加賀さんは後進の育成に専念するようです   作:時環

13 / 30
姉妹 ―鶴のお話・後編その4―

西日の差す鎮守府の射場で、瑞鶴と加賀は向かい合っていた。

瑞鶴の言われた言葉に、加賀は怪訝な表情をする。

 

「五航戦を抜ける、ですって?」

「うん。あー、でも艦隊を除隊するっていう意味じゃなくて、

 翔鶴姉とのコンビを解消したいという意味でね」

「翔鶴とのコンビを解消……」

 

加賀は少し困惑していた。最悪の展開になってしまっているのではないかと考えてしまう。

翔鶴には瑞鶴との絆が必要であると、先ほど金剛や長門と話していたところだ。

ここは瑞鶴を宥めるべきなのかどうか、慎重に考えなければいけない。

 

「だから加賀さんからも提督に口添えをしてくれないかなーと思って」

「急に言われても承諾は出来ないわ。貴女の意見を聞かせて頂戴」

 

瑞鶴は真向から否定されると思ったので、少々面食らった表情をしたがすぐに考えを述べる。

 

「今回の作戦で翔鶴姉と喧嘩してしまって、凱旋を台無しにしたのはごめんなさい。

 でも、私が翔鶴姉の行動にどういった感情を覚えたのかまだよく解ってないの。

 理由もわかってないのに口だけの謝罪を述べたって、そんなのは解決にはならないし」

 

自分の現在の状況を整理する様に、瑞鶴が訥々と考えを述べる。

加賀が一切口を挟まずに黙って聞いてくれているので、

瑞鶴は自分の意見を真剣に聞いてくれると解釈して続けた。

 

「だから、一度翔鶴姉とは距離を置こうと思ってコンビを解消して考えてみたい。

 陸奥さんにも、離れていた方が見えることもあるんじゃないかって言っていたし」

「そう、陸奥がそんなことを言っていたのね」

 

かつて長門とひと悶着のあった陸奥が言うのならば、説得力も出てくる。

確かに自分の感情に素直な瑞鶴が、その場しのぎの謝罪をしたとしてもすぐに問題が起こるだろう。

ならば瑞鶴が彼女なりに答えを導き出した上で、関係を修復した方が良いかもしれない。

しかし悪戯に時間をかけ過ぎると、瑞鶴と翔鶴の間に溝が出来てしまう危険性もある。

 

「本当にいいのね?貴女が大事にしていた五航戦を解消してしまっても」

「うん、私と翔鶴姉の絆はそんな簡単に切れないと信じてる。

 何となくだけど、沈(・)む(・)時(・)は(・)翔(・)鶴(・)姉(・)と(・)同(・)じ(・)日(・)に(・)な(・)る(・)と(・)思(・)う(・)」

 

そう言った瑞鶴の表情は、西日の逆光で良く見ることが出来なかった。

加賀には西日を背に浴びる瑞鶴の姿が、血に塗れているように見える。

 

「縁起でもないことを言わないで頂戴!」

 

加賀は瑞鶴の発言に、大声を上げずにはいられなかった。

瑞鶴が面食らっているが、それでも加賀はお構いなしに捲し立てる。

 

「私はもう、置いて行かれるのは嫌よ。

 あんな思いをするのは二度と御免だわ。

 貴女がどう思っているのかは知らないけれども貴女は私の……」

 

加賀は言葉に詰まった。この先の言葉は普段は言えなかった事だったからだ。

 

「私の、何?」

 

加賀は聞き流して欲しいと願っていただけに、聞き返してくる瑞鶴に煩わしさを覚える。

言葉を濁して逃げることは許さないと、瑞鶴の瞳が真っすぐに加賀の瞳を見つめている。

 

「私の、わたしの…………妹みたいなものなのだから」

「妹?」

「そうよ、翔鶴も含めて、ね」

 

今まで素直に言えなかった事を暴露したので、加賀は自分の顔が紅潮するのを自覚した。

加賀を真っすぐに見つめていた瑞鶴の表情も、西日の影になっているが真っ赤になっている。

 

「そう、なんだ。へー……『妹』か」

「貴女にとっての姉は翔鶴でしょうけどね、私が勝手に思っているだけよ。気にしないで頂戴」

「あー、うん。不用意な発言をしたことは謝ります」

「わかってくれればいいのよ。提督への口添えの件は承諾するわ」

「勝手なことばっかりしている私の意見を聞いてくれて、ありがとう

 えと…………お姉ちゃん」

 

加賀は瑞鶴の予想だにしない発言に思わず吹き出してしまう。

 

