿論デース!では、加賀も上手く瑞鶴を説教してあげて下サーイ」

「それはそうと、私の教え子達のせいで折角の凱旋が台無しになってしまってごめんなさいね」

「気にするな、瑞鶴の性格上いずれはああやって不満は爆発してただろうさ。

 ガス抜きという訳ではないが、アイツは鬱憤を溜め込むタイプじゃないからな」

「誰かさんと同じで、感情をstraightにぶつけてくれるのでわかりやすいデース」

 

二人が加賀をじっと見つめると、加賀は罰が悪くなって顔を逸らした。

以前に赤城にも加賀は表情に出ない割りには感情を言葉に良くしている、と言われていた。

 

「兎も角、申し訳ないけれども翔鶴のことは任せます。では私は瑞鶴の所へ行くわ」

 

足早に部屋を後にした加賀を、金剛と長門が見送る。

完全に加賀が遠のいたことを確認してから、長門が口を開く。

 

「なぁ、そんなに陸奥の初陣の時の私は酷かったのか?」

「No,妹のことを真剣に思いやるからこその行動デース

 私は茶化しはしますけれども、笑ったりはしマセーン」

「余計に性質が悪い気がするぞ、それは」

 




その2はそこまで時間かからない筈です
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