加賀さんは後進の育成に専念するようです   作:時環

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姉妹 ―鶴のお話・後編その2―

鎮守府に帰投して、そのまま空母寮に帰ってしまった私はやや消沈して布団に埋もれていた。

今の私は感情に振り回されて思考もまともに働かない。

翔鶴姉に庇われたことに関して、まず湧き上がった感情が怒りであることは間違いなかった。

そこから色々な感情がない交ぜになって、私の中でドロドロとしたものになってしまった。

その結果が大好きな姉に対して、大嫌いと言ってしまう寸前まで来てしまった。

 

―普段だったら、翔鶴姉にあんなこと絶対に言わないのに―

 

今でも翔鶴姉のことが好きなことに変わりはないし、今すぐに仲直りだってしたい。

けれどもこの状況を許すことが出来ない自分がいるのも、また事実だった。

今回のことは自分の詳細不明な、感情の理由を知らなければ意味がない。

上辺だけの謝罪を述べて、以前の関係に戻るだけでは根本の解決には至らない。

いずれはまた今回の様なことを繰り返してしまうだけだろう。

 

―あーもう!自分の事なのに何でこんなにわっかり難いのよ!―

 

体を投げ出している布団の上で思わずじたばたするが、何の解決にもならない。

こんなに感情が複雑なものだと思ったのは、初めてのことだった。

今までは自分の気持ちを素直に受け止め、言葉にすることが出来たのに今はそれが出来ない。

苛立ちだけが募っていくが、布団に横たわったままでいたので昨夜のことを思い出した。

少し不安そうに翔鶴姉がしていたので、今晩は一緒の布団で寝ようと私が提案したのだった。

 

 

 

 

『やっぱり、一人用の布団で二人一緒に寝るのは少し狭いわね』

『うん。でもさ、こうしてる方がお互いの体温を感じられて、何だか安心出来ないかな?』

 

 一人用の布団で無理に二人で入っているので、体は密着した状態だ。

 私の顔のすぐ目の前には翔鶴姉の顔があった、少し困惑しつつもこの状況を嫌がってはいない。

 長く綺麗な銀髪は月の光を浴びて神々しく輝いているようだった。翔鶴姉の睫毛長いなぁ。

 

『瑞鶴、どうかしたの?』

『な、何でもないよ!明日は早いし、もう寝ちゃお!』

『そうね、おやすみなさい瑞鶴』

 

 私もおやすみを言って目を閉じる。

 しかし、目を閉じると視覚以外の感覚が鋭利になって私の理性を攻めたてる。

 体の至る所では翔鶴姉のぬくもりや感触(翔鶴姉柔らかいなぁ)、

 耳からは寝息(寝息可愛いなぁ)がより強く感じられる。

 鼻孔に至っては翔鶴姉からする甘い香りが、私の理性の箍を吹き飛ばしに来ている。

 私と同じシャンプーやらボディソープ使ってるのに、何でこんな良い匂いがするんだろう。

 堪らなくなって私は目を開ける、すると翔鶴姉の寝顔が視界を覆うように見える。

 余計に動悸が激しくなってしまった。

 こんな無防備な姿を見せるのは、私が妹だから何だろう。

 私だって翔鶴姉とじゃないと同衾なんて絶対に出来ない。

 このまま寝顔を見つめていると、何か間違いを起こしてしまいかねない。

 私の視界は彷徨って次には翔鶴姉の、煌々とした銀色の髪を捉えた。

 緑がかった黒い髪の私とは正反対な、とても綺麗な髪色、いつもこの髪を梳いている。

 思わず髪に触れると、その香りが一時的に増した。

 いつも梳いていた髪を撫でたからか、私の激しく乱れた心は落ち着きを取り戻し眠れた。

 

 

 

布団に横たわっていると、その時の香りが微かにまだ残っている。

このままじゃ駄目だ。

それはわかっているのに何を謝ればいいのか、何が不満なのかわからない。

ふと気付けば、そのまま寮に帰って来てしまったので補給すらまだしていない。

空腹なままで考え事をしていても、悪い方向にばかり思考が傾いてしまう。

 

―取りあえず、間宮へ行こう―

 

少々名残惜しいが、現実逃避の為の布団から起き上がって私は間宮へと向かう。

 

 

 

間宮には先の作戦の護衛を務めてくれた艦娘達の他に、陸奥さんの姿があった。

私に気がついた陸奥さんは気さくに手招きをした。

私もそれに応えて陸奥さんの向かいの席に座る。

 

「少しは落ち着いた?」

「はい、まだ私の中では納得出来てはいませんけれども」

「あらあら、そういう事もあるわよね」

「陸奥さんは長門さんと喧嘩はしないんですか?」

「そうねぇ喧嘩らしい喧嘩はしたことはないわね。

 寧ろ私と長門が殴り合いでもしたら鎮守府が壊滅しちゃうかも」

「それは流石に………………ごめんなさい、やっぱり喧嘩しないで下さい」

 

戦艦と戦艦の殴り合いは、戦場で何度も見たことがある光景だった。

特に長門型の二隻は先の作戦でも活躍したように

艦娘の中でも近接格闘に精通している珍しい姉妹だ。

あれを鎮守府でやられてしまっては、堪ったものではない。

また明石が過労で倒れる寸前まで忙殺されてしまう。

陸奥さんは冗談だと付け加えたけれども、長門さんと二人なら

他の艦娘の妨害が無ければ簡単にこの鎮守府を壊滅出来るだろう。

 

「でも喧嘩なんてしない方がいいですよ。

 翔鶴姉とどんな顔して会えば良いのかわからないし」

 

自分から吹っ掛けた喧嘩なので、

自分から謝るのが筋だとは私は思っていた。

しかし、何が悪いのかわからないのに

ただ言葉だけの謝辞はしたくないと陸奥に相談する。

 

「そうねぇ、少し難しく考えすぎなんじゃないの?」

「そうかもしれませんけど原因を突き止めないと

 また喧嘩になっちゃうかもしれませんし」

「そ、そう……(意外と理詰めで物事を考えてるのね)」

 

陸奥さんの冗談を聞いても曇った私の表情を見て、陸奥さんも少し考える素振りを見せる。

難しそうな顔をしていたが、急に目を見開いてあることを提案して来た。

私は陸奥さんの提案に驚いたが、その提案に乗ってみることにする。

 

 

 

空母寮の瑞鶴の自室には既に彼女の姿は無く、加賀は他に宛ても無いので射場にやって来た。

加賀の直感通り、瑞鶴は補給を済ませてから鍛錬をしていた。

瑞鶴は加賀が入って来たことにも気付かないほど集中しており、表情には迷(・)い(・)が(・)な(・)か(・)っ(・)た(・)。

放った矢は空気を裂きながら的の真ん中を射貫く、思わず加賀はその所作に見惚れてしまっていた。

 

「見事なものね」

「え、加賀さん!?何時の間に来たの!?」

「つい今しがたよ、全く気付かなかったみたいね」

「むむむ、射掛けている時はどうしても……というか加賀さん今の褒めたの?」

「何のことかしら?そんなことよりも先の作戦のことだけれども」

「翔鶴姉とのことだよね、私も加賀さんに相談したいことがあるの」

「相談?いいけれども」

 

心に決めたこととは言え、瑞鶴は深く呼吸をして絞り出す様に言葉を紡ぐ。

 

「私、五航戦を抜けます!」

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