「ちょ、何でそこで笑うのよ!?加賀さんが言い出したことでしょう!?」

「やっぱり貴女に姉扱いされるのは慣れないから、先程の発言はなかったことにして頂戴」

「く、やっぱり私のお姉ちゃんは翔鶴姉だけよ!」

「ああ、それと金剛がぶったりして悪かったと言っていたわ」

「そっか、嫌な役を押し付けて金剛にも悪いことしたかなぁ」

 

 

 

 

執務室での一件が終わり、私は空母寮の自室に戻って荷物の整理を進めていた。

敷きっぱなしの布団は少し乱れている。恐らく帰投後に瑞鶴はこの部屋に戻っていたのだろう。

私は昨晩に瑞鶴と同じ布団で一緒に眠ったことを思い出す。

改二改装を受けて初めての出撃前で、不安だった私を気遣ってくれてのことだった。

瑞鶴の匂い・感触・温もり・鼓動は今でも鮮明に思い出せる。

私をあやす様に髪を撫でてくれたことも、とても嬉しく思えた。

私の瞼を優しくノックするように朝日が部屋に差し込み、目が覚めた時には瑞鶴の寝顔が映る。

可愛い私の瑞鶴、その顔立ちも、鶯色の綺麗な髪もただ見つめるだけで私の胸の中が満たされる。

きっとこの感覚が、他の艦娘たちが言っていた『愛おしい』という感情なのだろう。

今思えば、今朝には私は自分の心の存在に気付いていた筈だった。

それと同時に瑞鶴にも心があるということにも気付けただろう。

けれども私は、金剛さんに指摘されるまで私達に心があることを自覚出来なかった。

 

―瑞鶴の気持ちを蔑ろにしていたのだから、瑞鶴が怒るのも無理ないわね―

 

茜色の空は仄かに紺色が混ざり始まり、今日という日の終わりを示していた。

乱れている布団を整えていると、扉が開く。

 

「ただいま、翔鶴姉」

「おかえりなさい、瑞鶴」

 

私は帰ってきた瑞鶴の表情を一目見て、悟った。

瑞(・)鶴(・)も(・)私(・)と(・)同(・)じ(・)結(・)論(・)に(・)達(・)し(・)た(・)の(・)だ(・)ろ(・)う(・)。

瑞鶴は座布団に座り込み、私はその隣に座り込み、二人揃って薄暗くなって行く外を眺める。

 

「瑞鶴、今日提督に進言をしたの」

「うん」

「私達五航戦はコンビを解消、明日からは別の僚艦とコンビを組むことになったわ」

「うん」

「暫く一緒に出撃する日も、一緒に訓練をする日もなくなると思うわ」

「うん」

「部屋も、私は別の部屋に移ることになったから夜も別々になるわ」

「うん」

 

この辺で瑞鶴の声が震え始めている。

顔を見なくても、瑞鶴がどんな顔をしているのかはわかる。

 

「瑞鶴、大好きよ。いいえ、『愛』してるわ」

「うん、私も翔鶴姉が……翔鶴姉を『愛』してる」

「だから、きっとまた相棒として一緒に戦いましょうね」

「うん、必ず今日の事を謝るから待っていてね」

 

その日は、それぞれの布団で一夜を過ごした。

夜が明けて、新しい朝と日常が始まる。

瞼を開ければ見慣れた天井が映り、横を向けば愛しい妹の寝顔があった。

起こさないようにそっと頬に手を触れると、瑞鶴はくすぐったそうに声を出す。

布団から起き上がり、昨晩まとめた荷物を手に取る。

私は名残惜しさを覚えながら、一度も振り返らず部屋を後にした。

 

 

 

上の部屋から誰かが出ていく扉の音で、加賀は目覚める。

普段は朝に弱いのだが、五航戦の二人が気になったので眠りが浅かった。

 

―翔鶴はもう出て行くのね―

 

翔鶴が朝一番に出て行くとは、加賀は律儀なものだと思った。

翔鶴はそれぐらいの覚悟が無ければ、妹とコンビを解消する意味が無いと思っているのだろう。

加賀は瑞鶴との会話の後に提督へ進言に行った。

その際に、加賀は提督に翔鶴からも、五航戦コンビ解消の進言があったことを聞いた。

加賀には金剛の入れ知恵だろうとわかっていた。

部隊が変わることで、加賀の鍛錬の時間帯も別々になることが多くなるだろう。

二人が無事に再びコンビを結成できるように、どんな困難な作戦でも生還できるように、

これまで以上に自分の教えられることを確りと教えなければ。

眠たさと気怠さを覚えつつも、加賀は己に喝を入れる。

 

 

 

加賀さんは後進の育成に専念するようです

 

第一部 ―了―




五航戦編が一区切りなのと当初の目的通り加賀さんと五航戦の関係を描けたので第一部は了とします。
まだまだ出したい艦娘はいますので、第二部として出すか別作品として出すかはもう少し考えます。
今回のイベントで登場した春風と神風で何か書きたい。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。